いつかともに巡る先まで。

 吾輩は猫である。
 名前はまだない。当たり前だ。飼い猫ではないのだから。
 どこで生まれたか、頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いてたかどうかもわからない。ここで始めて人間というものを見たわけではない。吾輩は、「人間」というものをよく知っていた。
 なぜならば。

 吾輩は、猫である以前、人間だったから。

 「生まれ変わり」というのだろう。
 かつて東京一朗(アズマ・キョウイチロウ)という人間だった猫、吾輩。生まれ落ちたのは、前世で暮らしていた懐かしい家のそば。
 遺してきた家族、妻の節子が一人暮らす家。
 ならばと脚を伸ばしたその先で、吾輩は、猫目を真ん丸、ビックリ驚くこととなる。

 ニャニャニャ、ニャンダトォォォ~ッ!! と。

 京一朗の記憶にある節子。
 今ここで暮らす節子。
 その落差は猫が受け止めるにはあまりに激しく、吾輩は衝撃と落胆を覚える。

 こんなことなら前世に縁のあるここに来なければよかった。節子の本性など知らなければよかった。

 東京一朗だったことを忘れ、新たな猫(人)生を生きよう。そう思った吾輩。だがそこで、別の新たな衝撃の真実を知ることとなり――?

 高度経済成長期。流されるように、それが当たり前だと思って見合いで結婚した夫婦の物語。

 
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