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第22話 ハムラビ法典的溺愛?

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 「――――で? また?」

 「また・・です」

 バラに百合にバラに百合。時折変化球的になぜか菫。
 バラバラバラバラ。百合百合百合百合。
 バラ百合専門店でも開けそうなほどのバラと百合。それと付け足したように菫。
 ミニマリスト、シンプル生活どこいったレベルで花に埋もれていくわたしの部屋。
 バラと百合。BLとGLか。
 ここ、菫の間じゃなくて、バラの間とか百合の間に改名したほうがいいんじゃないってレベル。
 
 「どっか、適当に活けといて」

 「適当にって。あとはバスタブぐらいしか残ってませんよ?」

 そうなのよねえ。花瓶だけで飽き足らず、洗面器とか水差しとか。ありとあらゆる水を入れられる道具を使い果たした現状。
 バスタブにって、一見「バラ風呂!!」みたいでカッコいいけど、あまりにバラが多すぎて、わたしがバラと一緒に花瓶に活けられてるみたいな状態になっちゃうのよね。百合も同じ。百合の場合はお風呂にも入れられないし。

 「じゃあ、古いヤツを切って、お風呂に浮かべるとして。空いたところに今日のそれを活けといて」

 どうせそんな小手先の収納(!?)方法を実行しても、すぐに埋まっちゃうんだろうけど。

 「残りは、ベッドにでも撒いておきましょうか。『バラのしとね』ってやつ?」

 アナタと迎える初めての夜。むせるようなバラの香りに包まれて過ごす、熱く蕩ける官能の夜……!?

 「うわああっ!! ヤメッ!! それだけはヤメッ!!」

 昭和のマンガ? もしくは成人向けお耽美マンガの世界だよ、それ。バラはイケメン登場時にバサッと背負わせるか、それともコマの両端からブワッとまき散らすかに限る。
 ちょっと貰うぐらいなら「ありがとう」とも言えるけど、こうも多いと対処に困る。
 迷惑メール、鬼電ならぬ、迷惑バラ、鬼プレゼント。
 バラに埋もれさせて殺そうって魂胆か? そう勘繰ってしまいそうなほどのバラの量。

 「……仕方ない。こうなったら、ちょっと文句を言ってくるわ」

 余りまくったバラでポプリを作っても、ドライフラワーを作っても、さすがに多すぎて、消費が追いつかない。

 (いくらなんでも、極端、やりすぎなのよ!!)

 連日というか、連時間贈られてくるバラ。
 贈り主本人が持ってくることもあるけど、従僕に届けさせることもある。
 それも、わたしのところにだけ。

 (そのうえで時折チェックするためにわたしの部屋を訪れるんだから、いい趣味してるわよ、まったく)

 わたしのところに贈ったバラがちゃんと届いているか。王子は確認に訪れる。
 従僕たちが、わたしをのけ者にしてないか、いじわるをして別の候補のご令嬢のもとに届けてないか、目を光らせてるんだもん。その上、これ見よがしにわたしのところにだけ贈るんだから、かなり意地悪い。
 「チョロまかしは許さん。他の候補はアウト オブ 眼中アピール」だもんね。
 バラのプレゼント攻撃は、王子の復讐の一環なんだろうけど。窒息しそうなほどのバラは、迷惑極まりない。いい加減、別の方法をとってもらわないと、ミネッタと二人バラに埋もれて身動きがとれなくなる。

 「アデルッ!!」

 (――――ゲッ!!)

 ズカズカと速足になっていたわたしの目の前に現れたのは、その元凶。手にはもちろん、ブワサッ!!って感じのバラの束。いや、塊。山。
 先ほどので飽き足らず、まだ贈りつけるつもりだったのか、コイツは。

 「キミにどうしても逢いたくなって、こうして来てみれば。キミも私の訪れが待てなかったのかい?」

 グイッと身体を抱き寄せられての、甘々トーク。クイッと顎を持ち上げられての甘々視線つき。
 王子につき従っていた従僕たちが軽く引いてる。年配の従僕は察したように背を向けたけど、若い従僕はちょっとオロオロした様子。ま、そうだよね。主の甘々なんて突然見せつけられても困るよね。

 「キミに会えると楽しみにして参加したお茶会だったのだけどね。キミのぐあいが良くないと聞いて、居てもたってもいられなくなって、こうして抜け出してきたんだよ」

 今日もお茶会が開かれてたのか。
 知らなかった。
 というか、いつものように知らされてなかった。

 「こうして歩いていられるってことは、元気になったってことかな?」

 「ええ。まあ……」

 もとから元気だけどね。

 「ならば、これから一緒に庭でも散策しよう。キミのいない茶会より、わずかな時間であっても共に過ごすことの方が大切だからね」

 うわあ。歯が浮いて、抜け落ちて、どっか飛んで行っちゃいそうな甘々台詞。歯槽膿漏かな。
 わたしの腰に手を回し、エスコートするというよりは、半ば強制的に庭に連行していく王子。
 仕事だからしかたなく従ってくる従僕たち。目のやり場に困る……というよりは、ウソがバレないかヒヤヒヤして目が泳いでる。わたしが、「お茶会があったなんて、知りませんでしたわ」とか言ったら、一発バレちゃうもんねえ。
 無視、仲間外れを指示したのはもっと他の人物だろうけど、王子から直接処分をくらうのは、この人たちだろうし。
 そう思うと、あっちの権力とこっちの権力に板挟みになった従僕たちに、どうにか仕返ししてやろうなんて気にはならない。どっちかというと同情してる。
 
 「殿下……」

 庭に出たわたしたち。その向こう、咲き誇る庭園の花のなかから現れたのは、「バラ」と「月の光」と「黄金」……、もとい、マリエンヌさまとリーゼルさまとクラリッサさま。
 お三方とも、「困惑、戸惑い、決り悪っ!!」って顔をしてる。――が。

 「そうだ、アデル。あちらに珍しい花が咲いてるんだ。一緒に見に行かないか? ん? それとも一緒にお茶でも楽しむか? きみの好きな、あの魚っぽい形の焼き菓子を料理人に用意させよう」

 王宮料理人に、「たいっぽい魚型焼き㏌カスタード」の再現は無理でしょ。あれは、前世を知ってるミネッタだからできたお菓子で。「魚っぽい何かを作れ」って言われても、「とんでもない無茶ぶりキタ――ッ!!」って料理人が涙目になる未来が見えてしまう。赤いコンニャク、信長レベルの無茶ぶり。
 って。そういうことじゃなくって。

 王子、マリエンヌさま方を完全にガン無視。
 ついでに、ラブラブアピール。

 わたしをのけ者にした復讐なんだろうけど。

 「――殿下」

 グキッと音がしそうなぐらい首を掴んで、強引にその顔をマリエンヌさま達に向けさせる。

 「挨拶を。人としての基本が出来てない方と飲むお茶はありません」

 ちゃんと挨拶せんかい。
 小さな声、ニッコリと笑顔で伝える。
 わたしをのけ者にするイジメの仕方も嫌いだけど、それに対抗するようにガン無視するやり方も嫌いなのよ。
 というか、そういう対立は根っから好きじゃない。マリエンヌさまたちに対して、王子に愛されマウントを取ってるかのような今の立場、投げ出したいぐらいに大嫌い。「ざまあ」とかそういうの、興味ないんだよね。

 「『やあ。いい天気だね、マリエンヌ嬢、リーゼル嬢、クラリッサ嬢』。――これでいいか?」

 やればできるじゃない、猫かぶり。
 もともとそういう猫かぶりは得意でしょ、アンタ。
 後半の、「これでいいか?」ってわたしに訊いてくるのはいただけないけど。
 
 「では、これで失礼するよ」

 にこやか猫かぶりの王子が、わたしの腕を引っ張るようにして歩き出す。マリエンヌさまたちも、礼儀に応じて一礼で、わたしと王子を見送る。
 一緒に茶を飲むっていう選択肢はなさそうだけど、それでもガン無視は回避したので、よしとしよう。
 ホントは、円満に過ごすためにも一緒にお茶でも飲んだ方がいいんだけどね~。こじらせないうちに、表面上だけでも上手くつき合えるようにしておいたほうが何かとお得……って。

 どうして、わたしがそこまで気を使わなきゃいけないのよっ!!

 ケンカ、いざこざはマジで勘弁してほしい。
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