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29.「キミを愛するつもりはない」は、「永遠にキミを愛する」となりました。
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抜けるような青い空。
天高く、馬太っちゃうような秋空の下。
わたしの幼なじみ武智雄吾と、友だちの笹岡美菜さんが結婚した。
雄吾は美菜さんのドレス姿を見たくて、最後まで教会式がいいとごねたらしいのだけど。「私は、雄吾の紋付袴が見たいなあ♡」の一撃で、あっさり宗旨替えしたらしい。「たまには私のワガママ、聽いてほしいなあ♡」とか、「私の白無垢角隠しもきっとキレイよ♡」とか。それでなくても雄吾は美菜さんにベタ惚れメロメロなのに。美菜さんにかわいく言われて反論できるだろうか。いやできない。
白無垢と紋付袴なら神前式。
神前式では、親族しか参列できない。
参列者であるわたしと翔平さんは、披露宴からの出席となった。
――新郎、新婦、ご入場です。
開いた扉。少し暗かった披露宴会場に、光を背負って入ってきた二人。
雄吾は式と同じ、黒っぽい紋付袴。美菜さんは、角隠しのない色打掛。
(わっ、キレイ……)
ギクシャクと、両手両足がいっしょに出てしまうようなロボットみたいな雄吾のとなり、少し恥ずかしそうにうつむく美菜さん。色打掛という、これでもかっていうぐらい派手な衣装がとても似合ってる。美人は何を着ても美人。というより、美人はキレイなものを着たらさらに美人になる。
「――色打掛、か」
わたしたちの席のそばを歩いていった美菜さんを見送って。ポツリと翔平さんが呟いた。
「見とれてるの?」
だとしたら、嫉妬直行便ですけど?
「いや。透子との式、色打掛も悪くないなと思っただけだ。透子なら、彼女よりも何倍もキレイになる」
――――!
なんでそんなこと言うのよ!
今は、雄吾と美菜さんの結婚式なんだから、素直に花嫁さんを褒めておきなさい!
雄吾と美菜さんの結婚式。
以前に美菜さんから愚痴(ノロケ?)として聽いてたんだけど。雄吾が、美菜さんの着るドレス、試着するたび、片っ端から全部式で着て欲しい――なんてアホなことを言いだしたらしく。さすがにそれは……ってことで、特に気に入ったドレスだけ式で着ることにして、残りは写真だけにしたって教えてもらってたけど。
(うん。雄吾の気持ち、わかるわ)
フワッとしたプリンセスラインのドレス。肩ひものないビスチェタイプのピンクのドレスは、美菜さんの細い首とデコルテの美しさを強調してるのに、そのフンワリした印象で、かわいく見える。
そうかと思えば、シュッとしたスタイリッシュな青のマーメイドラインのドレス。さっきのと違って、襟ぐりがゆるやかなボートネックタイプなので、デコルテの露出は少なめ。だけど、その身体に沿ったドレスのラインとか、美菜さんの元々の体型のおかげか。大人っぽくて清楚なのに、どこか色気も感じてしまう。
雄吾でなくても、どのドレスを着せるか、マジで悩みそう。
「これは……。武智さんの気持ちがよくわかるな」
「雄吾の気持ち?」
なんか共感することあった?
「花嫁のドレス、どれも似合いすぎて選べない」
「――は?」
「愛しい相手なら尚更だ。どれもこれもよく似合うだろうから、絞り込むのはムリだ」
「いや、だからちょっ、ナニ言ってんですかっ!」
恋は盲目、いや、恋はポンコツ。
いつもは、冷静クールな印象の翔平さんがトチ狂った!
「透子。次の休みは、式場に見学に行こう。式はまだだが、写真を撮るには時間がかかる。今から始めても間に合うかどうか」
「ま、まさか、用意されてるドレス全部着ろとか、い、言わないわよね?」
「ここにあるお洋服、すべていただくわ」じゃなく、「ここにあるドレス、すべて着替えるわ」。軽く地獄。
「着てもらうつもりだが?」
やっぱり――!
サラッと地獄発動宣言をした翔平さん。
わたしたちの結婚式。
彼のお父さんの容態とか、叔母のこともあって、挙式はもうちょっと先。これから、ゆっくりじっくりプランを考える予定なんだけど。
「あのフワッとした感じのドレスは、透子のほうがよく似合う」
ああ、そうですか。ハイハイ。
「さっきの青のドレスは、――脱がせがいがあるな」
ちょっと! 式の途中で発情して脱がせたりとかしないでよ?
というか、今は美菜さんと雄吾の結婚式なんだから、わたしで変な想像しないで!
「やはり、ドレス選びには時間がかかりそうだ」
フムウと、顎に手を当て、思案し始めた翔平さん。
ええい、こうなったら翔平さんにも、片っ端からタキシードとか着てもらおうかしら。タイの種類、色違い。全部細かいところにまでこだわって、徹底的に着替えてもらうの。そしたら、「ゴメン、浮かれすぎた」って気づくか――
「――ウッ」
「透子?」
「ご、ゴメン。なんでもない」
運ばれてきた料理。その匂いに一瞬胃がひっくり返った。気持ち悪くて、口を押さえる。
「――ちょっと気分悪くなっただけ」
グッと込み上げたものを、なんとか治める。
「夏バテ……かなあ」
今更だけど。
結婚してからというもの、いろんなことが立て続けにあったし。
お腹をさすりながら思い返す。
突然の結婚。
彼のお父さんからの提案で結婚したけど、彼とは全然仲良くなれなくて。それどころか、わたし、グーパンでぶん殴ってしまった。
そこから、わたしの炊き込みご飯を彼が気に入ってくれたこともあって、普通の同居人になって。わたしと雄吾の仲を嫉妬されて。彼の悲しい過去を知って。デートして。わたしの生い立ちを話して。
ようやくセックスして、普通の夫婦になって。翔平さんに深く愛されて。わたしを守るために離婚を言い渡されて。
――子ども、作るか。
そう言って何度もわたしを抱いた彼。子どもができたらわたしが無茶しなくなるだろうから。
何度もなんどもセックスして、わたしを抱き潰した。
もしかして、夏バテだけじゃなくて、セックス疲れってのもあるかもしれない。ずっと寝不足だし、昨日だって「明日結婚式なんだから!」って押し留めても、容赦なく抱きまくったし。
そのせいで、なんか食欲湧いてこないし、身体がポワ~っとする。熱っぽい? やっぱ疲れて――
(――って、あれ?)
お腹をさすってた手。それをゆっくりと、下腹部へと持っていく。
(ま、まさか?)
匂いに敏感。
食欲不振。
微熱。
そして……。
(最近、生理、来てない?)
バタバタしてたから忘れてたけど。生理、遅れてない?
生理痛はヒドいけど、生理不順じゃないはずのわたし。でも、生理予定日、とっくの前に過ぎてる。
「透子、まさか……」
わたし以上に驚いた顔してる翔平さん。
「う、うん。まさか、かもしれないけど」
わたし、妊娠してるっ!?
赤ちゃんデキたのっ!?
「透子っ!」
「うわっ! ちょっ! 今、式の最中っ!」
だから、抱きしめないで! 雄吾たちじゃなく、こっちが注目されちゃうじゃない!
今のわたしたちは、雄吾たちの結婚式のモブなのに!
(まあ、いいか)
雄吾たちには申し訳ないけど。
赤ちゃんができた。
わたしのお腹に赤ちゃんがいる。
それって、とっても喜ばしいことだから。
めでたい席にめでたいことが重なった。そういうことで許してもらおう。
* * * *
夕方。
「――おかえりなさい、パパぁ!」
パタパタと軽くて歩幅の狭い足音が、マンションの玄関に駆けつける。
「ただいま」
その足音の主。娘を抱き上げた夫。
「きょうね! あのね! ほいくえんでねっ!」
朝、「いってきます」から後のこと、すべてを話そうと意気込む娘。その娘の顔を間近で見て、ウンウンとうれしそうに頷く夫。
さっきまで、「あたしがやる!」で、意地になって味噌を溶いてたっていうのに。娘の「パパ大好き」に笑うしかない。そして、その娘の話に一生懸命耳を傾ける夫にも。
「――ただいま」
「おかえりなさい」
リビングに戻ってきた二人。
「ゴハン、できたよ」
出来上がったばかりの味噌汁をよそいながら待ち受ける。
「きょうはね! パパのだいすきなからあげなんだよ!」
夕飯のメニューなんて、テーブルの上を見ればわかる。でも。
「おお、そうか。楽しみだなあ」
夫は、娘に合わせて、ちょっと驚いたふりをする。
「あとね、あとね! じぃじのお店のたきこみごはん! パパ、たきこみ、だいすきでしょっ!?」
「そうだな。大好きだな」
ちょっとだけ、意味ありげな視線つき。
もう!
その炊き込み、わたしが作ってるって知ってて、わざとやってるな?
彼は、娘を溺愛しているけど、それと同じぐらいにはわたしを愛してくれている。
キッチンそばのチェストの上。
そこには、彼が並べる写真、「最高の透子」がある。彼は毎月、ここに並べる写真を散々、延々、自身のコレクションから悩み抜いて選び出す。今月は、「ウンザリするほど、着替えさせられて決められた白いドレスのわたし」と、「眠る乳飲み子の娘を抱いて、少し上目遣いで微笑むわたし」。自分の写真を並べられるなんて、「恥ずかしい」以外の何物でもないけど、それほど愛されてるのだと思えば、まあガマンはできる。真剣に悩んで選んでる後ろ姿は、こそばゆいけど愛おしい。
今日の夕食。
お店でお父さんに揚げてもらった唐揚げ。
わたしの作った炊き込みご飯。
作り置きしておいた惣菜。かぼちゃの煮物。いんげんの胡麻和え。
それと、豆腐と白菜の味噌汁。
全てを並べ終えると、ネクタイをゆるめ上着を脱いだ彼と、んしょんしょと、子供用椅子に自分で登った娘が席につく。
かつては二人向き合って食べていた夕食。今はそこに、娘が加わった。彼の希望通り、わたしに似た顔(なのかな?)の娘。
三人で囲むテーブル。
温かく美味しそうな匂いの漂う席で。
三人同時に手を合わせる。
「――いただきます」と。
天高く、馬太っちゃうような秋空の下。
わたしの幼なじみ武智雄吾と、友だちの笹岡美菜さんが結婚した。
雄吾は美菜さんのドレス姿を見たくて、最後まで教会式がいいとごねたらしいのだけど。「私は、雄吾の紋付袴が見たいなあ♡」の一撃で、あっさり宗旨替えしたらしい。「たまには私のワガママ、聽いてほしいなあ♡」とか、「私の白無垢角隠しもきっとキレイよ♡」とか。それでなくても雄吾は美菜さんにベタ惚れメロメロなのに。美菜さんにかわいく言われて反論できるだろうか。いやできない。
白無垢と紋付袴なら神前式。
神前式では、親族しか参列できない。
参列者であるわたしと翔平さんは、披露宴からの出席となった。
――新郎、新婦、ご入場です。
開いた扉。少し暗かった披露宴会場に、光を背負って入ってきた二人。
雄吾は式と同じ、黒っぽい紋付袴。美菜さんは、角隠しのない色打掛。
(わっ、キレイ……)
ギクシャクと、両手両足がいっしょに出てしまうようなロボットみたいな雄吾のとなり、少し恥ずかしそうにうつむく美菜さん。色打掛という、これでもかっていうぐらい派手な衣装がとても似合ってる。美人は何を着ても美人。というより、美人はキレイなものを着たらさらに美人になる。
「――色打掛、か」
わたしたちの席のそばを歩いていった美菜さんを見送って。ポツリと翔平さんが呟いた。
「見とれてるの?」
だとしたら、嫉妬直行便ですけど?
「いや。透子との式、色打掛も悪くないなと思っただけだ。透子なら、彼女よりも何倍もキレイになる」
――――!
なんでそんなこと言うのよ!
今は、雄吾と美菜さんの結婚式なんだから、素直に花嫁さんを褒めておきなさい!
雄吾と美菜さんの結婚式。
以前に美菜さんから愚痴(ノロケ?)として聽いてたんだけど。雄吾が、美菜さんの着るドレス、試着するたび、片っ端から全部式で着て欲しい――なんてアホなことを言いだしたらしく。さすがにそれは……ってことで、特に気に入ったドレスだけ式で着ることにして、残りは写真だけにしたって教えてもらってたけど。
(うん。雄吾の気持ち、わかるわ)
フワッとしたプリンセスラインのドレス。肩ひものないビスチェタイプのピンクのドレスは、美菜さんの細い首とデコルテの美しさを強調してるのに、そのフンワリした印象で、かわいく見える。
そうかと思えば、シュッとしたスタイリッシュな青のマーメイドラインのドレス。さっきのと違って、襟ぐりがゆるやかなボートネックタイプなので、デコルテの露出は少なめ。だけど、その身体に沿ったドレスのラインとか、美菜さんの元々の体型のおかげか。大人っぽくて清楚なのに、どこか色気も感じてしまう。
雄吾でなくても、どのドレスを着せるか、マジで悩みそう。
「これは……。武智さんの気持ちがよくわかるな」
「雄吾の気持ち?」
なんか共感することあった?
「花嫁のドレス、どれも似合いすぎて選べない」
「――は?」
「愛しい相手なら尚更だ。どれもこれもよく似合うだろうから、絞り込むのはムリだ」
「いや、だからちょっ、ナニ言ってんですかっ!」
恋は盲目、いや、恋はポンコツ。
いつもは、冷静クールな印象の翔平さんがトチ狂った!
「透子。次の休みは、式場に見学に行こう。式はまだだが、写真を撮るには時間がかかる。今から始めても間に合うかどうか」
「ま、まさか、用意されてるドレス全部着ろとか、い、言わないわよね?」
「ここにあるお洋服、すべていただくわ」じゃなく、「ここにあるドレス、すべて着替えるわ」。軽く地獄。
「着てもらうつもりだが?」
やっぱり――!
サラッと地獄発動宣言をした翔平さん。
わたしたちの結婚式。
彼のお父さんの容態とか、叔母のこともあって、挙式はもうちょっと先。これから、ゆっくりじっくりプランを考える予定なんだけど。
「あのフワッとした感じのドレスは、透子のほうがよく似合う」
ああ、そうですか。ハイハイ。
「さっきの青のドレスは、――脱がせがいがあるな」
ちょっと! 式の途中で発情して脱がせたりとかしないでよ?
というか、今は美菜さんと雄吾の結婚式なんだから、わたしで変な想像しないで!
「やはり、ドレス選びには時間がかかりそうだ」
フムウと、顎に手を当て、思案し始めた翔平さん。
ええい、こうなったら翔平さんにも、片っ端からタキシードとか着てもらおうかしら。タイの種類、色違い。全部細かいところにまでこだわって、徹底的に着替えてもらうの。そしたら、「ゴメン、浮かれすぎた」って気づくか――
「――ウッ」
「透子?」
「ご、ゴメン。なんでもない」
運ばれてきた料理。その匂いに一瞬胃がひっくり返った。気持ち悪くて、口を押さえる。
「――ちょっと気分悪くなっただけ」
グッと込み上げたものを、なんとか治める。
「夏バテ……かなあ」
今更だけど。
結婚してからというもの、いろんなことが立て続けにあったし。
お腹をさすりながら思い返す。
突然の結婚。
彼のお父さんからの提案で結婚したけど、彼とは全然仲良くなれなくて。それどころか、わたし、グーパンでぶん殴ってしまった。
そこから、わたしの炊き込みご飯を彼が気に入ってくれたこともあって、普通の同居人になって。わたしと雄吾の仲を嫉妬されて。彼の悲しい過去を知って。デートして。わたしの生い立ちを話して。
ようやくセックスして、普通の夫婦になって。翔平さんに深く愛されて。わたしを守るために離婚を言い渡されて。
――子ども、作るか。
そう言って何度もわたしを抱いた彼。子どもができたらわたしが無茶しなくなるだろうから。
何度もなんどもセックスして、わたしを抱き潰した。
もしかして、夏バテだけじゃなくて、セックス疲れってのもあるかもしれない。ずっと寝不足だし、昨日だって「明日結婚式なんだから!」って押し留めても、容赦なく抱きまくったし。
そのせいで、なんか食欲湧いてこないし、身体がポワ~っとする。熱っぽい? やっぱ疲れて――
(――って、あれ?)
お腹をさすってた手。それをゆっくりと、下腹部へと持っていく。
(ま、まさか?)
匂いに敏感。
食欲不振。
微熱。
そして……。
(最近、生理、来てない?)
バタバタしてたから忘れてたけど。生理、遅れてない?
生理痛はヒドいけど、生理不順じゃないはずのわたし。でも、生理予定日、とっくの前に過ぎてる。
「透子、まさか……」
わたし以上に驚いた顔してる翔平さん。
「う、うん。まさか、かもしれないけど」
わたし、妊娠してるっ!?
赤ちゃんデキたのっ!?
「透子っ!」
「うわっ! ちょっ! 今、式の最中っ!」
だから、抱きしめないで! 雄吾たちじゃなく、こっちが注目されちゃうじゃない!
今のわたしたちは、雄吾たちの結婚式のモブなのに!
(まあ、いいか)
雄吾たちには申し訳ないけど。
赤ちゃんができた。
わたしのお腹に赤ちゃんがいる。
それって、とっても喜ばしいことだから。
めでたい席にめでたいことが重なった。そういうことで許してもらおう。
* * * *
夕方。
「――おかえりなさい、パパぁ!」
パタパタと軽くて歩幅の狭い足音が、マンションの玄関に駆けつける。
「ただいま」
その足音の主。娘を抱き上げた夫。
「きょうね! あのね! ほいくえんでねっ!」
朝、「いってきます」から後のこと、すべてを話そうと意気込む娘。その娘の顔を間近で見て、ウンウンとうれしそうに頷く夫。
さっきまで、「あたしがやる!」で、意地になって味噌を溶いてたっていうのに。娘の「パパ大好き」に笑うしかない。そして、その娘の話に一生懸命耳を傾ける夫にも。
「――ただいま」
「おかえりなさい」
リビングに戻ってきた二人。
「ゴハン、できたよ」
出来上がったばかりの味噌汁をよそいながら待ち受ける。
「きょうはね! パパのだいすきなからあげなんだよ!」
夕飯のメニューなんて、テーブルの上を見ればわかる。でも。
「おお、そうか。楽しみだなあ」
夫は、娘に合わせて、ちょっと驚いたふりをする。
「あとね、あとね! じぃじのお店のたきこみごはん! パパ、たきこみ、だいすきでしょっ!?」
「そうだな。大好きだな」
ちょっとだけ、意味ありげな視線つき。
もう!
その炊き込み、わたしが作ってるって知ってて、わざとやってるな?
彼は、娘を溺愛しているけど、それと同じぐらいにはわたしを愛してくれている。
キッチンそばのチェストの上。
そこには、彼が並べる写真、「最高の透子」がある。彼は毎月、ここに並べる写真を散々、延々、自身のコレクションから悩み抜いて選び出す。今月は、「ウンザリするほど、着替えさせられて決められた白いドレスのわたし」と、「眠る乳飲み子の娘を抱いて、少し上目遣いで微笑むわたし」。自分の写真を並べられるなんて、「恥ずかしい」以外の何物でもないけど、それほど愛されてるのだと思えば、まあガマンはできる。真剣に悩んで選んでる後ろ姿は、こそばゆいけど愛おしい。
今日の夕食。
お店でお父さんに揚げてもらった唐揚げ。
わたしの作った炊き込みご飯。
作り置きしておいた惣菜。かぼちゃの煮物。いんげんの胡麻和え。
それと、豆腐と白菜の味噌汁。
全てを並べ終えると、ネクタイをゆるめ上着を脱いだ彼と、んしょんしょと、子供用椅子に自分で登った娘が席につく。
かつては二人向き合って食べていた夕食。今はそこに、娘が加わった。彼の希望通り、わたしに似た顔(なのかな?)の娘。
三人で囲むテーブル。
温かく美味しそうな匂いの漂う席で。
三人同時に手を合わせる。
「――いただきます」と。
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