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第10話 心と体の裏腹問題

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 ペロ。

 「い、いやっ、ちょっ、アグネスッ!」

 「ここでは博士と呼べと言っただろう」

 ペロッ。ハクッ。チュバ、チュバ。

 「ふむ。お前のは大きくてすべてを収めるのは、難しいな」

 ハムッ。

 「難しっ、なら、離してくださっ……」

 震える体を、テーブルに手をつくことで、なんとか耐えさせる。いきなりの口淫。快感の衝撃が半端ない。

 「大丈夫だ。心配するな。こうして実験できない間は、射精を促せばいいと、ララリアに、教えてもらったからな。安心しろ」

 安心もなにも。

 (ララリアめ! コイツに何を教えたんだ!)

 話しながら何度も角度を変え、俺のイツモツをしゃぶるアグネス。しゃぶるだけじゃない。舌を使って裏筋を舐めあげたり、亀頭を吸ったり。その度に、尾てい骨のあたりからゾクゾクした快感のようなものが、脳天へと突き抜けていく。

 (まずい、これ……)

 腰を動かしたい。動かして、アグネスがえずいても、その喉の奥を突いて思うままにぶちまけたくなる。それがダメなら、白衣を顔を精液まみれにしてみたい。
 目を閉じ、「ンッ、ンッ」と俺のイツモツをしゃぶるアグネス。とんでもなくエロい。

 「いいぞ、出せ」

 「出せじゃない! です!」

 「それじゃあ遠慮なく」に傾きかけた思考を、イチモツとともに取り戻す。ネトリと、イツモツとアグネスの唇に、銀の糸がかかる。

 「まったく。何をするつもりなんですか」

 その糸を断ち切り、イチモツを下履きに隠す。まだ興奮は収まらないけど、とりあえず、衝動は我慢できた。

 「とうぶんの間、私は実験に使えないからな。その間、精液を溜めたままだと、辛いんじゃないのか?」

 「は?」

 何? ドコ情報、それ。

 「ララリアが言ってたんだ。男は、一度精液を出すことを覚えると、毎日でも出さないと体調を崩すって。毎日出さないと、モヤモヤがムラムラになって、モンモンとして、果ては脳がイカれてしまうと。だから、出せない状況下では、誰かが出す手助けをしてやるのがいいと。―――違うのか?」

 「全然違います!」

 そんなわけあるか!
 そりゃあ、長く禁欲生活を送らされたら、どうにかなりそうなほど悶々しそうだけど。だからって。

 「俺にとって、大事なのは、博士の体の方ですよ」

 「私の体?」

 「体調、悪いんじゃないですか? お腹痛いとか」

 「よくわかったな」

 「薬湯、召し上がってますし。それに、顔色、あまり良くないですから」

 言って、アグネスをそっと抱き上げ、ベッドに横たえる。

 「そんな時に、俺の精液がどうのって。アホな心配してないで、ゆっくり休んでください」

 俺にとって、大事なのはアグネスのこと。滾る欲望よりなにより、彼女の体をいたわりたい。まあ、出したくなかったと言えば嘘になるけど。
 髪を掻き上げ、フウッと深く息を吐き出す。

 「どうにも我慢できなくなったら、俺、外で出してきますから」

 正直言うと、今もかなり我慢できない状態。ここでシコるわけにはいかないから、後でラオのところにでも行って出してこよう。

 「ダメッ!」

 「博士?」

 「外はダメだ! 頼むから、外では出してくるな」

 ベッドからガバッと身を起こし、俺の上着の袖を掴んだアグネス。
 ………………? 何がそんなにダメなんだ?

 「――わかりました。なら、どこにも出さずに溜めておきます。大丈夫ですよ。今までだって出さない日があっても、俺の体調に問題ありませんでしたから」

 「うん。ありがとう」

 アグネスの手を包み、優しく告げると、ホッとしたように力が抜けた。
 ………………? やはりその心理がよくわからない。

 「とりあえず、家のことは俺がやりますから。博士はそのまま休んでいてください」

 「――うん」

 アグネスを落ち着かせ、彼女の使っていたカップや人形を片付ける。
 病人ではないけど、寝てる人のいる部屋で、あまりバタバタと家事をこなすことはできない。積み上げられた書籍を棚に戻し、テーブルを拭いたり。簡単な家事だけをこなす。

 「――なんですか、博士」

 家事をこなす間、ずっと俺を追いかけてくる、丸メガネ越しのアグネスの視線。

 「ううん。なんでもない」

 なんでもないと言いながら、横向きになって、ずっと俺を眺めてる。

 「寝るのなら、ちゃんとメガネを外したほうがいいですよ」

 いつだって、メガネをかけたまま寝るアグネス。

 「ダメ。これは外さない。見えないからな」

 「はあ。そうですか」

 あぶないから、眠ったタイミングで外しておこう。というか、寝てる時ぐらい、メガネなしのアグネスの顔を拝みたい。

 「なあ、サイトー」

 「なんですか、博士」

 「ううん。なんでもない」

 モゾッと毛布の中に埋もれたアグネス。今、ちゃんと名前呼んだ?
 軽く首をかしげ、家事を続ける。

 「手を。手を繋いでくれないか?」

 手を?
 しばらくして、毛布から少しだけ顔を覗かせたアグネスが言った。

 「その……、月のものの最中は、体を冷やすと良くないと聞いたのでな。それで――、サッ、サイトーッ!?」

 「こっちのほうが、手を繋ぐより温かいでしょう?」

 驚くアグネスを無視して、ゴソゴソとベッドの中に潜り込む。
 
 「あ、うん。でも、いいのか?」

 「構いませんよ。散らかし屋の博士が寝てたら、やることなんてあまりありませんから。博士が眠るまで、湯たんぽ役、務めますよ」

 上掛けのなか、彼女の体をそっと抱き寄せる。それでなくてもこの家は隙間だらけで、温かいとは言えない環境。だから、少しでも暖を取るためには、こうして引っついていた方がいい。

 「――うん。暖かい。気持ちいい」

 「散らかし屋」と表現したことに食ってかかってくるかと思ったが、アグネスがしたのは反論ではなく、俺の胸にすり寄ってくることだった。
 
 (よほど辛かったのか?)

 温もりと薬のもたらす眠気に逆らわず、頬をゆるませ瞼を閉じたアグネス。しばらくすると規則正しい寝息が聞こえ始めた。
 これほど大変な体調なら、俺の精子ウンヌンなんて心配してないで、サッサと休んだら良かったのに。
 ソッとメガネを外し、無防備な寝顔を眺める。ゆるく波打つ砂色の髪。細い体。白い肌。抱き寄せたことで鼻腔をくすぐるアグネスの匂い。感じる熱。

 (これ、かなりの拷問だ)

 自分で自分の首を締めた感覚。
 射精できなくて、昂ぶったままの陰茎。深呼吸をくり返しても鎮まりそうにない。それどころか、腕の中のアグネスが容赦なく、俺のオスを揺さぶってくる。
 離れて出してくればスッキリ落ち着くかもしれないけど、今動いたら、せっかく休めたアグネスを起こしてしまうかもしれない。

 (最悪だ)

 出さなくても体調に問題ないなんて大嘘だ。
 吐き出せない精液のせいで、俺の体、只今絶賛絶不調。
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