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第12話 いざ出陣!! 一歳半健診!!

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 「――一歳半健診?」

 いつもの夕食時。一条くんが切り出した言葉をオウム返し。

 「そう。一歳半健診。通知が先月届いてたんだ」

 そうなんだ。
 一条家の郵便物は、一階のエントランスにあるポストに届くけど、それを管理しているのは当然家主の一条くんなので、何がいつ届いているのか、私は知らない。

 「保健センターで行われるんだ。明後日、休みを取ったから、僕が世那を連れて行ってくるよ」

 もしかして、最近忙しそうにしてたのは、そのため? 健診に出かけるため、時間を確保するため、前倒しで仕事してたとか?

 「健診って、どんなことするの?」

 「う~ん、確か、身長体重とか発育具合を診るとか、そういうのだったと思うよ。後は歯磨き指導と栄養相談があるから、歯ブラシを持ってきて欲しいって書いてあった」

 そっか。って……。

 「栄養相談、できるの?」

 「うん。栄養士さんもいるみたいだから」

 「じゃあ、私も一緒に行っていい? 聞きたいことがあるの」

 世那くんの食事。
 最初はこっちがぶっ刺してから手渡していたフォーク。それを自分で操るようになった世那くん。今も自分でカボチャの煮物(薄味)を自分で刺してウマウマと食べている。
 その世那くんの食事、この先は離乳食から幼児食にチェンジしていくんだろうけど、その際の注意点とか誰かに教えてもらえたらなって思う。こういうの、普通は公園なんかで知り合ったママ友(?)にでも訊ねたらいいんだろうけど、私の場合、そういう相手がいないから。弟嫁、義妹の由美香さんを頼ればいいのかもしれないけど、なんとなく彼女には聞きたくない。 
 だから、ついて行きたいなって思ったんだけど。

 「ついて行ったら迷惑……かな」

 一条くんがすぐに、軽く「いいよ」って言ってくれないのが気になる。せっかくの親子水入らずを邪魔しやがって……とか思ってる?

 「いや、迷惑じゃないし、むしろありがたいけど……いいのか?」

 せっかくの自由時間確保なのに。

 「いいよ。逆に連れて行ってもらえると、こっちが助かる」

 これからのお世話の参考になるしね。

 「せーなくん。一緒に健診、行こうね~」

 「ネ~」

 体を傾けると、世那くんもニッコリ体を傾け返す。それも――。

 「一条くん、聴いた? 今、『ネ~』って言ったよ!! すごい、すごいよ!!」

 世紀の瞬間だよ!! モノマネだけど、世那くんの語彙が一つ増えた瞬間ですよ!!

 「高階、落ち着いて」

 「いやいやいや、興奮するっしょ、こんなの!! 喃語しかなかった世那くんの大いなる一歩ですよ!!」

 長い人生では、小さな一歩かもしれないけど、それでも確実に前へと成長している証。

 「次は『パパ』だよ、『パパ』!! 世那くん、『パパ』って言ってみて!! パーパ!!」

 日々、世那くんのために頑張ってる一条くんのために、ぜひ、初!!意味ある言葉は「パパ」でお願い!!

 「高階……」

 呆れる一条くん。キョトンとした世那くん。そして。

 「――バッパ?」

 うーん、惜しい。偉大な音楽家が混じったような返答。

 「そんな簡単に覚えたりしないよ」

 ガックリした私をクスクス笑う一条くん。
 そっかなあ。世那くんならやれると思ったんだけどなあ。でも。

 「かわいいから許す!!」

 ギュッと世那くんを抱きしめる。「パパ」のこと「バッパ」って、「かわいい」以外の語彙が見つからない!! 可愛すぎる!!
  
 子煩悩、親バカってのはこういうのを言うのかもしれない。――我が子じゃないし、親じゃないけど。

*     *     *     *
 
 そして迎えた一歳半健診。
 持ち物は、問診票、母子手帳、健康保険証、乳幼児医療証、歯ブラシ。あとはぐずった時用のオモチャと、万が一の着替え、それとオムツ、飲み物、ハンドタオル。問診票などの記入は、すべて一条くんが済ませておいてくれた。
 健診は午後から。
 午前は抜けられない仕事ができたからと出かけていった一条くんだけど、お昼にはちゃんと帰ってきてくれた。三人で軽く昼食を取って、それから出発、いざ健診会場へ!!
 って――。

 カオス。

 訪れた保健センターは異様な空気に包まれていた。
 世那くんと同じ月齢の赤ちゃんが大集合しているんだけど、なんていうのか、それがまあ……。

 混乱。戦場。地獄。阿鼻叫喚。エマージェンシー、緊急事態、ピーピーピー!!

 普段とは違う雰囲気。知らない空間。見知らぬ大人に圧倒された赤ちゃんが泣きわめき、それをあやそうと必死なママの声。その間を縫うように、「〇〇ちゃ~ん」と呼び出すセンターの人の声が入り交じる。
 意外に、どっしりと構えてる赤ちゃんもいるけど、そうかと思えば、ママが取り出したオモチャをはたき落としてギャン泣きする赤ちゃんもいる。
 まさしく地獄絵図。混沌。
 だけど。

 「一条 世那くんですね。では、こちらで呼び出しがあるまでお待ち下さい」

 センターの人は慣れているのか、平然とした顔のまま受付をすませてくれた。こんなうるさい中なのに、耳栓でもしてるの?って気になって確認したけど、耳にはなにもついてなかった。(当たり前)

 「歯科健診に続いて歯磨き指導もありますから、飲食はさせないでくださいね」

 なるほど。
 だからどのママも、泣いてる赤ちゃんをなだめるのに、食べ物を使ってないのか。納得。お腹空いてもガマン、ガマン。――って、世那くん、大丈夫かな。お昼は食べてきたけど……。

 「ウッ……?」

 あ、泣いてない。それどころか、キョトンとしてる。
 一条くんに抱かれてるからかな。
 泣いてる子を見ても「一緒に泣いてあげましょうか?」なんて顔をしてない。よかった。

 会場には、ママと赤ちゃんだけっていう組み合わせが圧倒的だけど、中にはパパも一緒だったり、おばあちゃん、赤ちゃんの兄姉も一緒だったりする家庭もある。平日に一条くんが健診に来て浮いちゃわないかなって心配したけど、どうやら杞憂に終わったみたい。
 でも。
 「ママ+パパ+赤ちゃん」とか、「ママ+ババ+赤ちゃん」ってパターンはあっても、「パパ+赤ちゃん+パパの幼なじみ」って組み合わせはないだろうな、他に。
 ここにいる赤ちゃんとその連れは、血がつながった家族。
 血がつながらない継母っていうのも、もしかしたらいるかもしれないけど、「赤の他人」、「ただの同居人、一応ベビーシッター」ってのはいないんだろうな。
 少しだけ、私、浮き上がった異邦人気分。

 「アウ~、ッパ」

 「こら、世那」

 一条くんの膝の上から手を伸ばしてきた世那くん。一条くんが止めようとするけど、世那くんはこちらに身を乗り出すことを諦めない。

 「こっち来る? 世那くん」

 一条くんから世那くんの体を受け取る。途端にズシリと伝わる世那くんの重み。膝の上に下ろすと、世那くんが満足したように、「ウパ~」と笑った。

 「ごめんな、高階」

 「いいよ、これぐらい」

 世那くんの重みは、とても心地良い重みだから。
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