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6.キミと恋するディスタンス

(五)

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 山野は、僕のことをどう思ってるんだろう。

 そればかりが気になる。
 アオハルオーバードーズ計画。
 健太の言い出したこの計画に参加して。僕とカップル(仮)ってことになって。
 
 ――健太くんの言うアオハル計画、大成功だよ。

 健太と明音あかねちゃん、逢生あおい夏鈴かりん
 この二組が上手くいく。そのことに関しては異論はない。それどころか、同じように上手くいってほしいと願ってる。榊さんの場合は、ああして小説の練習をすることで、いつか小説家として大成して、日下先生と繋がりが持てたらいいなぐらいは思ってる。
 けど。

 (僕たちはどうなんだろう)

 他の二組の成功を願ってる山野は。僕たちがどうなることを望んでるんだろう。
 バカだけど、底抜けに楽しい健太。おとなしいけど、やる時はやる逢生あおい。カラッと明るい夏鈴かりん。健太に対してだけツンデレっぽい明音あかねちゃん。時折暴走するオタク気質で、ズバッと物言う榊さん。そして、誰より気遣いできて優しい山野。
 そんななかで、僕は山野からどう思われてるんだろう。
 
 ――大里くんって優しいね。

 いつだったか。帰り道で、みかんの木にいたハチから彼女を守ろうとして、そう言われた。山野をハチから遠ざけようと動いたから。
 でも、そんなぐらいの優しいヤツなら、きっとそのへん、どこにでもいる。
 勉強だってそうだ。
 みんなは僕のことを「スゴい」って思ってるかもしれないけど、それだって、僕より優秀なヤツなら、世間には星の数ほど存在する。それこそ、東京にいる兄さんのように――。

 (ハア……)

 家に帰っても、夜遅くになっても。疲れているのに寝付けなかった僕は、じいちゃんの書斎で、いつものように窓枠に腰掛けて医学書を読む。
 難しすぎて理解の追いつかない本でも読めば眠くなるか。そう思ったんだけど。

 (山野……)

 眼下に広がる町。遅くに昇ってきた月が明るく、家々の屋根瓦を光らせる。まるで白い波のよう。その波の向こうに山野の家がある。

 (今、何してるんだろう)

 今日の出来事を、家族に話してるんだろうか。逢生あおいの走りが素晴らしかったと、アイツなら来年一位は確実と。興奮気味に話してるんだろうか。
 それとも、山野らしく、キチンと明日の支度をしてるんだろうか。教科書を揃え、ノートを揃え。案外、疲れてサッサと寝てるかもしれない。僕と違って。
 部屋から持ち出してきたシーグラスを、そっと月の明かりに透かしてみる。
 山野からもらった淡い青色のシーグラス。夏の海を閉じ込めたような色――は、さすがにポエミーすぎて自分でも引く。

 「はる。ここにおったんか」

 「じいちゃん!」

 不意打ちで引き戸を開けられ、身体に電気が走る。

 「ちょっと往診行ってくるわ」

 「こんな時間に?」

 驚き古い柱時計を見る。今は、11時53分。もうすぐ日付が変わる。

 「急患なんや。帰りは遅うなるから、戸締まりして寝とけ」

 「うん。気をつけて」

 それだけ言い残すと、足早にじいちゃんが家を出ていく。
 暗い町の中。じいちゃんがどこの家に向かったのかはわからないけど。

 (大変だな)

 じいちゃんの診療所。
 かつては入院できるようベッドも用意してたけど、じいちゃんが高齢になったこともあって無床となった。代わりに、この町の住民の健康を一手に担ってる。初期医療というのだろうか。あらゆる病気を診察し、場合によっては適切な治療が行われるよう、大病院と連携を取る。高齢者の多いこの町では、患者の家に駆けつける往診も珍しくない。

 (明日は、胃に優しい、あっさり目のゴハンにしよう)

 じいちゃんだって若くない。こんな遅くの診療はしんどいに違いない。
 高校生の僕には、そうやってじいちゃんを支えることしかできないから。

 (寝よう)

 パタンと医学書を閉じて、元の場所に戻す。
 明日は早い。
 寝れなくっても横になっていれば、身体が休まる。
 そんな都市伝説めいたものを信じて、布団に潜る。
 身体は正直だ。
 どれだけ心がモヤモヤしていても、夏用シーツのヒンヤリ心地よさと日中の疲れで、知らないうちに眠りに落ちていた。
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