貴方だけは愛しません

玲凛

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未来

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 生きるのが、どうしようもなく辛かった。

 皆に忌避され、恐れられて、誰にも愛されない……そんな自分が……

 ーー苦しくて堪らなかった。

 だから……私は呆気ないほど簡単に、死を望んだのに……

 『行くよ!』

 そう言って、私の手を引いて走り出す貴方に、夢を見てしまった。

 ーー御伽噺のような、そんな夢を。





 

 









 第二王子を助けた事によって、この国の未来を変えたかもしれない……その事に最初アリステアは恐怖したが、直ぐに思い直した。

 「変わらない未来なんて、無いもんね。」

 その己の言葉にうんうん頷く。

 大なり小なり、人が変われば未来は変わるものだ。
 それに……

 ーー私は、アイゼアを……子供を見殺しになんて、絶対に出来なかった。

 そんな事を考え、アリステアはアイゼアに微笑んだ。

 「取り敢えず、アイゼア……王子が無事で良かったです。」

 その言葉にアイゼアは驚いたように目を見開いたが、直ぐに皮肉げに笑った。

 「……アリステアは私の事を知っていたんだね……なら、その言葉は間違っているよ。」
 「えっ……それはどういう……」

 次の瞬間、アリステアは言葉を失った。

 ーーアイゼアの掌から溢れる白い光を見て。

 掌から……白い光が溢れる。
 そんなあり得ない現象に最初アリステアは驚いたが……直ぐに思った。
 
 なんて……

 「綺麗なんだろう。」

 そう思わず口を吐いて出た言葉に、アイゼアは目を瞠った。

 「き、れい?」
 「うん!とっても綺麗!」

 アリステアは興奮の余り、思わずアイゼアに駆け寄った。

 「アイゼア!どうやって掌から光を出しているの!私も同じ事をしてみたい!」

 そう王子に対する敬語も忘れて興奮し、目を輝かせるアリステアに、アイゼアはぽつりと呟いた。

 「アリステアは……怖く無いの?」
 「……えっ?」
 「魔法なんてものが使える……私が怖く無いの?」

 その言葉に、アリステアは純粋に驚くと同時に納得した。
 アイゼアは魔法使いだったんだ……

 でも、この国で魔法使いは……

 ーー忌避され、恐れられるのが常だ。

 ああ、だから……アイゼアは私に聞いたんだね。

 己が怖くないのか、と。

 確かに……時を遡る前なら、私はアイゼアを恐れただろう。
 だが今は違うし、大体時を遡った己自身が魔法のようなものだ。

 つまり……

 ーー私は怖くない!

 その思いと共にアリステアは柔らかく頬笑み、怖くないと言ったのだが……

 「……アリステアは優しいね……嘘でも、そんな事を言ってくれるなんて。」

 と、まさかの捻くれた返しをされた。

 それにアリステアは戸惑いつつも、なんとかこの言葉を信じて貰おうと頑張ったのだが……アイゼアはどうやっても信じてくれなかった。

 そんなアイゼアに対して、段々苛々して来たアリステアだったが……次に発せられた言葉に、遂にキレた。

 「本当は……私、あの女に殺されるつもりだったんだ。」

 ……はぁ?
 殺される?

 ーー巫山戯ないでよ!

 その激情のまま、アリステアはアイゼアの服を引っ張ると思い切り睨み付けた。

 「さっきから……巫山戯ないでよ!怖くないって言ってるのに全然信じてくれないし……大体、殺されるつもりだったって何だ!」

 魔法が使える……それでどれだけ、アイゼアが苦しい思いをして来たかは分からない。

 だけど……

 「生きるんだよ!忌避されても、恐れられても、生きて生きて生き抜くんだよ!」
 「生きる……?」
 「そう……そして、自分が幸せになれる未来を創るの!」

 その言葉にアイゼアは目を見開いた。

 「幸せになれる……未来を創る?」

 それに、暫し茫然としていたアイゼアだったが、次第に涙を零し始めた。
 ……それは、とても綺麗な涙だった。

 アリステアはその涙を拭うと、己の小さな体でアイゼアを抱きしめた。
 ……まるで慈しむように優しく。

 そして今度は優しく、言葉を紡いだ。

 「アイゼア……大丈夫だよ。」

 愛されないのも……忌避され、恐れられるのも辛くて苦しくて堪らない。
 だから……

 ーー私達は、零れ落ちた涙の分だけ幸せにならなくてはいけない。
  
 その言葉は胸に仕舞い込んで、アリステアは静かに泣き続けるアイゼアにただ寄り添い続けた。

 





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