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28話:始竜祭で罠を仕掛ける
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「先生、それは?」
ツユクサ先生の言葉に納得できるものが一切なかった。
こっちから仕掛ける? どうやって。そもそも危険すぎる。
いきなり何を言い出すのかってのが、俺の正直な感想。
「周囲に人が少なくて、凄腕の護衛ががっちりガードしているのよ」
ツユクサ先生はそう言ってヒナゲシさんを見た。視線がかなり上を向く。
小柄な先生と女剣士で長身のヒナゲシさんとではかなり身長差があった。
「ソレガシの腕などまだまだ未熟。修練の途上の身にござれば」
ヒナゲシさんの褐色肌の顔が少し赤くなった。
それをごまかすかのように、キッと真面目な顔になり周囲を警戒する。
俺の兄ちゃんの高弟であるが、褒められることに馴れてないのかもしれない。
「そんなことないわ。とにかく、ヒナゲシさんの腕を警戒して襲ってこないってことは確かだわ」
確かにそうだ。その意味では、ヒナゲシさんはこれ以上を望めないレベルの護衛だ。
もしかしたら、その最高水準の護衛を――
俺は、先生の考えていることを想像した。そして、確認せずにいられなくなる。
「先生、もしかして――」
「ん?」
ツユクサ先生が碧く大きな瞳を俺に向けた。
「あえて、人ごみの中に入って、刺客をおびき出そうって考えですか?」
「すごいわね! ご名答だわ。ライ」
「その上、護衛のヒナゲシさんから離れるとか…… 考えてます?」
「よく分かったわね! さすが私の教え子」
ウンウンと頷く先生。アホウか、そんなんでさすがとか言われても……
いや、ちょっとうれしかったけど……
「ダメですよ! バカなこと言わないでください。絶対にダメです!」
俺は強く言った。そんな危ないことできるわけがない。
「刺客はおそらく、人ごみを狙っているんじゃないかしら。逃走経路まで考えれば当然でしょうね」
「ヒナゲシさん。ダメですよね」
俺は、ロングサイドテイルの女剣士に言った。
ヒナゲシさんの同意を求める。彼女からも強く言ってほしい。
「一概にダメと結論はできぬ。どこかで決着はつけねばならぬのだ」
武人然とした物言いで、きっぱりと言った。
「可能性があれば、やるべきね。色々と策はあるはずだわ」
自分の命のかかっていることを淡々と口にする先生。
そんな危なっかしいことを平然と考えるならまだしも、やりかねないのが、ツユクサ先生の恐ろしいところだ。肝が据わりすぎている。
「危険すぎますよ!」
思わず大きな声が出てしまった。
先生が殺されそうになった光景が蘇る。
それは俺のトラウマになっているんだ。
揚げパンの屋台で、後ろに崩れ落ちていく先生の姿。
倒れていく先生の流れる亜麻色の髪の毛。
その一本一本まで、克明に思いだせるくらいだ。
それくらい、俺の記憶領域を占拠している出来事だ。
もう、絶対にあんな光景は見たくない。本当に先生が死んでしまった思ったんだ。
「ごめんなさい…… 心配かけて」
先生は言った。
今自分がどんな顔をしているか。
先生の声音から想像がついた。
「いえ、でも…… 本当に、一歩間違えれば――」
その先は言葉にできない。言葉にして、本当になってしまうのが怖い。
別に「言霊(ことだま)」を信じているわけではなかったのだけど。
「じゃあ、どうすればいいと思う。このままずっとこの状態?」
「それは……」
真正面から俺の目の中を覗き込むようにツユクサ先生は見つめてくる。
先生はいつもそうだった。碧い瞳に俺の心の内面まで見透かされているような感じだった。
「始竜祭(しりゅうさい)―― ひと月後か」
ぽつりとヒナゲシさんが言った。
「それ!」
目をキラキラさせて先生が言った。
「始竜祭」とは、2年に1回行われるデカイ祭りだ。
この王国の目ぬき通りが、人間でびっしりになる。
お盆と年末のお台場レベルだろうと思う。
常設市場がある通りだけでなく、出店や出し物の小屋が設置される。
祭は三日間。王都の商工業者が主催して、王国が後援しているはずだった。
最終日には、王都の目ぬき通りに、巨大な山車が通る。
「そうよ、それは絶好の舞台かもしれないわ」
ぱぁぁっと明るい顔で先生は言った。
「先生――」
「なに、ライ」
「なんか、本当はお祭の山車を観たいとかないですよね……」
「…… そんな、わけないじゃない…… まだ王都のお祭を見たことないとか、そんな理由じゃないわ……」
「そうですか」
それ以上追及する気がなくなる態度だった。真っ直ぐで正直すぎるのも先生らしいのだから。
確か、先生は王都に出てきてまだ何年もたってないのか……
「最終日の人では凄まじいからな。ソレガシも山車は見たことがないが。見事なものだろう」
ヒナゲシさんが言った。でも、それで護衛は無理とは言わない。
まさか、ヒナゲシさんまで……
そんな山車がみたいのか?
祭の最終日の山車は確かにすごい。俺は何回か見ている。
山車に乗っているのは、この大地に最初に降り立った、巨大な竜を模したものだった。
どこの世界にでもある神話。
この世界の人間は、この地に竜が降りたち、その竜の生み出した末裔であるというものだ。
教会の信仰している「神」とは全然別物だ。
こいつは民間信仰的なもので、教会がこれに関係していることはない。
とくに弾圧を加えることもないが。
教会が恐れているのは、異教よりも内部の解釈の相違から発生する「異端」だからだと思う。
最近、大学で宗教学の講座も受けるし、色々分かってきたことが多くなった。
そもそも、民間の商工業者と教会はあまり関係がよくない。
広大な農地・荘園を所有する教会。そこでは奴隷が大量に仕事をしている。
こういった、奴隷が自由な労働力になれば、商工業者も助かるし、客にだってなる可能性もある。
技術革新に関しても、いちいち教会にお伺いを立てる必要がある。
だから、新たな「製紙工業」作るときも、利権に絡ませて、教会のご機嫌を……
あれ?
まてよ…… おい。
教会は「カガク」によってできた新たな「製紙工業」で利益を得ているはずだ。
この製造法で、紙を造る工房を作る場合は、教会の許可を得る形にしている。
そして、教会にお金が流れていく。当然、開発した「王立魔法大学」、それに、最初の工房あるカタクリ親方のとこにもお金は入る。
知的所有権というか、パテントのようなもの。それを教会の権威で守らせているわけだ。
教会は得をしているはず。ほとんど何もしないで、その権威だけで、お金が入ってくるんだから。
「先生…… 確か教会のエライ人が亡くなりましたよね。先生が襲われるちょっと前に」
「ん~ そうね。確か……」
「で、あの人、来たじゃないですか。教会の人。黒づくめの」
「あ~ いたわね」
「あの人、先生が倒れたときも、現場にいましたよね」
目を覚ました先生もあっているはずだった。
「あ、そうね。確か…… いたわね」
まるで、記憶に無理やり切断されたままになっていたようだった。
それが、今なにか、ひとつの線に繋がりそうな気がしていた。
先生を狙っているのは――
でも、それが、なんの利益になるんだ?
戒律違反?
だったら、新たな製紙業からお金を受け取るような仕組みに賛同するか?
つながりそうなラインがまた消える。
辻褄が合いそうで、合わない。
今の自分の知っていることからでは、確かな結論はでない。
でもだ。可能性はあるんじゃないか?
「先生」
「なに、どうしたの?」
「教会が―― 教会が敵なのかもしれないです」
俺はカラカラになった喉から声を出していた。
あの黒づくめの男。その男のこと考えていた。
なぜか、顔がおぼろにしか思い出せなかった。
◇◇◇◇◇◇
今さらながら、色々なことに巻き込まれ中だ。
俺は18で死んで異世界に転生した。貴族の三男坊の末っ子だった。
剣と魔法の異世界。
後期中世ヨーロッパ風の世界を基盤として、なにか都合よくできたような世界。
そんな世界だった。
兄ふたりに、姉は凄まじいチート能力の持ち主。
自分は、電気を流せるという、よく分からん能力しか持っていない。
そして、俺は異世界でも18歳になった。
それまで、全くなにも、物語は起動しなかった。
そもそも、全く生活習慣の異なる世界。
しかも貴族という生活の中で、礼節など覚えなければいけないことが山ほどある環境。
かえって、前世の知識や先入観が邪魔をして、何をしていいのかさっぱり分からなくなる。
異世界転生して、チートで無双でハーレムで大活躍?
現代知識で、なにかをやる? たったひとりで?
出来るわけがなかった。
便利な21世紀の日本じゃない。情報ひとつ知るのでも大変な世界なんだ。
貴族でいるというだけで、俺にとっては精一杯。何もする余裕がない。
波風の立たない、とりたって言うことのない平安な日常は繰り返されるだけだった。
つまり、だれでも物語の主人公になれるわけじゃない。なるたくとも、なれない。
そして、いずれは「なりたい」という記憶すらなくなっていく。
俺はまさに「なれない」方の人間だ。知っている。
だから、俺はこの世界の俺としてできることだけをやった。
平凡な受験生だった俺は、この世界でも受験生になっていた。
で、今の俺は王立魔法大学に入学。
禁呪学科。そこでツユクサ先生に出会った。
そして、禁断の魔導書「カガク」の存在。
なぜか知らんが、日本語で書かれた書物の数々。
まるで、科学技術を保存し、継承するために集められたような。
俺の物語―― もし、そういったものがあるのならばだ。
それは、そこから始まったのかもしれない。
俺はそんなことを考えながら、基礎教養の口座を受けている。
当たらな製紙法が広まったせいか、学生はほとんどノートをとるようになっている。
俺もちゃんととっている。筆記用具もなにか改造の余地があるかもしれない。そんなこともちょっと思う。
「伝承ですが―― それになしかしらの意味があると考えている研究者もいます。始祖の竜がなにかのメタファーである可能性というものですが……」
教官が説明を続けている。
偶然にも歴史・文化学の講座で、三週間後に始まる「始竜祭(しりゅうさい)」の話をしていた。
いつもなら、退屈な話としか思わなかっただろう。
でも、今の俺は、教官の講義を集中して聞いていた。
もしかしたら、なにかのヒントがあるかもしれないからだ。
なし崩しに決まってしまった。先生の案。
「始竜祭」で罠を仕掛ける――
刺客を捕える。その計画は兄たちも巻き込みながら、すでに動いていた。
ツユクサ先生の言葉に納得できるものが一切なかった。
こっちから仕掛ける? どうやって。そもそも危険すぎる。
いきなり何を言い出すのかってのが、俺の正直な感想。
「周囲に人が少なくて、凄腕の護衛ががっちりガードしているのよ」
ツユクサ先生はそう言ってヒナゲシさんを見た。視線がかなり上を向く。
小柄な先生と女剣士で長身のヒナゲシさんとではかなり身長差があった。
「ソレガシの腕などまだまだ未熟。修練の途上の身にござれば」
ヒナゲシさんの褐色肌の顔が少し赤くなった。
それをごまかすかのように、キッと真面目な顔になり周囲を警戒する。
俺の兄ちゃんの高弟であるが、褒められることに馴れてないのかもしれない。
「そんなことないわ。とにかく、ヒナゲシさんの腕を警戒して襲ってこないってことは確かだわ」
確かにそうだ。その意味では、ヒナゲシさんはこれ以上を望めないレベルの護衛だ。
もしかしたら、その最高水準の護衛を――
俺は、先生の考えていることを想像した。そして、確認せずにいられなくなる。
「先生、もしかして――」
「ん?」
ツユクサ先生が碧く大きな瞳を俺に向けた。
「あえて、人ごみの中に入って、刺客をおびき出そうって考えですか?」
「すごいわね! ご名答だわ。ライ」
「その上、護衛のヒナゲシさんから離れるとか…… 考えてます?」
「よく分かったわね! さすが私の教え子」
ウンウンと頷く先生。アホウか、そんなんでさすがとか言われても……
いや、ちょっとうれしかったけど……
「ダメですよ! バカなこと言わないでください。絶対にダメです!」
俺は強く言った。そんな危ないことできるわけがない。
「刺客はおそらく、人ごみを狙っているんじゃないかしら。逃走経路まで考えれば当然でしょうね」
「ヒナゲシさん。ダメですよね」
俺は、ロングサイドテイルの女剣士に言った。
ヒナゲシさんの同意を求める。彼女からも強く言ってほしい。
「一概にダメと結論はできぬ。どこかで決着はつけねばならぬのだ」
武人然とした物言いで、きっぱりと言った。
「可能性があれば、やるべきね。色々と策はあるはずだわ」
自分の命のかかっていることを淡々と口にする先生。
そんな危なっかしいことを平然と考えるならまだしも、やりかねないのが、ツユクサ先生の恐ろしいところだ。肝が据わりすぎている。
「危険すぎますよ!」
思わず大きな声が出てしまった。
先生が殺されそうになった光景が蘇る。
それは俺のトラウマになっているんだ。
揚げパンの屋台で、後ろに崩れ落ちていく先生の姿。
倒れていく先生の流れる亜麻色の髪の毛。
その一本一本まで、克明に思いだせるくらいだ。
それくらい、俺の記憶領域を占拠している出来事だ。
もう、絶対にあんな光景は見たくない。本当に先生が死んでしまった思ったんだ。
「ごめんなさい…… 心配かけて」
先生は言った。
今自分がどんな顔をしているか。
先生の声音から想像がついた。
「いえ、でも…… 本当に、一歩間違えれば――」
その先は言葉にできない。言葉にして、本当になってしまうのが怖い。
別に「言霊(ことだま)」を信じているわけではなかったのだけど。
「じゃあ、どうすればいいと思う。このままずっとこの状態?」
「それは……」
真正面から俺の目の中を覗き込むようにツユクサ先生は見つめてくる。
先生はいつもそうだった。碧い瞳に俺の心の内面まで見透かされているような感じだった。
「始竜祭(しりゅうさい)―― ひと月後か」
ぽつりとヒナゲシさんが言った。
「それ!」
目をキラキラさせて先生が言った。
「始竜祭」とは、2年に1回行われるデカイ祭りだ。
この王国の目ぬき通りが、人間でびっしりになる。
お盆と年末のお台場レベルだろうと思う。
常設市場がある通りだけでなく、出店や出し物の小屋が設置される。
祭は三日間。王都の商工業者が主催して、王国が後援しているはずだった。
最終日には、王都の目ぬき通りに、巨大な山車が通る。
「そうよ、それは絶好の舞台かもしれないわ」
ぱぁぁっと明るい顔で先生は言った。
「先生――」
「なに、ライ」
「なんか、本当はお祭の山車を観たいとかないですよね……」
「…… そんな、わけないじゃない…… まだ王都のお祭を見たことないとか、そんな理由じゃないわ……」
「そうですか」
それ以上追及する気がなくなる態度だった。真っ直ぐで正直すぎるのも先生らしいのだから。
確か、先生は王都に出てきてまだ何年もたってないのか……
「最終日の人では凄まじいからな。ソレガシも山車は見たことがないが。見事なものだろう」
ヒナゲシさんが言った。でも、それで護衛は無理とは言わない。
まさか、ヒナゲシさんまで……
そんな山車がみたいのか?
祭の最終日の山車は確かにすごい。俺は何回か見ている。
山車に乗っているのは、この大地に最初に降り立った、巨大な竜を模したものだった。
どこの世界にでもある神話。
この世界の人間は、この地に竜が降りたち、その竜の生み出した末裔であるというものだ。
教会の信仰している「神」とは全然別物だ。
こいつは民間信仰的なもので、教会がこれに関係していることはない。
とくに弾圧を加えることもないが。
教会が恐れているのは、異教よりも内部の解釈の相違から発生する「異端」だからだと思う。
最近、大学で宗教学の講座も受けるし、色々分かってきたことが多くなった。
そもそも、民間の商工業者と教会はあまり関係がよくない。
広大な農地・荘園を所有する教会。そこでは奴隷が大量に仕事をしている。
こういった、奴隷が自由な労働力になれば、商工業者も助かるし、客にだってなる可能性もある。
技術革新に関しても、いちいち教会にお伺いを立てる必要がある。
だから、新たな「製紙工業」作るときも、利権に絡ませて、教会のご機嫌を……
あれ?
まてよ…… おい。
教会は「カガク」によってできた新たな「製紙工業」で利益を得ているはずだ。
この製造法で、紙を造る工房を作る場合は、教会の許可を得る形にしている。
そして、教会にお金が流れていく。当然、開発した「王立魔法大学」、それに、最初の工房あるカタクリ親方のとこにもお金は入る。
知的所有権というか、パテントのようなもの。それを教会の権威で守らせているわけだ。
教会は得をしているはず。ほとんど何もしないで、その権威だけで、お金が入ってくるんだから。
「先生…… 確か教会のエライ人が亡くなりましたよね。先生が襲われるちょっと前に」
「ん~ そうね。確か……」
「で、あの人、来たじゃないですか。教会の人。黒づくめの」
「あ~ いたわね」
「あの人、先生が倒れたときも、現場にいましたよね」
目を覚ました先生もあっているはずだった。
「あ、そうね。確か…… いたわね」
まるで、記憶に無理やり切断されたままになっていたようだった。
それが、今なにか、ひとつの線に繋がりそうな気がしていた。
先生を狙っているのは――
でも、それが、なんの利益になるんだ?
戒律違反?
だったら、新たな製紙業からお金を受け取るような仕組みに賛同するか?
つながりそうなラインがまた消える。
辻褄が合いそうで、合わない。
今の自分の知っていることからでは、確かな結論はでない。
でもだ。可能性はあるんじゃないか?
「先生」
「なに、どうしたの?」
「教会が―― 教会が敵なのかもしれないです」
俺はカラカラになった喉から声を出していた。
あの黒づくめの男。その男のこと考えていた。
なぜか、顔がおぼろにしか思い出せなかった。
◇◇◇◇◇◇
今さらながら、色々なことに巻き込まれ中だ。
俺は18で死んで異世界に転生した。貴族の三男坊の末っ子だった。
剣と魔法の異世界。
後期中世ヨーロッパ風の世界を基盤として、なにか都合よくできたような世界。
そんな世界だった。
兄ふたりに、姉は凄まじいチート能力の持ち主。
自分は、電気を流せるという、よく分からん能力しか持っていない。
そして、俺は異世界でも18歳になった。
それまで、全くなにも、物語は起動しなかった。
そもそも、全く生活習慣の異なる世界。
しかも貴族という生活の中で、礼節など覚えなければいけないことが山ほどある環境。
かえって、前世の知識や先入観が邪魔をして、何をしていいのかさっぱり分からなくなる。
異世界転生して、チートで無双でハーレムで大活躍?
現代知識で、なにかをやる? たったひとりで?
出来るわけがなかった。
便利な21世紀の日本じゃない。情報ひとつ知るのでも大変な世界なんだ。
貴族でいるというだけで、俺にとっては精一杯。何もする余裕がない。
波風の立たない、とりたって言うことのない平安な日常は繰り返されるだけだった。
つまり、だれでも物語の主人公になれるわけじゃない。なるたくとも、なれない。
そして、いずれは「なりたい」という記憶すらなくなっていく。
俺はまさに「なれない」方の人間だ。知っている。
だから、俺はこの世界の俺としてできることだけをやった。
平凡な受験生だった俺は、この世界でも受験生になっていた。
で、今の俺は王立魔法大学に入学。
禁呪学科。そこでツユクサ先生に出会った。
そして、禁断の魔導書「カガク」の存在。
なぜか知らんが、日本語で書かれた書物の数々。
まるで、科学技術を保存し、継承するために集められたような。
俺の物語―― もし、そういったものがあるのならばだ。
それは、そこから始まったのかもしれない。
俺はそんなことを考えながら、基礎教養の口座を受けている。
当たらな製紙法が広まったせいか、学生はほとんどノートをとるようになっている。
俺もちゃんととっている。筆記用具もなにか改造の余地があるかもしれない。そんなこともちょっと思う。
「伝承ですが―― それになしかしらの意味があると考えている研究者もいます。始祖の竜がなにかのメタファーである可能性というものですが……」
教官が説明を続けている。
偶然にも歴史・文化学の講座で、三週間後に始まる「始竜祭(しりゅうさい)」の話をしていた。
いつもなら、退屈な話としか思わなかっただろう。
でも、今の俺は、教官の講義を集中して聞いていた。
もしかしたら、なにかのヒントがあるかもしれないからだ。
なし崩しに決まってしまった。先生の案。
「始竜祭」で罠を仕掛ける――
刺客を捕える。その計画は兄たちも巻き込みながら、すでに動いていた。
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