王立魔法大学の禁呪学科 禁断の魔導書「カガク」はなぜか日本語だった

中七七三

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7話:魔法とカガクと鉄砲と

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 とても年上に見えない亜麻色の髪の少女を見つめていた。
 俺の指導教官。ツユクサ先生だ。

 この書庫は広い。禁呪が記載された魔導書が書架にビッチリと詰まっている。

 カガク――
 そう呼ばれる禁断の魔導書。 
 禁呪で書かれ、読めるのはおそらく俺だけだ。
 日本語で書かれているからだ。
 転生者の俺はその文字が読める。

 しかしだ――
 この書庫のどこになんの本があるのかなんてさっぱり分からない。
 特に体系的な分類がなされているようにも思えない。
 
「本の色ですか?」

 ツユクサ先生は俺の言葉に静かにうなづいた。小さく「そう」と言った。
 嘘や冗談を言っているようには見えない。
 書かれた内容が本の「色」で分かるというのだ。 
 それは、本の出すオーラとかそんなものか?
 物の記憶を読む能力というのは、SFなどで見たことあるが。

 ジッと本を見つめた。違いが分からんというか、中を見ないで何が書いてあるか分かるわけがない。
 色なんて、俺には全く分からない。

 ただ、ここに集めた本は飛行機についての記述の本だ。
 もう一度、1冊を手に取ってパラパラと開く。
 間違いはない。確実だ。

「なんで……」

「確かに、すぐに実現できるような物で無いのは分かる。しかし、引き続き調査は必要だと思うの。本当に自在に飛べるのなら、それは凄いことだから」

 彼女は俺の「なんで」を「なんで飛行機の本ばかり集めるのか?」という疑問に取ったようだ。
 そうではないのだ。なんで飛行機の本だと分かるのかということだ。

 しかし、この王立魔法大学に入ってから「なんで?」と思うことが多すぎる。
 転生して自然に受け入れていた「魔法」という概念。
 考えてみればそれすら、不思議なことなのだ。なにかお約束のように疑いもせず過ごしてきたが。

 魔法ってなんなんだ? 
 彼女のこの能力も魔法なのか?
 いや、彼女は魔法は使えないと言っていたはず。

「この禁書の中に、飛行機を造るための知識があるはず」

 透き通るような声が俺の思考を止めた。
 ツユクサ先生はきっぱりと言った。自分の言葉に一切の疑問など無い言い方。

「まあ、そうかもしれませんけど」

 もし仮に、そう言った知識。要するに設計図のようなものがあったとしてだ。
 その知識だけで、飛行機は造れるのか?
 俺と先生で……
 いや、外注とか協力は可能なのかもしれないけど。
 どうなんだ?

 俺は「先生、考え中です」状態のまま。それに構わず、言葉を続けるツユクサ先生。

「もしそれがあれば、今から知っておくのは悪くないでしょ」
 
 いや、材料とか、工作をこの世界の技術でやらにゃいかんわけだけど。
 どうなんだろうか?
 できるの? どーなんだ。
 簡単な…… グライダーみたいなのなら出来るのか?
 で、飛ぶの?
 造ったら実験するよね。多分、飛ぶのは俺だよな。
 まさか、先生を飛ばすわけにはいかんし…… 

「いいんですか? 空を飛ぶって……」

「教会のこと?」

「そうです。飛行機なんか作って、大丈夫なんですか?」

 兄のリンドウの言っていたことを思い出す。
 教会は何を理由に異端認定して断罪するか分からないってことだ。
 明文化された基準がそこにない。その場の気分で恣意的に断罪されたらたまったものではない。

 しかもここは「禁呪学科」だよ。「禁呪」だからな。
 この名前を冠しているところが、「飛行機」なんて空を飛ぶ機械を作れば、教会がなにを言ってくるか分かったもんじゃない。

「うーん…… 現実に空を飛ぶ機械が出来たら、教会だけの意向でどうこうは出来ないと思うわ」

 彼女は思案気にしながらそう言った。
 確かに、王立の魔法大学なのだ。バックには王権という権力が存在する。
 まあ、この「禁呪学科」は潰れそうだけどね。
 もしかしたら、成果だけ横取りされてここは潰れるという可能性だってあるかもしれない。
 どうなんだろうか……
 
「しかし、飛行機どうこうより、まずは何かしら成果を上げないといけないのでは……」

 ゼロからの飛行機作り。
 それはいくらなんでも無理すぎる。
 来年には、予算不足という理由で「禁呪学科」は廃止の可能性大。
 いや、学内の雰囲気では決定事項な感じなんだけど。

「飛行機」みたいに難易度の高い物を狙うのは勘弁して欲しい。
 そんな意味を込めての俺の言葉。
 ツユクサ先生はブルーの瞳でそんな俺を見つめる。
 優しげな笑みすら浮かべて。
 彼女の口が動いた。

「分かっているわ。それも同じく進めていく。大丈夫」

 少し、ホッとした。
 
        ◇◇◇◇◇◇

 2人で、飛行機の本を読み漁った。
 前世のときには、飛行機にさほど興味があったわけではないが、読むのに苦労することはなかった。
 日本語であったし、専門書というほど難しいことが書かれているわけではなかった。

「翼の形状によって、気圧の差を生じさせ、それが上向きの力となって空を飛ぶ…… だから鳥みたいに羽ばたかないんだ」

「この翼の断面がそうなのね」

「あと、全体の重心位置ですね。これ、計算して求めるみたいですよ」

「上から1本の紐で吊るせば、計算しなくても分かるわ」

「その発想はなかった……」

「エンジンは絶対に必要なのね。これは分からない」

「いえ、エンジンがなくとも風に載って飛ぶ飛行機もあるみたいです。もし、造るなら、ここからでしょう。グライダーってやつですね」

 俺もそうだが、飛行機のメカニズムについては、色々分かった。
 元からの知識が大したことないので、すごく自然な感じで「カガク」に書いてあったという感じで話せた。

「造り方はないわね」

「ええ、まあ今のところないですね」

 選んだ本の中に、飛行機の作り方を具体的に書いた物は無かった。

「まあ、いいわ。大分概念が理解できたから」

 彼女は意外に満足そうに言った。
 そして、書架に取ってきた本を戻す。
 すでに、天井からの空の魔力光は消え、俺の持つ燭台が唯一の照明になっていた。

 彼女は、その場で新たに手に取った本をパラパラとめくってみる。
 そして、多くの本はそのまま書架に戻された。
 図表を見ているのだろうか。

 彼女は「ひらがな」と「カタカナ」しか読めないのだ。
 いや、それだけじゃなく、なにか分かるのだろうか?
 本の種類を「色」で分類できるように。

「何か分かるんですか?」 

「具体的な図表がある物を探しているのだけど」

「そうですね」

 確かに何かを制作するならば、そういった絞り込みは必要だ。

「俺も見ていいでしょうか?」

「ん、そうね。燭台はその台において。気を付けて」

「分かりました」

 俺はツユクサ先生から少し離れた。
 書架から本を取り出す。ページを開いてみる。
 なんだこれ?
 無線か? 電気配線図か……
 なんだかよく分からなかったが、そんな複雑なものは造れるわけがない。
 書架に戻す。

 薄明りの中、本を手に取って中を見る、そして元に戻すことを繰り返した。
 俺が、漠然と考えていた「紙」の作り方の本には当たらない。
 つーか、当たる方がおかしい。
 いったいここには何万冊の本があるんだって話だ。

「あ……」

 俺は新たに手に取った本を開いて、手を止めた。
 こんなものまで……

「なに? なにかあったの」

「いえ、なんでもないです!」

 俺は慌てて、その禁断の魔導書を書架に戻した。
 焦るわマジで。なんだよ。
 医学書か?
 生物の本か?

 それは人体機能について書かれた本だった。
 俺の開いたページが偶然「女性」のあの部分の解説だった。
 まさに禁書だ。童貞の俺にとってはキツイ。

 この世界には日本にあったようなその手の本がはない。
 そう言った文化の花開いた江戸時代以下。
 まてよ、そう言った本を出せば、商売になるのか?
 いやダメだ。そんなことしたら、教会の戒律どころか、世俗法でもまずいことになる。
 つーか回復魔法のある世界に「医学」の入る余地はほとんどない。

 俺は頭を切り替え、次の本に手を伸ばした。

「銃―― 武器か……」

 当然、そういった物も、この「カガク」の中にはあるだろうと思っていた。
 それにぶち当たった。

 パラパラとページをめくった。
 火器に関する概説書らしい。火薬の記載もあった。

「先生」

「なんですか?」

「火薬って知ってますか?」

「火薬?」

「火をつけると『バン』と爆発する粉です」

 この世界に火薬があるのかどうか、俺はよく知らない。
 現代の日本のように、情報の海に人々がずっぽり浸かっているような状態じゃない。
 この世界で自分が見たことない、聞いたことないといって、存在しないとは断言できない。
 知識は広がらず、独占されている可能性もある。

 元の世界でも最初だってそうだ。
 火薬は正史で発明された以前に、錬金術師が独占していたって説もあるわけだし。
 こっちの世界もあり得るかもしれない。

「いいえ。知らないわ。その記述が?」

「ええ。まあそんな感じです」

 火薬の作り方は一応は知っている。おぼろげだけど。
 確か、木炭と硫黄と硝石を混ぜればいいはずだよな。
 硝石は糞尿をまけばできるんだっけか?
 土に混ざるんだけ? その後どーすんだ?  
 厳密に訊かれると困るな。

「私は聞いたことが無いわ」

 興味なさげに答える。
 火をつけて「バーン」と爆発する粉だって言われても「そりゃ何に役立つんだ?」って思うよね。
 そりゃそうだ。

「鉄砲ってものがあるんですけど…… それに使うらしいんです」

「鉄砲? それは」

「武器です。火薬を爆発させて、金属製の弾を飛ばすものです。弓矢よりも遠くまで飛びそうです」

「ふーん」
 
 火薬のときよりも、ちょっと興味があるような感じだ。
 平和教育にずっぽり浸かった日本人と違い、「武器=人殺しの道具=悪」と短絡するような思考はない。
 今は平和だが、この世界にだって戦争はある。王国は軍隊を整備している。
「己が平和を祈れば全て平和になる」という宗教はこの世界に無いからだ。
 それは、どんな異世界にもない、宇宙唯一の信仰かもしれない。

 武器は戦争を起こさない。戦争を起こすの人間だ。
 そもそも、この異世界では、その人間が「魔法」によって大量破壊兵器みたいになっている。

 薄明りの中、彼女が俺に近づく。
 俺の開いていた本を覗きこむ。

「これが銃? ただの棒みたいね」

 引き金を引けば、火薬が爆発してその力で弾丸を発射することを説明した。
 ざっくりと。
 彼女が「銃」という概念を理解することで、この書庫にある「銃」関連の書籍の場所が分かるようになる。

 彼女はページを覗きこみ、俺の説明を聞いていた。
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