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10.急転

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「んあ……」

 寝返りと大きなあくびを同時にして裕介は目覚めた。

(あ……ここ)

 ふんわりと心地よい弾力で身を包むダブルベッド。
 裕介は素っ裸でベットにいることに気づく。

(そっか、昨日は――)

 ぼんやりした頭がだんだんとすっきりしてくる。

 汗でしっとり濡れたメス肌の感触が生々しい記憶として脳裏に再現される。
 白い裸体がうねる光景が蘇ってくる。

(ずっとセックスしていたんだ。由里さんと……)

 緊縛プレイから解放された後も、セックスを続けてた。 
 身体を絡みつかせ、肌と肌が溶け合うような交合を繰り返した。
 熟れたアラサーの女体は貪欲だった。裕介がいくら放っても「もっと、もっと」と求めるのだ。
 とにかく一晩中身体を重ね合わせ、裕介は女の奥深くに何度も放っていた。
 由里も喘ぎ声を上げ、髪を振り乱し、メス絶頂の中に何度も叩き込まれた。

「夢みたいだよな。あんな美人の女社長と」

 裕介はそう呟くと時計を見た。枕元にあったデジタルの時計だ。
 七時ちょっとすぎだった。

「由里さんは、もう会社に行ったのかな、タフだなぁ」
 
 広いベットの隣側は空っぽだった。裕介しかおらず由里の姿はない。
 仄かに彼女の残り香が感じられる。鼻腔がくすぐったくなるような甘い匂い。

 裕介は立ち上がった。気だるさは残っていたがいつまでもベットに寝ている気はなかった。
 オスとメスの交わった性臭が残るベッドルームを後にして、裕介はリビングに行く。

「一度、家に帰った方がいいかなぁ……」

 独り語ちながら、テーブルを見やるとそこに書置きがあった。

 ――裕介、おはよう。昨夜は楽しかったわ。わたしの部屋以外は自由に出入りしていいわ。冷蔵庫の物も好きにしていいので、お留守番よろしく♥ 今夜はなるべく早く帰ってきます。鍵とご飯代はおいておきます――
 
 とのことだ。テーブルの上には封筒が置いてあった。

「鍵とお金だ」

 封筒の中には鍵と現金が入っていた。三食を外食するにしても、おつりが来る金額だ。

「一度、帰って着替えとか取ってこよう」

 裕介はウキウキした気分で、LINEにそのメッセージを打ち込んだ。
 美人社長と同棲する甘い夢を裕介はみていた。

        ◇◇◇◇◇◇

「この見積の工数の根拠はなに? 予算達成できるの?」

「はい、社長。そこは……」

「ちゃんと根拠を示して。詳細説明をペーパーで出して」

「はい」

「焦らなくていいわ。正確にしっかりと確認して」

 由里は会社で颯爽とした姿を見せていた。
 普段はクールすぎてちょっと近寄りがたい雰囲気があったのが、今日は心なしか柔らかい印象を部下に与えていた。
 裕介と思う存分セックスしたことで、満足し気持ちに余裕が出ているのかもしれない。
 会社での由里は仕事の出来る女であり、ベットの上で乱れまくる淫らな姿は想像できなかった。
 
(ああ、早く帰って裕介とまた……)

 すっとメガネのブリッジを持ち上げ、由里は身体の芯を熱くさせた。
 裕介とのセックスのことを思う。自分を何度も貫き、絶頂に導いてくれた裕介の物は最高だった。
 童貞で初々しいところもあるのに、若く激しいところがあるもの最高だった。
 とにかく、あれだけの濃厚なセックスは久しぶりで身体が一気に解放された気分だった。

(定時が待ち遠しい……)

 時計を見るが、定時までにはまだたっぷりと時間があった。

 スマホを見ると、裕介からメッセージが入っていた。
 着替えを取りに一旦、家に帰るということだ。
 分ったと、簡単な返事をしておく。

 このままお別れになるということは、考えもしない。
 身体の相性がばっちりで、それは裕介も同じだと考えていた。
 ある意味、自分の女の魅力に自信があったのだ。

 
        ◇◇◇◇◇◇

 事務所の窓に橙色の西日が差し込んでくる。
 定時を過ぎ、やらなければいけない業務はほぼ終わった。

「やっと、帰れるわね」

 由里は長い髪をかき上げ「ふっ」と息を漏らす。
 西日が横から当たり、髪が燃えるような色に染まっていく。
 エレベータで地下駐車場まで降りる。

 早く帰りたいと、気が競っていた。

 いつもの駐車場で自分の車を視野に入れた瞬間だった。

 バチッ!!

 凄まじい衝撃を首筋に感じた。

「きゃッ!!」

 短い悲鳴を上げるが、身体が痺れて動かない。が意識は失っていない。恐怖、恐慌状態になる由里。
 
「ふふふ、いい様だぜ、改造スタンガンの威力はどうだい? 身体が痺れて動けないだろう」

 野太い下卑た声が背後から響く。男の声だ。微かに聞き覚えがある。

(誰? なんで? 一体?)

 声の方を振り返ろうとしても、首が痺れて動かない。
 脳と身体が切断されたかように、身体の自由が一切利かなかった。

「さあ、アンタの日常はこれで終わりだ――佐名木由里社長」

 冥々としたどす黒い声が耳元に届いた。
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