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2.戦争は「正しく戦った方」が勝てるのです

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 タチツテとうげ要塞ようさいは、カキクケ皇国の軍勢ぐんぜいにかこまれています。
 その数は五万人を軽くこえていたでしょう。

 見はりのための高いとうの天辺から見えるカキクケ皇国の軍勢ぐんぜいは人が地面を埋めつくすようでした。

「すごい数の兵隊だ……」

 アイウエ王国の兵隊となったサシス・セソはその光景をみてつぶやきました。
 サシスは見はり役についていたのです。
 兵隊さんは交代で、見はりにつくことになっています。

(もう、生きてお母さんのところに帰ることはできないかもしれない……)

  サシスのむねがキュッといたくなりました。
 こわさとやるせなさ、なんとも言えない気持ちで体がはりさけそうになります。
 
 戦争は多くのかなしいことを起こします。
 サシスの感じていることもそのかなしいことのひとつかもしれません。
 国に大切な人たちを残した兵隊さんたち、ひとりひとりがかなしいと思っているのかもしれません。
 また、かなしさだけではなく、大切な人たちを守るために戦わなければいけないと思ったのかもしれません。それは「決意けつい」という気持ちかもしれませんでした。

 人と人が争うことは、かなしいことです。
 そして、殺しあう戦争はかなしいものです。

 なぜ、アイウエ王国とカキクケ皇国は戦争をしてしまったのでしょう。
 このふたつの国は仲のよかったときもあったのです。

 アイウエ王国の「えらい人」にはアイウエ王国の正義せいぎがありました。
 正しいと思っていることがあったのです。

 カキクケ皇国の「えらい人」にもカキクケ皇国の正義せいぎがあるのです。
 正しいと思っているのはおなじなのです。

 この悲しいことを生み出しているのは「正しいと思っていること」がふたつの国で違っているということだったのです。

 ただ、サシスは「えらい人」ではないので、むずかしいことは分かりません。
 生きて帰ることができないなら、せめてここで必死に戦って、故郷の母親を守らなければならないとも思うのです。

 戦争は長く続いていました。
 だんだんと、アイウエ王国はカキクケ皇国に負けはじめているのです。
 それは、けっして「アイウエ王国が正しくない」ということではないのです。

 戦争は「正しい方」が勝てるのではありません。
 戦争は「正しく戦った方」が勝てるのです。

 戦争はどんどん、アイウエ王国に不利ふりになっていきます。
 
 そして――
 カキクケ皇国の軍隊はサシスのいる要塞までやってきたのです。

 どんな国でも、アイウエ王国に攻め込むにはこのタチツテ峠を通らなければなりません。
 ここはそういった場所なのです。
 その峠を守るために造られたのがこの要塞ようさいなのです。

 五万人を超える兵隊は、要塞ようさいをとりかこみ、じっと攻撃の機会をねらっているようでした。

「あれ? 動き出したぞ」

 サシスは近くでいっしょに見はっていた仲間なかまに言いました。

「うん? たしかに動いている。全然別の方にいくじゃないか? 攻めてこないのか?」

 まるで、黒い無数のアリが行列して進むように、カキクケ皇国の兵隊が動き出していたのです。

「とにかく、報告だ」
「ああ、そうだな。ん? やつらは、アイウエ王国に向かっているのか?」

 仲間の言葉に、サシスはあらためて、動き出したカキクケ皇国の軍隊を見たのです。
 それは、たしかに王国にむけ進みはじめていたのです。

 この要塞ようさいでの戦いは大きく動きはじめたのでした。

        ◇◇◇◇◇◇
 
 カキクケ皇国の軍勢ぐんぜいをひきいる将軍しょうぐんは考えました。

(ここには、一万の軍勢ぐんぜいを残して、残りの四万五千でアイウエ王国に攻め込むか……)

 要塞ようさいは高い石垣いしがきと、ふかい堀(長い穴です)に囲まれています。

 要塞ようさいを攻める方法はいくつかあります。
 周りをかこんでしまって、中で食べ物がなくなってしまうのを待つ方法があります。

(これは、味方の被害ひがいが少ないが、攻め落とすまで時間がかかるだろう)

 あまり時間をかけてしまうのは、カキクケ皇国の軍隊にとってもいろいろ困ることがあります。
 五万人の兵隊さんを食べさせるのは、多くの食べ物や飲み物が必要です。
 それを、長い間、運びつづけるのは大変なことなのです。

 攻め込んでいるカキクケ皇国も戦争で、苦しんでいるのです。
 長い戦いはさけたいと将軍しょうぐんが考えるのは、当たり前のことだったのです。
 
 では、要塞を素通すどおりして、そのままアイウエ王国に攻め入るのはどうでしょうか?
 カキクケ皇国の将軍しょうぐんは、そんなことをすれば、要塞ようさいの中の兵隊と、アイウエ王国の兵隊とはさみうちになると考えました。
 
 将軍しょうぐんは、ぎょろりと大きな目玉を要塞ようさいに向けました。
 大きな要塞ようさいです。この中にはかなりの数の兵隊がひそんでいるはずなのです。
 要塞ようさいを出て、めてこられると、それは手ごわいてきになるかもしれません。

 そこで、将軍しょうぐんが考えていたのは、軍勢ぐんぜいをふたつに分けることです。
 一万人の軍勢ぐんぜいで、要塞ようさいをかこんで、残りの四万五千人の軍勢ぐんぜいでアイウエ王国に一気に攻め込むという方法です。
 
 要塞ようさいを囲んだ兵隊は、アイウエ王国の兵隊が要塞ようさいを出てこないようにふさげばいいのです。
 そうすれば、はさみうちは防げます。

 要塞ようさいの中にいるアイウエ王国の軍は、要塞ようさいの外にでなければ、一万人のカキクケ皇国の軍と戦えんないのです。
 もし、要塞ようさいの中からアイウエ王国の軍勢ぐんぜいが出てきたら、逆にはさみうちにすることもできるのです。
 
 それから、アイウエ王国を全力で攻めてもいいのです。

「うん、ここはその作戦案さくせんあんでいくべきだろう――」

 カキクケ皇国の将軍しょうぐんは、戦い方を決めたのでした。
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