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53.現代での資金繰り、解決方法あります

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 江戸での自分の屋敷に戻った。
 行きも帰りも女剣士・市山結花が護衛してくれている。
 そのせいか、身の回りに危険が及ぶということは、いまのところない。
 若く美しい女の人に護衛されているのは、どうかなーとは思うけども、自分で自分の身を守るほどの実力はないのだから仕方ない。

(それにしても、意次さんは、すげーよ)

 来るべき、自分への暗殺に備え、日々体を鍛え、逆襲を狙っている。
 脱力してクネクネするシステマみないな動きを身につけていたのは驚いた。

(俺もいろいろ対策せんとな――)

 二十一世紀の日本に戻る前に、江戸の屋敷で考えを整理する。

 飢饉対策――
 直接的には冷害に強い作物を持ち込む。
 被害を最小限にとどめるため「予言の書(桜島噴火予言を書いた)」で、浅間山噴火を知らせる。
 
 田沼改革の地盤強化――
 蝦夷地開拓、貸金会所の設置、貿易の強化といったところか。

「結局、政治を安定させるには、経済の安定だろうなぁ~」
 
 と、当たり前と言えば、当たり前の歴史の帰結に行き着く。

「江戸時代の日本という閉鎖された環境で経済を成長させるってのは難しいわ……」

 当時は人口も三五〇〇万人程度で一定水準を維持。
 経済成長には、人口ボーナスが欠かせない要因になる。
 となると、社会の公衆衛生の整備という問題もでてきて、「医療革新」も必要になるだろう。
 今一部で行われている人痘による「種痘」を全国に広げると言う方法もある。

「とにかく、経済、金、金をどうするか? 特に現代の金だぁ~」

 江戸時代で金を稼ぐのは難しくない。
 一〇〇円ライターや現代では安いものを持ち込んでこっちで高く売る。
 それだけで、もう数万両の蓄えができている。
 が、日本全国に貸付を行える「貸金会所」の原資にはまだ遠い。
 
 もっと大きく稼ぐには、現代でも大きく稼いでいかないといけないわけだが、小判を換金する効率的な方法が見つからない。
 そもそも、江戸時代日本から大量に金が流出してしまっては、それはそれで大きな問題だが……

(金を補填するには、長崎貿易の拡大しかないんだよな~)

 というとこに、行き着くが、これも抵抗勢力が大きそうだ。

「旦那様、お客人です」

 奉公人のひとりが言って来た。

「誰?」

「平賀殿です」

「源内さんかぁ」

        ◇◇◇◇◇◇

「ひひひ、これを見ねぇ」

 源内さんは、応接間に座るといきなり、ふところから「物」を取り出した。

「え? それって……」

 金色に輝くそれは――

「金よ。豆粒みたいだがな、金であることには違いねぇ」

「金…… そうか、金そのものを……」

 俺はひらめく。
 今、小判で数万両持っている。
 それを、金に交換する。
 でもって、現代で換金する。
 おそらく、小判より換金は楽だろう。
 この前調べたときは、一グラム七〇〇〇円近かったはずだ。
 一キロで七〇〇万円。一〇キロで七〇〇〇万円になる。

 刻印のない金でも換金できるか?
 ちょっとそのあたりは、調べてみないと分らないが「砂金採りツアー」とかもあるので、なにか現金にする方法はあるのだろう。

「でさ、秩父鉱山で、試作の蒸気機関をつくりてぇんだよな~」

 以前から言っていたが、諦めてないようだった。
 しかし、十八世紀日本で蒸気機関の需要は…… これからの鉱山開発の配水で使えるか――

「資金ですか?」

「そうよ。話が早いねぇ、さすが航殿だぜ」

「今後のことを考えると、確かに作っておくのは悪くないですね」

「そうだろ」

「一応、田沼様に話を通してからにしましょう」

「ま、そうだな。あのお方が反対するとは思えねぇし、いいぜ」

 その他、諸々の現状を確認して、源内さんは家を後にした。

(しかし、源内さんが狙われると言うことはないだろうか……)

 史実では無かったことだが、今後、田沼政権内で派手に動くとなれば、反対派に狙われると言う可能性はないではない。
 その点はちょっと気になる。

「とにかく、田沼様に色々相談しなきゃいかんなぁ~」

 情報は共有し、ひとつひとつ進めていこう。
 政敵にいつ脚をすくわれるのか分らないのだから。

        ◇◇◇◇◇◇

 江戸の物品を持って二十一世紀に戻る。俺のアパートだ。
 確かに、江戸時代と現代をネット回線で繋げば便利であるなとあたらめて思う。
 三五〇キログラム×二の荷物を引っ張ってきたあとは特に。

 ネット回線があれば、一応専門家といえる田辺京子と江戸時代にいながら、相談ができる。
 往復して情報を刷り合わせる必要がなくなるのだ。

(出来る出来ないはともかく、考えてみるか……)と、俺は「ネット回線」でトンネルを繋げることも事案のひとつに加えておく。

 バーンとドアが開く音が聞こえて、いきなり飛び込んできたチビ眼鏡。
 呼んでもいないに、タイミングを見計らったように登場だった。

「はぁはぁはぁ、先輩。くんか、くんか、くんか」

「匂いで俺を探知するのか! 止めろチビ眼鏡! 匂いをかぐな」

「女の匂いがしないか、確認なのです! 吉原へ行ったり、もしくは品川宿とか―― 船饅頭は危険なので止めて欲しいのです! 抗生物質があっても性病は……」

「行くか! アホウか!」

 俺はビニールバットを探すがどこにもない。
 隠しやがったか、京子。

「落ち着け! とにかく、大きく現金を確保する方法を見つけた!」

「なんですと! さすが先輩なのです!」

 俺はリビングへ移動する。喉が渇いたので水を飲んだ。 
 で、椅子に座る。

「これだ」

 トンと俺は「金の延べ棒」をテーブルの上に置いた。

「おお! これはゴールド! 金ですね!」

「そうだ」

「この金を担保にして、金を借りる。小判より言い訳は簡単だ」

「なるほどぉ~」

 京子は素早くスマホを取り出し、検索した。
 物分りと、頭の回転は速い。クソエロな言動さえなければ、本当に良いと思うのだけど……
 
「あ……」

「どうした?」

「いえ、なんでもないのです!」

 眼鏡の奥の眼が泳いでいる。

「ちょっと見せろ」

「えーー」

 渋る京子。

「どうせ、俺が検索すれば分ることだろ」

「まあ、そうなのですが、ここは推奨できないのです。個人的に……」

「なんでだ?」

 俺は京子のスマホを受け取ると画面を見た。
 金を担保にして、融資してくれる金融機関があった。

「あ…… ここは……」

 その先頭に表示してあった会社は、俺のモトカノが勤務している会社だった。
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