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2話

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 食事の準備が終わったことを知らせるベルが鳴る。
 大広間には侯爵家として十分以上の料理が並んでいた。

 エキュエルいっぱいのブエールが香辛料をふんだんに使った食欲を刺激する香を発している。
 焼きたての厚切りパン。
 天界に近いところに住む鳥たちの肉を使った料理。
 新鮮な野菜、果物、そして庶民が絶対に口にすることが出来ないワイン。
 
 しかし、豪華な貴族の料理ほどには食する人間は高級そうに見えない。
 手づかみでガツガツと食事をするのは、ローザリンデの夫であるファルマッハ侯爵だった。

「まったく、都市貴族の女は見てくれはいいが、食事のときも煩くてかなわなかった」
 
 肉をむちゃむちゃとほお張り、ずずぅぅっとブエールをすする。マナーなど欠片もない。

「本当ですわ。お兄様。あの女いけ好かないわ。いい気味よ。ほほほほ」

 口に食べ物をいれながら笑うのはファルマッハ侯爵の妹だった。
 顔立ちは悪くなのだが、全体に品がない。ただ、男好きのする身体の持ち主だった。
 すでに2度の離縁を経験している出戻りだ。

「ローザリンデ様は?」

 口を開いたのは壁際に立っている使用人の中の一人。
 家宰かさい(貴族の家の中、仕事など全ての責任者)の息子だった。

「リカード!」
「父上」

 家宰であるリカードの父が「それ以上言うな」と視線で息子の言葉を止める。

「ああぁ~ ローザリンデのことが心配か? んん~ 小僧ぉぉ~」

 ファルマッハ侯爵は下卑た笑みを浮かべ言った。

「はい。いったいローザリンデ様になにが」
「病だ! 病気なのだよ! 食事をともにはできにからな」
「でも……」
「リカード!」
 
 父の制止に、リカードはキュッと唇を閉じる。
 背に回した手は拳をつくり、キュッと握られていた。

「あれか? 我が妻に懸想しておるのか? まだ皮も剥けていない小僧が。んん~」

 この屋敷の中で一番、歳若な顔色を変える。
 
「決してそんな…… ただ」
「ただ?」
「いえ、なんでもありません。私は決して懸想などしておりません」

 顔を下を向けリカードは言った。
 侯爵は、使用人に興味を無くした様に「ふん」と鼻息を吹くと食事を再開する。

「その口の利き方なってないな」

 くちゃくちゃと咀嚼音そしゃくの混ざった声。

「オマエ、今日の食事はローザリンデと同じものを食え。使用人の食事が終わったその残り物だ」

 そう言うと侯爵はスープ皿の中にペッと唾を吐いた。

「これも、ありがたく食うんだな。オマエでもローザリンデでもよい」

 侯爵はニヤニヤしながら言った。
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