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蒼の魔法士-本編-
Seg 55 封印、そして…… -02-
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周囲に漂う白い水蒸気は、風の流れるままに上空へとかき集められていく。
「なんや、様子がおかしないか!?」
みっちゃんが叫ぶ。
「どう見ても自然現象じゃないな」
「まさか~。この雲がアヤカシじゃあるまいし」
吉之丸の一言に、全員が固まる。
「……え? 何スかその沈黙」
「そらよ~。ありぇ、アリャカシららよ~」
「マジッスか?」
応えるが如く、それは蠢き赤い『目』を見せた。
「お前……普段は文句ばっかりなのに時々鋭いな……」
もはや呆れとも取れるため息をつく緇井。
「でも、アヤカシなら『目』を封印すればいいですよね、東条さん?」
緇井は、渦巻く雲を凝視する。
その時。
ェエーラァアーリィラー
雲間から囃子詞が響いた。
間違いない、ミサギの憶測は確信へと変わっていく。
「アラミタマだ」
「あれが、アラミタマ……!」
言われるのを待っていかのように、集まった雲はモコモコと動きだす。
ポンポンッと軽快に弾ける音とともに、次々と綿毛の塊へ形を変えていった。
「メェェエエ~」
真っ白なふわふわのモコモコとした毛。
クリクリと黒く丸い目。
聞いたことのある鳴き声。
『……羊?』
一同が身構えたところへ現れたのは、小さな羊たちだ。
「か、かわいい……!」
瞳を輝かせて緇井は思わず呟いた。
「所長、今はそれどころじゃ――」
吉之丸が言い終わらないうちに、背後からさらに巨大な雲が蠢き、顔を出した。
先ほどまで見ていた積乱雲である。
まるで綿菓子のようにふわっふわなそれは、見る間に大きくなり、広場を埋め尽くしていく。
「でっっかすぎじゃろ羊さんんぁああっ!!」
「あははは~みっちゃんおちゅちけ~」
「うぅ……かわいいっ……!」
「所長! もっと緊張感持って下さいっ!」
ツッコミにバカ笑いし、可愛いもの好きが限界突破して、収集がつかなくなってきた。
「ンメェエエエ!」
低い雄叫びが轟く。
途端、モコモコした毛から稲光の矢が放たれる。
バヂッ! バリリリッ!!
「わああっ!?」
耳をつんざく轟音とともに、落雷が辺りを走り抜ける。
目も開けられない眩しさが何回も襲ったあと、吉之丸は目の前にいる人物に腰を抜かした。
「しょ、所長!?」
驚愕の声があがる。
「え? なんだ――」
言いかけて、自身の声の低さに気付く。
「所長の姿が……!」
「?」
コンパクトミラーを引っ張り出して、自身を確認すると、
「これは……私か!?」
そこには緇井のスーツを着たイケメンが映っていた。
「やられたっ!」
よくよく見ると、少し面影が残っている……気がする。
緇井は、フッと笑みをこぼし、巨大羊を見上げた。
「だが、これで事件の真相がはっきりしたな。犯人はこの巨大羊のアラミタマだ!」
言って、眼鏡をかけた少年探偵よろしく、指をビシッと突きつける。
白い羊毛に包まれた大きな体躯。そして、雷を纏ったアラミタマは、今の状況を楽しむように声高く鳴いた。
「アラミタマを封印せねば、被害者たちは男性になったままだ! すまないが助力を頼みます!」
「問題ないよ」
ミサギは、すぅ……と静かに息を呑み込む。
「これが……アラミタマの能力……!
くぅ~! 研究が捗るー!」
アラミタマの脅威より、興味と好奇心がどんどん膨らむアスカ。
「緇井君、『目』は壊しちゃダメだよ!」
「わかってる! 私の封印があれば問題ない!」
だがしかし、緇井の動きは止まってしまった。
「……すまない! 封印するのに儀式が必要なんだ! 少し時間を稼いでくれるとありがたいのだが!」
「うっそやぁん!」
「すみません、所長に協力お願いします!」
「大丈夫だよ、そのために僕がいるんだから。木戸――は、ユウ君抱えているんだった」
ミサギがくるりと振り向くと、木戸はもこもこのアヤカシを抱えていた。
「木戸っ!? ユウ君はっ!?」
「!?」
本人も気付かないうちに、ユウは束縛からどこかへ逃げていた。
「どこ行ったんや!?」
みっちゃんもキョロキョロ捜す。
すると――、
「ぅお~い、こっちらろ~!」
ユウが小さいアヤカシ羊の上をぴょんぴょこと跳ねている。
「こっちこっちぃ」
大きく手を振って、自ら囮をかって出たつもりらしい。
「ユウ君!」
「あいつ、なんちゅうところにおんねん……!」
呆れながらも、ミサギとみっちゃんが走り出した。
「ボクら惹きつれれておくんれ――」
そう言っている間にも、アラミタマは雷を落とそうとユウに向けた。が、
「メエェ……メヘェ?」
首を傾げている。
瞳はそれなりのまつ毛に縁取られ、整った顔立ちではあるが、ユウは、色気の無い黒い短パンにシャツでおまけに子供だ。
どうやら、ユウを男と見たらよいか女と見たらよいか、迷っているようだった。
「メェェ~……」
「なんらよ~! ボク見れ悩むらろ~!」
プンスコと小さな酔っぱらいが怒る。
「何をしているんだ、ユウ君!」
駆けつけたミサギが、ズレたサングラスを投げ慌ててユウの手を引く。
「メヘッ!?」
絶世の美女(?)が突然現れた。サングラスの効果で、今まで存在を希薄にしていたためか、アラミタマにはそう見えたのだろう。そして、ミサギの美貌は老若男女どころか人外の存在にも威力を発揮していた。
アラミタマは一瞬で目をハートにする。
頬だけでなく雲全体が薄紅色に染まり、ありったけの力を込めて雷を集めだした。
「あいつまさか、アレを落とすつもりなんじゃ!?」
「あかんあかんあかん! みんな逃げぇ!」
そう言っている間にも、雷の塊から漏れる衝撃が一同を襲う。
ミサギはも間一髪で避けていくが、ユウを抱えたままで、光と音そして激しい放電する自然現象には手こずっていた。
ラァーェエー
囃子詞が攻撃を仕掛けるといわんばかりに鳴り響く。
アラミタマの興奮するままに集められた雷の塊は、ユウを逃がそうと隙を探すミサギへと駆けていく。
「くっ……!」
「ミサギさ……っ!?」
少しでも遠くへ逃がそうとユウを突き飛ばす。
その目の前で、彼のいる場所に激しい閃光と轟音が炸裂する。
「なんや、様子がおかしないか!?」
みっちゃんが叫ぶ。
「どう見ても自然現象じゃないな」
「まさか~。この雲がアヤカシじゃあるまいし」
吉之丸の一言に、全員が固まる。
「……え? 何スかその沈黙」
「そらよ~。ありぇ、アリャカシららよ~」
「マジッスか?」
応えるが如く、それは蠢き赤い『目』を見せた。
「お前……普段は文句ばっかりなのに時々鋭いな……」
もはや呆れとも取れるため息をつく緇井。
「でも、アヤカシなら『目』を封印すればいいですよね、東条さん?」
緇井は、渦巻く雲を凝視する。
その時。
ェエーラァアーリィラー
雲間から囃子詞が響いた。
間違いない、ミサギの憶測は確信へと変わっていく。
「アラミタマだ」
「あれが、アラミタマ……!」
言われるのを待っていかのように、集まった雲はモコモコと動きだす。
ポンポンッと軽快に弾ける音とともに、次々と綿毛の塊へ形を変えていった。
「メェェエエ~」
真っ白なふわふわのモコモコとした毛。
クリクリと黒く丸い目。
聞いたことのある鳴き声。
『……羊?』
一同が身構えたところへ現れたのは、小さな羊たちだ。
「か、かわいい……!」
瞳を輝かせて緇井は思わず呟いた。
「所長、今はそれどころじゃ――」
吉之丸が言い終わらないうちに、背後からさらに巨大な雲が蠢き、顔を出した。
先ほどまで見ていた積乱雲である。
まるで綿菓子のようにふわっふわなそれは、見る間に大きくなり、広場を埋め尽くしていく。
「でっっかすぎじゃろ羊さんんぁああっ!!」
「あははは~みっちゃんおちゅちけ~」
「うぅ……かわいいっ……!」
「所長! もっと緊張感持って下さいっ!」
ツッコミにバカ笑いし、可愛いもの好きが限界突破して、収集がつかなくなってきた。
「ンメェエエエ!」
低い雄叫びが轟く。
途端、モコモコした毛から稲光の矢が放たれる。
バヂッ! バリリリッ!!
「わああっ!?」
耳をつんざく轟音とともに、落雷が辺りを走り抜ける。
目も開けられない眩しさが何回も襲ったあと、吉之丸は目の前にいる人物に腰を抜かした。
「しょ、所長!?」
驚愕の声があがる。
「え? なんだ――」
言いかけて、自身の声の低さに気付く。
「所長の姿が……!」
「?」
コンパクトミラーを引っ張り出して、自身を確認すると、
「これは……私か!?」
そこには緇井のスーツを着たイケメンが映っていた。
「やられたっ!」
よくよく見ると、少し面影が残っている……気がする。
緇井は、フッと笑みをこぼし、巨大羊を見上げた。
「だが、これで事件の真相がはっきりしたな。犯人はこの巨大羊のアラミタマだ!」
言って、眼鏡をかけた少年探偵よろしく、指をビシッと突きつける。
白い羊毛に包まれた大きな体躯。そして、雷を纏ったアラミタマは、今の状況を楽しむように声高く鳴いた。
「アラミタマを封印せねば、被害者たちは男性になったままだ! すまないが助力を頼みます!」
「問題ないよ」
ミサギは、すぅ……と静かに息を呑み込む。
「これが……アラミタマの能力……!
くぅ~! 研究が捗るー!」
アラミタマの脅威より、興味と好奇心がどんどん膨らむアスカ。
「緇井君、『目』は壊しちゃダメだよ!」
「わかってる! 私の封印があれば問題ない!」
だがしかし、緇井の動きは止まってしまった。
「……すまない! 封印するのに儀式が必要なんだ! 少し時間を稼いでくれるとありがたいのだが!」
「うっそやぁん!」
「すみません、所長に協力お願いします!」
「大丈夫だよ、そのために僕がいるんだから。木戸――は、ユウ君抱えているんだった」
ミサギがくるりと振り向くと、木戸はもこもこのアヤカシを抱えていた。
「木戸っ!? ユウ君はっ!?」
「!?」
本人も気付かないうちに、ユウは束縛からどこかへ逃げていた。
「どこ行ったんや!?」
みっちゃんもキョロキョロ捜す。
すると――、
「ぅお~い、こっちらろ~!」
ユウが小さいアヤカシ羊の上をぴょんぴょこと跳ねている。
「こっちこっちぃ」
大きく手を振って、自ら囮をかって出たつもりらしい。
「ユウ君!」
「あいつ、なんちゅうところにおんねん……!」
呆れながらも、ミサギとみっちゃんが走り出した。
「ボクら惹きつれれておくんれ――」
そう言っている間にも、アラミタマは雷を落とそうとユウに向けた。が、
「メエェ……メヘェ?」
首を傾げている。
瞳はそれなりのまつ毛に縁取られ、整った顔立ちではあるが、ユウは、色気の無い黒い短パンにシャツでおまけに子供だ。
どうやら、ユウを男と見たらよいか女と見たらよいか、迷っているようだった。
「メェェ~……」
「なんらよ~! ボク見れ悩むらろ~!」
プンスコと小さな酔っぱらいが怒る。
「何をしているんだ、ユウ君!」
駆けつけたミサギが、ズレたサングラスを投げ慌ててユウの手を引く。
「メヘッ!?」
絶世の美女(?)が突然現れた。サングラスの効果で、今まで存在を希薄にしていたためか、アラミタマにはそう見えたのだろう。そして、ミサギの美貌は老若男女どころか人外の存在にも威力を発揮していた。
アラミタマは一瞬で目をハートにする。
頬だけでなく雲全体が薄紅色に染まり、ありったけの力を込めて雷を集めだした。
「あいつまさか、アレを落とすつもりなんじゃ!?」
「あかんあかんあかん! みんな逃げぇ!」
そう言っている間にも、雷の塊から漏れる衝撃が一同を襲う。
ミサギはも間一髪で避けていくが、ユウを抱えたままで、光と音そして激しい放電する自然現象には手こずっていた。
ラァーェエー
囃子詞が攻撃を仕掛けるといわんばかりに鳴り響く。
アラミタマの興奮するままに集められた雷の塊は、ユウを逃がそうと隙を探すミサギへと駆けていく。
「くっ……!」
「ミサギさ……っ!?」
少しでも遠くへ逃がそうとユウを突き飛ばす。
その目の前で、彼のいる場所に激しい閃光と轟音が炸裂する。
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