31 / 73
蒼の魔法士-本編-
Seg 30 震撃せよ、満たすべきは青き胃の腑 -01-
しおりを挟む「ほう……!」
対面してから初めて少しばかり驚いた顔を見せた悪魔の眼下で、ルタは拳を握ると自身の身体の上へと振り上げた。ガラスが砕けるような音とともにキラキラとした透明な破片が周囲に降り注いでいく。
「これは驚いたの。スキルとやらでも我輩の魔力に対抗出来るとは」
「まだだ!」
ルタが振り上げていた拳を広げた。その手のひらから暗い光が悪魔へと撃ち出されていく。高速で迫る光に、しかし悪魔は首を少し傾けただけで回避した。
「確か何日か前にお主が大剣持ちの脳筋と戦っていたときに、空中に文字が浮かんでいたのう。『デバフ』とか書かれていたか」
ルタがニーサを三人組から助けたときのことだ。ニーサが見ていたということは、つまりこの悪魔にも知られていたことにつながる。
「そのデバフで我輩の魔力を弱体化させた。じゃが、我輩自身はそう簡単に受けんわ。正面から来ればなおさらのう」
悪魔は笑みを絶やさない。
「仮にお主がいまの光を操れるとしても無駄じゃぞ。あの程度の速さなら容易に回避可能じゃし、万が一にも受けてデバフされても、その分を強化すればいいのじゃからな」
魔力や魔法では身体や物質を強化できる。悪魔ほどの実力ならば、下げられた能力を帳消しにできるだけでなく、さらなる強化も可能だろう。
「かっかっかっ」
お主のやることなどに意味はない……そう言うように笑い声を上げる悪魔に、しかしルタは静かな声を返した。
「……俺のスキルは『未熟』だ」
「ん? 何か言ったか?」
「……デバフはただのレベル1の技に過ぎないってことだ……『未熟』の真骨頂は……」
ルタが地面を蹴ってその場を離れる。その瞬間、はるか上空から滝のような大量の水が降り注いできた。
「……⁉ これは……っ⁉」
瞬時に悪魔も空中を移動してその場を離れる。衝撃音とともに地面にちょっとした池のような、大きな水溜まりが出現した。
「何じゃ⁉ お主のスキルは水も作れたのか⁉」
さっきよりも明確な驚き。それも無理もないだろう。ルタのスキルはあくまでステータス変化であり、物質生成ではないはずなのだから。
「作れんのは水だけじゃねえぜ」
ルタが言った瞬間、水溜まりから爆ぜるようなガスの塊が立ち上った。
「水蒸気爆発か⁉ じゃが火はないはず⁉」
「……もっと戻れ……水蒸気のさらに前に……」
火山の爆発のように激しかった水蒸気が、一瞬にして視界から消え失せる。いや消滅したのではない、彼が言ったように戻ったのだ。水蒸気を形成するさらに前の状態に。
ルタがポケットからマッチを取り出した。魔物の肉を焼くときに用いているものだ。その一本を取り出して火を灯す。
「……⁉ お主、まさか……⁉」
「……てめえを倒すのは、てめえの周りのものだ。てめえのスピードじゃ逃げられやしねえ」
「やめ……⁉」
ルタがマッチを悪魔が浮かぶ空中に放り投げる。その瞬間、逃げようとした悪魔をとてつもない爆発と火炎が飲み込んだ。
0
この小説を見つけて読んでくださりありがとうございます!
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる