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三章〜出会いと別れ〜

三十一話 『友達』

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あの衝撃的な出会い(といっても私が一方的に知ってるだけだけど)から三日が経った。今日は土曜日で、学校は休みなので、私は今、病院にいる。理由は簡単。入院中のお見舞いに来たのだ


「……おっ、透華……」


扉を開けると、ベッドの上で寝転んでいるお兄様の姿があった。包帯でぐるぐる巻きにされて痛々しい姿になっているけど……これ本当に軽傷なの……?西園寺曰く、軽傷らしいけど……。


「……大丈夫ですか?」


「痛みはあるけど、大したことないから大丈夫だよ。だけど──」


唐突にガラッと扉が開く。そこにいたのは──


「……い、伊集院様に香織様?」


王子と香織様がいたのだ。二人とも険しい表情をして立っている。そして私達を見て一言。 


「本当に、ごめんなさい……!悠真くん…」


「いや、いいよ、九条。俺はこうして生きているんだからさ。それに九条のせいではないし」 


申し訳なさそうな顔をしている香織様に対して、笑顔で言うお兄様。はぁ、お兄様ってば本当にイケメンだわ……っ!しかし、その優しさが仇になったのか……怖い顔でこちらを見る王子の目つきが変わる。


「カッコつけやがって……!正直言ったらどうだ!?香織のせいじゃなくて俺のせいでこうなったんだろ!?なら、俺を責めるのが筋だろうが!」


突然キレ始めた。……事情がよく分からないから私は何も言えない。大人しく、空気を読んで黙っているしかないか……。そう思っていると──


「伊集院くんを責める程俺は偉くもないし、俺が勝手にやったこと。つまり、自業自得なんだよ。だから、気にしないで欲しいかな」


お兄様は王子に向かって優しく言う。すると、王子の顔は真っ赤になり、プルプル震えている。


「うぜぇ……マジでうぜえ!そういうところがムカつくんだよ!!」


……こりゃあダメだね。完全にブチ切れてるし。


「いっそのこと俺を責めろ!なんなら殴れよ!そっちの方が気持ちは楽になる!だから……!」


「そんなこと俺は絶対にしないし、出来ない。だって……そんなことしたら後悔するから」


お兄様の言葉を聞いた途端、王子の動きが止まる。…何だこの展開?一体どういうことだ?私は状況が掴めず困惑していた。


「で、でも、悠真くん、その傷…責任を取らなくちゃいけないわよね……?」


「責任なんて取らなくていいよ」


お兄様は即答した。その言葉を聞いて香織様は納得してないように、眉間にシワを寄せてこう言った。


「治療費ぐらいは払わせてよ。あと、怪我させたことも謝らせて。……ごめんなさい」


頭を下げながら謝罪をする香織様。それを見たお兄様は困ったような笑みを浮かべていた。


「別にお金はいらないし、先も言った通り俺が勝手に庇っただけだからさ。だから、九条が負い目を感じる必要はないよ」


お兄様の優しい発言を受けて、香織様は泣きそうな顔になって俯いている。そんな表情を見て私は思わずこう言ってしまった。


「払うと言っているのだからそこはご好意に甘えればいいのでは……?それに香織様のこの様子は……」


きっと、承諾させるまで譲らない気だ。
お兄様もそれを感じ取ったのか、溜め息をつくと──
 

「分かったよ……。じゃあ、お願いしようかな」


渋々だが、了承した。それを聞いた香織様はパアッと明るい笑顔を見せる。


「ありがとう、悠真くん。必ず返すわね!」


今のやり取りを見ていて思うのだが、やはり香織様はお兄様のこと好きすぎじゃないだろうか。


「……治療費は俺が払う。だから──それが終わったら……」


王子はお兄様に耳打ちをしているので何を話しているのか聞こえない。だけど、なんとなく、想像はつく。多分、『今後一切香織に近づくな』とかそんなんだろう。王子って独占欲強いし。すると、お兄様は……


「……うん、わかった。その約束を守るよ」


笑顔でそう答えた。その返事に満足したのか、王子は病室から出ていく。そして、香織様も私たちに会釈をしてから部屋を出ていった。……本当にどういうことなんだ? 二人がいなくなった後、私はお兄様に訊ねる。


「……先なんて言われたんですか?香織様に近づくなとか?」 


私がそう言うとお兄様は苦笑いしながら首を横に振って否定する。
違うのか?なら、何だったんだ? 疑問に思っていると、お兄様は私の方を向き、真剣な眼差しで私を見つめてくる。
そして、ゆっくりと口を開き、衝撃的なことを告げてきたのだ。


「また野球対決したいって」


「……はい?」


思わず聞き返してしまった。……えっと、ちょっと待って?今、あの王子がお兄様に『また野球対決したい』って言ったの?


「まぁ、この前やった対決も引き分けだったし、再戦したいってことじゃないかな。俺も引き分けのままだったらモヤモヤするし、最初の目的も忘れて試合してたし楽しかったからさ」


お兄様は爽やかな笑みを浮かべている。私はその顔を見ながら思った。


「……お兄様って本当に野球大好きですよね……」 


「ああ、好きだぞ!野球!」


満面の笑みで答えるお兄様。本当にお兄様は野球のことになると目がないなぁ……と思っていると、


「伊集院くんとはこれが初めて試合したんだけど凄く白熱してさ。最後の方なんかお互い汗だくになっていくし、声も枯れていくし、もう最高だったよ!それで──」


やばい……これは長くなるパターンだ。早く終わらせないと……!


「悠真お兄ちゃんー!姉さんと一緒にお見舞いに来たよー!」


「ちょっと……!玲奈……!声が大きいわよ!」 


元気よく病室の扉を開けて入ってきたのは、華鈴様と玲奈様だった。ちょうどいいタイミングで来てくれた。これでお兄様の話を止められるだろう。


「あっ、二人とも。二人も野球の話を聞いてくれないかい?」


「……私、用事を思い出したので玲奈様と華鈴様ごゆっくり~」


二人が来ても、状況が変わらないことを悟った私はこの場から去った。背後から二人の声が聞こえてくるが無視だ。流石にこんなので亀裂は生まれないだろう。そう思いながら帰ろうとしていると、


「おおー!そこの嬢ちゃん、いい体してんじゃねえか」


「へっ!?」


廊下でガラの悪い男たちに絡まれた。えっ、何これ怖い。まさかの展開すぎて頭真っ白になるんですけど。というかこの人たち誰だよ? 私が呆然と立ち尽くしていると、男たちは、


「ねぇねぇ、一緒に遊ぼうぜ」


「いや、その……」


怖くて何も言えない。どうしようかと考えていると、


「ちょっと!五月蝿いわよ!病室の前でナンパなんてしないでくれる!?」


そんな声が聞こえてくる。私は恐る恐る振り返ると、そこには見知った顔があった。


「(み、美穂ちゃんだ……!)」


美しい顔がそこにはあった。サラサラの黒い髪に、雪のように白い肌。本当主人公という見た目だ。主人公なんだから当たり前なんだけども。そんな彼女の登場で男どもは、


「そこの嬢ちゃんも可愛いじゃねえか。こっちに来て俺らと遊びましょうよ」


「嫌です。ナンパするのは勝手ですけどそれは街中でしてください。これ以上五月蝿くしたら呼びますよ?ナースさん」


「ちぇっ……可愛げのないガキだ」


そう言って男は去っていった。それを見た私たちはホッと一息つく。


「ふう……助かりました。ありがとうございます……月坂さん」


「いえ、別に大したことはしていないので気になさないで……って、ちょっと待ってください。私、名乗りましたっけ?教えた記憶ないんですけど」


し、しまった!つい、反射的に言ってしまった!そうだよね!私が一方的に知っているだけで、彼女は私のこと知らないんだから怪しまれて当然じゃん!ど、どう言い訳すれば……!


「あ、あの……ぷ、プレート……!病室の!あそこに名前があるじゃないですか!だから知ってたんですよ!それだけですよ!」


「ああ、なるほど……ってちょっと待ってください。ここの私以外にも名前ありますけど?どうやって分かったんですか?」


ぐぬぬ……鋭いところを突かれた……。このままだとまずい……!かと言って本当のことを言ったら変なやつ扱いは確定だし。かくなるうえは……!


「勘……です。その、ここのプレート見た時、なんとなくそう思っただけなので」


苦し紛れの嘘をつくことにした。自分でも苦しいな……とは思ったがそうとしか言えなかった。


「……ふーん。納得はできないけど、そういうことにしておきましょうか」


ほっ……良かったぁ~!信じてもらえた! 私は心の中でガッツポーズをする。


「では、助けてくださってありがとうございます。月坂さん。このお礼はまたしますね……!」


「いえ、お礼なんていいですけど……そういえば貴方の名前は?」


「あっ、申し遅れました。私の名前は城ヶ崎透華といいます」


「……城ヶ崎透華さん、ね。名前教えてくれたらそれでいいわ、お礼」


まさかすぎる言葉に私は言葉を見失った。それでは私が納得出来ない、と思いながら美穂ちゃんに向かってこう言った。


「お礼が名前を教えることだなんてそんなの駄目ですよ!」


「えー……面倒くさいなぁ……」


美穂ちゃんはジト目で私を見てくる。そして、ため息をついた後、


「じゃあ……昨日発売されたお菓子…えーっと名前は……『極上のカカオ』だったかな?あれが食べたかったの。それを奢ってくれたらいいわ」 


「……いいですけど……そんなのでいいのですか?極上のカカオって一個150円ですよね?あ……30個ぐらい買えばいいですかね?」


「…二、三個で充分なんだけど……」


「えっ!?そうなんですか!?」


だって、あんなに美味しいのに一個150円だよ?それなのにたったの三個とか……ありえない。普通ならもっと食べるでしょう。
すると美穂ちゃんは笑いながらこう言った。


「あなた面白いのね」


「面白い……ですかね?」


正直言ってどこが面白かったのか、全然分からない。 


「うん、凄く。……そうだ。私と友達になってよ、先のお礼に」


「はい?……まあ、別に構いませんけど……」


こうして私達は友達になった。……主人公と、当て馬が友達になるなんて不思議な話だなっと思いながら、私と美穂ちゃんは連絡先を交換して別れた。
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