上 下
8 / 34
一章 〜全ての始まり〜

八話 『婚約パーティ』

しおりを挟む
キスを拒否され、透に逃げられたあの日から1週間が経過していた。
あれ以来、カナは透と会えずにいた。あの日のことを謝りたくても、避けられていて会うことすら出来ない状況なのだ。


そしてそんなことをモタモタとやっているうちに婚約パーティの当日が来てしまった。


この日の昼過ぎに、都内のホテルで婚約パーティーが行われることになっているのだが、透はこのパーティーには参加しないらしく、その時間を狙って会いに行くという選択肢もなくなってしまったのだ。


故に、カナとしては何の意味もないパーティに出席して、何の価値もない相手との会話をするしかないわけだ。
 

正直なところ、こんな無意味な時間を過ごさなければならないことが腹立たしい。と思った直後、見覚えのある声が聞こえてきた。


「春人くん!私と踊って~!」


「春人くん!是非君の頭脳を活かしてうちの大学に入らないかい?」


「……春人?」


聞き覚えのありすぎる名前に反応して顔を上げるとそこには鈴木春人がいた。


「(……ど、どうしてここに……?)」


そう思いながら周りを見渡すと、他の参加者にも声を掛けられているようで、相当な人気者であることが伺える。


確かに見た目は悪くないし、頭も良いし性格も穏やかで優しい。


人気にならない要素がなく、こんな人現実にいるんだな……っとここ一ヶ月の出来事を振り返っていると、


「と、カナ。そろそろ来なさい」


父親に呼び止められた。……カナは心の中で中指を立てながらも笑顔を崩さぬまま父親に近づいてゆく。


「(ああ、気持ち悪い!優しい父親を演じているのが!)」


優しい笑顔を浮かべ、周りの人間に愛想を振り撒き、誰に対しても平等に接するその姿は普段の父親とはかけ離れたものだ。


本当は誰よりも冷酷で残忍な性格をしているくせに、それをおくびにも出さないようにしている父親が大嫌いだった。


そして周りも父親の本当の姿を知らないまま騙されているのだから救いようがない。


「……カナ、お前、話聞いてるか?」


いつの間にか思考の海に落ちてしまっていたようだ。慌てて意識を取り戻し、返答する。


「ええ、お父様。私がお父様の話を聞き流す筈がないでしょう?」


心でもないことを言いつつ、早くこの時間が終わって欲しいと思っていると、父親が口を開く。


「そうか……それより、カナ…この人が…お前の婚約者になる人だ」


婚約者、という言葉を聞いて一気に気分が悪くなるがなんとか我慢して目の前の人物の顔を見る。
そこにいたのは、背が高く、黒髪で爽やかなイケメンな男だ。そしてそれは――


「え?す、鈴木くん……?」


カナの婚約者は学校で隣の席である同級生、鈴木春人だった。



△▼△▼



頭の整理が追いつかない。何故彼が自分の婚約者なのか。頭の中でグルグルと考えていると、


「春人、カナちゃん、美人さんだろ?これならお前も……」


「……お父様は黙ってください」


微笑みながら言う春人。口は笑っているが、目は笑っていないように見える。
すると、春人はこちらを見て言った。


「と、まぁ……とりあえず……よろしく、ね?」


「う、うん……よ、よろしくお願いします……」


あまりの展開に頭がついていかず、ぎこちない返事しかできないカナだったが、これからの生活を考えると憂鬱な気持ちになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

トキノハナと宝石の君〜玻璃の花は翠玉の夢を見る。しくじった私を軟禁して溺愛する理由を知りたいのですが〜

まつのことり
恋愛
「牢獄と、私。囚われるならどちらがよいですか?」 「あなたは私の玻璃の花。もう、離さない」 「誰にも触れさせたくない。 私とあなただけの世界に、閉鎖(とざ)して隔離(かく)してしまおうか。」 出会ったばかりなのに好感度がカンストしてる!? 激重の執着と愛情をむけてくるこの男。 ちょっとどうかしてる… 私はハナキ。職業スリをしています。 狙ったカモに返り討ちにされ、お持ち帰りを余儀なくされたが運の尽き…で。 停まっていた運命が廻りだす。 幼少期の記憶がない私と 翠玉の瞳を持つ彼の執着と偏愛。 閉じられていた記憶が開く時、 私を取り巻く秘密と恋が開花する。 お読みくださりありがとうございます。 *処女作の自主制作乙女ゲームシナリオの元ネタになります。翠玉の章は完結済みなので、定期的に更新させてもらいます。 読んでいただけたら嬉しいです。 イラストは「ミキタカ」氏担当です♪ ありがとうございます。 *異世界ファンタジー舞台のラブストーリー *設定はざっくりご都合なとこもございます。 *後半はところどころR15な表現もあるかもです。 執着と偏愛、ヤンデレ気味な攻略対象との恋愛話です。そこそこ重たい一途な愛のヒーローです。ご了承ください… 長さは文庫本一冊くらいの予定です。 よろしくお願いします。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

処理中です...