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番外編
『中村優子の観察』
しおりを挟む最近の弟はめちゃくちゃ浮かれている。浮かれている原因は分かっている。彼女が出来たのだ。それ自体は別にいいのだが――、
「ねぇ。私に会わせてよー。久しぶりにみのりちゃんに会いたーい」
「絶対ヤダ」
お願いしても、全然会わせてくれない。なんでよ。
「別に良いじゃない。ケチ」
「とにかくダメ!」
私が駄々をこねると、弟は鬱陶しそうにそう言って睨んできた。まったくもう。本当にケチなんだから。
「あー、もう!何なのよ!雄太くんもみのりちゃんに会わせてくれないし!もう!」
私は怒りながら自分の部屋に戻った。本当にイライラする!私、そんなに嫌われるようなことした?
「なんで会わせてくれないのよ。ムカつくわ、ホントに!」
私はベッドにダイブした。そして、枕に顔を埋めながら唸った。こうなったら、こっそり会いに行こうかしら?そうだ、そうしよう! でも、どうやって会おうかしら?
「(洋介や雄太くんにバレると面倒だし、慎重に考えなきゃね!)」
私は色々考えてスマホをポチポチ操作した。そして、思いついた作戦を実行することにした。それは――。
「(ふふん、これで完璧ね!)」
私はスマホの画面に映るみのりちゃんにメッセージを送った。
△▼△▼
私――中村優子は彼氏に憧れていた。幼い頃、少女漫画に出てくるヒーローみたいな彼氏が欲しかった。でも、現実は違った。
少女漫画に出てくるヒーローみたいな男子なんていない。いたら見てみたいものだ。
いや、いるのかもしれないけども少なくとも同級生にはいない。
だからこそ、私はずっと憧れていた。自分を守ってくれるような存在に。
しかし、そんなもんはいない。
小学生の時も中学生の時も高校生になっても――。
「あ、あの……」
不意にか細い声が聞こえてくる。振り返るとそこには、
「みのりちゃん!」
みのりちゃんがいた。彼女は緊張しているのか、顔を真っ赤に染めて俯いている。可愛いわぁ……『守りたくなる女子ランキング』があったら断トツで一位に輝いている可愛さなんだよなぁ。
「そ、それで……話したいことって……何でしょうか……?」
みのりちゃんはおずおずと尋ねてきた。その仕草も可愛らしい。
私はニマニマしながら、彼女を見つめる。うん、やっぱり可愛いわぁ! でも、ここで調子に乗ると嫌われるかもしれないから気を付けないとね。私は平静を装って答えることにした。
あぁ……ヤバいわ……私ったらニヤけそう……!
「あのね、みのりちゃん!私ね、貴方に会いたかったの!」
「私にですか!?」
私の言葉にみのりちゃんは驚いていた。そんなに驚くことか……?そんなに意外か?
「うん!私ね、ずっと貴方に会いたかったのよ!でも、雄太くんや洋介のガードが固くて全然会わせてくれなかったのよね!酷いと思わない!?」
「え……えっと……」
私が捲し立てるように話していると、みのりちゃんが困ったような顔をした。しまった、興奮してしまったようだ。
「ご、ごめんなさいね。私ったらつい……」
興奮しすぎて早口に捲し立てるのは私の悪い癖。これのせいで何度も失敗している。友達との会話でも、よくやらかしてしまうのだ。気を付けないとな……。
私が反省していると、
「だ、大丈夫……ですよ……」
みのりちゃんがおずおずと呟いた。か細い声だけど、しっかり聞こえた。はぁ?洋介はこんなかわいい子を私に会わせなかったっていうの?
「(あー!もう!みのりちゃんかわいい!)」
私は心の中で悶え苦しみながら、みのりちゃんを見た。彼女は恥ずかしそうにモジモジしている。
はぁ……本当にかわいいわぁ……!私は心の中で悶え苦しみながら、みのりちゃんを見ていた。すると、彼女はおずおずと私を見ると口を開いた。
「……あの……聞きたいことがあるんですけど……」
みのりちゃんはモジモジしながら聞いてくる。私は首を傾げた。聞きたいこと?なんだろう? 彼女の聞きたいことって…もしかしてなくても洋介のことか?
「(それならウェルカムだけども!)」
私はニヤニヤしながら、みのりちゃんを見つめる。彼女は緊張した面持ちで私を見ていた。
「…あ、あの……私、お姉さんのことをもっと知りたくて……」
予想外の言葉に私は目を見開いた。お姉さん?お姉さんって私のことか?いや、当たり前なんだけども……でも、なんで私のこと知りたいんだ?
「別にいいけど……なんで?」
「そ、その……洋介くんからよくお姉さんのことよく聞くんです。それで面白い方なんだなって思って……」
初めて知った。洋介の奴、私のこと話してたんだな……!そのことについてもっと詳しく聞きたいところだが……!
「面白い人ってどんな風に言ってるの?私の悪口?」
私は興味津々でみのりちゃんに尋ねた。どんな風に言ってるのか気になる!悪口だったら泣くぞ!いや、それか照れ隠ししている可能性もあるな……。
「わ、悪口……ではないです。どっちかというと……その……褒めてました」
「マジ!?」
みのりちゃんの言葉に私は驚いた。え!?私のこと褒めてくれるの!?洋介が!?私を褒めるとか天地がひっくり返っても有り得ないと思ってたわ。
「うざい、なんて口では言ってますけど……お姉さんの話をしている時がすごく楽しそうな感じだったんです……!だから、もっと知りたいなって……!」
キラキラと目を輝かせて語るみのりちゃん。そんなみのりちゃんに私は悶えそうになる。弟なんかより、みのりちゃんの方が可愛いわ!
「かわいい~~!!ねぇねぇ!みのりちゃん!私の弟のどこが好き!?」
私は興奮しながら、みのりちゃんに詰め寄る。
「え!?よ、洋介くんの好きなところですか……!?」
みのりちゃんは顔を真っ赤にして俯いた。あぁ~!もう!かわいいなぁ~!この初々しさがたまんないよ!
「……洋介くんの優しいところが……好きです。私が言葉に詰まっている時も優しくフォローしてくれるところとか……」
もじもじしながら答えるみのりちゃん。その仕草もかわいいわぁ……!その後、彼女はもっと弟のことを話し始めた。それはどれもこれも弟がかっこいい場面ばかりだ。
私としては美化しすぎなんじゃない?と思う部分もあったし、みのりちゃんの前で格好つけてるな……と思うところもあった。
「かー。あいつ格好つけるからねぇ~!みのりちゃん、騙されちゃダメだよー?あいつはズボラでだらしない奴なんだから!」
私はみのりちゃんにそう言うと、彼女はクスクス笑った。私は首を傾げると彼女は言う。
「洋介くんは確かにだらしないところありますけど……でも、そこも含めて好きですから……」
そう言って微笑むみのりちゃん。めちゃくちゃかわいい!は!?この子が義妹になるの確定なの!?最高かよ! 私は悶え、心の中で叫んだが、それを悟られるわけにはいかないので、必死で平静を装った。
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