【完結】君に伝えたいこと

かんな

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〜青春編〜

三十四話 『事情』

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――あれから数日が経った。俺と松岡の関係はぎくしゃくするかなぁ……なんて思っていたけどそんなことはなかった。いつも通りに接してくれるし今まで通りに話してくれるし。


だから俺も気にしないようにしてるんだけど、やっぱり気になるものは気になってしまうわけで……。


「なぁ。洋介。松岡のことはどう思ってるの?」


不意に、祐介にそう聞かれた。
俺は一瞬ドキッとしたけれど平静を装って答える。


「別に普通だよ」


これは本当だ。本当に普通の友達として接しているつもりだしこれからもそのつもりでいる。


「ふーーん……」


納得していないような顔でこちらを見てくる。
なんなんだ?一体何を聞きたいんだ?親友の筈なのに全然分からない。それが少し怖いと思った。


「俺も――本気出すわ」


ポツリと祐介は呟いた。
その言葉の意味はよく分からなかったけど、多分何かを決意したんだろうということだけは分かった。


△▼△▼


放課後になった。今日は特に用事もない。早く帰ってゆっくりしようかと思っていると、


「あ、あの……」


不意に後ろから声をかけられた。振り返るとそこにはどこか緊張した面持ちの笹川さんがいた。


「笹川さん!?ど、どうかした?」


何故だろう。罪悪感を感じる。いや、悪いことは何もしていないはずなのだけれども。
彼女は何故かモジモジしながら顔を赤らめている。一体何を言われるのか全く予想できない。


『あの……今日一緒に帰らない?』


と、言われた。………いつもしているのに何故こんなにドキドキしてしまうのだろうか。
俺は無言でコクリとうなずき教室を出た。


それから俺たちは無言のまま歩き続けた。その間会話は一切ない。ただ隣にいるだけという感じだった。
でも不思議と居心地の悪さはなかった。むしろ安心するような感覚さえあった。


いつも通りの風景の中、2人で歩くこの時間がとても愛おしく思えた。そしてやっぱり……


「(俺、笹川さんのこと好きだ)」


改めて実感させられたのだ。自分の気持ちを実感してなお一層好きになっていった気がする。
そのまま歩いていくうちに分かれ道に差し掛かった。ここで彼女と別れなければならない。


『中村くん』


名前を呼ばれた。
彼女の方を見ると真剣な表情をしていた。スマホを抱え、深呼吸をしている。
そして意を決したようにスマホに文字を打ち込んでいった。


『今日ずっと元気なさそうだけど大丈夫?私でよかったら相談に乗るよ!』


それは思いがけない一言だった。スマホの音声アプリの無機質な声ではあるけれど確かに彼女が心配してくれていることがよく分かる文章だった。
それにしてもまさか彼女に気付かれていたとは……自分ではうまく隠せていると思っていたのだが……


しかし、笹川さんにこれ話してもいいのか?正直言ってあまり人に言いたくない内容でもあるし、彼女である笹川さんに話すべきではないと思う。松岡に告白されたなんて言った日にはどんな反応をするのかわかったもんじゃない。


でも、


『私どんなことがあっても受け入れる覚悟はあるから!だから遠慮しないで何でも話してほしいな』


彼女は本気で言っているようだった。
傷つくかもしれないし嫌なことを聞くことになるかもしれない。それでもいいと言っている。


……なら、もういっそ全部ぶちまけてしまうのもありなのかもな……なんて思ったりもした。甘えた考えなのは分かってる。でも今はこの優しさに包まれたかったし。


「わかった。……じゃあちょっと聞いてくれるかな?」


こんなこと、石崎さんに言ったら殺されるかもなぁと思いながら俺は話し出した。
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