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一話 『何故か告られた』
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――叶わぬ恋だとは分かっていたのに。――それでも、諦められなかったから。
そうして、俺は……自分の想いを封じるために、自分の心を殺したのだ。
だというのに。
「天野くん」
不意に、名前を呼ばれた気がした。
女の子の声だ。
それも聞き覚えのある声だった。
誰だろう? ぼんやりとしたまま、俺はまだ微睡みの中にいるような気分で瞼を開く。
視界には見慣れた天井があった。
そして――。
「あんたー!いつまで寝てるのよっ!?」
いきなりそんな怒声が聞こえてきた。母さんだ。この前見たラノベは美少女の幼馴染が出てくる話だったが、現実はそんなに甘くもなく。
「さっさと起きなさい!もう朝ごはんできてるんだから!」
いつも通りの母親の小言を聞きながら、俺はゆっくりと身体を起こした。
△▼△▼
俺の名前は 天野亮司。
今年で15歳になる中学3年生だ。ちなみに受験生でもある。
成績は中の上くらいだろうか。特に偏差値の高い高校を目指しているわけでもないので、勉強もほどほどでいいと思っている。
趣味は読書。最近はライトノベルをよく読んでいる。まぁ、どこぞの主人公みたいなスペックの持ち主ではないし、特別な才能があるわけでもない普通の高校生である。
「亮司。あんたまた夜更かししたんでしょ?」
食卓についた俺に対して、母親は呆れたように言った。
どうやら、また顔に出ていたらしい。
「別にいいじゃんか。勉強してたんだよ」
嘘だけど。
本当はギャルゲーやってました。しかし、それを正直に言う必要もない。適当に誤魔化しておけばいいだろう。
母親との会話を打ち切り、朝食を食べ始める。トーストに目玉焼きといったごく一般的なメニューだが、文句を言うつもりはない。むしろありがたいくらいだ。
「じゃ、学校に行ってくるよ」
「はいはい。気をつけてね~」
玄関を出て、学校へと向かう。
通学路を歩いている間にも、すれ違う生徒たちの顔が目に入る。
皆、楽しそうな表情をしていたり、あるいは憂鬱な面持ちであったり、あるいは無関心であったりと様々だ。
(みんな、青春しているんだろうな……)
ふと思う。
俺だって、中学まではそれなりに楽しい日々を送っていた。部活に精を出し、友達と一緒に遊びに行き、時には彼女ができたこともあった。
けれど、それも過去形だ。
今の俺は1人ぼっち。友達なんていないし、彼女なんてもってのほかだ。故に、今の俺は適当に学園生活を送っているだけのつまらない学生だ。
そのせいで周りに馴染めずにいる。別にいじめられているわけではないのだが、クラスの中で浮いている存在なのは確かだ。理由は簡単。趣味嗜好の違いという奴である。
何せ、ライトノベルを読まなさそうなやつばっかりだし……所謂、『陽キャ』って奴らばっかなのだ。
俺には程遠い存在と言える。
というか、そもそもの話として、だ。陽キャが俺みたく、アニメが好きだとしてもそれを聞ける勇気がない。オタクだとバレたらどんな風に思われるか分からないからだ。……まぁ、そのせいでクラスで孤立しているんだけどね……。
はぁ、とため息をつく。
別に友達がいなくても構わないと思っているけど、やっぱり寂しいものは寂しいのだ。
学校に着くなり、教室へと入る。すると、一瞬だけクラスメイトたちの視線を感じた。……まぁ、すぐに興味を失ったのか、各々自分たちのグループ内で談笑を始める。
「……はぁ」
誰とも話さず、席につく。
そのまま、朝のホームルームが始まるまでの間、スマホでネット小説を読んでいたのだが――。
「おはようー」
「あ、中村くん、おはようー!」
「中村くん素敵ー!」
元気な挨拶と共に、一人の男子生徒が入ってきた。
黒髪短髪をワックスで固めている爽やかなイケメン君だ。名前は中村洋介。サッカー部所属のスポーツマンであり、クラスの人気者だ。そして挨拶するだけで黄色い声が上がるんだから羨ましい限りだぜ……
「天野くん、おはようー」
「あ……お、おはよう……」
……でも、良いやつなんだよなぁ……こんな陰キャの俺に対しても、よく接してくれるし、挨拶もしてくれる。
本当に良いやつなんだよなぁ。
「なぁ、祐介。今日さぁ……」
そんな感じで中村くんは他の生徒と会話を始めた。…………羨ましい。
ああいうノリの良さは俺にはないものだ。もし、俺にもう少し、コミュ力があれば彼みたいになれたのかもしれない。
まぁ、ないものねだりしても仕方ないんだけどさ。
そんなことを思っていると、先生が入ってきた。
「おーい、お前ら。早く座れ~。出席取るぞ~」
担任の先生の声を聞いて陽キャは自分の席に戻っていく。因みに、俺は元々自分の席に座っているので動く必要はない。
そして、朝のいつもどおりのHRが始まった……と思ったが、
「今日は転校生……ああ……いや、違った。えーと…長らく入院していた子が元々、翡翠中の生徒だったから転校生じゃねーか……いや、でも……なんていうか忘れたからとりあえず転校生ってことでいいわ」
おい教師。それでいいのか? そう思ったのは俺だけではないようで、他の生徒たちも呆気に取られていた。……まぁ、深川先生らしいと言えばらしいが。
にしても、転校生か。ラノベならまず高確率でイケメンや美少女だ。しかし、現実はそう甘くはない。平凡顔の女子か男子とかだったりするのだろう。
まぁ、それでも美少女かイケメンの可能性もあるので、一応楽しみにしておこう。
などと考えていると、扉が開かれ、一人の少女が姿を現した。その少女は――、
『笹川みのりです。よろしくお願いします』とスマホの音声アプリからそんな声が聞こえてくる。
……艶のある茶髪に整った顔立ちに大きな茶色の瞳。華奢な体つきに、白い肌。触れてしまえば壊れてしまいそうなくらい繊細な見た目をしている。
「(………かわいい)」
思わず見惚れてしまった。
だが、それは俺だけではなかったようで、クラスのほとんどの男子が頬を赤く染めていた。かく言う俺もその一人だったのだが……
「(でも、何で読み上げアプリで……?)」
俺は首を傾げながらも笹川さんを見た。
△▼△▼
笹川みのりという少女は口数が少なく、あまり人と関わらないという性格だったが、すぐにクラスに馴染めていた。読み上げアプリを使うのも、彼女が『吃音』というものらしく、その影響らしい。まぁ、ここには陽キャでいいやつしかいないのですぐに笹川さんは受け入れられたわけだが。
そして俺は気づけば彼女の姿を目で追うようになっていた。
しかし、彼女はいつも独りだ。
休み時間になると、どこかへ行ってしまうし、ぼっち飯を摂っている……というわけでもないだろうし。
「笹川さん」
不意に、そんな声が聞こえてくる。見れば、中村くんが彼女に話しかけていた。
二人は楽しそうに会話している。
その様子を見ていると、なんだか胸の奥がモヤっとした。
「(………何にモヤモヤしてんだろ……?)」
自分でもよく分からなかった。誰にモヤモヤしているのか。どうして、イラついているのか。分からないことだらけだ。
いや、そもそもだ。俺はなんでこんなことを考えているんだろうか? 彼女と仲良くなりたいとか思ってるのか?まともに話したこともないくせに?
「(……ありえないな)」
まともに話したこともないくせに、そんなことを思うなんて烏滸がましいにも程がある。……まぁ、仮に俺が彼女と話す機会があったとしても、何もできないだろうけど。
「ん?天野、何やってるの?」
不意に、声が聞こえた。その声は……宮沢祐介こいつは俺とは真逆の陽キャで中村洋介と仲が良いリア充だ。
まぁ、悪いやつじゃないんだけど……。
ちなみに、俺はこの男が苦手である。
洋キャなのはともかく、女をとっかえひっかえしてるとか噂もあるくらいだし。
「み、宮沢くんこそ……何をやっているんですか……?」
内心ビクビクしながら訊ねる。
「あー、うん。ちょっとね……んなことより天野。お前、最近ずっとボーっとしてるけど、どうしたん?」
宮沢祐介は、良いやつなんだ。
けれど、どうしても俺には彼が怖い存在にしか見えない。
だって、彼は俺とは違う人種だから。
俺みたいな陰キャなんかと違って、みんなから好かれている存在だから。きっと言っても理解されない。
それが怖かった。
「い、いえ……なんでもありませんよ」
「そっか」
「はい……」
会話終了。やはり、陰キャラにはキツいものがある。
結局、俺はその後も授業中も、休み時間中も、放課後になっても、笹川さんのことが頭から離れず、上の空のまま1日を過ごしたのであった。
△▼△▼
「(……俺は笹川さんのことが好きなのか?恋してしまったのか?)」
自問するが、答えは出ない。確かに可愛いし、魅力的だとは思うが、そこまでのものなのか?分からない。そもそも、まともに話したこともないくせに?……いや、でもさっき中村くんと話している姿を見て、ムカついたんだよなぁ。
「(小説ならきっとこの恋は叶う。だけど、現実は違う)」
現実は非情だ。ライトノベルのように都合よくいかない。それに俺が笹川さんと付き合える可能性はほぼゼロに近い。そもそも、立たされている土俵が違う。
笹川さんがどんな子かも知らないし。
俺が知っている情報と言えば、同じクラスと彼女が美人で地味にモテるだということだけだ。
そんなときだ。
「……あ」
透き通るような綺麗な声が聞こえてきた。
ふと、そちらを見ると笹川さんではなく、別の女子生徒が立っていた。
セミロングで艶やかな黒髪を靡かせながら、彼女は俺のことをジッと見つめてくる。……え。何これ。めっちゃ怖いんですけど。
見知らぬ美少女にガン見されてるの恐怖しかないんだけど。でも、顔はいい……俺がこれをやったらきっと警察に通報されるんだろうなぁ。
などと考えていると、
「貴方が、天野亮司ね」
「……はい」
美少女に名前呼ばれた。それだけなのにドキドキしてしまう。これが、美少女の力か。
「申し遅れましたわ。私の名前は三嶋香澄よ」
よろしく、されてしまった。……あれ?もしかして、これは告白フラグですか?笹川さんへの想いはどこへやら。美少女のご登場にテンションが上がってしまう。
まぁ、それも仕方ない。だって、美少女なんだもの。
美少女ってのはそれくらいの力を秘めてるのだ。そんなことを思っていると、
「ねぇ。私、貴方のことが好きなの。付き合わない?もちろん、恋人として」
美少女からの突然の告白に俺は思わず固まってしまった。
そうして、俺は……自分の想いを封じるために、自分の心を殺したのだ。
だというのに。
「天野くん」
不意に、名前を呼ばれた気がした。
女の子の声だ。
それも聞き覚えのある声だった。
誰だろう? ぼんやりとしたまま、俺はまだ微睡みの中にいるような気分で瞼を開く。
視界には見慣れた天井があった。
そして――。
「あんたー!いつまで寝てるのよっ!?」
いきなりそんな怒声が聞こえてきた。母さんだ。この前見たラノベは美少女の幼馴染が出てくる話だったが、現実はそんなに甘くもなく。
「さっさと起きなさい!もう朝ごはんできてるんだから!」
いつも通りの母親の小言を聞きながら、俺はゆっくりと身体を起こした。
△▼△▼
俺の名前は 天野亮司。
今年で15歳になる中学3年生だ。ちなみに受験生でもある。
成績は中の上くらいだろうか。特に偏差値の高い高校を目指しているわけでもないので、勉強もほどほどでいいと思っている。
趣味は読書。最近はライトノベルをよく読んでいる。まぁ、どこぞの主人公みたいなスペックの持ち主ではないし、特別な才能があるわけでもない普通の高校生である。
「亮司。あんたまた夜更かししたんでしょ?」
食卓についた俺に対して、母親は呆れたように言った。
どうやら、また顔に出ていたらしい。
「別にいいじゃんか。勉強してたんだよ」
嘘だけど。
本当はギャルゲーやってました。しかし、それを正直に言う必要もない。適当に誤魔化しておけばいいだろう。
母親との会話を打ち切り、朝食を食べ始める。トーストに目玉焼きといったごく一般的なメニューだが、文句を言うつもりはない。むしろありがたいくらいだ。
「じゃ、学校に行ってくるよ」
「はいはい。気をつけてね~」
玄関を出て、学校へと向かう。
通学路を歩いている間にも、すれ違う生徒たちの顔が目に入る。
皆、楽しそうな表情をしていたり、あるいは憂鬱な面持ちであったり、あるいは無関心であったりと様々だ。
(みんな、青春しているんだろうな……)
ふと思う。
俺だって、中学まではそれなりに楽しい日々を送っていた。部活に精を出し、友達と一緒に遊びに行き、時には彼女ができたこともあった。
けれど、それも過去形だ。
今の俺は1人ぼっち。友達なんていないし、彼女なんてもってのほかだ。故に、今の俺は適当に学園生活を送っているだけのつまらない学生だ。
そのせいで周りに馴染めずにいる。別にいじめられているわけではないのだが、クラスの中で浮いている存在なのは確かだ。理由は簡単。趣味嗜好の違いという奴である。
何せ、ライトノベルを読まなさそうなやつばっかりだし……所謂、『陽キャ』って奴らばっかなのだ。
俺には程遠い存在と言える。
というか、そもそもの話として、だ。陽キャが俺みたく、アニメが好きだとしてもそれを聞ける勇気がない。オタクだとバレたらどんな風に思われるか分からないからだ。……まぁ、そのせいでクラスで孤立しているんだけどね……。
はぁ、とため息をつく。
別に友達がいなくても構わないと思っているけど、やっぱり寂しいものは寂しいのだ。
学校に着くなり、教室へと入る。すると、一瞬だけクラスメイトたちの視線を感じた。……まぁ、すぐに興味を失ったのか、各々自分たちのグループ内で談笑を始める。
「……はぁ」
誰とも話さず、席につく。
そのまま、朝のホームルームが始まるまでの間、スマホでネット小説を読んでいたのだが――。
「おはようー」
「あ、中村くん、おはようー!」
「中村くん素敵ー!」
元気な挨拶と共に、一人の男子生徒が入ってきた。
黒髪短髪をワックスで固めている爽やかなイケメン君だ。名前は中村洋介。サッカー部所属のスポーツマンであり、クラスの人気者だ。そして挨拶するだけで黄色い声が上がるんだから羨ましい限りだぜ……
「天野くん、おはようー」
「あ……お、おはよう……」
……でも、良いやつなんだよなぁ……こんな陰キャの俺に対しても、よく接してくれるし、挨拶もしてくれる。
本当に良いやつなんだよなぁ。
「なぁ、祐介。今日さぁ……」
そんな感じで中村くんは他の生徒と会話を始めた。…………羨ましい。
ああいうノリの良さは俺にはないものだ。もし、俺にもう少し、コミュ力があれば彼みたいになれたのかもしれない。
まぁ、ないものねだりしても仕方ないんだけどさ。
そんなことを思っていると、先生が入ってきた。
「おーい、お前ら。早く座れ~。出席取るぞ~」
担任の先生の声を聞いて陽キャは自分の席に戻っていく。因みに、俺は元々自分の席に座っているので動く必要はない。
そして、朝のいつもどおりのHRが始まった……と思ったが、
「今日は転校生……ああ……いや、違った。えーと…長らく入院していた子が元々、翡翠中の生徒だったから転校生じゃねーか……いや、でも……なんていうか忘れたからとりあえず転校生ってことでいいわ」
おい教師。それでいいのか? そう思ったのは俺だけではないようで、他の生徒たちも呆気に取られていた。……まぁ、深川先生らしいと言えばらしいが。
にしても、転校生か。ラノベならまず高確率でイケメンや美少女だ。しかし、現実はそう甘くはない。平凡顔の女子か男子とかだったりするのだろう。
まぁ、それでも美少女かイケメンの可能性もあるので、一応楽しみにしておこう。
などと考えていると、扉が開かれ、一人の少女が姿を現した。その少女は――、
『笹川みのりです。よろしくお願いします』とスマホの音声アプリからそんな声が聞こえてくる。
……艶のある茶髪に整った顔立ちに大きな茶色の瞳。華奢な体つきに、白い肌。触れてしまえば壊れてしまいそうなくらい繊細な見た目をしている。
「(………かわいい)」
思わず見惚れてしまった。
だが、それは俺だけではなかったようで、クラスのほとんどの男子が頬を赤く染めていた。かく言う俺もその一人だったのだが……
「(でも、何で読み上げアプリで……?)」
俺は首を傾げながらも笹川さんを見た。
△▼△▼
笹川みのりという少女は口数が少なく、あまり人と関わらないという性格だったが、すぐにクラスに馴染めていた。読み上げアプリを使うのも、彼女が『吃音』というものらしく、その影響らしい。まぁ、ここには陽キャでいいやつしかいないのですぐに笹川さんは受け入れられたわけだが。
そして俺は気づけば彼女の姿を目で追うようになっていた。
しかし、彼女はいつも独りだ。
休み時間になると、どこかへ行ってしまうし、ぼっち飯を摂っている……というわけでもないだろうし。
「笹川さん」
不意に、そんな声が聞こえてくる。見れば、中村くんが彼女に話しかけていた。
二人は楽しそうに会話している。
その様子を見ていると、なんだか胸の奥がモヤっとした。
「(………何にモヤモヤしてんだろ……?)」
自分でもよく分からなかった。誰にモヤモヤしているのか。どうして、イラついているのか。分からないことだらけだ。
いや、そもそもだ。俺はなんでこんなことを考えているんだろうか? 彼女と仲良くなりたいとか思ってるのか?まともに話したこともないくせに?
「(……ありえないな)」
まともに話したこともないくせに、そんなことを思うなんて烏滸がましいにも程がある。……まぁ、仮に俺が彼女と話す機会があったとしても、何もできないだろうけど。
「ん?天野、何やってるの?」
不意に、声が聞こえた。その声は……宮沢祐介こいつは俺とは真逆の陽キャで中村洋介と仲が良いリア充だ。
まぁ、悪いやつじゃないんだけど……。
ちなみに、俺はこの男が苦手である。
洋キャなのはともかく、女をとっかえひっかえしてるとか噂もあるくらいだし。
「み、宮沢くんこそ……何をやっているんですか……?」
内心ビクビクしながら訊ねる。
「あー、うん。ちょっとね……んなことより天野。お前、最近ずっとボーっとしてるけど、どうしたん?」
宮沢祐介は、良いやつなんだ。
けれど、どうしても俺には彼が怖い存在にしか見えない。
だって、彼は俺とは違う人種だから。
俺みたいな陰キャなんかと違って、みんなから好かれている存在だから。きっと言っても理解されない。
それが怖かった。
「い、いえ……なんでもありませんよ」
「そっか」
「はい……」
会話終了。やはり、陰キャラにはキツいものがある。
結局、俺はその後も授業中も、休み時間中も、放課後になっても、笹川さんのことが頭から離れず、上の空のまま1日を過ごしたのであった。
△▼△▼
「(……俺は笹川さんのことが好きなのか?恋してしまったのか?)」
自問するが、答えは出ない。確かに可愛いし、魅力的だとは思うが、そこまでのものなのか?分からない。そもそも、まともに話したこともないくせに?……いや、でもさっき中村くんと話している姿を見て、ムカついたんだよなぁ。
「(小説ならきっとこの恋は叶う。だけど、現実は違う)」
現実は非情だ。ライトノベルのように都合よくいかない。それに俺が笹川さんと付き合える可能性はほぼゼロに近い。そもそも、立たされている土俵が違う。
笹川さんがどんな子かも知らないし。
俺が知っている情報と言えば、同じクラスと彼女が美人で地味にモテるだということだけだ。
そんなときだ。
「……あ」
透き通るような綺麗な声が聞こえてきた。
ふと、そちらを見ると笹川さんではなく、別の女子生徒が立っていた。
セミロングで艶やかな黒髪を靡かせながら、彼女は俺のことをジッと見つめてくる。……え。何これ。めっちゃ怖いんですけど。
見知らぬ美少女にガン見されてるの恐怖しかないんだけど。でも、顔はいい……俺がこれをやったらきっと警察に通報されるんだろうなぁ。
などと考えていると、
「貴方が、天野亮司ね」
「……はい」
美少女に名前呼ばれた。それだけなのにドキドキしてしまう。これが、美少女の力か。
「申し遅れましたわ。私の名前は三嶋香澄よ」
よろしく、されてしまった。……あれ?もしかして、これは告白フラグですか?笹川さんへの想いはどこへやら。美少女のご登場にテンションが上がってしまう。
まぁ、それも仕方ない。だって、美少女なんだもの。
美少女ってのはそれくらいの力を秘めてるのだ。そんなことを思っていると、
「ねぇ。私、貴方のことが好きなの。付き合わない?もちろん、恋人として」
美少女からの突然の告白に俺は思わず固まってしまった。
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