恋が芽生えて

かんな

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十一話 『上原悠馬の恋愛事情②』

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モヤモヤはいつまで経っても消えてくれない。氷室稔のことが頭から離れないのだ。
あの時感じた得体の知れないものがどんどん大きくなっていくような感覚を覚えてしまう。


「(落ち着かなきゃ……)」


手を握りしめながら自分の胸に手を当てる。するとドクンドクンという心臓の音を感じることができる。その感触にため息を吐きながらベッドの上に寝転ぶ。


「なんなんだよこれぇ……」


どうすればいいか分からず頭を悩ませることしかできなかった。だって原因が全く分からないし、解決法も全く思いつかないからだ。
このままではずっと悩み続けることになってしまうかもしれない。それだけは何としても避けなければならない。
だが今の俺にはどうすることもできないのだ。だからこそ、こうして悶々として過ごすしかない。


「こんなに悩んで何になるんだろう?こんなことをしても何も変わらないじゃないか」


結局堂々巡りをしているだけだ。この疑問に対して答えなんて出るはずがない。ただ……時間だけが過ぎていくだけなのだから。


「手紙……書こうかな」


ふとそう思った。思い立ったらすぐ行動というのは俺の長所でもあるし、短所でもあると自覚している。だから今回もその例に漏れることなく、すぐに机に向かい便箋を取り出してペンを持った。
そして俺は氷室稔へ送る手紙を書き始めた。


△▼△▼


「出来た……!」


何時間と悩み続けようやく完成した手紙を見て俺はため息を吐く。


「結局、何時間もかけて書けた文章がたったこれだけって……」


思わずそんな声が出てしまった。我ながら情けないと思う。だけど仕方がないことだ。これが俺なんだから。


「…うん!もうこれでいいんだ」


これ以上書いたところで無駄だと悟った。考えるのは氷室稔が来てくれてからでもいいだろう。時計を見るとすでに日付が変わっていた。明日に備えてそろそろ寝なければ。
そうして俺は部屋の電気を消した。


△▼△▼


――そして勢いで氷室稔に手紙を送った後、俺はすぐに後悔することになった。何せ……


「(よくよく考えたら来てくれるのか?氷室稔……)」


不安になって来たのだ。だってあんな一方的な内容の手紙を送ってしまったわけだし、来る可能性は低い気がする。それに手紙の内容的もよく考えたらかなり酷いし……


「(こんなの脅しだろ!って思われててもおかしくないぞ!?)」


そして、今更気付いたのだが、俺が送った手紙には宛名を書かなかったのだ。こんなの来てくれるはずがないじゃないか!


「どうしたん?悠馬。そんな難しい顔して」


そんなことを思っていると純に声をかけられた。


「そんな難しい顔をしていたか?」


「うん。何か悩み事でもあるんだろ?相談に乗るぜ!」


……本当にいい奴だよなぁ。純は……だからモテるんだよな。


「ありがとうな。でも大丈夫だ」


これだけは純には言えない、いや言いたくない。言ったところで何も変わらないだろうし。純なら笑ってくれないって思っているけど、それでも怖いと感じるから。
すると純は少し残念そうな表情をしたが、それ以上は何も言わなかった。


△▼△▼


そしてお昼休みになった。氷室稔を呼び出した時間になってしまった。正直、来てくれるのかが心配だ。来てくれなければあの話は無しになることになるし……


「なーなー。悠馬。合コン行かね?」


「合コン?なんでまた急に……いや、ごめん。合コンとか苦手なんだわ」 


急に誘われて、思わず断ってしまった。そんなことより今日は大事な用事があるのだ。


「あー。そっか、悠馬は好きな女の子がいるんだっけ」


「は?」


ニヤニヤしながら言ってきたので俺は素直に疑問の声をあげたが周りは気にせず話を続ける。


「なーなー、教えろよ~。俺らにも恋の相手を教えてくれたっていいじゃんかよ~」


そう言いながらグイグイと体を近づけてくるが、今はそれどころではないんだけども……!しかし、俺も逆の立場ならこんな風にグイグイと聞くと思うのであまり強く言うことはできないし……


「うるさいぞお前ら!!さっきから何を騒いでいるんだ!!」


困り果てていると教室に先生が入ってきた。ナイス!と思いながら…… 


「じゃあ、俺用があるんで!また後で!」


と言って逃げるように教室を出て、勢いよく、自分で指定した場所に向かった。
扉のすぐ側には氷室稔がいる……と思うと緊張する。深呼吸をして気持ちを整えた後、俺はゆっくりと扉に手をかけ、開けた。


「(どんなことを言われても受け止めよう)」


そう、思ったのに。


「あ……」


目が合ったとき。その瞳を見た瞬間、吸い込まれそうになって……心臓がドクン、となった。


「(何これ……)」


心臓がドクンドクンと鳴っても、一向に収まる気配はない。むしろどんどん加速していく。体が熱い。胸が苦しい。


でも、それでも。


「良かった。来てくれなかったらどうしようかと……あ、氷室くん、初めまして。俺、上原悠馬です」


……ちゃんと笑って挨拶は出来た自分を褒めてやりたい。平然としなければならない。表情を曇らせてはならない。
すると氷室稔はペコリと頭を下げると口を開いた。


「あ、ど、どうも…氷室稔です……あの、今日はどう言ったご用件ですか……?」


ビクビク、と怯えた表情でこちらの様子をうかがいながら尋ねてくる。その瞬間、俺の中で何かが弾けた。


「俺、お前のことが好きだ!付き合ってくれ!」


と、そう言ってしまった。
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