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踏み潰されたら異世界なんですけど!?──勇者の血脈と魔国復興編──

エピソード26──いつだって彼は無力だった──

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「裏切り。人という生物は脆く、それに汚い部分も沢山ある。それを俺は山ほど見てきた、だが、──それでも信じるに値する。それでも愛するに値する」

【マスターインドラル──沙織様の事を】

 雷神インドラルが生きた時代。
 対抗する為に生まれ出てきた悪魔に心を教えた一人の女性。
 女性が眠る墓標の前で青紫の髪を靡かせながら腰を落とす。
 暗黒に包まれし時代に生きた人は、生まれ落ちた戦いの悪魔に人の心と愛情を教えた。

「言うな、クリエイト。お前はサオリ最後の形見。人の技術とやらの結晶。サオリの生きた道」

 日本屈指の科学者──愛坂沙織アイサカサオリ彼女は人類が神に対抗する為に知王クリエイトを生み出した。
 悪魔の意見から真正面からぶつかり、折れぬ人の気持ちを教える。
 雷神はその献身的な彼女に想いを寄せた。
 人と悪魔、超えられぬ壁があっても。

 しかし神を崇拝する者によって彼女は殺害される。

「サオリッ!サオリ!誰だ!お前をこんな風にしたのは」

 見るも無惨な姿で発見された彼女に雷神は荒れ狂った。
 サオリを殺した集団はすぐさま壊滅する。
 神崇拝──世界の終わりを掲げた一派だった。
 自分の身が危険だと悟っていた彼女は、スクリーンレコーダーに遺書を残し、同僚に預けていた。


「インドラルさん!このレコーダー見てるって事は私になにかあったかな?」

 バーチャルスクリーンに映し出されるのは笑顔で話す、今は亡き彼女の姿。

「まあーそれ前提でこれに記録してるんだけどね!まあまあ、インドラルさんに先ずはお礼を──世界の為に戦って頂きありがとうございますっ!あ!他の悪魔さん達もね!」

 照れ笑いする研究室での映像。

「わたしはね、皆んなが好きなの。勿論悪魔さん達も好きよ?だからね、わたしの身に何かあったとしても恨まないで、愛し続けて下さい。
 クリエイトちゃんも、ね!」

【沙織様】

「んー。そだな……あ、あと!わたしがお母さんに良く言われてた言葉なんだけど、人は感情をいっぱい持ってるから、時には裏切られたり、騙されたり、良い事ばっかりじゃないのよね。だけど一人の為になるなら、9人に騙されたり裏切られる事を選びなさいって、──……その1人が自分の為になるからって良く言ってた!覚えてといてね!」

「……サオリはそいつらに殺されたんだぞ!!俺は守れなかったッ!!」

 一方通行の憤り、その返答はない。
 しかし画面の愛坂沙織は、まるで見えて対話してるかのように頷き話を続けた。

「うん、わかってる。でも愛して、わたしが好きなこの世界と、人を、自分を。守る力を持つインドラルさんなら……私も貴方を愛する"その一人"だから……忘れないで」

 解凍された記憶が見せた一つの過去。

 ◇

 ◇

 ◇

 ◇


「──……まだおもろい奴おるやん」

 漏れ出す雷のマナが無数にバチリバチリと突っ走る。
 握られた手首に伝わる怒りの感情。
 それを把握したと同時にハット男の腹部に感じた事の無い衝撃と痛みが走った。
 まるで爆撃機から放たれた大砲のような炸裂音と共にシェイクは吹き飛ぶ。

 視覚が全く追いつかず、痛みが体に認知されるまで吹き飛んだ事さえもわからずにいた。
 吹き飛ぶ最中、痛みがようやく襲ってくる。
 それによって飛んでいた頭がすぐに覚醒した。

「なんつー威力やん」

 ただの殴り、されど殴り。
 吹き飛んだシェイクは岩肌へと激突する。

「いててて、ありゃ、相手にするんは今やないな」

 腕を振り抜いた黒髪の少年の口が動く。

「──疾風雷光ッ──」


 守る為に生み出す雷のマナはリューズを中心にイカズチの破れ目を描く。
 帯電したマナが手元に集まり一本の細槍となった。
 怒気含む感情に呼応する様に電光が点滅し、未だ立ち上がっていないシェイクへと駆け抜ける。

 細槍での一手目は高速移動における爆発的な刺突、それはドリルの様な回転力を持ち岩肌を砕き切った。

「……えらい速さやなぁ、こりゃこのままやったら無理やで」

 砕けた岩肌で火花を散らしリューズの刺突を受け止めるシェイク。
 先程とは打って変わり皮膚の至る所に黒い血管線が浮き出ていた。

「お前……人か?」

 リューズの問いかけは無理もなかった。
 ステッキを握る手が四本に増え、頭には赤黒く反り立つ三本の角、細長い体格は変わり果て腕一本一本がリューズの胴回り程に。

「ヒト……人なんてとうの昔に捨てた、わ!」

【マスターッ!!】

 それは歪な迄の波動。
 純粋なマナではなく、邪悪な、黒蛇に近い邪悪感。
 シェイクによって丸められた青黒い球体は、刺突を止められたリューズを襲う。

「──流れろ──アティ怨念の命

「──ッ!!」

 球体はリューズの細槍と激突する。
 紫電が波及するが、放たれた球体に取り憑き四散していく。
 体は球体に押される形で鍔迫り合う。
 マナを高速で吸収し、手元の細槍へと流し、力に変える。
 しかしその球体が持つ圧倒的質量。
 十五センチ程の丸に込められたのは覆す事が難しい邪悪さ。

「その球は、人の命や。四十人分の命の重さ......どや?死ぬ瞬間の魂のカタマリは?どえらい重いやろ?」

 球は唸りを上げリューズの細槍とぶつかり合う。
 その度に聞こえる断末魔の様な音が耳の奥にへばりつく。

 "迅雷風烈"

 いつまでも聞いていられない地獄の声、その元凶である球体を消滅させる為、高速の槍捌きを見せた。
 雷によって得た爆発的な加速はマナに変換され体に伝わり、細槍の軌道を描く。
 目にも留まらぬ速さの突きは怨念あげる球体を割り破壊する。
 バッチン! とゴムが弾けたような音を立てて消滅した。

「人の命を弄ぶもてあそのか……」

「何言ってんねん、その命の最後刈り取ったんはお前やで? ワイはちゃんと生かしとったんや。正義のヒーローぶるのはやめや?」

 逆撫でする物言いに、リューズの足は動く。

「それを弄ぶって言うんだッ!」

「だからどないしてん?お前に関係ないやろうが」

 二人は衝突する。
 一方は槍で、もう一方はステッキで。
 火花とも表現しずらい衝突の衝撃と想いが交錯する。

「人って自分勝手やん?なら、初めっから自分勝手に生きる方が賢いやろ、ん?」

「命はそれぞれに与えられたモノだッ!それを他の誰かが踏みにじるのが気に食わないだよッ!!」

「だ、か、ら、その考え方が"賢ぶってる"ねん!なんかあったらお前は目に入るそのモノとやらを全て救うんか?アホ言うなや。自分の大事なもん一つ二つ守ってから言うんやな」

「──ッ!守る!アイネもお前に渡さないし、ユーナも渡さない!お前をここで殺して、ハーバスへの戦争も止める!」

「馬鹿やなぁ、お前。まだ大事なもん失った事ない口やな。お前一人如きが何出来るんか言うてみ?」

「守る!目に映る。自分が助けれる人を、……全部だ!」

 二人の衝突は打ち合いに変わる。
 軌道を変え振るわれる細槍を容易く捌く。

「無理無理無理無理無理。力だけじゃ、想いだけじゃなんにもならへん。お前は才能だけで博打転がしてる典型的な非現実者や」

「うるさい、黙れ黙れッ!!お前みたいな悪党に貸す耳なんかあるか!絶対なにも奪わせない!」

 打ち合いの最中、シェイクが振るうステッキが折れるが自分の角を引き抜くとそれを短剣の様に扱い、槍に対抗する。

「おもろいなぁ、青いわー。自分の正義だけが正しい。まあそれは間違ってないわな。ただそれは力やない、実力のある奴の言葉や。────……メトロ・ポリタンN6終わりの打撃

「──ッア、ガッ──ッ」

 短剣を持っていない持て余した腕による三点掌底。一つ一つの拳に凄まじいマナが練り上げられており、その打撃を受けたリューズは血反吐を吐きながら雷の残像と共に吹き飛んだ。

「お前の命には興味ないわ、おもろそうな奴かと思ったけどただの青二才。クソみじんこ以下の自分の実力の無さを恨むんやなあ。…………──よっこらせっと。あ、そうそう、お前ら全員動くなよ?面倒くさなったらこのオンナ殺してまうかもしれん」

 脅し。しかしクランコ及びパーティメンバーは実力差に体が硬直し動けずにいた。

「そのクソガキ起きたら言っといてくれや。そんな甘ないで? ってな。ほな、また会おうや。次は戦場でやな?ほんまおもろいわー」

 そのままアイネを抱え姿を消した。
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