上 下
24 / 30
踏み潰されたら異世界なんですけど!?──勇者の血脈と魔国復興編──

エピソード22──着   地──

しおりを挟む
 
 

 間も無くして7人は墜落する。
 クランコはジュネを抱きかかえ、リューズもまたアイネを内包した。どうなるかわからないこの状況での人としての本能。

 ドンッ!!!!と大砲を発射したかのような音をあげ、瓦礫と共に地面に激突した。
 到底人が関わっていてはいけない音。

「──……カハッ……ッ……」

 アイネを抱え背中から激突したリューズは、むせながら吐血し、気を失った。抱き抱えられていたアイネは耳元で苦しむ声を聞き、頭が覚醒する。

「りゅーず!?」

 他の6名は多少の激突の痛みがあったものの、ほぼほぼリューズがダメージを肩代わりし、すぐ様立ち上がれる程であった。
 落ちた先には瘴気が無く全力の魔闘気によって悲鳴をあげつつあった全員の魔蔵器もマナの吸収をやめる。
 ──だが、起こる二次災害。

「ジョズッ!!!」

 ビブルの叫びで上を見上げる。
 失神しているリューズを襲う落石が目に入った。アイネは治療の為、周りが見えていない。

「フンッ!」

 誰よりも近場にいたジョズが瞬時に駆け出し、アッパーカットで落石してきた大岩を粉砕する。他の者も直ぐに立ち上がりリューズの元へと駆け寄った。そんな中、泣き喚きながら治療をする赤髪の少女──アイネ。

「やだよ、やだやだやだ、やだ……よ」

 もはや、ヒューヒューと小さな管を通る音しか発せない、その光景しか見えていないのだろう。赤子のように涙を垂らしながら必死にヒーリングを唱え続ける姿に他の者は息を飲んだ。
 その状況をフォローする為、パーティ内で唯一回復魔術を使用できるサミがアイネの隣に並ぶ。

「大丈夫っすよ!絶対助けれるっす!アイネさんはヒーリングを。俺っちはリジェネレイトをかけるっす!」

 サミのアイネに対するフォローは痛々しく見えた。誰がどう見てもリューズはボロボロの死にかけ。
 六人分のダメージを肩代わりした痛みなど、ここにいる者に想像などつかない。
 想像絶する────ただそれだけ。

「クランコォォ!すまねぇ!見てらんねぇ!あるポーション全部使うぞ!」

 ビブルの焦りを含んだ声にクランコは首を縦に振る。自分に託されていたパーティ用回復薬。それを半ばヤケクソ気味にバッグより取り出しリューズへと振りかける。
 びしゃびしゃと音を立て体へとポーションの液体は染み込んでいくが、……焼け石に水、まさにその状態であった。

「わ、私達にほとんどダメージが無いところをみると、完全にリューズ、くんが……肩代わりしてくれたって事ですよね?」

「間違えないな、どれくらい落ちたか分からんが、この滞空時間だ……いくら魔闘気を全力っていったって、俺らが無傷でいられる訳がない……」

 落ちてきた穴を見つめる。
 高さを考え震えあがる手。
 ジュネとクランコは唇を噛み締め、目線を移す。

「りゅーず?ねぇ、ねぇ!おきないの?やだよ、やだよ……ねぇ?」

 悲痛。アイネの魔臓器は半オーバーヒート気味、そんなもの構うものかと吸収を繰り返し回復術を発現する。

「ランザルクさん!大丈夫っす!大丈夫っす……なんとかなるっ……す」

 糸の切れた人形のように座りこみ、涙を枯らしていくアイネ。止まらない回復術の光がもしかしたら、といえる希望の光だった。
 ──だが、隣のサミは励ましながらも冷静に分析する。補助に長け、冷静さを残す、その上の判断。

(ムリっすよ……回復魔術なんて、意味ないレベルっすよ!!)

 サミは心の声を喉元で塞きとめる。
 諦めてはダメだ、とアイネに励ましをかけ、自分自身にも心の中で叱咤しったした。

(なんとか、なんとかならないっすか!?)

 そんな光景を見ていられなくなったナルシアは何処に続くかもわからない道へと歩みよった。ふらふらと。
 仲間が死ぬ、そんな事今まで沢山あった。あの状況で最年少である少年が皆んなを守るという選択を取れた事、それを実行する勇気、決断。
 それは残った者、助かった者に多大な自己嫌悪を与える。
 死=単純ではない。リューズという少年の決断は有耶無耶には終わらせる事が出来ない。
 何度も何度も、落ちるあの瞬間がナルシアの中でフラッシュバックする。

「リューズ君に助けられタ。……あの滞空時間を考えるト…………200メートル以上の落下ダ。それのダメージ6人分……」

 脳内を駆け巡った計算は吐き気となりナルシアを襲った。もし、リューズがいなければ? 魔闘気を纏ったとしても打ち所が悪ければ余裕で死に至るそのダメージ……それを6人分。

「さすがニ……助からないネ……」

 フラフラと壁を伝いながら歩みを進めていく。あの場にいれなかった、リューズの掠れゆく声に鼓膜の裏にこびりつくアイネの涙声、助けて貰ったから直視出来ない残状。

 頭を毟るように掻けば気がつく、自分の被っていた魔法帽がない事に。

「──……そんな場合じゃないネ」

 手を広げて見ると抜けた銀髪の髪が指の隙間に絡みつき、それが洞穴を駆ける風に流されていく。風と共にふわりと毛が散る方へとおもむろにナルシアの目線がいく。

「ア?エ──……ノキノギのナミダ……?」

 目に映ったものを理解するまで時間がかかる。しかし理解した瞬間、裏返ったカエルのような声が出た。

 ──目に入ったのは8層など比べ物にならない程、大規模で高密度のマナで形成された沼湖だった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

最強パーティーのリーダーは一般人の僕

薄明
ファンタジー
ダンジョン配信者。 それは、世界に突如現れたダンジョンの中にいる凶悪なモンスターと戦う様子や攻略する様子などを生配信する探索者達のことだ。 死と隣り合わせで、危険が危ないダンジョンだが、モンスターを倒すことで手に入る品々は、難しいダンジョンに潜れば潜るほど珍しいものが手に入る。 そんな配信者に憧れを持った、三神《みかみ》詩音《しおん》は、幼なじみと共に、世界に名を轟かせることが夢だった。 だが、自分だけは戦闘能力において足でまとい……いや、そもそも探索者に向いていなかった。 はっきりと自分と幼なじみ達との実力差が現れていた。 「僕は向いてないみたいだから、ダンジョン配信は辞めて、個人で好きに演奏配信とかするよ。僕の代わりに頑張って……」 そうみんなに告げるが、みんなは笑った。 「シオンが弱いからって、なんで仲間はずれにしないといけないんだ?」 「そうですよ!私たちがシオンさんの分まで頑張ればいいだけじゃないですか!」 「シオンがいないと僕達も寂しいよ」 「しっかりしなさいシオン。みんなの夢なんだから、諦めるなんて言わないで」 「みんな………ありがとう!!」 泣きながら何度も感謝の言葉を伝える。 「よしっ、じゃあお前リーダーな」 「はっ?」 感動からつかの間、パーティーのリーダーになった詩音。 あれよあれよという間に、強すぎる幼なじみ達の手により、高校生にして世界トップクラスの探索者パーティーと呼ばれるようになったのだった。 初めまして。薄明です。 読み専でしたが、書くことに挑戦してみようと思いました。 よろしくお願いします🙏

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

処理中です...