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踏み潰されたら異世界なんですけど!?──勇者の血脈と魔国復興編──

エピソード1──結果異世界転生──

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 ◇

 ◇

 暖かい……
 母親のお腹の中にいるような安心感。
 まあ、その当時の記憶なんてないだけど。

 とても暖かく浮遊する感覚の中、俺は意識を少しずつ取り戻す。
 少しばかり身体が動かしにくい気がする。
 多分、あの怪物の踏み潰しを間一髪避けれて、誰かに助けてもらった。
 だが後遺症が残ってる、そんな感じじゃないか? と俺はあの後の事を予想した。
 取り敢えずこの安心感、……目でも開けてみるか。

 目をゆったりと開けてみると、眩しい限りの光。ああ、お天道様の下。
 ていうかここどこだ?
 薄っすらと見えるのは太陽のような眩しい光と沢山の緑が成った枝木?

 どうなったんだ、俺は……そんな事を思いながら立ち上がろうとする。

 あれ?、あれ?
 体が全く持ち上がらない。
 というか腕も足もまともに動かせない。

「ぁぅ、ぁーぁ」

 ちょ、待て……
 とっさに出した声がこれだ。
 まともに発声する事も出来ない。
 どうなってるこれ?
 目線だけを軽く動かし観察する。
 木、緑、……今いるところは木が沢山生えている。
 森?いやいや何処だ、ここ。

 ミシィミシィ──

 そんななんとも言えない感覚に悩まされていると足音と思われる草木を踏む音。
 次第にその音は大きくなり草を踏む音と共に俺の目の前に止まった。

 白髪のおじいさん?
 取り敢えず助けてと。

「ぁぅぁぃぁー」

「なんじゃなんじゃ?なぜ赤子がこんな所に捨てられておる」

 そう言っておじいさんは俺を抱き上げた。
 それと共にアホみたいな睡魔が襲ってくる。
 ヤバイ、耐えれない……




 ◇

 ◇

 ◇

 ◇





「──ばかもーーーーーん!!!」
  
 朝一番のお叱りが響く。起きてまだ数時間そこらの頭にガンガンする怒声。
 いつもの様に稽古をしてもらう森の木達がその光景に笑い揺れる。

「足を浮かしすぎなんじゃ! そんなんでは簡単に投げられるぞ! それに踏み込みが遅い!内闘気も揺らぎすぎじゃ!」

  そう言いながら叱咤と共に投げてくる厳つい白髪ジジイは、アイレッド=マザーバッグ。

 俺の新しい世界での育ての親。
 ──うん。俺は転生した。アイレッド=リューズとして。
 日本で意味不明な豚の怪物に訳も分からず殺されて、人生一週目を知らない間に追放。
 二週目はこのラーグラストアで新たに生を受けたらしい。
 初めはアニメとか小説の読みすぎで頭が逝っちまったのかと錯覚したが、自分が成長していくごとにこの世界と転生という摩訶不思議な体験が本物であると確信していった。
  
「うるせぇよ!  クソジジイッ! 今のは反則だろうが!」

  赤ん坊のまま森で放置された俺をこの厳ついジジイが拾って育ててくれてる。
 何故か分からないけど、前世の記憶を持ったまま十四歳になった。
 とりあえずジジイには"厳しい事"以外は感謝してる。

「反則もクソもないわ! 体術の基本は裏をかく動き! お前は一ミリも魔術の才能がないんじゃ、体術のみで生きていかなならん。魔色も反応せんし、このばかもっーん!!」

 いてぇ……思いっきり蹴りあげやがった。
 感謝撤回だクソジジイ。

  ──意味も分からず殺され、挙句に記憶を持って転生。

 そしてこの世界、ラーグラストアに来て驚いた事がある。魔術が存在する。
 ジジイの魔術を生で見た時は身体が吹っ飛ぶんじゃないかと思うくらいに興奮した。
 眼を輝かせて五歳の時に魔色検査を行ったが、生憎の凡人結果。
 普通はチートみたいなスキルが付与されたりして無双できるんじゃないのかよ!と神様に悪態つきながら毎日枕を濡らしまくった。

「うるせぇ!才能なしで悪かったな」

  今はジジイと体術の稽古中、 魔術がダメならと体術を教えてくれてる。 
 でないとこの世界で生き残れないからだ。
 魔物や魔獣に盗賊なんてもんが蔓延る世界。
 それに魔術もあるし、……生き残れっかな?

 ジジイはこの世界じゃ割と名の知れた魔闘師らしく、俺はその技術を着々と身の肥やしにしていってる……と思いたい。

「ほれ! 集中が切れてきとるぞ!」

  ジジイが俺の脇に刺手、宙に浮かされる。
  あ、……投げられる。

 ドスンっ!!!

「いっでぇっ! ──ほんと手加減なしかよッ」

 背中が地面に打ち付けられる。
 いてぇ、魔術さえ使えりゃ反撃の狼煙になんのに……
  俺の魔色検査は生憎の無色、ガラス玉みたいな丸い魔検玉ってやつを使って調べるんだけど、普通なら赤とか青とか反応するらしい。
  赤なら火、青なら水、緑なら風、黄なら土って具合で、自分と相性の良い色がね?
  どんな人間でも少なからず出る色、俺には一切出なかった。
 ジジイ曰く、お前はホントに人か?だった、くたばれ。

 なんせ早い話が俺のこの体はどの属性にも変換できない。
 この世界の常識として大気中に存在するエルフィズマナを体に吸収し、心臓の中にある魔臓器に取り込む。
 その魔臓器が自身の魔色に変換し血管を通し魔力を発現させる。
 ちなみに魔臓器は俺にも存在した、うん。
 やっぱり普通に人だった。
 ただ魔臓器にエルフィズマナを吸収しても変換し、力として流す事ができない。
 まぁ正しくは"何かに変換されてるっぽいが"発現させれないとの事。原因は不明、たまーにいるらしい。

  兎にも角にもジジイは魔術の稽古を早々に諦め、座学のみに。今は体術の稽古をしてくれてるって訳だ。
 魔闘気なら無色でもある程度なんとかなるとか。体外の発現は無理だが、体内の保有は可能との事。
 前世三十路近くまで生きた故に、割と良くないこの状況をすんなりと飲み込めた。

「手加減もクソもあるかいな?魔闘気すら微妙にしか纏えないやつがどう生き残るんじゃ?」

「んなぁことわかってるよ! 纏えないけど内闘気はできてるだろっ!?」

「ふん……そんなへっぽこ内闘気、下級攻撃魔術を食らえば布と一緒じゃ!」

 くそぅ、強くなりてー!  
 前世で平々凡々だったのに、転生しても平々凡々、むしろ以下とか笑えてくる。
 だけど今の俺は別人だ。今の俺はアイレッド・リューズ。
 どんな事にも全力で、どんな事にも本気で打ち込む気概でいる。あの日に出した勇気の一歩は今でも思い出せる。
 前世の意味不明な殺され方も転生も、今じゃありがとうだ。もう一度俺はやり直せる。

「あと四年じゃな、十八になればここより東にあるハーバス王国の学校に通える」
  
 ふと思い出したかのように髭を弄りながら、あぁ冒険者もあるなぁ……でもリューズは学校じゃな、と一人で納得している。

「それって必要? ここでジジイと特訓して方がいいと思うんだが?」
  
  前世の義務教育はあんまり好きじゃなかったからなぁ。
  個性を剥ぎ取り皆んな前をならえ、ある種の洗脳だった気もする。

「強くなるだけがこの世界ではないわい、勉学も然り。わしが教えれん、人との繋がりや友達、恋人、常識、色々ある」

  ヤンビスの森、朝独特の匂いと森から射し込む光を見ながら呟く。

「それにお前は才能ないからのぉ」

  今でも最後の死に方は納得いってないし、意味不明だし、この世界に転生した理由もまだ知らないし、わからないし。
 でもこの世界は1からやり直す自分をくれた。
 才能が無いだけで諦めれる訳なんて無い。

「才能なくたってこの世界で生きてけるかなぁジジイ?」

「お前の頑張り次第と言いたいが……才も必要じゃ。ただお前は努力しとる。夜も秘密の特訓じゃー!  とか言いながら森で魔術を勉強し特訓しとる。努力はきっと裏切らんよ。」

「げっ!  ジジイ知ってたの!?  バレてたの!?」

  秘密裏に特訓してるのバレてんじゃん!恥ずかしい!毎日毎日ジジイの稽古より必死にやってる秘密の特訓が。
 ヤケクソから始めた特訓も割と形になってきてる気がする。

「お前が秘密の特訓を初めて七年じゃぞ? 
 そんなもん一緒に暮らしとったらわかるわい!  お前の努力に口は挟まん。ただ一言だけアドバイスじゃ。お前が発現させようと努力した、その時間は紛れもなくお前の力、中途半端にやめるんじゃないぞ。」

「あぁありがとう。なんかやる気出てきた」

「ほぉーっ、礼なんか言えたんじゃな。だがお前が夜な夜な練習しとる魔術は魔術ではないぞ。あれは異質、気をつけたほうがええ。」

「礼くらい言えるわ!それよりそんな異質なのか!? 魔術常識知らなさすぎて分からねぇ」

「異質じゃの。わしが見た感じでは干渉しとるな、エルフィズマナの元素に。お前の魔臓器は吸収を繰り返す反応をしておった。」

「わかんねぇ、それの何が異質なんだ?」
  
 この世界の住人は魔臓器にエルフィズマナを取り込むはず。

なんじゃよ、底が見えぬくらいじゃ」

 そう言いながら指を立てた。

「訓練すれば中級魔術、上級魔術の発現は出来るじゃろう? その程度のマナは取り込めるようにはなる。では、何がか?」

説明が難しいなぁと顎髭を撫でながら座りこむ。

「まぁ、簡単に言うと魔臓器が取り込めるマナの量は個々にもよるが限界がある。それ以上、限界を上回ると魔臓器がオーバーヒートするんじゃ。オーバーヒートすると一時的にだが、マナを取り込めんくなる。」

「ふーん。マナを限界以上に吸収するとマナが取り込めなくなるってことね? で、俺の底が見えないってのはなんだよ?」

「お前の吸収量は、上級魔術を際限なく発現できる量を取り込んでおるんじゃよ? しかも異常な早さで、じゃ。」
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