シークレット・アイ

市ヶ谷 悠

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美しき讃美歌を

5.タッグ「デスワルツ」

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いやよいやよ、始まるの。デスワルツ。このうたは、あなたのためにあるというのに、どうしてどうして…


ラッパの音が合図で、この『闘技場』に集まった七万六千八百三十七人、全員が殴り合う、切り合う、殺し合う!

「うぉらあ!」

「おっと。」

そんな感じで楽観してたら、ヴァル目掛けて目の前に居たライオンの獣人が切りかかって来た。その可愛らしい両手には、マチェーテナイフが二本。ヒュゥ、二刀流かい。

「てめぇくらいなら一噛みでイケそうだなぁ?!」

そう言いながら、ライオンくん、ざっくざっくと、あれあれまあまあ…周り巻き込んでざっくばらんに切り刻んでいく。

「まあまあ、そうカッカしてっと、血糖値上がっちまうぜ?それに…」

「ああん?!てめぇが健康診断でもしてくれんの…グァアア!」

ドサッ。ヴァルの方向に向かって、ライオン、倒れちまう。ノアの回し蹴りが、喉元ごとクリーンヒットしたのだ。

「この段階のデスマーチはタッグオッケーってこと、忘れちゃいけねえヨ?ネコちゃん…ヨッ!」

そう言うと、今度はノアの後ろから切りかかろうとした盗賊もどきっぽいやつ、足に回し蹴り。さぁて皆さん、ここでもうお分かりかと思いますが、このノアさん、蹴りが得意技です。
踊り子の時もそうだったが、くるくると軸をズらすことなく踊れていたのは、こいつが足を使っての仕事が得意ってのが、理由だ。

「オラァ!いっちょあがりィ!」

「やるじゃねぇの、ノア…っとと!」

「ケッ!最初は上手い事避けても、次は無理だぜぇ!」

ヴァルの横から突然手裏剣みたいな飛び道具が、コートをかすめて行った。だが、周りの連中はそんなの見てる余裕がないのか、次々とその手裏剣でやられていく。
気が付けば、周りは軽く百人近くは倒れて行っている。…ま、ノアも次々、お得意の蹴りでぶっ飛ばしてるからってのもあるけど。

「残念だが…投げるって、だけ、じゃ、マジシャンでも出来る、ぜ?」

「んな…?!」

六本程投げられた手裏剣をすぐさま避け、避けながら近づき…その首元に、いつも仕事で仕込ませておく隠しナイフを押し当てる。

「そんで?…グッバァイ。」

「え…?ギャァアア!!」

戻ってくる仕組みの手裏剣が、ワァオ、見事お腹にクリーンヒット。

「ふむ…種も仕掛けもありません、てね。」

「そんな余裕ぶっこいて、いいのかぁ?!」

「やーれやれ…ココにゃほんと…血の気が多い奴ばっかで困ったもんだ、なぁ?」

後ろから何やらデカイものをぶん回す音が聞こえるもんで、ヴァルは前屈みになって、やたら大柄な大男の殴りを避けて、そのまま低姿勢になってクルリン…パ!隠しナイフで足元を刺す。

「ぎ、いやぁあ!」

見事にヒットした男は膝から崩れ落ちて動けなくなる。殺しが許されているとはいえ、俺もノアも、できれば殺しはしたくない。気絶や、強制退場までのケガで済ませられたら、一番は理想なんだが。

「あんた、血の気が多いんで、少し献血でも行ったらどうだい?」

「オッラァ!」

「…ん?」

そう言った瞬間、ヴァルの横に二人、目ェ回してる男が倒れ込んできた…。後ろを振り向くと、鉄パイプ持ったノアが突っ立っている。…なんかカッコつけてんな。

「背中ガラ空きとは正にこのコトだなァ、ヴァルさんヨ!」

「あん?なぁーに馬鹿言ってんだ?俺の背中がガラ空きって事は、どっかのお馬鹿さんの目が節穴になっちまったって事だろうなぁ。」

「ンだとゴラァ!素直にお礼位言えねえのかァ?!」

ヒュッ!

そういうノアの耳横スレスレのところで、足元に倒れているさっきの手裏剣男の腹から手裏剣を拝借し、ノアを狙っていた男の眉間に一発。男は苦しんでもがいてはいるが、死にはしない深さだろう。…ま、心底痛いだろうが…。

「…な?」

「…ほんっと…ムカツク奴だ、ナァ!」

そう文句垂れながら、さっきの眉間に穴開いちまった男の背中にトドメ蹴りを喰らわす。
と…言っていたら、足だけじゃやっぱ…ダメか。さっきの大男が立ち上がって、足元に居た例の手裏剣の男掴んでぶん回して周りの人巻き込んで、蹴散らし始めてしまった。

「下らねえ会話してんじゃねえええ‼」

「おっと…んーそうだなあ、確かに、あんたとのお話し中に失礼したよ。」

そう言って、ヴァルは軽くジャンプして振り回してるその手裏剣男の上に失敬し、更にそのまま大男の肩までジャンプする。

「だからさ、ちょっとせめてもちっと静かに話しませんかね?」

「てっめぇええ!」

そう言って手裏剣男、投げ出され(あーらら…流石にちょっと可哀想になっちゃう)、上に乗ったヴァルを掴もうとするが、長いコートを羽織っているのにも関わらず、大男は足もコートの裾すらも掴めない。
ヴァルが抜群に避けるのが上手いとかではなく…この男、デカいせいか動きが非常に鈍い。その時、ふと…遠くの景色が見えた。
そこに居たのは、女…。剣と、弓を巧みに使いこなして…確実に、相手を殺している。

「…ちょっと、用事が出来たので失礼しても、いいかな?」

「なんだとぉブッ…!」

ごめんよ。そう心で思いながら、顔面に思いっきり殴りかかる。しかも、隠しナイフ仕込んでる方の右腕で殴ったので、更に重量アップ。
男は流石に、これにはノックダウン。カンカンカーンなーんて音が聞こえそうなほどに、綺麗に。

「おいノア!」

「アアン?!ンだよ?!」

ノアは絶賛、まるで憂さ晴らしかのように、華麗に蹴り技をあちこちに喰らわせている。だが、相手が気絶、または骨折で死なない程度の力で、もう軽く百人いってんじゃないかってレベルのスピードだ。

「ちっと離れるが、背中は問題ねーか?」

「アア?!舐めんな!こんな連中くらいでやられるタマかよ!」

そう喚ける元気があるなら暫くは問題ないだろう。そう思いながら、ヴァルはひょいひょいと、敵の攻撃を受けては時たま殴り返し気絶させ、数を減らしながら、彼女が見えた先を目指す。

…その間に気付けば、会場はもう、万人から数千人程へとかなり激減していた。…そりゃ、あんな大男だけでも十人くらいは一気に減るんだし…腕の立つ、本気で殺しにかかってる奴らが何十人と居れば、そりゃこんだけ減るのも、頷けるか。

だが…俺はどうも、今日は運が悪いらしい。

キィイン…。

瞬時に反応ていなければ…首が飛んでたであろう太刀筋の、剣が飛んできた。残念なことに…彼女じゃない。彼女ではないが…同等か、それ以上の殺気が感じられる。

「…お前…どこかで会ったか…?」

男は、顔全部を覆った仮面…というよりマスクに近い布切れを巻いていたので、流石に、覚えている覚えていないの次元ではない。

「失礼だが…こちらとしては、表に出てないものを判断するのは難儀だと思うんだがね。」

コイツ…結構力が…。隠しナイフでギリギリ喉を守ってはいるが、いつまでもこの状況を保ってはいられないだろう。

「…そうか…お前…。」

そう言うと、男は突然剣を引き、思いっきり回転切りをしやがった!

「どぅあ…!」

これも、ヴァルの瞬時のジャンプと、並外れたジャンプ力が無ければやられていただろう。実際、周りにいた者、少なくとも八人は足を切り落とされ、呻きながら悶え苦しんでいる。

「…今は、お前を殺す時ではない。…トーナメントで、待っている。」
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