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ステージ
9.愛の「ステップ」
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♪
彼女は愛せなかった
彼は愛した
それは悲恋だろうか?
否!
それは最高の愛の歌だ!
永遠に終わらない恋なのだから!
♪
皇帝の娘の銅像と名前の掘られた床には、一切手を付けられていなかった。
無慈悲な泥棒が情けでもかけた、などといったそんな生ぬるい理由ではないだろう。
かといって、街中の名前や貴金属、果てには踊り子達の名前が彫られた床、壁が盗まれているのにも関わらず、彼女にだけは盗まれようとした痕跡どころか、指一本触れられていない。
その証拠に、銅像は砂埃を被りまくっているのだから。
今、きっとヴァルやノアがこの銅像に小指の先だけでも触れようものなら、その跡がすぐに付くだろう。
「しっかし、ここに銅像だけ綺麗に残ってるとはなァ……。驚いたぜ。この銅像がお前の言う、彼女が踊り続けている、生きているってことかヨ?」
ノアが銅像に親指を向ける。
と、その時だ。
ヴァルとノアは同時に目を合わせ、合図をした。目配せして、銅像の、真後ろ辺り。
丁度、銅像のドレスの翻されたところに、何かの気配を感じた。
それは二人とも分かっていて、ヴァルはズボンのポッケにしまっていた両手を取り出し、腰に手を当てる。そこにはレーザー銃と、相棒の古いドイツ製の拳銃、P229の計二丁が収められている位置だ。
それを確認したノアは脱いでいたロングコートを大きく着る仕草を、まるで地面を扇ぐようにして……ワン、ツー……スリー!
二人の長年の付き合いで分かる合図で、ノアが銅像に向かってコートで砂埃を起こしたと同時にノアは銅像を正面から向いて左に、ヴァルは右に回って腰に差していたP229をすかさず前に突き出す。
ノアも、同じく拳銃を突き出していた。
砂埃のせいで動けないのか、待っているだけなのか分からないが、人影と思しきものは微動だにしていなかった。
「……あんた、誰だ? なんでこんな場所にいる?」
ヴァルの問いに、人影は答えない。
そのままゆっくりとサラサラと音を立てて砂埃が薄くなっていく。ようやく、この銅像にだけなぜ手が付けられてないのか、その真犯人がご登場ってわけだ。
静かに、砂埃はサラサラと、床に落ちて、すると、すると! なんてこった……!
「皇帝の娘……!?」
銅像と全く同じ、いや、同じすぎるモノがそこに立って居た! この銅像と同じ身体、顔、服……。そのまんま銅像をコピーでもしたのかってレベルだ。
「どういう……! どぅわ!」
「ノア!」
ノアが拳銃を少し下ろした瞬間、彼女の瞳がノアに移動し、そのまま身を低くして飛ぶように走り、鋭い蹴りをかました。
ノアの身体能力が高くなければ、拳銃が蹴り飛ばされるだけではすまなかっただろう。
「ッ……のやろ……!」
ノアがそれでも衝撃が結構あったのか、拳銃を握っていた右手を押さえてよろめいた瞬間、もう一発と言わんばかりにすかさず、その皇帝の娘と思しき少女は右足を振り上げる。
「う……わわわっと!」
だが、ノアもそう簡単にやられる男ではない。思いきり後ろに飛び跳ねて攻撃をかわす。
だが、風を切る音だけが聞こえ、彼女の足音、地面を蹴る音などは一切聞こえず……砂埃がノアの時よりも酷く舞う。おかげでヴァルもノアも、お互いがどこにいるのかすらも分からない。
どうする……?
おそらく、ノアは衝撃で一時的に右手が動かなくなっただけでは済んだであろうものの……すぐに反撃してどうこう出来るような相手には思えない。
音を立てずにノアに向かって走り抜けたあのスピード……並大抵の人間で出来る動きではない。
クソッ……! 踊り子ってのは、攻撃にまで特化したもんなのかよ! ヴァルはこんな状況までは流石に予想出来ないでいた。
すると、風がヴァルの頬を微かにかすめたのを感じて……! や……ば!
音が、しねえ! ヴァルは間一髪で避けた彼女の蹴りには流石に冷や汗をかいた。
なんで彼女はこっちの位置が分かるんだ……!
砂埃が更に濃くなる。
クソ、この状況は明らかにこっちが不利だろう……! そう思ったとき、また、風を感じたが、さっきの彼女の音のない蹴りではない。今度はしっかりと走る音が聞こえた!
「こっちだぜ!」
すると、ノアがヴァルに自分の居場所を教えるのと同時に、砂埃の中から飛び出して、この宮殿だった建物から出ていく。かなり危険な賭けだった。
だが、ヴァルもそれを察知して、ノアと同じ方向に向かって駆け抜け、一発! 彼女に向けて弾を放った。
キィーン……!
おいおいおい、嘘だろ……!
一発だけ、放って思わずヴァルは後ろを振り返る。そのまま走り続ける。
止まってたら、死ぬしかねえ!
……なんてこった、なんてこった! こんなの、こんなのありえないだろう!
彼女は愛せなかった
彼は愛した
それは悲恋だろうか?
否!
それは最高の愛の歌だ!
永遠に終わらない恋なのだから!
♪
皇帝の娘の銅像と名前の掘られた床には、一切手を付けられていなかった。
無慈悲な泥棒が情けでもかけた、などといったそんな生ぬるい理由ではないだろう。
かといって、街中の名前や貴金属、果てには踊り子達の名前が彫られた床、壁が盗まれているのにも関わらず、彼女にだけは盗まれようとした痕跡どころか、指一本触れられていない。
その証拠に、銅像は砂埃を被りまくっているのだから。
今、きっとヴァルやノアがこの銅像に小指の先だけでも触れようものなら、その跡がすぐに付くだろう。
「しっかし、ここに銅像だけ綺麗に残ってるとはなァ……。驚いたぜ。この銅像がお前の言う、彼女が踊り続けている、生きているってことかヨ?」
ノアが銅像に親指を向ける。
と、その時だ。
ヴァルとノアは同時に目を合わせ、合図をした。目配せして、銅像の、真後ろ辺り。
丁度、銅像のドレスの翻されたところに、何かの気配を感じた。
それは二人とも分かっていて、ヴァルはズボンのポッケにしまっていた両手を取り出し、腰に手を当てる。そこにはレーザー銃と、相棒の古いドイツ製の拳銃、P229の計二丁が収められている位置だ。
それを確認したノアは脱いでいたロングコートを大きく着る仕草を、まるで地面を扇ぐようにして……ワン、ツー……スリー!
二人の長年の付き合いで分かる合図で、ノアが銅像に向かってコートで砂埃を起こしたと同時にノアは銅像を正面から向いて左に、ヴァルは右に回って腰に差していたP229をすかさず前に突き出す。
ノアも、同じく拳銃を突き出していた。
砂埃のせいで動けないのか、待っているだけなのか分からないが、人影と思しきものは微動だにしていなかった。
「……あんた、誰だ? なんでこんな場所にいる?」
ヴァルの問いに、人影は答えない。
そのままゆっくりとサラサラと音を立てて砂埃が薄くなっていく。ようやく、この銅像にだけなぜ手が付けられてないのか、その真犯人がご登場ってわけだ。
静かに、砂埃はサラサラと、床に落ちて、すると、すると! なんてこった……!
「皇帝の娘……!?」
銅像と全く同じ、いや、同じすぎるモノがそこに立って居た! この銅像と同じ身体、顔、服……。そのまんま銅像をコピーでもしたのかってレベルだ。
「どういう……! どぅわ!」
「ノア!」
ノアが拳銃を少し下ろした瞬間、彼女の瞳がノアに移動し、そのまま身を低くして飛ぶように走り、鋭い蹴りをかました。
ノアの身体能力が高くなければ、拳銃が蹴り飛ばされるだけではすまなかっただろう。
「ッ……のやろ……!」
ノアがそれでも衝撃が結構あったのか、拳銃を握っていた右手を押さえてよろめいた瞬間、もう一発と言わんばかりにすかさず、その皇帝の娘と思しき少女は右足を振り上げる。
「う……わわわっと!」
だが、ノアもそう簡単にやられる男ではない。思いきり後ろに飛び跳ねて攻撃をかわす。
だが、風を切る音だけが聞こえ、彼女の足音、地面を蹴る音などは一切聞こえず……砂埃がノアの時よりも酷く舞う。おかげでヴァルもノアも、お互いがどこにいるのかすらも分からない。
どうする……?
おそらく、ノアは衝撃で一時的に右手が動かなくなっただけでは済んだであろうものの……すぐに反撃してどうこう出来るような相手には思えない。
音を立てずにノアに向かって走り抜けたあのスピード……並大抵の人間で出来る動きではない。
クソッ……! 踊り子ってのは、攻撃にまで特化したもんなのかよ! ヴァルはこんな状況までは流石に予想出来ないでいた。
すると、風がヴァルの頬を微かにかすめたのを感じて……! や……ば!
音が、しねえ! ヴァルは間一髪で避けた彼女の蹴りには流石に冷や汗をかいた。
なんで彼女はこっちの位置が分かるんだ……!
砂埃が更に濃くなる。
クソ、この状況は明らかにこっちが不利だろう……! そう思ったとき、また、風を感じたが、さっきの彼女の音のない蹴りではない。今度はしっかりと走る音が聞こえた!
「こっちだぜ!」
すると、ノアがヴァルに自分の居場所を教えるのと同時に、砂埃の中から飛び出して、この宮殿だった建物から出ていく。かなり危険な賭けだった。
だが、ヴァルもそれを察知して、ノアと同じ方向に向かって駆け抜け、一発! 彼女に向けて弾を放った。
キィーン……!
おいおいおい、嘘だろ……!
一発だけ、放って思わずヴァルは後ろを振り返る。そのまま走り続ける。
止まってたら、死ぬしかねえ!
……なんてこった、なんてこった! こんなの、こんなのありえないだろう!
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