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異世界居住編
第114話 癒し
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夜も更けた頃、シュナイゼルは自室で1人酒を飲んでいた。
ムツキの家にあった透明なガラス製のグラスでは無く、曇った様な質の悪いグラスに常温のウィスキーである。
ムツキの家で飲んだ梅酒やウィスキーのロックはとても美味しかったが、今は少しでも強い酒が飲みたくてストレートであった。
シュナイゼルはぼんやりと部屋を眺めながら、自分とムツキの違いに嫌気がさしていた。
王とは、どれ程に窮屈なのだろう。
シュナイゼルは自分で建てた夢、目標を早々に自分で壊した事で、自分はムツキの様にはなる事はできないのだと思い知った。
王として、国を守る為に自分の家族を壊した。
いや、怒りにのまれて自分自身で壊したのだ。
中途半端に王にもなりきれず、1人の親としてロザリィを活かす方法を考えながら妻を蔑ろにした。
「ク、ククククク……」
シュナイゼルの自嘲の笑いが部屋に静かに響いた。
その時、カチャリと静かな音を立てて部屋に誰かが入ってきた。
「……そうか、きたか。うむ、それも、いいかもしれんな」
部屋の入り口をじっと見た後に、そう呟いた。
「相当やってらっしゃるのですね」
部屋に入ってきたのは離宮で謹慎しているはずのバーバラであった。
「いいだろう。呑まねばやってられん」
その言葉を聞いてバーバラはため息を吐いた。
「今なら俺は抵抗をせんかもしれん、殺しに来たのだろう?」
シュナイゼルは己の家族を壊した。
国を滅ぼす程の謀反を企てたとは言え、エリザベートに呪いをかけた張本人だったとは言え、義父を、バーバラの父親を処刑したのだ。
それもこの手で。
殺さずに済ませる方法もあったかもしれない。
老害全員を終身刑として幽閉するでも済んだかもしれない。
いや、エリザベートの事を知って時点で運命は変わらないだろうな。
恨んで当然だろう、父親を殺されたのだから。
だから、仇討の為にここに来たのだろう。
謹慎を破って離宮からここに来たのだから。
「やはり、自分を責めているのですね」
バーバラは、シュナイゼルに近寄ってくると、静かに座っているシュナイゼルの頭をふくよかな自分の胸に抱き留めた。
「カインの言った通りでした。貴方が自分を責めて落ち込んでいるだろうからと私に伝えに来たのですよ。わざわざ離宮へ忍び込んで。あ、大目に見てあげてくださいね、貴方を思っての事です」
「お前……」
シュナイゼルはバーバラに抱き留められたままそう呟いた。
「父の所業も聞きました。私も、貴方と同じで一国の妃です。エリザベート様の代わりに政治に関わるくらいにわ。こう言う時貴方を支えてきたのは私なのですよ?」
優しく微笑むバーバラが、シュナイゼルの頭を撫でた。
「父はそれだけの事をしたのです。あの方、漆黒の君の話は離宮でも聞いておりました。あの方の傘下に加わった貴方の勇気は賞賛に値します。離宮で謹慎していて、自分を見つめ直す事が出来ました。私も父の権力を求める欲望に侵されていたのだと。だからと言って弁明はできませんけどね」
バーバラは「ふふふ」と優しく笑った。
「貴方はエリザベート様と私が支えます。だから貴方は前を向いて国を導いてください」
バーバラの言葉に、シュナイゼルはやっとバーバラの腰に手を回し、バーバラを抱きしめた。
シュナイゼルの荒んだ心は、こうしてバーバラによって癒されていくのであった。
ムツキの家にあった透明なガラス製のグラスでは無く、曇った様な質の悪いグラスに常温のウィスキーである。
ムツキの家で飲んだ梅酒やウィスキーのロックはとても美味しかったが、今は少しでも強い酒が飲みたくてストレートであった。
シュナイゼルはぼんやりと部屋を眺めながら、自分とムツキの違いに嫌気がさしていた。
王とは、どれ程に窮屈なのだろう。
シュナイゼルは自分で建てた夢、目標を早々に自分で壊した事で、自分はムツキの様にはなる事はできないのだと思い知った。
王として、国を守る為に自分の家族を壊した。
いや、怒りにのまれて自分自身で壊したのだ。
中途半端に王にもなりきれず、1人の親としてロザリィを活かす方法を考えながら妻を蔑ろにした。
「ク、ククククク……」
シュナイゼルの自嘲の笑いが部屋に静かに響いた。
その時、カチャリと静かな音を立てて部屋に誰かが入ってきた。
「……そうか、きたか。うむ、それも、いいかもしれんな」
部屋の入り口をじっと見た後に、そう呟いた。
「相当やってらっしゃるのですね」
部屋に入ってきたのは離宮で謹慎しているはずのバーバラであった。
「いいだろう。呑まねばやってられん」
その言葉を聞いてバーバラはため息を吐いた。
「今なら俺は抵抗をせんかもしれん、殺しに来たのだろう?」
シュナイゼルは己の家族を壊した。
国を滅ぼす程の謀反を企てたとは言え、エリザベートに呪いをかけた張本人だったとは言え、義父を、バーバラの父親を処刑したのだ。
それもこの手で。
殺さずに済ませる方法もあったかもしれない。
老害全員を終身刑として幽閉するでも済んだかもしれない。
いや、エリザベートの事を知って時点で運命は変わらないだろうな。
恨んで当然だろう、父親を殺されたのだから。
だから、仇討の為にここに来たのだろう。
謹慎を破って離宮からここに来たのだから。
「やはり、自分を責めているのですね」
バーバラは、シュナイゼルに近寄ってくると、静かに座っているシュナイゼルの頭をふくよかな自分の胸に抱き留めた。
「カインの言った通りでした。貴方が自分を責めて落ち込んでいるだろうからと私に伝えに来たのですよ。わざわざ離宮へ忍び込んで。あ、大目に見てあげてくださいね、貴方を思っての事です」
「お前……」
シュナイゼルはバーバラに抱き留められたままそう呟いた。
「父の所業も聞きました。私も、貴方と同じで一国の妃です。エリザベート様の代わりに政治に関わるくらいにわ。こう言う時貴方を支えてきたのは私なのですよ?」
優しく微笑むバーバラが、シュナイゼルの頭を撫でた。
「父はそれだけの事をしたのです。あの方、漆黒の君の話は離宮でも聞いておりました。あの方の傘下に加わった貴方の勇気は賞賛に値します。離宮で謹慎していて、自分を見つめ直す事が出来ました。私も父の権力を求める欲望に侵されていたのだと。だからと言って弁明はできませんけどね」
バーバラは「ふふふ」と優しく笑った。
「貴方はエリザベート様と私が支えます。だから貴方は前を向いて国を導いてください」
バーバラの言葉に、シュナイゼルはやっとバーバラの腰に手を回し、バーバラを抱きしめた。
シュナイゼルの荒んだ心は、こうしてバーバラによって癒されていくのであった。
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