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異世界転移編
第68話 クッキング
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「それじゃ、作ろうか」
「はい!」
とは言ったものの、城の厨房といえどシステムキッチンという事はなく、どちらかと言うと土間に近い構造に、鉄板が置かれているコンロに近い物は、下に木で火力調整するようである。
チグハグなのは、水道がある事。
これは、魔石を利用してある様で、魔力を魔石に注げば水が出てくる仕組みだ。
注意しなければいけないのは注ぐ魔力によって水量が変わる為、ムツキの場合には繊細な魔力調節が必要になる。 大穴を空けるわけにはいかない。
コンロに魔石が使われない理由はその辺りがシビアだからだ。木を燃やしたり、炭火の方が、まだ火力調節しやすいと言う事なのだろう。
そう考えると、この世界の料理人はすごいと思う。
ともあれ、まだコンロは使わない。
ムツキは、鍋を取り出して、シャーリーにイチゴとスプーンを渡した。
「シャーリー、スプーンでこうやってヘタの部分をとって、この鍋に入れてもらえますか?」
「は、はい。私、料理などした事がないので上手くできるか分かりませんが……」
「大丈夫。シャーリーならできますよ。 ほら、一緒にやってみましょう」
ムツキは、緊張で体を強張らせるシャーリーに笑顔で言った。
手でむしり取ってもいい作業だが、丁寧に、それに、シャーリーにも楽しんでやって貰いたい。
だからこそ、包丁ではなくスプーンでイチゴのヘタ取りから始めたのだ。
シャーリーはムツキのやり方を真似て手に力を入れると、綺麗にヘタが取れた。
「できました」
「はい、上手ですね。さすがシャーリーです」
ムツキは笑顔でシャーリーを褒める。 こんなのは簡単だからと言ってしまう事もできるが、楽しめる事が大切なのだ。
「それじゃ、このイチゴをお任せしていいですか?」
「はい。任せてください」
自信がついたのか、シャーリーはとびきりの笑顔でイチゴのヘタ取りを引き受けた。
シャーリーが作業をしている間に、ムツキはパンケーキ用の材料を混ぜ合わせる。
自作のホットケーキミックスだ。
錬金術を使って小麦粉薄力粉に、砂糖を上白糖に、そして、リフドンの店で手に入れた重曹を混ぜ合わせる。
この世界にはベーキングパウダーなどと言う便利なものはなかった。
なので重曹で代用するのだが、この世界では重曹を料理に使う習慣は無かったので、探すのに手間取った。
最終的に、リフドンの店の掃除用品の所にあった訳だが。
なので、この重曹も錬金術で再生成とでも言うのだろうか?
余分な物を取り除いて食べても大丈夫な様にしておく。
日本でも、食用との違いは検査を通したかぐらいなので不純物を取り除けば大丈夫だろう。
それを、記憶を頼りに混ぜ合わせる。
学生の頃の調理実習でホットケーキミックスを使わないホットケーキを作った記憶を引き摺り出す。
計量はどうするんだと言われそうだが、そこはスキルである。 算術のスキルが高くなって計量も道具を使わずともピッタリする事ができる。
混ぜ合わせた所で、シャーリーの作業が終わった様だ。
「終わったみたいですね」
「はい、終わりました」
「それじゃ、そのヘタはゴミ箱に捨てましょうか」
「はい」
後片付けも忘れてはならない。やりっぱなしは癖になってしまうのだから。
「それでは次はこれを振り掛けましょう」
ムツキは適量を取り分けた砂糖を取り出すと、シャーリーに渡した。
「全部振りかけていいですよ」
「分かりました」
シャーリーは真面目だから、慎重に、満遍なく砂糖をかけていった。
「綺麗にできましたね。次はこっちのベリーです。 イチゴより難しいけどできますか?」
「やってみます」
シャーリーはまた緊張している様だが、調子に乗って失敗してしまうよりはいい。
シャーリーはムツキの指示に従ってベリーの下拵えをするのだった。
その間に、ムツキはホットケーキのタネを完成させて、次の作業に取り掛かる。
砂糖、チーズ、生クリーム、レモン果汁。
それから、ゼラチン粉。
ベーキングパウダーは作り方がよく分からなかった為できなかったが、基本の物が有れば錬金術で大体は何とかなってしまうのでとても便利である。
さて、この材料で、お分かりだと思うがレアチーズケーキである。
ベリーソースの下ごしらえがそろそろ終わる。
ここからの作業は2人で行おう。
「シャーリー、次はこれを使います。 これを、グチャグチャに砕きます」
「え、それはお茶の時に食べるのではなかったのですね」
ムツキが取り出したのはクッキーだった。
シャーリーと選んできたものとは別にプレーンな物を購入していたのだ。
「これは2人で選んだ物とは別にですよ。 あれは、お茶の時に一緒に食べましょうね」
「はい!」
少し悲しそうな顔を見せたシャーリーに笑顔が戻った。
クッキーを砕いて、バターと混ぜ合わせる。
「こうですか?」
「はい、そうです。 上手ですよ!」
容器に混ぜ合わせたクッキーを敷き詰め、先程のチーズ等を混ぜた液体の中にお湯で溶かしたゼラチンを入れる。
「最後は、2人でこれを注ぎましょうか」
「は、はい」
今まではシャーリーがクッキーを砕く時に容器を支えるなどの補助をしていた。
せっかくだから、2人で作ったと言う様に2人で注ぐ必要はないのに、共同作業を提案したのだ。
シャーリーの持つ容器に、ムツキも手を添えて、先程のクッキーを伸ばした容器に注ぎ入れていく。
注いでいる間は、無言であった。
シャーリーも、提案したムツキさえも、顔を真っ赤にしていた事は黙っておこう。
レアチーズケーキを冷やし固めている間に、ホットケーキを焼き、イチゴとベリーのソースを作るのだが、恥ずかしさを紛らわせる為か、2人の会話が増えた様であった。
「はい!」
とは言ったものの、城の厨房といえどシステムキッチンという事はなく、どちらかと言うと土間に近い構造に、鉄板が置かれているコンロに近い物は、下に木で火力調整するようである。
チグハグなのは、水道がある事。
これは、魔石を利用してある様で、魔力を魔石に注げば水が出てくる仕組みだ。
注意しなければいけないのは注ぐ魔力によって水量が変わる為、ムツキの場合には繊細な魔力調節が必要になる。 大穴を空けるわけにはいかない。
コンロに魔石が使われない理由はその辺りがシビアだからだ。木を燃やしたり、炭火の方が、まだ火力調節しやすいと言う事なのだろう。
そう考えると、この世界の料理人はすごいと思う。
ともあれ、まだコンロは使わない。
ムツキは、鍋を取り出して、シャーリーにイチゴとスプーンを渡した。
「シャーリー、スプーンでこうやってヘタの部分をとって、この鍋に入れてもらえますか?」
「は、はい。私、料理などした事がないので上手くできるか分かりませんが……」
「大丈夫。シャーリーならできますよ。 ほら、一緒にやってみましょう」
ムツキは、緊張で体を強張らせるシャーリーに笑顔で言った。
手でむしり取ってもいい作業だが、丁寧に、それに、シャーリーにも楽しんでやって貰いたい。
だからこそ、包丁ではなくスプーンでイチゴのヘタ取りから始めたのだ。
シャーリーはムツキのやり方を真似て手に力を入れると、綺麗にヘタが取れた。
「できました」
「はい、上手ですね。さすがシャーリーです」
ムツキは笑顔でシャーリーを褒める。 こんなのは簡単だからと言ってしまう事もできるが、楽しめる事が大切なのだ。
「それじゃ、このイチゴをお任せしていいですか?」
「はい。任せてください」
自信がついたのか、シャーリーはとびきりの笑顔でイチゴのヘタ取りを引き受けた。
シャーリーが作業をしている間に、ムツキはパンケーキ用の材料を混ぜ合わせる。
自作のホットケーキミックスだ。
錬金術を使って小麦粉薄力粉に、砂糖を上白糖に、そして、リフドンの店で手に入れた重曹を混ぜ合わせる。
この世界にはベーキングパウダーなどと言う便利なものはなかった。
なので重曹で代用するのだが、この世界では重曹を料理に使う習慣は無かったので、探すのに手間取った。
最終的に、リフドンの店の掃除用品の所にあった訳だが。
なので、この重曹も錬金術で再生成とでも言うのだろうか?
余分な物を取り除いて食べても大丈夫な様にしておく。
日本でも、食用との違いは検査を通したかぐらいなので不純物を取り除けば大丈夫だろう。
それを、記憶を頼りに混ぜ合わせる。
学生の頃の調理実習でホットケーキミックスを使わないホットケーキを作った記憶を引き摺り出す。
計量はどうするんだと言われそうだが、そこはスキルである。 算術のスキルが高くなって計量も道具を使わずともピッタリする事ができる。
混ぜ合わせた所で、シャーリーの作業が終わった様だ。
「終わったみたいですね」
「はい、終わりました」
「それじゃ、そのヘタはゴミ箱に捨てましょうか」
「はい」
後片付けも忘れてはならない。やりっぱなしは癖になってしまうのだから。
「それでは次はこれを振り掛けましょう」
ムツキは適量を取り分けた砂糖を取り出すと、シャーリーに渡した。
「全部振りかけていいですよ」
「分かりました」
シャーリーは真面目だから、慎重に、満遍なく砂糖をかけていった。
「綺麗にできましたね。次はこっちのベリーです。 イチゴより難しいけどできますか?」
「やってみます」
シャーリーはまた緊張している様だが、調子に乗って失敗してしまうよりはいい。
シャーリーはムツキの指示に従ってベリーの下拵えをするのだった。
その間に、ムツキはホットケーキのタネを完成させて、次の作業に取り掛かる。
砂糖、チーズ、生クリーム、レモン果汁。
それから、ゼラチン粉。
ベーキングパウダーは作り方がよく分からなかった為できなかったが、基本の物が有れば錬金術で大体は何とかなってしまうのでとても便利である。
さて、この材料で、お分かりだと思うがレアチーズケーキである。
ベリーソースの下ごしらえがそろそろ終わる。
ここからの作業は2人で行おう。
「シャーリー、次はこれを使います。 これを、グチャグチャに砕きます」
「え、それはお茶の時に食べるのではなかったのですね」
ムツキが取り出したのはクッキーだった。
シャーリーと選んできたものとは別にプレーンな物を購入していたのだ。
「これは2人で選んだ物とは別にですよ。 あれは、お茶の時に一緒に食べましょうね」
「はい!」
少し悲しそうな顔を見せたシャーリーに笑顔が戻った。
クッキーを砕いて、バターと混ぜ合わせる。
「こうですか?」
「はい、そうです。 上手ですよ!」
容器に混ぜ合わせたクッキーを敷き詰め、先程のチーズ等を混ぜた液体の中にお湯で溶かしたゼラチンを入れる。
「最後は、2人でこれを注ぎましょうか」
「は、はい」
今まではシャーリーがクッキーを砕く時に容器を支えるなどの補助をしていた。
せっかくだから、2人で作ったと言う様に2人で注ぐ必要はないのに、共同作業を提案したのだ。
シャーリーの持つ容器に、ムツキも手を添えて、先程のクッキーを伸ばした容器に注ぎ入れていく。
注いでいる間は、無言であった。
シャーリーも、提案したムツキさえも、顔を真っ赤にしていた事は黙っておこう。
レアチーズケーキを冷やし固めている間に、ホットケーキを焼き、イチゴとベリーのソースを作るのだが、恥ずかしさを紛らわせる為か、2人の会話が増えた様であった。
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