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87 さみしい思い
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俺は今、シロを連れ王都にある商業ギルドの本部に来ている。
手持ち資金が底をついたため、ミスリル鉱石を売り資金の調達を計っているところだ。
買取り額も前回よりもかなり高くなるらしいのだ。
ちまちま売っていると反って目立つのではと考えた俺はいっきに5つのミスリル鉱石を売ることにした。
「そうですか……。ではアレが5つ纏めてということなら如何ほどになりますかね?」
「いっ、5つですか! し、しばしお待ちを……」
………………
「え~と、物を確認しませんと何とも言い難いのですが、以前と同じグレード、同じ大きさで頂けるのでしたら…… ズバリ! 3,500,000バースではいかがでしょうか?」
「なるほど、前回の買い取り価格の3割増ですか。それに前回の取引分も考慮したかたちですかね…………。では、それでお願いします」
俺はマジックバッグより拳大のミスリル鉱石を5つテーブルの上に並べた。
するとヘケラーさんは「おおっ、おおおっ!」と息も絶えだえに興奮している。
何だか鼻息もかなり荒いな。
既に大口のオファーが来ているのかもしれない。
鑑定士が皆の目の前でしっかりと鑑定したのち、
白金貨が2枚、クルーガー金貨が15枚、高級なトレイの上に並べられた状態でテーブルの上に置かれた。
(うわぁ――――っ、ホントにあるんだな白金貨! はじめて見たよ)
1枚で100万バース、日本円に直せば1000万円以上の価値である。
そっと鑑定で確認したのち、震えだしそうな手を抑えながらマジックバッグに納めた。
「それでは世話になった」
少しドキドキしながらも商業ギルドをあとにした。
「これで当座の資金はなんとかなるかな……」
帰りの馬車の中で俺はひとりごちるのだった。
この前取引したミスリル鉱石においては、すこし気になったのでカイル (ダンジョン) にお願いして追跡させていた。
ダンジョンの勢力圏内であれば、ダンジョンの中で取れた鉱物やアイテムなどは簡単に見つけ出すことができるという。
運良く、ここ王都バースはダンジョンどうしを結ぶ地脈の上に存在しているのだ。
よって王都や迷宮都市であれば、ほぼ全域においてミスリル鉱石の追跡が可能なのだ。
ちなみにだが、この前売却したミスリル鉱石が今どこにあるのかを尋ねてみると、
何と迷宮都市カイルにあるというのだ。
暫くして王都から消えたのち、昨日より迷宮都市カイルに移動してきたようだ。
――あやしいだろう。
これを追っていけば『黒幕までごあんな~い!』だったりして。
あとは今回のヤツがどう流れていくのかで背後関係まで分かるんじゃないの?
(なんか面白くなってきた!)
経路と場所のチェックもお願いしておこう。
場合によっては没収だな。
アラン邸にてメアリーと昼食をとり、シオンとの面会を済ませたのち王城へ向かった。
まずは所用から。
宰相様の部下である文官さんに家名と紋章のデザイン画を提出する。
次にマリアベルへの面会を申し込み、シロとメアリーを連れて待機室で待つ。
ほどなく案内のメイドさんが迎えにきて城内を移動していく。
今日向かうのは北側にある庭園のようだね。
王城北側にあるガゼボの一つに案内された。
「ちょっとー、遅いんじゃないのー。こっちはホント暇なんだからぁ」
いきなりのご挨拶である。
(こっちはそれなりに忙しいっつーの!)
「これはこれは王女殿下、ご機嫌麗しゅうございますか」
白々しく貴族礼を取ってみせる。
「うんうん、ゲン子爵。良きに計らいなさい」
あちらもノリノリで対応してくる。
なんだよ『良きに計らいなさい』って――。
……クククッ、ククククククッ。
ふたりで口を押さえながら笑いあう。
メアリーは意味がわからずポカンとしているし、シロはお座りしたまま大きくあくびをしていた。
「まぁ、こっちに来て座んなさいよ。そこじゃ目立つでしょ!」
へいへいと言いながらガゼボにはいる。
そろそろ晩秋、日中でも風通しが良いガゼボはすこし肌寒い。
このあたたかな紅茶が身にしみる。
「しかしあんた達っていつも一緒よねぇ。ほんとに娶るつもりなの? いやらしいわね~このロリコン!」
3歳児がニタニタ笑いながらからかってくる。
幼女にあるまじき顔をするんじゃないよ。メアリーが怖がるだろうが。
「そうだな、もちろんメアリーの気持ちは優先させるけど俺はそのつもりでいる。それに俺はロリコンではない。変なことばを教えるんじゃないよ。まったく」
「フフフッ、ただの冗談よ。でも、もしもの時は私の事も考えておいてよねぇ~。ガマ公爵やブタ伯爵なんてヤなんだからねー」
(考えるって……、娶れってことなのか?)
ハハハハハッ! なに言ってんだか。――楽しくなってきた。
その後はメアリーも交え、お茶をしながら談笑していく。
今日の話は魔法のことがメインだな。
インベントリーの使い方や長距離転移トラベルの注意点など多岐に渡った。
結界魔法も一発で覚えやがった!
流石は元日本人と言ったところか、イメージに対する理解が早い。
インベントリーを教えてしまったせいで、
まぁ――――、いろいろと持っていかれた。
塩・砂糖各種・胡椒・卵・などなど食材は根こそぎやられた。
サラ (ダンジョン) に作ってもらったクレープやドーナツまでも。
ただ、お菓子作りには協力してくれるそうだ。
趣味でケーキなども作っていたようで、今度スイーツレシピを書いてくれることになった。
それにお金が必要だったみたいで、金貨と大銀貨を2枚ずつと銀貨を30枚渡しておいた。
「なんだよ、お姫様なんだからお金なんか要らないだろう」
「それがそうでもないのよ。色々とね」
マリアベルの話によると、
いろいろと情報を聞きだす為や、城のあちこちに出入りする為には最終的にはお金に頼ることが多いそうだ。
(3歳児なのに袖の下が必要なのか……)
はぁ――――っ、世知辛い。
「ところで何なのよこのバトンは。魔法少女なの? そうなの?」
(お前がダダをこねたんだろうがぁ。喜んでたくせに……)
「それはなぁ結構頑丈にできていて、メイスとしても使えるんだ」
「それにミスリル50%のマジック合金製だぞ。知らないだろうけど恐ろしく値打ちもんだぞ」
「そう、メイスなのね。殴っていいのね。そうだ、今度くるみのヤツ作ってよ。せいぜいがんばれ!」
(おうおう言いたい放題だな。お前が頑張れよ!)
「まぁ確りやってれば ”くるみ” でも ”小麦ちゃん” でも作ってやるよ」
「それに何よ『デビルカッター』て。あれってデビルマンよね? 私知ってるのよ、小さい頃にお父さんとDVD見てたから」
「うっ、それはだな……。イメージしやすかったというか、なんというか……」(汗)
「知らないと思って適当にやってるんでしょ! それじゃあ、ちゃんとベルトも作ってよねぇ。デビルカッターはバックルから発射するんだから」
(えっ、そこなの? てっきり罵倒されると思ったじゃん)
そんなバカ話も飛び出し、とても楽しい時間を過ごした。
そして最後に魔力操作の訓練のやりかたを教えてお開き。
「毎日、寝る前にはするんだぞ~」
そう念を押して俺たちは王城をあとにした。
……おかしい。
何がおかしいのかって、メアリーだ。
――俺の傍を離れない。
お風呂も、夕食も、その後もずっとだ。
さすがにトイレは放してもらったが俺の部屋までついてくる。
――なぜだ?
「もう部屋に帰りな。明日また会えるだろう」
そのように促しても、捨てられた犬のような目をして俺を見てくる。
仕方ないので、またリビングに戻った。
………………
「あらあら、まあまあ、どうしたのかしら?」
俺にべったりくっついたまま眠っているメアリーを見て、ニコニコしながらアストレアさんが話しかけてきた。
両手に持っている2つのカップからは湯気と共に優しい香りが漂ってくる。
「はい、どうぞ」
「いただきます」
カップの一つを受け取り口をつける。
おお、やっぱり梅ハチミツだ。
「わたしコレが好きなの」
厳密には梅ではないのかもしれないが、味と香りはそうなのだ。
「暖まりますよね」
寝ているメアリーの頭をやさしく撫でながら、俺は今日の出来事をアストレアさんに話して聞かせた。
「そうだったのね、たぶん捨てられると思ったんじゃないかしら。犬人族ってそういう事には敏感なのよ」
「…………」
「最近はスキンシップも少なかったんじゃなくて?」
「はぁ……」
「今日は一緒に寝てあげてね」
「…………」
以前に比べれば、頭を撫でてあげたりすることも少なくなったよなぁ。
しかし親の手前というのもあるんだよなぁ。
う~~ん。俺が悩んでいると、
「あら、いいのよ。私の前ではね……。だってほら、もらってくれるんでしょ。それなら寂しい思いをさせたらいけないわよね」
「はい……」
「じゃあ、メアリーのことはお願いするわね」
背中越しに手を振りながらアストレアさんはリビングを出ていった。
そっか……。
この娘のことを考えているようで、その実この娘の意思を汲めていなかったんだな。
はぁ――――っ、なにやってるんだよ俺。
その夜は一緒に寝てあげた。抱きしめて頭をなでてあげた。
そう、これでいいんだ。
そして翌朝。
以前のようにシロとメアリーを連れデレクの町を散歩する。
そして朝の訓練に朝食にと、みんな一緒だ。
メアリーの顔もどこか晴れやかに見える。
(大事にしてあげないとな)
今日は自分の屋敷で使用する馬と馬車を見に行こう。
もちろんシロとメアリーも連れてだ。
まずは貴族街からもほど近い馬車屋に行ってみることにした。
結果から言えばそれ程見るものはなかった。
貴族の馬車というのは大体形式が決まっており、今貴族用として出せる車両は2両だという。
特注で作ることも可能なのだが、順番待ちの現状では100日程先になるそうだ。
まぁ王都からはほとんど出ないだろうし、無難な方を選んでおいた。
馬車のドアには紋章が入り、内装も少し変えるため20日程かかるとのことだ。
馬の方は壁の外になる。
王都の外壁に隣接するように馬場が設けられているそうだ。
放牧したり調教したりと、広大な土地が必要になるからである。
しかし、今日のところはアラン邸に戻ることにした。
昼からシオンが訪ねてくるからね。
明日は来なくていいと伝えておけば、ゆっくりと馬を見てまわれるだろう。
午後になりシオンと面会したのちデレクの町へと飛んだ。
そこでナツ親子と合流、ダンジョン探索をおこない温泉を楽しんだ。
手持ち資金が底をついたため、ミスリル鉱石を売り資金の調達を計っているところだ。
買取り額も前回よりもかなり高くなるらしいのだ。
ちまちま売っていると反って目立つのではと考えた俺はいっきに5つのミスリル鉱石を売ることにした。
「そうですか……。ではアレが5つ纏めてということなら如何ほどになりますかね?」
「いっ、5つですか! し、しばしお待ちを……」
………………
「え~と、物を確認しませんと何とも言い難いのですが、以前と同じグレード、同じ大きさで頂けるのでしたら…… ズバリ! 3,500,000バースではいかがでしょうか?」
「なるほど、前回の買い取り価格の3割増ですか。それに前回の取引分も考慮したかたちですかね…………。では、それでお願いします」
俺はマジックバッグより拳大のミスリル鉱石を5つテーブルの上に並べた。
するとヘケラーさんは「おおっ、おおおっ!」と息も絶えだえに興奮している。
何だか鼻息もかなり荒いな。
既に大口のオファーが来ているのかもしれない。
鑑定士が皆の目の前でしっかりと鑑定したのち、
白金貨が2枚、クルーガー金貨が15枚、高級なトレイの上に並べられた状態でテーブルの上に置かれた。
(うわぁ――――っ、ホントにあるんだな白金貨! はじめて見たよ)
1枚で100万バース、日本円に直せば1000万円以上の価値である。
そっと鑑定で確認したのち、震えだしそうな手を抑えながらマジックバッグに納めた。
「それでは世話になった」
少しドキドキしながらも商業ギルドをあとにした。
「これで当座の資金はなんとかなるかな……」
帰りの馬車の中で俺はひとりごちるのだった。
この前取引したミスリル鉱石においては、すこし気になったのでカイル (ダンジョン) にお願いして追跡させていた。
ダンジョンの勢力圏内であれば、ダンジョンの中で取れた鉱物やアイテムなどは簡単に見つけ出すことができるという。
運良く、ここ王都バースはダンジョンどうしを結ぶ地脈の上に存在しているのだ。
よって王都や迷宮都市であれば、ほぼ全域においてミスリル鉱石の追跡が可能なのだ。
ちなみにだが、この前売却したミスリル鉱石が今どこにあるのかを尋ねてみると、
何と迷宮都市カイルにあるというのだ。
暫くして王都から消えたのち、昨日より迷宮都市カイルに移動してきたようだ。
――あやしいだろう。
これを追っていけば『黒幕までごあんな~い!』だったりして。
あとは今回のヤツがどう流れていくのかで背後関係まで分かるんじゃないの?
(なんか面白くなってきた!)
経路と場所のチェックもお願いしておこう。
場合によっては没収だな。
アラン邸にてメアリーと昼食をとり、シオンとの面会を済ませたのち王城へ向かった。
まずは所用から。
宰相様の部下である文官さんに家名と紋章のデザイン画を提出する。
次にマリアベルへの面会を申し込み、シロとメアリーを連れて待機室で待つ。
ほどなく案内のメイドさんが迎えにきて城内を移動していく。
今日向かうのは北側にある庭園のようだね。
王城北側にあるガゼボの一つに案内された。
「ちょっとー、遅いんじゃないのー。こっちはホント暇なんだからぁ」
いきなりのご挨拶である。
(こっちはそれなりに忙しいっつーの!)
「これはこれは王女殿下、ご機嫌麗しゅうございますか」
白々しく貴族礼を取ってみせる。
「うんうん、ゲン子爵。良きに計らいなさい」
あちらもノリノリで対応してくる。
なんだよ『良きに計らいなさい』って――。
……クククッ、ククククククッ。
ふたりで口を押さえながら笑いあう。
メアリーは意味がわからずポカンとしているし、シロはお座りしたまま大きくあくびをしていた。
「まぁ、こっちに来て座んなさいよ。そこじゃ目立つでしょ!」
へいへいと言いながらガゼボにはいる。
そろそろ晩秋、日中でも風通しが良いガゼボはすこし肌寒い。
このあたたかな紅茶が身にしみる。
「しかしあんた達っていつも一緒よねぇ。ほんとに娶るつもりなの? いやらしいわね~このロリコン!」
3歳児がニタニタ笑いながらからかってくる。
幼女にあるまじき顔をするんじゃないよ。メアリーが怖がるだろうが。
「そうだな、もちろんメアリーの気持ちは優先させるけど俺はそのつもりでいる。それに俺はロリコンではない。変なことばを教えるんじゃないよ。まったく」
「フフフッ、ただの冗談よ。でも、もしもの時は私の事も考えておいてよねぇ~。ガマ公爵やブタ伯爵なんてヤなんだからねー」
(考えるって……、娶れってことなのか?)
ハハハハハッ! なに言ってんだか。――楽しくなってきた。
その後はメアリーも交え、お茶をしながら談笑していく。
今日の話は魔法のことがメインだな。
インベントリーの使い方や長距離転移トラベルの注意点など多岐に渡った。
結界魔法も一発で覚えやがった!
流石は元日本人と言ったところか、イメージに対する理解が早い。
インベントリーを教えてしまったせいで、
まぁ――――、いろいろと持っていかれた。
塩・砂糖各種・胡椒・卵・などなど食材は根こそぎやられた。
サラ (ダンジョン) に作ってもらったクレープやドーナツまでも。
ただ、お菓子作りには協力してくれるそうだ。
趣味でケーキなども作っていたようで、今度スイーツレシピを書いてくれることになった。
それにお金が必要だったみたいで、金貨と大銀貨を2枚ずつと銀貨を30枚渡しておいた。
「なんだよ、お姫様なんだからお金なんか要らないだろう」
「それがそうでもないのよ。色々とね」
マリアベルの話によると、
いろいろと情報を聞きだす為や、城のあちこちに出入りする為には最終的にはお金に頼ることが多いそうだ。
(3歳児なのに袖の下が必要なのか……)
はぁ――――っ、世知辛い。
「ところで何なのよこのバトンは。魔法少女なの? そうなの?」
(お前がダダをこねたんだろうがぁ。喜んでたくせに……)
「それはなぁ結構頑丈にできていて、メイスとしても使えるんだ」
「それにミスリル50%のマジック合金製だぞ。知らないだろうけど恐ろしく値打ちもんだぞ」
「そう、メイスなのね。殴っていいのね。そうだ、今度くるみのヤツ作ってよ。せいぜいがんばれ!」
(おうおう言いたい放題だな。お前が頑張れよ!)
「まぁ確りやってれば ”くるみ” でも ”小麦ちゃん” でも作ってやるよ」
「それに何よ『デビルカッター』て。あれってデビルマンよね? 私知ってるのよ、小さい頃にお父さんとDVD見てたから」
「うっ、それはだな……。イメージしやすかったというか、なんというか……」(汗)
「知らないと思って適当にやってるんでしょ! それじゃあ、ちゃんとベルトも作ってよねぇ。デビルカッターはバックルから発射するんだから」
(えっ、そこなの? てっきり罵倒されると思ったじゃん)
そんなバカ話も飛び出し、とても楽しい時間を過ごした。
そして最後に魔力操作の訓練のやりかたを教えてお開き。
「毎日、寝る前にはするんだぞ~」
そう念を押して俺たちは王城をあとにした。
……おかしい。
何がおかしいのかって、メアリーだ。
――俺の傍を離れない。
お風呂も、夕食も、その後もずっとだ。
さすがにトイレは放してもらったが俺の部屋までついてくる。
――なぜだ?
「もう部屋に帰りな。明日また会えるだろう」
そのように促しても、捨てられた犬のような目をして俺を見てくる。
仕方ないので、またリビングに戻った。
………………
「あらあら、まあまあ、どうしたのかしら?」
俺にべったりくっついたまま眠っているメアリーを見て、ニコニコしながらアストレアさんが話しかけてきた。
両手に持っている2つのカップからは湯気と共に優しい香りが漂ってくる。
「はい、どうぞ」
「いただきます」
カップの一つを受け取り口をつける。
おお、やっぱり梅ハチミツだ。
「わたしコレが好きなの」
厳密には梅ではないのかもしれないが、味と香りはそうなのだ。
「暖まりますよね」
寝ているメアリーの頭をやさしく撫でながら、俺は今日の出来事をアストレアさんに話して聞かせた。
「そうだったのね、たぶん捨てられると思ったんじゃないかしら。犬人族ってそういう事には敏感なのよ」
「…………」
「最近はスキンシップも少なかったんじゃなくて?」
「はぁ……」
「今日は一緒に寝てあげてね」
「…………」
以前に比べれば、頭を撫でてあげたりすることも少なくなったよなぁ。
しかし親の手前というのもあるんだよなぁ。
う~~ん。俺が悩んでいると、
「あら、いいのよ。私の前ではね……。だってほら、もらってくれるんでしょ。それなら寂しい思いをさせたらいけないわよね」
「はい……」
「じゃあ、メアリーのことはお願いするわね」
背中越しに手を振りながらアストレアさんはリビングを出ていった。
そっか……。
この娘のことを考えているようで、その実この娘の意思を汲めていなかったんだな。
はぁ――――っ、なにやってるんだよ俺。
その夜は一緒に寝てあげた。抱きしめて頭をなでてあげた。
そう、これでいいんだ。
そして翌朝。
以前のようにシロとメアリーを連れデレクの町を散歩する。
そして朝の訓練に朝食にと、みんな一緒だ。
メアリーの顔もどこか晴れやかに見える。
(大事にしてあげないとな)
今日は自分の屋敷で使用する馬と馬車を見に行こう。
もちろんシロとメアリーも連れてだ。
まずは貴族街からもほど近い馬車屋に行ってみることにした。
結果から言えばそれ程見るものはなかった。
貴族の馬車というのは大体形式が決まっており、今貴族用として出せる車両は2両だという。
特注で作ることも可能なのだが、順番待ちの現状では100日程先になるそうだ。
まぁ王都からはほとんど出ないだろうし、無難な方を選んでおいた。
馬車のドアには紋章が入り、内装も少し変えるため20日程かかるとのことだ。
馬の方は壁の外になる。
王都の外壁に隣接するように馬場が設けられているそうだ。
放牧したり調教したりと、広大な土地が必要になるからである。
しかし、今日のところはアラン邸に戻ることにした。
昼からシオンが訪ねてくるからね。
明日は来なくていいと伝えておけば、ゆっくりと馬を見てまわれるだろう。
午後になりシオンと面会したのちデレクの町へと飛んだ。
そこでナツ親子と合流、ダンジョン探索をおこない温泉を楽しんだ。
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