俺とシロ

マネキネコ

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75 娶る?

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 「そうかい、そうかい、あの子のことを助けてくれたんだねぇ。ずっと行方知ゆくえしれずで心配していたんだよ、本当にありがとねぇ。あの子も……、あの子の母親もただ巻き込まれただけなんだよ。まったく忌々いまいましいったらありゃしない」

 「巻き込まれた? 病死とかではないんですか」

 おばばさんの言葉に、つい聞き返してしまった。

 「…………」

 「…………」

 「おまえさんなら大丈夫だろうから言うけど、ここで聞いたことは他言無用たごんむようだよ。わかったかい!」

 おばばさんの目を見て俺は大きく頷いた。

 「あの子の母親は毒殺どくさつされたのさ。それも大公たいこうの足を止める為だけにね」

 「――――――!」

 俺は怒髪どはつ天を形相ぎょうそうとなった。

 そんな鬼神のような顔をした俺におばばさんは、

 「これこれ、気をおさえなさいな。ここで怒っても何も始まらないだろ」

 「こ、これは失礼しました。よろしければ、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」

 「まったく、すさまじい気を出しおってからに。寿命が10年縮まったよ。あたしもそこまで詳しくは知らないけれど話してやろうかね」





 おばばさんが言うには、

 メアリーの父である大公たいこうのアラン・ジ・クルーガーは当代国王の実弟じっていであり、王都おうとの北に位置する都市クドーを納めている。

 そしてダンジョン・カイルで取れた物資などはこの都市を通り王都バースへと運ばれているそうだ。

 一方、迷宮都市めいきゅうとしカイルは王国の直轄地ちょっかつちでありながら、以前よりさまざまな不正ふせいが横行しているという。

 これに対しては王国側でも目を光らせており随時ずいじ取り締まりを行っているようだ。

 しかし、いくら取り締まったところで出てくるのは状況証拠じょうきょうしょうこばかり。

 これでは上の者を処分しようとしても如何様いかようにも言い逃れができてしまう。

 そう、物的証拠ぶってきしょうこが出ないよう組織的そしきてきに不正が行われていたのだ。

 王国側もこれにはホトホト手を焼いていたようである。

 ………………

 しかし、こちらも黙って指をくわえていた訳ではない。

 アラン大公は間者かんじゃを幾人も潜り込ませていたのだ。 

 そしてかねてからの裏付け捜査そうさにより、その物証ぶっしょうの一部を押さえるに至ったのである。

 着々と準備を整え、あとは迷宮都市カイルへ乗り込むだけの段階だんかいであった。

 勿論もちろん査察ささつに入ることは極秘ごくひに進めていたのだが……。

 ぎりぎりのところで計画が露見ろけんしてしまった。

 ヤツらは乗り込もうとしていた大公の足を一時的に止め、そのすきに関係していたほとんどの者を処分しょぶんし入れ替えてしまっていたのだ。

 それで、そのわずかな時間をかせぐため利用されたのが、

 メアリーの母であるエレナだったのだ。

 アラン大公 最愛の側室そくしつうわさにあるエレナならば効果こうか絶大ぜつだいだろうと踏み、敵の矛先ほこさきが向いてしまったのだろう……と。

 (そういう事だったのか……)

 これはおしおき・・・・どころの騒ぎじゃないな。

 できることなら、俺がカタをつけたいところだが……。





 エレナが何者かに殺害 (毒殺どくさつ) されたことで大公家は大混乱。

 それで何を思ったのか、当時の家宰かさいはエレナの一人娘であるメアリーにも危険がおよぶと判断。

 執事しつじであるジョージと共に身を隠すように指示を出してしまったのだ。

 ある程度の期間は如何いかなる連絡も避け、身をひそめるようにと言い渡していた。

 「…………」

 (これって、もう少しなんとか出来たんじゃないのか?)

 いや、当時はパニックだっただろうし。

 もしかしたら本当に刺客しかくが差し向けられていた可能性もあるのか……。

 今さらいろいろ詮索したところで詮無せんなきことではあるか。

 「まあ、事の顛末てんまつはこんなところさねぇ。ところで坊やだろう、ダンジョンがどうのって王妃おうひうわさしていた……」

 そう言われて、自己紹介もしてない自分にハッ! となった俺は念話ねんわでシロを呼ぶ。

 ……って、あれ、

 いつの間に来ていたのか? シロは俺の椅子のよこで伏せをしていた。

 そう、先ほどゲンが気を吐いた際、シロは心配して駆け付けていたのだ。

 椅子から立ちあがった俺は、あらためてひざを突き貴族礼きぞくれいをとった。

 「失礼いたしました。俺はゲン、そして隣が従魔じゅうまのシロです。どうぞお見知りおきを」

 「ほうほう、やはりそうなのかえ。あの子が熱心ねっしんに話していたからねぇ。良かったら私も温泉に連れていっておくれ。最近は腰が痛くてねぇ」

 ということで、ご挨拶あいさつがてら温泉へ連れていくことになった。





 そして翌日。

 昼食を済ませ部屋で待っていると、おばばさんがたずねて来られた。

 ――それは大勢おおぜい引き連れて。

 なぜか王妃おうひ様の姿も見えている。

 「…………」

 まぁ気にしちゃダメなやつだろう。

 そして俺たちは女性ばかり10名の団体さんと温泉施設おんせんしせつへ転移した。

 「へぇ、本当に来ちゃったよ。涼しいねぇ、大したもんだ」

 おばばさんはとても嬉しそうである。

 いつものように人数分の石鹸やバスタオルなどをメイドさんに渡していると、

 「ささっ、こちらですよ おばば様」

 王妃様が自ら案内している。

 「ここの温泉はホントにすごいんですよぉ。お肌なんてプルップルですから!」

 いろいろ話しながら脱衣所だついじょうの方へ入っていった。

 まあ、おばば様のことは王妃様にお任せして大丈夫だろう。

 俺もササッと身体を洗って露天風呂ろてんぶろの方へ向かう。

 身体を洗い終わったシロや子供たちはすでに湯舟で泳いでいる。

 シロが教えたのか、みんなそろって犬かき・・・である。

 まぁ水飛沫みずしぶきも飛ばないし……、いいか。

 俺も掛かり湯をして温泉にかる。

 あぁ―――――――っ、温泉はいつ入っても良い。





 「どれどれ、おじゃまするよ。ここは良いところだねぇ、あたしゃ気にいったよ」

 おばば様が女性全員を引き連れて露天風呂ろてんぶろになだれ込んできた。

 おぉ~素晴らしい…………って、もうだいぶれてきたな。

 しかし露天風呂を大きく作った俺グッジョブ!

 心の中でガッツポーズをしておく。

 「この露天風呂からのながめはまさに絶景ぜっけいだねぇ」

 そうおばば様も言ってるが、俺はこの露天風呂の中が絶景です。

 今日はおばば様もまじえての裸のおつきあい・・・・・・・である。

 こういった解放感のある場所では普段ふだんでは聞けない話なんかも飛び出してきたりする。

 これがなかなかに有意義ゆういぎだったりするんだよね。

 「ところで、お前さんゲンとか言ったねぇ。クドウという男を知っているのかい」

 「いやね、この建物はログハウスってんだろう? あっちの打たせ湯とか足湯なんかも聞いたことがあってねぇ」

 どうやら、おばば様は工藤本人を知っているようだ。

 「直接お会いしたことはないんですがね。実は…………カクカク・シカジカ・マルマル…………なんでして」

 と以前発見した洞窟どうくつの事を話していった。

 「なんだい、そりゃあ。キツ――――イやつを一発かい!」

 カカカカカカッ! 笑って聞いてくれた。

 そしておばば様は、向こうで子供たちと遊んでいるメアリーを優しく見やってから、

 「あの子と別れないで済む方法はあるよ。もっとも、あんた次第なんだけどねぇ」

 (えっマジで。そんな方法があるの?)

 俺は是非ぜひにと先をうながすと、

 「これはまだおおやけにはされてない事さね。モンソロの町に近い所でダンジョンが発見されたのさ。発見者の名前が確か『ゲン』だったようだけど……、お前さんのことだろう?」 

 その問いに俺はゆっくりと頷いた。





 「そうすると、まず間違いなく叙爵じょしゃくはされるよ。それにここの功績こうせきも大きいはずだから陞爵しょうしゃくもして……、順当にいって子爵ししゃくあたりかねぇ。じゃあ、ぎりぎりいけるんじゃないかえ」

 なにやら小声で王妃様と話をしている。聞いてる王妃様も笑顔で頷いているし……。

 ンンン、どゆこと?

 不思議ふしぎそうな顔をしている俺に、

 「なんだいかしこそうなのに、まーだ分からないのかい。あんたがめとる (もらう) んだよ!」

 ――もらう?

 ――娶るめとる

 妻取るめとるってことかぁ――――――――っ!

 俺はつい興奮して立ち上がってしまっていた。

 んっ……。

 われに返ると皆の視線しせんが一点に集中している。

 「…………!」

 イヤ~~~ン! 

 両手でアソコを隠して静かに湯舟ゆぶねに沈んでいく。

 とんだ羞恥しゅうちさらしてしまった。(赤面)

 そこやめてぇー、品定しなさだめするようにコソコソ話しをするのは。

 「…………っと言うわけじゃ。しかし、アラン坊も子煩悩こぼんのうだからねぇ。なかなか首を縦に振らないだろうけど、そこはこのおばばに任せておけばいい」 

 何もなかったようにタンタンと話を進めるおばば様。なんかかっこいいっす。

 温泉でのぼせないようにと、度々湯からあがっては冷たいアイスティーや特製とくせいミルクセーキなどを提供していく。

 小腹が空いたと聞けば、おやつ代わりにクレープなどを振舞ふるまった。

 「極楽、極楽、これでまた長生きできそうさねぇ」

 などと言っているおばば様。

 昨日、寿命が10年縮んだとか言ってたからちょうど良かったんじゃないの。――ハハハハハッ!

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