俺とシロ

マネキネコ

文字の大きさ
上 下
66 / 107

62 槍のカニサイ

しおりを挟む
 俺たち行商隊の一行はみんなそろってモンソロの町へ戻ってきた。

 途中とちゅうのマギ村においては例によってカイアさんが大奮闘だいふんとう。帰りに狩ったウルフの皮でしっかりもうけていたようだ。

 なんでも、革を扱う工房へおろした際、その解体技術と保存状態ほぞんじょうたいに舌を巻いていたという。

 さすがはインベントリーさん。いい仕事してます。

 家に戻ったマクベさん夫婦はいつものように大忙おおいそがし。店や家をバタバタと走りまわっていた。

 そのあいだ子供たちは、リビングで俺がいれたミルクティーを美味しそうに飲んでいるのだった。

 これはメアリーからのリクエストに応えたものだが、旅の途中で飲んだ甘いミルクティーが忘れられなかったようだね。

 こうなるとコーヒー牛乳も作ってあげたいなぁ。

 しかし、この世界にも珈琲コーヒーはあるのだろうか?

 珈琲の発見って割と特殊とくしゅだったよな。山火事が起きてなんちゃらかんちゃら。(諸説あります)

 そうそう、牛乳・卵・砂糖があるからミルクセーキなんかも作れるなぁ。

 香り付けはカラメルやメープルシロップでいいだろう。

 今度、大量に作って保存しておこうかな。

 そしてスイーツのほうだけど、クレープを作ってみようと思うんだ。

 こっちの小麦粉でどこまで再現できるかわからないけど、パンが作れるなら大丈夫だろ。

 あのモチモチさがどこまで出せるか……。

 ただなぁ、ここで作るとかなり迷惑をかけちゃうからなぁ。

 何処どこか良い場所が……って、あるじゃん!

 ――ダンジョン・サラ――

 一瞬で移動できるし、前に言ってたダンジョンリビングにも行ってみたいし……。

 そうなるとフライパンや皿なども買い足しておかないとな。

 ああ、そうそう、孤児院こじいんための屋台なども考えていかないと。

 こうして構想こうそうるだけでも、なにか楽しくなってくるよな。





 ようやくカイアさんがリビングに顔を出したので、俺たちは冒険者ギルドへ出かけた。

 カウンターにて護衛依頼ごえいいらいの終了報告を終えると報酬ほうしゅうが支払われた。

 もちろん街道に出没した魔獣の件もここで一緒に報告をあげておく。

 そして、ついでだったので尋ねてみた。

 「今回、やりの訓練をしたいのですが、指導しどうされる方をどちらかお願いできますか?」 

 「槍の指導ですか……。少々お待ちください」

 そう言って受付員はバックヤードに入っていった。

 そしてすぐに戻ってくると、

 「男性の方ですが一名いらっしゃいます。すぐに申し込みできますが如何いかがいたしましょう?」 

 「では、これから1刻 (2時間) でお願いします」

 「そして明日から4日間、朝2のかねから予約をとることは可能でしょうか?」

 俺の申し出に、ギルド職員はうなずきながらメモをとっていくと、

 「それでは手続きをいたします。指導は1刻単位で行われ…………(省略)…………。次回の予約に関しては指導終了後にこちらにてご確認ください」

 「では、それでよろしく」

 その場で500バースを支払うと、俺はシロとメアリーを連れて訓練場へと向かった。

 ………………

 ここは訓練場手前の踊り場おどりば

 俺たちはやりを手にもち指導員が来るのを待っていた。

 「お主らかのう? わし弟子でしになりたいというのは」

 後ろから白髪のじいさんが声をかけてきた。

 「俺はゲン、こっちが従魔じゅうまのシロ、そしてメアリーです。弟子になるかは別にしてやり指南しなんをお願いします」

 「さよか」

 爺さんは長い顎髭あごひげをしごきながら、

 「儂の名はカニサイじゃ、よろしくのう」

 (カニサイねぇ。そういえば日本にも可児かに 才蔵さいぞうという槍の名手がいたなぁ)

 ということで槍の稽古が始まった。

 構え・見切り・足さばきと、どれをとっても剣とは違う。

 だがその動きはちゃんとにかなっているのだ。

 ほうほう、これはこれで楽しいかもしれない。

 そしてあっという間に1刻が過ぎ今日の稽古けいこは終了した。

 「お主らなかなかじゃのう。こりゃ明日からも楽しみじゃわい。ほ――ほっほっほっ……」

 そう言ってカニサイじいは去っていった。





 「メアリー、大丈夫だったか?」

 「うん、楽しかった! 明日もあるの?」

 やる気十分で安心した。

 子供に訓練はどうかと心配したのだが杞憂きゆうだったようだ。

 さて、帰るには少し早いよな。

 そこで俺たちは中央広場の方へ足をむけた。

 お金も入ったことだし、少し買い物をしていこう。

 スイーツ用のボールや器もそろえたいところだが……。

 俺たちはまずシベア防具店ぼうぐてんに向かった。

 メアリー用の革のヘルムとミトンを発注はっちゅうするためだ。

 「任せときな、オレっちがビッとしたヤツを3日で作ってやんよ」

 とのことなので、代金を支払いお願いしておく。

 (どう考えてもヤツが店主・・だよな。……たぶん)

 そこはまあ、色々と込み入った事情があるんだろうな。

 仲良くなったし、そのうち聞いてみますかね。

 さてお次は……と、

 んっ、前を歩いていたシロが止まって尻尾しっぽを振っている。

 馴染なじみの串焼き屋の前だ。

 三本買って近くのベンチに腰掛けて食べる。

 メアリーが水の入った器をシロの前に置いたり、串から肉を外したりと世話をやいている。

 メアリーはとても良い子なのだ。

 ………………

 俺たちは買い物を終えて家路いえじにつく。

 今日は歩きたいと言うのでメアリーと手をつないで家まで帰った。





 そして翌朝。

 今日も槍の稽古のため、朝から冒険者ギルドにやってきた。

 先にカウンターにて500バースを納め、時間までは掲示板けいじばんに貼ってある依頼いらいながめる。

 そして鐘のなる前には練習場に入り、キッチリ1刻 (2時間) 槍の訓練にはげむ。

 依頼のほうは久しぶりに薬草採取やくそうさいしゅにした。

 たまには、森でのんびりと薬草採取もいいだろう。

 町の北門を抜け街道かいどうの脇きに入り、

 ――トラベル!

 俺たちはいつもの森の丘に出てきた。

 とりあえず薬草を集めてまわるか。

 森の中をシロと一緒に駆けまわるメアリーは楽しそうだ。

 長距離の際はシロの背に二人で跨って移動する。

 昼食は森の丘でオークやハイウルフの肉を焼いてみんなで食べた。

 昼からは魔法の訓練だ。

 今使える攻撃魔法こうげきまほうを順にはなっていく。

 次は速射魔法の訓練。

 得意とくい属性ぞくせいでつぎつぎと打ち出していく。

 的になっているのは我らがシロちゃんなんだけど、全く当たらない。

 ていうか、一生かけても かする事もないだろう。

 そこでシロと相談。残像ざんぞうを残してもらうようにしたのだ。

 まあ、簡単にいえば忍者がやってるような『分身の術』だな。

 これがなかなか楽しい。メアリーもキャッキャいってやっていた。

 そして、手加減てかげんはしっかりと教えていく。

 命の危険がある時以外は人前で魔法は使っちゃいけないとも教える。

 貴族きぞくでない俺たちは人前で魔法を見せるべきではないだろう。

 ………………

 シロには水を、メアリーには果実水を出して休憩きゅうけいに入る。

 そこで気になっていることを聞いてみた。

 「メアリーはお父さんやお母さんのことは覚えているの?」

 しかしメアリーは顔をふるふると横にふり。

 「おじいちゃんだけ」

 そう小さな声で答えてくれた。

 そっか……、それなら無理に急ぐこともないのかな。

 ぼちぼちと探していくことにしよう。





 しばらくはこの町でゆっくりして。

 そのあと王都おうと迷宮都市めいきゅうとしに行ってみるのもいいかもね。

 特に王都は広いということだし、なにか伝手つてがあると助かるよなぁ。

 伝手か……。

 よし、あいつに聞いてみっか。

 薬草採取を終えた俺たちは、早目に切り上げて『ナナの魔道具屋』へ向かった。

 「よぉ、にゃにゃ。元気にしてるか~」

 「にゃんども言ってるにゃ。にゃにゃにゃ、にゃくて、ニャニャにゃ」

 いつものやり取り。そしていつものご挨拶である。

 「ナナ、こっちはメアリーだ。シロの妹になった」

 「あちきはニャニャ。よろしくニャー」(ナナです)

 「今日はどうしたニャ。ベルトはもうしばらくかかるニャン」

 「その件ではないんだ。実は今度王都に行ってみようと思ってるんだ。そこで顔の広~いナナだったら知人を紹介してくれるかなぁ、てね」

 「えっへん。確かにあちきは顔が広いのニャ、王都なら商人でも宿屋でも紹介できるのニャン」

 「そうか、それは凄いな。さすがナナだ。頼りになるなぁ」

 「当然ニャ、いつでも来るニャン」

 「それじゃあ、またその時は頼むな!」 

 そういってナナの大好物な川魚をカウンターに置いて店をでた。

 行商にでた折、川でってきたヤマメのような魚だ。

 釣ったのではなく、シロがこの程覚えた雷魔法でとったヤツだな。





 それから4日が過ぎ。

 メアリー用のヘルムとミトンはしっかり出来ていた。

 槍の訓練はとてもおもしろく、延長を申し込んだのだがカニサイ先生は少しモンソロを離れるそうな。

 槍の指導のほうは、また帰って来てからという話になった。

 そして俺たちはというと、ダンジョン・サラの8階層に来ていた。

 「(槍と魔法)いっぱい練習したからモンスターと戦ってみたい!』

 メアリーが言いだしたのだ。

 それで特に用事もなかった俺は、こうしてダンジョンまで来ているわけだが。

 メアリーがめちゃくちゃ張り切っているのだ。

 シロにまたがって右へ左へ駆けまわっている。

 (そりゃそうだよな。槍と魔法の訓練に加えて身体強化まで会得えとくしているのだから)

 ――腕試ししたいよね。

 そんでもって、あっという間に8階層、9階層を突破。

 只今10階層のなかばまで来ていた。

 阿吽の呼吸あうんのこきゅうごとく、シロとの連携れんけいもスムーズである。

 誰だよ! シロに乗れとかいったヤツは。

 (は――――っ!? どうすんのよコレ)

 そして、とうとうたどり着いた10階層のボス部屋。

 ここはどう考えても無理っしょ。

 シロは1回クリアしているので一緒には入れないし、俺は入れるけど手出しはできない。

 他に一緒に入ってくれる仲間もいない。

 ならば一人で…………。

 いやいやいや、無謀むぼうでしょう。

 それに10階層のボスは『ゴブリンキング』だよ。2m以上あるんだよ。

 長身からり出してくる槍をどうさばくのよ。

 (絶対に無理だって!)

 まあ、俺がついている以上、死ぬことはないだろうが。

 たたかれてもられてもすっごい痛いんだよ。

 こんな可愛いメアリーに辛い思いはさせたくないよ……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【SF短編集】機械娘たちの憂鬱

ジャン・幸田
SF
 何らかの事情で人間の姿を捨て、ロボットのようにされた女の子の運命を描く作品集。  過去の作品のアーカイブになりますが、新作も追加していきます。

処刑された女子少年死刑囚はガイノイドとして冤罪をはらすように命じられた

ジャン・幸田
ミステリー
 身に覚えのない大量殺人によって女子少年死刑囚になった少女・・・  彼女は裁判確定後、強硬な世論の圧力に屈した法務官僚によって死刑が執行された。はずだった・・・  あの世に逝ったと思い目を覚ました彼女は自分の姿に絶句した! ロボットに改造されていた!?  この物語は、謎の組織によって嵌められた少女の冒険談である。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。

現世で死んだ俺は新たな世界へと生まれ変わる途中で邪神に拐われました。ありがとう! 感謝します邪神様っ!

夜夢
ファンタジー
現世で組織同士の抗争中に命を落とした主人公。 彼は極悪人だった。 人は死んだらどうなるか。彼は今それに直面している。 神は彼に裁きを与えた。 彼に与えられた裁きは、地球とは違う世界にいき魔物として一億回死ぬ事。それを終えたら人として生まれ変わらせるというものだった。 彼は猛反発したが、相手は神。罰は覆る事なく、彼は異世界へと落とされた。 ──はずだった。 「くっくっく、こんな真っ黒い魂は久しぶりじゃ。お主、助けてやろうか?」 「はい喜んで!」 彼を拾ったのは邪神デルモート。 彼は邪神から力を与えられ地上に降り、邪神の手先として働く事になるのである。

神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~

波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。  アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。  自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。  天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。  その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?  初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。  最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!  果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?  目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!

進学できないので就職口として機械娘戦闘員になりましたが、適正は最高だそうです。

ジャン・幸田
SF
 銀河系の星間国家連合の保護下に入った地球社会の時代。高校卒業を控えた青砥朱音は就職指導室に貼られていたポスターが目に入った。  それは、地球人の身体と機械服を融合させた戦闘員の募集だった。そんなの優秀な者しか選ばれないとの進路指導官の声を無視し応募したところ、トントン拍子に話が進み・・・  思い付きで人生を変えてしまった一人の少女の物語である!  

処理中です...