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46 ホーンラビット・コロシアム
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今朝、こちらに着いたという後続部隊との顔合わせと挨拶はとりあえず終わった。
先行部隊でダンジョンに潜っていた俺たちはこれまでの報告を上げなければならないのだが……。
何だか後続部隊の面々がバタバタと浮足立っている感じがするんだよなぁ。
まあ、俺たちがこんな時間に戻ってくるとは思っていなかったのだろう。
予定を狂わせてしまったかな。
そこで、落ち着いてもらうため後続部隊の面々にもお茶を入れてあげることにした。
その場に毛皮のフロアシートを2枚敷き皆に座ってもらう。
そして再びティーブレイクだ。
「「「ふぅ~」」」 と、その場の空気が緩んでいく。
さて、報告していきましょうかね。
「それで、予定では今朝からダンジョンに入られたと思うのですが、もう戻ってこられたということはダンジョン中で何か問題が生じたのでしょうか?」
「あ、いや特に問題などはないぞ。ただ我々は予定を早めて昨日の晩からダンジョンに突入している。それで5階層までの攻略を終えたため一時的に戻って来たにすぎない」
リーダーを務めるアーツは簡単明瞭にそう伝えた。
「えっ、5階層!? ……聞いておりませんが?」
「すっ、すっ、すいませ~ん。わたし慌ててててて」
「これ落ち着きなさい! ギルド員が慌ててはなりません。冒険者様の前ですよ」
「すっ、すいませ~ん」
「それはさて置き、発見されたばかりのダンジョンにおいて既に5階層までの攻略。にわかに信じられませんが、それが本当なら素晴らしいことです」
俺たちは今までの経過を順に報告していった。
そして今、ジョアンさんは掌に例の金属粒 (ミスリル鉱石) を乗せたまま固まっていた。
………………
あっ、戻ってきたようだ。
「たっ、大変失礼致しました!」
とか言っているものの動揺が半端ない。
ミスリルの枯渇はそれだけ切実な問題だったんだんね。
ダンジョン・カイルで悪さをしていた奴らにはお仕置きが必要だな。
今のところ鉱山からはミスリルが出なくなっている。
あちら (カイル) で採れなくなったのなら、何れはこちら (サラ) に来るようになるだろうし……。
それからは幾度となく聞き返しながらジョアンさんはメモを取っていた。
まぁ事が事だけに、報告書は抜かりなく作成しないといけないのだろう。
さぞかし神経を使うんだろうね。
一方、俺たち先行部隊は昼食のあと再びダンジョンへ突入することになった。
シロにもたっぷり肉を食べさせたし。
転移台座の操作は今回シロにお願いしてみた。
するとシロはピョンと黒い台座に乗っかると、ぺしっと前足を玉 (ぎょく) にあて、いとも簡単に転移陣を出現させていた。
何の問題もなく俺たちはボス部屋を抜けた先にある踊り場へ戻ることができた。
「おっし、シロでも行けたな! 偉いぞ~ 」
そう言いながら頭をなでなで。
さて、この階段を下りていけば6階層だ。
ダンジョン内は少し薄暗いのだが視界はまあまあ良好だ。
20m程は確認できると思う。
光源は間接照明のような感じで天井や壁などがポヤンと光っている。
今まで洞窟型だったダンジョン内部は6階層からは遺跡の通路型に変化している。
こちらでも所々に大小様々なルームが点在しているようだ。
これまでの探索により判明しているもので、モンスターハウス・セイフティーエリア・宝箱エリアの3つである。
ただ何もない空間も多く存在しているし、通路においてもモンスターが普通にエンカウントする。
それに階層は下へ下へと伸びているように見えるが厳密にいうとそうはない。
ダンジョンは亜空間に存在しており、入口を含めた一部だけが地表に現れているようなのだ。
まあ、その亜空間がどこにあって、どのようにして地表と繋がって云々はこの前ダンジョンからダウンロードされた情報の中にはなかった。
必要がある時は直接ダンジョンに聞けばいいだろう。
あのダウンロードは…… もう、こりごりだ。
モンスターを倒すと必ず何かがドロップする。
殆どの場合が魔石なのだが、一度だけ低級ポーションがドロップした。
このあたりもサラ (ダンジョン) と打ち合わせをして、迷宮で使える物を中心に考えていこうと思う。
今現在もアーツが先頭に立ち階層内をグングン突き進んでいる。
そして俺たちは、早くも7階層へ入った。
ウルフ達に加えアルミラージ…… ではなく、ホーンラビットがあちらこちらから飛び込んでくるようになった。
油断していると、いつの間にかお腹にポッカリと穴が空いているということも……。
それに狼とウサギが共存している?
う~ん、普通はあり得ないことだけど、これがダンジョンなんだよねぇ。
アーツは飛び掛かってくるホーンラビットをものともせず、ギッタンバッタン切り落としていく。
その側でポンポンと魔石に変わっていくモンスターを見ていると少し哀れに思えてきた。
8階層に入ってからもアーツの快進撃は止まらない。
鋭い角を武器に俊敏な動きで突っ込んでくるホーンラビット。
そこそこやれる冒険者でも手を焼くことだろう。
だがそれもアーツにかかれば、もはやバッティングセンターのボールのようだ。
切りもしないで長剣のはらの部分でバッシン! バッシン! ぶっ叩いていく。
壁にブチ当たったヤツが魔石へと変わりコロコロ手前に転がってくる。
………………
…………
……
そんな感じで突き進んでいると俺たちはある大きめのルームにブチ当たった。
そっとルームの入口から中を覗いてみると……。
うわ――っ、何あれ! ウサギだらけじゃん。
しかも周りは円形で観客席のような段が付いている。
まるでコロシアム (闘技場) のようだ。
しかし周りに陣取っているウサギ共は観客というわけではない。
そう、一旦中に入れば全方位からホーンラビットが突撃してくるだろう。
まさに地獄の『ホーンラビット・コロシアム』なのだ。
まぁ、俺たちの場合は魔法を使えばあっという間に殲滅できるだろうが。
だけど、それでは面白くない。
ここは魔法なしで行ってみようではないか。
そうアーツとコリノさんに諮ったところ、簡単に同意をえられた。
てなことで、50匹のホーンラビットが犇めきあうコロシアムの中へ俺たちは突っ込んでいった。
うおおぉおおおぉおお! なんじゃこりゃ、真っ白やんけー!
躱す、切る、躱す、躱す、切る、何かだんだん楽しくなってきた!
本来ならば俺は敵認定されないので攻撃を受けることはないのだが、今はみんなが固まっているので仕方がないのだ。
シロも楽しそうに駆け巡っている。
ただ困ったことに、ウサギの集団に突っ込んでいくと、お互いが真っ白なのでシロが何処に居るのか分からなくなるのだ。
俺は感覚共有があるから大丈夫だけれど。
………………
やがてウサギ共は1匹残らず魔石に変えられてしまった。
するとルーム奥の出口付近に銀色の『宝箱』が出現していた。
(おおー、ここで出るんだぁ。皆でよく頑張りましたってことかな?)
鍵は付いていなかったのでシロに開けさせる。――何事も経験だ。
決して罠が恐いわけじゃないんだからねっ!
シロがトトトッと宝箱に近寄っていき右前足でパカッと開けてくれた。
そして、みんなで中を覗いてみる。
宝箱の中にはポーションが1本、20㎝角の麻袋が1枚、鈴が1個が入っていた。
さっそく鑑定してみると、次のような鑑定結果がでた。
『中級ヒールポーション』
かなりの重症の傷でも癒せるようだ。手や足を切断されても直ぐにならくっつけて戻すことが可能だとか。
『マジックバッグ小小』
50cm辺立方体容量のマジックバッグ。ナイフや水筒をはじめ財布などの小物を入れておくには便利である。
『魔獣除けの鈴』
ゴブリン・ウルフ・コボルトといった低級の魔獣やモンスターに効果があるようだ。ただし、通常の獣には効果がない。
それぞれのアイテムについてみんなに説明をおこなった。
そこで率直にどれが欲しいのかと聞いてみると、
アーツはポーション、コリノさんはマジックバッグがいいらしい。
俺には両方とも必要ないので残った鈴を貰うことにした。
ふぅ、みんなの欲しい物が被らなくてよかったな。
臨時の冒険者パーティーではドロップ品を巡って争ったりすることもあるらしいからね。
魔獣除けの鈴か……。
マクベさんにちょうどいいお土産ができたな。
俺たちは勢いもそのままに8階層を突破し9階層へ入った。
特に新しいモンスターが出ることもなく順調に進んでいると……。
おおっ、何だあれは?
ゴブリンがブラックウルフに跨っている。さらに石斧まで持って強そうだ。
所謂『ゴブリンライダー』というやつだ。
不覚にも少しだけかっこいいと思ってしまった。
機動力が格段に上がるのでかなり厄介な相手になるだろう。
――通常の冒険者には。
それでもアーツは止められない。
ゴリゴリ突き進んでいき、とうとう10階層まで来てしまった。
うん、まあね。 通常では有り得ないよね。
まだ、2日目なんだし……。
だけど俺の的確な道案内とアーツのポテンシャルの高さを考えれば可能なわけですよ。
それにシロのアシストがまた素晴らしい。
俺? 俺にはモンスターが襲ってこないからね。高みの見物なんだよね。
モンスターが多いときはそれなりに手伝ってはいるんだけど。
10階層に入ってからモンスターの数は増えているようだけど全く問題はない。
アーツとシロがモンスターを薙ぎ払いながら進む。進む。
すると、とうとうやって来ました。
10階層奥のボス部屋へごあんな~い!
見えているのは4mを超す大きな鉄扉。
いったい何トンあるのだろう? ――かなり重たそうである。
ボス部屋前に待機場所?
ここはセーフティーエリアでもあるらしく、一切モンスターが寄ってこない。
そこで俺たちは床に座り込み休憩を挟むことにした。
俺は水筒を出して水を補給する。もちろんシロにも木の器に水を入れ出してやる。
小腹が空いたので、シロと一緒に干し肉ジャーキーを銜えた。
………………
このダンジョンでは5階層ごとにフロアボスを置いている。
そのフロアボスを倒さない限り先には進めない仕様だ。
かといって、『何がなんでも階層突破!』 それだけがダンジョン探索の楽しみ方ではないだろう。
モンスターを狩り、落とす魔石を集めながらレベルアップを図っていく。
これが基本のかたちとなるだろうか……。
特定のルームで鉱石を掘ってもいいだろうし、草原ステージで珍しい薬草などを探すのもありだろう。
また森林ステージにておいては、ダンジョン産の果物などを持ち帰ってもそれなりの稼ぎにはなる。
そして運が良ければ宝箱が出現していることだってあるのだ。
このように自分の実力に合わせてダンジョンと上手くつきあっていくことが大切なことなんだと思う。
モンスターが俺を襲ってくることはないので、ここまで来る間にダンジョン・サラとそれなりに打ち合わせすることができた。
あとは町に戻ってからゆっくりと進めていけばいいだろう。
『ダンジョンが見つかりました』
『では、明日からどうぞ!』
なんてことはまずない。
ダンジョンの管理運営にはかなりの利権が絡んでくる。
これを巡り運営を国で行なうのかギルドで行うのかに始まり、迷宮都市の建設も視野《しや》に入れていくべきだろう。
そのためには決め事も山のようにあるだろうし、ダンジョンに入れるようになるまでは1シーズン (120日) 以上はかかってしまうだろう。
まぁ、関係者には頑張ってもらうとしよう。
その間にダンジョン・カイルを訪ね迷宮都市がどういったものか覗いてくるのもいいかもしれない。
ダンジョン・デレクに関してもいろいろと考えてやらないといけないしなぁ。
あとは地脈が何処を走っているか? これの確認も必要だよなぁ。
まあ、考えるのは町に帰ってからだね。
先行部隊でダンジョンに潜っていた俺たちはこれまでの報告を上げなければならないのだが……。
何だか後続部隊の面々がバタバタと浮足立っている感じがするんだよなぁ。
まあ、俺たちがこんな時間に戻ってくるとは思っていなかったのだろう。
予定を狂わせてしまったかな。
そこで、落ち着いてもらうため後続部隊の面々にもお茶を入れてあげることにした。
その場に毛皮のフロアシートを2枚敷き皆に座ってもらう。
そして再びティーブレイクだ。
「「「ふぅ~」」」 と、その場の空気が緩んでいく。
さて、報告していきましょうかね。
「それで、予定では今朝からダンジョンに入られたと思うのですが、もう戻ってこられたということはダンジョン中で何か問題が生じたのでしょうか?」
「あ、いや特に問題などはないぞ。ただ我々は予定を早めて昨日の晩からダンジョンに突入している。それで5階層までの攻略を終えたため一時的に戻って来たにすぎない」
リーダーを務めるアーツは簡単明瞭にそう伝えた。
「えっ、5階層!? ……聞いておりませんが?」
「すっ、すっ、すいませ~ん。わたし慌ててててて」
「これ落ち着きなさい! ギルド員が慌ててはなりません。冒険者様の前ですよ」
「すっ、すいませ~ん」
「それはさて置き、発見されたばかりのダンジョンにおいて既に5階層までの攻略。にわかに信じられませんが、それが本当なら素晴らしいことです」
俺たちは今までの経過を順に報告していった。
そして今、ジョアンさんは掌に例の金属粒 (ミスリル鉱石) を乗せたまま固まっていた。
………………
あっ、戻ってきたようだ。
「たっ、大変失礼致しました!」
とか言っているものの動揺が半端ない。
ミスリルの枯渇はそれだけ切実な問題だったんだんね。
ダンジョン・カイルで悪さをしていた奴らにはお仕置きが必要だな。
今のところ鉱山からはミスリルが出なくなっている。
あちら (カイル) で採れなくなったのなら、何れはこちら (サラ) に来るようになるだろうし……。
それからは幾度となく聞き返しながらジョアンさんはメモを取っていた。
まぁ事が事だけに、報告書は抜かりなく作成しないといけないのだろう。
さぞかし神経を使うんだろうね。
一方、俺たち先行部隊は昼食のあと再びダンジョンへ突入することになった。
シロにもたっぷり肉を食べさせたし。
転移台座の操作は今回シロにお願いしてみた。
するとシロはピョンと黒い台座に乗っかると、ぺしっと前足を玉 (ぎょく) にあて、いとも簡単に転移陣を出現させていた。
何の問題もなく俺たちはボス部屋を抜けた先にある踊り場へ戻ることができた。
「おっし、シロでも行けたな! 偉いぞ~ 」
そう言いながら頭をなでなで。
さて、この階段を下りていけば6階層だ。
ダンジョン内は少し薄暗いのだが視界はまあまあ良好だ。
20m程は確認できると思う。
光源は間接照明のような感じで天井や壁などがポヤンと光っている。
今まで洞窟型だったダンジョン内部は6階層からは遺跡の通路型に変化している。
こちらでも所々に大小様々なルームが点在しているようだ。
これまでの探索により判明しているもので、モンスターハウス・セイフティーエリア・宝箱エリアの3つである。
ただ何もない空間も多く存在しているし、通路においてもモンスターが普通にエンカウントする。
それに階層は下へ下へと伸びているように見えるが厳密にいうとそうはない。
ダンジョンは亜空間に存在しており、入口を含めた一部だけが地表に現れているようなのだ。
まあ、その亜空間がどこにあって、どのようにして地表と繋がって云々はこの前ダンジョンからダウンロードされた情報の中にはなかった。
必要がある時は直接ダンジョンに聞けばいいだろう。
あのダウンロードは…… もう、こりごりだ。
モンスターを倒すと必ず何かがドロップする。
殆どの場合が魔石なのだが、一度だけ低級ポーションがドロップした。
このあたりもサラ (ダンジョン) と打ち合わせをして、迷宮で使える物を中心に考えていこうと思う。
今現在もアーツが先頭に立ち階層内をグングン突き進んでいる。
そして俺たちは、早くも7階層へ入った。
ウルフ達に加えアルミラージ…… ではなく、ホーンラビットがあちらこちらから飛び込んでくるようになった。
油断していると、いつの間にかお腹にポッカリと穴が空いているということも……。
それに狼とウサギが共存している?
う~ん、普通はあり得ないことだけど、これがダンジョンなんだよねぇ。
アーツは飛び掛かってくるホーンラビットをものともせず、ギッタンバッタン切り落としていく。
その側でポンポンと魔石に変わっていくモンスターを見ていると少し哀れに思えてきた。
8階層に入ってからもアーツの快進撃は止まらない。
鋭い角を武器に俊敏な動きで突っ込んでくるホーンラビット。
そこそこやれる冒険者でも手を焼くことだろう。
だがそれもアーツにかかれば、もはやバッティングセンターのボールのようだ。
切りもしないで長剣のはらの部分でバッシン! バッシン! ぶっ叩いていく。
壁にブチ当たったヤツが魔石へと変わりコロコロ手前に転がってくる。
………………
…………
……
そんな感じで突き進んでいると俺たちはある大きめのルームにブチ当たった。
そっとルームの入口から中を覗いてみると……。
うわ――っ、何あれ! ウサギだらけじゃん。
しかも周りは円形で観客席のような段が付いている。
まるでコロシアム (闘技場) のようだ。
しかし周りに陣取っているウサギ共は観客というわけではない。
そう、一旦中に入れば全方位からホーンラビットが突撃してくるだろう。
まさに地獄の『ホーンラビット・コロシアム』なのだ。
まぁ、俺たちの場合は魔法を使えばあっという間に殲滅できるだろうが。
だけど、それでは面白くない。
ここは魔法なしで行ってみようではないか。
そうアーツとコリノさんに諮ったところ、簡単に同意をえられた。
てなことで、50匹のホーンラビットが犇めきあうコロシアムの中へ俺たちは突っ込んでいった。
うおおぉおおおぉおお! なんじゃこりゃ、真っ白やんけー!
躱す、切る、躱す、躱す、切る、何かだんだん楽しくなってきた!
本来ならば俺は敵認定されないので攻撃を受けることはないのだが、今はみんなが固まっているので仕方がないのだ。
シロも楽しそうに駆け巡っている。
ただ困ったことに、ウサギの集団に突っ込んでいくと、お互いが真っ白なのでシロが何処に居るのか分からなくなるのだ。
俺は感覚共有があるから大丈夫だけれど。
………………
やがてウサギ共は1匹残らず魔石に変えられてしまった。
するとルーム奥の出口付近に銀色の『宝箱』が出現していた。
(おおー、ここで出るんだぁ。皆でよく頑張りましたってことかな?)
鍵は付いていなかったのでシロに開けさせる。――何事も経験だ。
決して罠が恐いわけじゃないんだからねっ!
シロがトトトッと宝箱に近寄っていき右前足でパカッと開けてくれた。
そして、みんなで中を覗いてみる。
宝箱の中にはポーションが1本、20㎝角の麻袋が1枚、鈴が1個が入っていた。
さっそく鑑定してみると、次のような鑑定結果がでた。
『中級ヒールポーション』
かなりの重症の傷でも癒せるようだ。手や足を切断されても直ぐにならくっつけて戻すことが可能だとか。
『マジックバッグ小小』
50cm辺立方体容量のマジックバッグ。ナイフや水筒をはじめ財布などの小物を入れておくには便利である。
『魔獣除けの鈴』
ゴブリン・ウルフ・コボルトといった低級の魔獣やモンスターに効果があるようだ。ただし、通常の獣には効果がない。
それぞれのアイテムについてみんなに説明をおこなった。
そこで率直にどれが欲しいのかと聞いてみると、
アーツはポーション、コリノさんはマジックバッグがいいらしい。
俺には両方とも必要ないので残った鈴を貰うことにした。
ふぅ、みんなの欲しい物が被らなくてよかったな。
臨時の冒険者パーティーではドロップ品を巡って争ったりすることもあるらしいからね。
魔獣除けの鈴か……。
マクベさんにちょうどいいお土産ができたな。
俺たちは勢いもそのままに8階層を突破し9階層へ入った。
特に新しいモンスターが出ることもなく順調に進んでいると……。
おおっ、何だあれは?
ゴブリンがブラックウルフに跨っている。さらに石斧まで持って強そうだ。
所謂『ゴブリンライダー』というやつだ。
不覚にも少しだけかっこいいと思ってしまった。
機動力が格段に上がるのでかなり厄介な相手になるだろう。
――通常の冒険者には。
それでもアーツは止められない。
ゴリゴリ突き進んでいき、とうとう10階層まで来てしまった。
うん、まあね。 通常では有り得ないよね。
まだ、2日目なんだし……。
だけど俺の的確な道案内とアーツのポテンシャルの高さを考えれば可能なわけですよ。
それにシロのアシストがまた素晴らしい。
俺? 俺にはモンスターが襲ってこないからね。高みの見物なんだよね。
モンスターが多いときはそれなりに手伝ってはいるんだけど。
10階層に入ってからモンスターの数は増えているようだけど全く問題はない。
アーツとシロがモンスターを薙ぎ払いながら進む。進む。
すると、とうとうやって来ました。
10階層奥のボス部屋へごあんな~い!
見えているのは4mを超す大きな鉄扉。
いったい何トンあるのだろう? ――かなり重たそうである。
ボス部屋前に待機場所?
ここはセーフティーエリアでもあるらしく、一切モンスターが寄ってこない。
そこで俺たちは床に座り込み休憩を挟むことにした。
俺は水筒を出して水を補給する。もちろんシロにも木の器に水を入れ出してやる。
小腹が空いたので、シロと一緒に干し肉ジャーキーを銜えた。
………………
このダンジョンでは5階層ごとにフロアボスを置いている。
そのフロアボスを倒さない限り先には進めない仕様だ。
かといって、『何がなんでも階層突破!』 それだけがダンジョン探索の楽しみ方ではないだろう。
モンスターを狩り、落とす魔石を集めながらレベルアップを図っていく。
これが基本のかたちとなるだろうか……。
特定のルームで鉱石を掘ってもいいだろうし、草原ステージで珍しい薬草などを探すのもありだろう。
また森林ステージにておいては、ダンジョン産の果物などを持ち帰ってもそれなりの稼ぎにはなる。
そして運が良ければ宝箱が出現していることだってあるのだ。
このように自分の実力に合わせてダンジョンと上手くつきあっていくことが大切なことなんだと思う。
モンスターが俺を襲ってくることはないので、ここまで来る間にダンジョン・サラとそれなりに打ち合わせすることができた。
あとは町に戻ってからゆっくりと進めていけばいいだろう。
『ダンジョンが見つかりました』
『では、明日からどうぞ!』
なんてことはまずない。
ダンジョンの管理運営にはかなりの利権が絡んでくる。
これを巡り運営を国で行なうのかギルドで行うのかに始まり、迷宮都市の建設も視野《しや》に入れていくべきだろう。
そのためには決め事も山のようにあるだろうし、ダンジョンに入れるようになるまでは1シーズン (120日) 以上はかかってしまうだろう。
まぁ、関係者には頑張ってもらうとしよう。
その間にダンジョン・カイルを訪ね迷宮都市がどういったものか覗いてくるのもいいかもしれない。
ダンジョン・デレクに関してもいろいろと考えてやらないといけないしなぁ。
あとは地脈が何処を走っているか? これの確認も必要だよなぁ。
まあ、考えるのは町に帰ってからだね。
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