俺とシロ

マネキネコ

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26 トラベル!

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 さて、そろそろ訓練場くんれんじょうに入って準備でもしておくかな。

 俺は訓練場の外周にそって軽くランニングを始めた。

 シロは何故なぜだか喜んでいる。最近、こうして一緒に走ることなんてなかったからなぁ。

 まあ、シロが楽しいのならそれでいいか。

 5周程まわって今度は柔軟じゅうなんで身体を伸ばしていく。

 そこでアーツさん登場である。

 「おはようございます。今日もよろしくお願いします!」

 「へーあんた、よくでてきたね~」

 「へっ、なにか間違ってましたか? 俺こういうのは初めてなんで」

 「あっ、あんたは気にしなくていいよ。こっちの事だからね。 えっと、名前はゲンだったね。もう準備は出来てるみたいだし、始めるよ」

 ………………

 それから一刻 (2時間)。またまたきたえていただきましたー。

 俺は地面にぶっ倒れている。

 「それじゃあ、また明日!」

 片手を軽く上げて去っていくアーツ先生……。

 俺はフラフラしながら冒険者ギルドを後にした。

 少しだけ外の空気を吸って休憩きゅうけいしたのち冒険者ギルドに戻ってきた。

 さて、今日の依頼いらいだが。

 『薬草採取やくそうさいしゅ』やっぱりこれだよね。

 詳細しょうさいをカウンターで聞いてみると、常設依頼じょうせついらいなので10本単位で受け付けているという。

 薬草の現物は見せてもらえたので、

 あとは採取の仕方や保存の方法などを聞いたのち冒険者ギルドを出発した。





 薬草の主な採取場所は北の門を抜けて一刻程北に行った森林地帯だそうな。

 冒険者ギルドを出て町中を早歩きで進むこと20分、俺たちは北門をでた。

 そこからはシロと並走へいそうして街道かいどうを走っていく。

 門が見えなくなったところで道を少し外れ人気のない場所に移動。

 鑑札かんさつが付いている革ひもをシロの首から外し、サイズチェンジしたシロの背中にまたがって街道を走ってもらった。

 向かう途中で馬車や人が居る場合は迂回うかいして森の中を走っていく。

 すると、ものの30分程で目的の森林地帯に入った。

 「さぁ、シロ頼むぞ!」

 何をやるのかというと、――鑑定無双かんていむそう

 鑑定しながら各種薬草を探っていくという、ラノベでもよくあるやつだ。

 先ほど冒険者ギルドのカウンターにて薬草を見せてもらった際、あらかじめシロに鑑定してもらっていたのだ。

 その鑑定結果をもとに薬草を探していくつもりでいたのだが……。

 シロが言うにはにおいで判別できるということだ。

 へっ……。それなら、あんな小細工こざいくしてまで鑑定する必要もなかったわけか……。

 まぁ、参考にはなったけど。

 それからは森に入って群生地ぐんせいちをガンガン攻めまくり薬草を集めていった。





 そろそろ昼を過ぎた頃だろうか、ここらで昼食をとることにしよう。

 俺はシロの背に跨ったまま、

 ゆっくりご飯が食べられる場所がないか、探すようにお願いした。

 すると、シロは嬉しそうに森の中をめぐっていく。

 『たのしい、うれしい、おにく、うごく、さがす、いっしょ』

 シロの気持ちが直接のうに伝わってくる。

 そうかそうか、俺もシロといっしょで楽しいぞ。

 しばらく森の中を進んでいると、俺たちは少し開けた丘に出てきた。

 もちろん周りは森に囲まれている。しかし薬草採取の拠点きょてんにするなら良い感じの丘である。

 よし、ここで野点のだてでもして一休みしますかね。

 この前、露店ろてんで買った小さな椅子いすを取り出して腰掛ける。

 湯をかすために取り出したヤカンにはすでに水が入っている。

 まきを集めるのも面倒なのでシロに火魔法で熱してもらいお湯を沸かした。

 それを紅茶葉こうちゃばの入ったポットに注いでいく。

 紅茶葉をらしている間、

 フライパンをシロの前に置き、出がけに買っておいた串焼きを入れてやる。

 シロが食べやすいよう、肉を串から外すことも忘れない。

 そうして出来あがった紅茶を木製のミニジョッキに注ぐと、ふんわりとした良い香りがあたりにただよう。

 ふぅ、うま~い。

 森の中でいただく紅茶もなかなか良いものである。





 さて、人心地ついたところで、待ちに待った魔法の検証けんしょうを行っていきますかね。

 まずは風魔法、ウインドカッターからだ。

 始めにゆっくりと深呼吸しんこきゅうを行ないかたの力を抜く。

 そして右手を前に突きだし精神集中せいしんしゅうちゅう。……むむむむむっ、

 「ウインドカッター!!」

 叫んだと同時に風のやいばが目標をズタズタに切り刻む…… はずなんですけど……。

 何か向こうの方で微風そよかぜが立木にあたってカサカサいっていた。――しょぼい。

 「…………」

 「シロ、ちょっとやって見せて」

 俺の言葉にシロは『まかせなさい!』とでもいうようにコクコクと頷くと、広がる森に向かって魔法を放った。

 『ワンッ!』

 シロがえた瞬間、20m先の大木が数本まとめて倒された。

 おお~すごい、さすがシロだな。

 うう~ん、俺の場合と何が違うんだろう。

 鑑定で確かめてみてもMP不足といった問題ではなさそうだ。

 「シロ、俺の魔法は何で威力いりょくがでないんだ?」

 するとシロは俺の側にすり寄ってきて、

 『たのしい、せなか、うつ、のせる、いっしょ、あそぶ』

 う~ん、何だ! アシストでもしてくれるのかな?

 ……とにかくやってみよう。

 「それじゃあ、シロ頼むな」

 シロの背中に左手を乗せ、右手は目の前に見えている大木に向ける。

 そして目標を見つめて精神統一せいしんとういつ。……むむむむむっ、

 「ウインドカッター!!」

 すると、今まで感じたことのない魔力のうずというのか奔流ほんりゅうみたいなものが感じられた。その魔力が身体をめぐって右手に収束しゅうそくし、一気に放出されたのだ。

 目の前の大木はことごとくなぎ倒され、そこにはポッカリと何もない空間が広がっていた。





 そうか……、今の感覚なのか。

 自分の身体を巡っている魔力の流れ、『魔力回路まりょくかいろ』とでもいうべきか?

 それが随分ずいぶんと太くなっているのが実感できた。そして次の瞬間、

 ピーン!{魔力操作のレベルが6に上がりました}

 ピーン!{風魔法のレベルが5に上がりました}

 おいおいマジかよ、ポンポン上がりやがって。――鑑定!


 ゲン    Lv10

 年齢    17
 状態    通常
【従魔】   フェンリル(シロ)
 HP    94/94
 MP    144/168
 筋力    54
 防御    55
 魔防    62
 敏捷    44
 器用    49
 知力    103
【特殊スキル】  時空間魔法(U)    身体頑強    状態異常耐性
【スキル】    鑑定 (4)    魔法適性(全) 魔力操作(6)
         剣術 (1)
【魔法】     風魔法(5)
【加護】     ユカリーナ・サーメクス


 今、魔法関係のスキルが一気にジャンプアップしたよな。

 シロのアシストを受けることで『魔力回路』が完成した?

 さらに『風魔法』も強化されたということか。

 んっ、すると全ての魔法適性まほうてきせいをもってる俺は、シロにアシストしてもらえれば他の魔法も覚えられるのか?

 数ある魔法の中で一番に覚えてみたいものといえば……。

 やはりアレだよな。そう『浄化じょうか』だ。

 「シロ、浄化を使いたいんだがアシストを頼めるか?」

 シロはコクコク頷いている。――可愛い。

 早速、シロの背中に手を置いてみると浄化のイメージが頭に流れ込んでくる。

 汚れを落とすクリーン・病原菌びょうげんきん毒素どくそ除去じょきょのろいの解呪かいじゅ。そして、アンデッドに対しての特効とくこう

 すごいな。 浄化は聖魔法のくくりで複合魔法ふくごうまほうになるのか。

 ……イメージよし。では、いくぞ!

 「浄化!」

 次の瞬間、魔力で編んだ薄いベールのようなものが俺とシロの身体を覆った。

 そして、キラキラと輝いたあとス――と消えていった。

 おお、成功だよな。

 しかしながら、鑑定しても魔法は増えていなかった。

 う~ん、聖魔法は特殊とくしゅと言われているだけあって、かなり難しいようだ。

 でも覚えたい魔法なので、また近々チャレンジしてみようと思う。

 よし、気分を変えて次にいこう。

 今日は時間的にこれがラストになるかな。

 「シロ、もう一回だけ付き合ってくれ。今度は氷魔法のアイスランスを頼む」

 ………………

 「アイスランス!!」

 魔法が発動すると頭上に3本の氷槍ひょうそうが形成され射出される。

 1本目の大木は貫通かんつうして2本目の木に突き刺さっている。

 その刺さった周辺は氷漬けになっている。(半径50㎝程)

 ピーン!{氷魔法を取得しました}

 よっしゃぁ、氷魔法を覚えたぞ。

 この調子で一つ一つ着実に覚えていこう。





 「シロ、そろそろ帰るぞー。ここは魔法の訓練をするには良い場所だよな。また来ような」

 シロを呼び寄せ背中に触れる。

 「それじゃ行くぞ。トラベル!」

 すると周りの景色がグニャリとくずれ、一瞬で北門近くの街道脇に出てきた。

 よし! 成功だな。

 そして街道に出ようと一歩踏み出したのだが、

 ――おおっとっと、

 足がもつれそうになった。頭も少しクラクラする。

 急いで自分に鑑定を掛け状態を確認すると、MPの数値が30ほど減っていた。

 う~ん、一気にMPを使ったことによる魔力酔まりょくよいかなぁ?

 ラノベにはそう書いてあったと思う。違うかもしれないが。

 『トラベル』は便利な魔法だけにMPの燃費しょうひもそれなりというところか。

 「さあ、帰ろう!」

 鑑札をシロの首に付け直し、俺たちは北門をくぐって町へ入っていった。

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