俺とシロ

マネキネコ

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17 エール

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 暗い階段を下り食堂へ向かうと皆はすでに集まっていた。

 「すいませーん、お待たせして」

 軽く挨拶してから俺は席に着いた。

 シロはテーブルの下に潜り込んでいる。いったい何をやっているんだ?

 ああ、口をモグモグしているなぁ。どうやらコリノさんから干し肉をもらっていたようだ。

 「可愛がってもらえて良かったなー」 

 そう言ってシロの頭をでていると、

 「先に飲み物はいるかい?」

 女将さんにそう聞かれ、テーブルの上に目をやると皆それぞれに飲み物を頼んでいるようだ。

 「エールはありますか?」

 俺はドキドキしながら聞いてみると、

 「あいよ!」

 女将さんは注文を受けて去っていった。

 やっぱりあるんだなぁエール。――何か無性に嬉しい。

 「はい、こっちがエールね。10バースだよ」

 その言葉にあわてて大銅貨を1枚取り出し女将さんへ渡した。





 シロはお皿に水を入れてもらった。

 俺は早速エールを飲んでみた。グビ グビ グビ ぷっは―!

 う――――ん、悪くない。冷えてはいないがぬるいわけでもない。

 苦みは少ないがほのかな麦の香りが鼻にぬける。この世界でもやっていけそうだ!

 などとニヤニヤしながら飲んでいると、

 「そんなに美味しいのかい、ここのエール?」

 「あっ、いいえ前飲んだヤツに似ていたので、つい」

 何とかごまかした。エールの味もけして悪くはないのだが。

 「何か良い思い出があるのよね~。ゲンちゃ~ん」

 カイアさん……。テーブルにはすでにジョッキが1つ横を向いているのですが。――凄!

 ここで俺はいくつか気になっていることを聞いてみた。

 「この国では食堂や宿でのチップはどうなっているのでしょう?」

 「チップ、なんだいそれは?」

 「あの、何ていうのか気持ちみたいな……」

 「ああ、心づけのことかな。一般にはないねぇ。貴族様がたまに『釣りはいらぬ』なんてやっているだけだよ」

 そうマクベさんが教えてくれた。――なるほどね。

 「ギルドなんかはどうなっているのでしょう?」

 「う~ん業種しだいかなぁ。我々商人は『商業ギルド』で一本化されているし、『冒険者ギルド』も一つにまとまっているな」

 「魔法士ギルドや錬金術師れんきんじゅつしギルドなんかは特殊とくしゅかな。厳しい基準があるみたいだね」





 「はいよ! 待たせたねー。熱いから気をつけなぁ」

 そう言って、まだジュージューと音を立てている肉の皿をテーブルに素早く置いていく。

 おほー、これはうまそうだ!

 もちろん、シロの分もしっかりと頼んである。――別料金になるが。

 シロの肉は所謂いわゆるブルー。表面を少しあぶっただけだな。

 みんなの前に行き渡ったところで、

 『いただきまーす!』

 うまー、ステーキ旨し。味は豚に近いが美味しければそれでいい。

 次に俺は葡萄酒ぶどうしゅを頼み。シロも足りないだろうとステーキをもう1皿頼んであげた。

 シロも満足そうに口の周りをペロペロしている。――可愛い。





 その後は皆で少し飲んだあと解散した。

 部屋に持って来てもらったお湯で顔を洗う。

 本来はシロの『浄化』があるので必要ないのであるが、皆の手前そうもいかないのだ。

 『お湯も頼まないのか、なんて汚いヤツ』とは思われたくないからね。

 しかし、浄化は本当に便利な魔法だ。

 服も身体も綺麗になるからね。――お尻もね。

 流石はシロちゃん、可愛いだけではないのだよ。

 外から聞こえてくる雨音が少し小さくなってきたようだ。何とかこのまま止んでほしい。

 朝まで雨が残ってしまうと道がぬかるんで馬車が走れないそうだ。

 それから俺はベッドに横になった。

 魔力操作の訓練をロウソクが消えるまでやろうと思っていたのだが、……いつの間にか寝ってしまったようだ。

 こちらの世界に招かれ若くなってからというもの寝つきがすごく良くなった。

 今朝はシロに起こされる前に目が覚めた。部屋は真っ暗だったので木窓を開けてみた。

 外は薄っすら明け方で心配していた雨は上がっているようだ。

 シロはベッドの横で尻尾をブンブン振っている。

 「よしよし、散歩に行ってみるか?」 

 すると、シロは後ろ足で立ち上がると喜びのチンチンを披露ひろうしてくれた。

 ササッと準備をして1階に下りていく。朝食の準備をしていた女将さんにあいさつして宿屋の玄関から表に出た。

 う~ん、朝は気持ちがいいな~。ぬかるみを避けながら村の中央に向かい歩きはじめた。

 しばらく、そのまま進み村の外れまで歩いてきたが、太陽が顔を出したので散歩を切り上げて宿屋へ戻ってきた。





 すると、すでにに皆は準備を終え食堂に下りてきていた。

 「おはようございます!」

 俺は挨拶をしながらテーブルに着く。

 「この分なら、なんとか行けるだろう」

 それを聞いてほっと安堵した。

 ………………

 何でも、このヨーラン村からモンソロの町までは馬車を飛ばせば1日で届く距離にあるという。

 しかし、今回はぬかるみを避けたり同行者が歩きということもあり、この先の村でもう一泊することになる。

 モンソロの町では日中であれば門は開放されているのだが、さすがに夜間は閉まってしまうそうだ。

 なので、モンソロの手前にあるマギ村が今日の目的地となる。

 距離は短く半日も掛からないということなので、ゆっくりと朝食を食べてヨーラン村を出発した。

 昼前まではぬかるみをうように進んでいき、午後からは特に問題なく順調に進んでいった。

 俺は道すがらインベントリーによる訓練を続けている。――もちろん鑑定もだ。

 鑑定できる距離も伸びてはいるが……。まあ、ミリ単位だな。

 少し気落ちしているが特に問題はない。

 また、レベルが上がる時を楽しみにしておこう。





 ほどなくして俺たちはマギ村へ入った。

 モンソロの町から1日と掛からない村なので人も多いと聞いている。

 基本的には麦や豆といった農業が中心であるようだ。

 そこに、麻などの繊維せんいをはじめ革製品かわせいひんや武器なども町に卸しているという。

 そのため、専門の職人も多く住んでおり村としての規模は大きい。

 村のメインストリートを通り俺たちは宿屋の前に到着した。

 ここは、ほぼ村の中心地でいろいろな店や工房がのきを連ねている。

 道には商人や職人さんだろうか多くの人が行き交い賑わいを見せている。

 それに、どうしたことかカイアさんの様子がすこし変なのだ。

 いつにも増してテンションが高い。

 フンす! フンす! と鼻息も荒くやたらと気合が入っているのだが……。

 ここは馴染なじみの宿屋ということだが昨日の宿とはまったく違う。

 昨日のあれが宿屋のデフォなんだと思って諦めていたのだ。

 なのに、どーしてくれんだよ! この気持ちを……。

 いい意味で裏切られた訳だが、村によってこうも違うものなのかね。

 まあ、考えてみれば宿屋もピンキリということだよね。

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