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1章

第22話

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 翌朝。
 俺とナズナは宿屋の受付で宿泊の支払いを済ませていた。

「世話になったな」

「こっちこそマナーのいい客でよかったね。またいつでも来てくれよ」

「夕食も朝食も本当に豪華でおいしかったです」

「そう言ってくれて嬉しいよ。外から客なんて滅多に来ないから張り切っちまったさ」

 ふくよかな女将は楽しそうに笑った。
 どうやら他人と話すことが好きみたいだ。

「外から客なんて滅多に来ないか。たしか里には結界が張られているんだったよな?」

 昨日の女の子の言葉を思い出して、俺はふとそんなことを口にする。
 〝この里にはちょっとした使命がある〟っていう言葉が少し気になったからかもしれない。

「よく知ってるね。ここは勇者様を待つ里だからね」

「えっ? 勇者……ですか?」

「あれ? 結界のことは知ってたのにこのことは知らなかったのかい?」

「俺たちもこの里について詳しいわけじゃないからな」

 それにしても、勇者を待つ里とはなんとも意味深だ。
 里に隠された秘密はまだまだありそうだな。

 俺は興味本位で女将に訊ねた。

「詳しく教えてくれないか?」

「そうだねぇ……。まあせっかく泊まってもらったわけだし、今回は特別に教えてもいいかね。2人ともちょっと顔を寄せな」

 女将は近くに従業員がいないことを確認すると小声で話し始める。

「里の外れにある高台はもう目にしたかい?」

「そういえば昨日ここへやって来た時入口から見たな」

「あそこにはね。この里の大巫女様が暮らしているのさ。この里が勇者様を待つ里って言われる所以はすべて大巫女様にあるのさ」

「勇者を待つ大巫女…………。あっ」

「どうしたナズナ?」

「思い出しました。私もその話なら聞いたことがあります」

「そうなのか?」

「800年前。シグルード王国があるこの辺り一帯は竜族が暮らしていましたが、その中では人族の方々も一部共存して暮らされていました。〝水明山の麓に勇者を待つ大巫女の里ありけり〟という古伝が当時存在したのですが、その一節に登場する里というのは花鳥の里のことを指していたのかもしれません」

「水明山って言えばたしかにうちの里の守護山のことだね。けど、竜族がどうとかって……お嬢さんは一体何の話をしてるんだい?」

 女将は若干混乱した様子だ。
 まあ、800年前だの竜族だの、いきなりそんなことを言われたら戸惑って当然だろう。

 〝実はこの子は竜姫で竜族の生き残りなんだ〟なんてことを言えば、さらに混乱を与えるだけだからここは黙っておくことにするか。

 俺はナズナにアイコンタクトを送ると女将に先を促す。

「気にするなこっちの話だ。それで? その大巫女とやらはどうして勇者を待っているんだ?」

 返答によっては直接俺にも関わってくることだ。
 俺はこれからマモンのために、最強の無双神器を作ろうとしているわけだからな。

「え? ああ……大巫女様が勇者様を待っている理由かい? それはクレストオーブを渡すためさ」

「クレストオーブ?」

 頭にハテナマークを浮かべるナズナとは対照的に俺はそれを聞いてすべてを理解した。

(そうか。こんなところにあったのか)

 クレストオーブっていうのは、魔王を弱体化させるために使う大精霊を宿した宝珠のことだ。
 前世でも仲間たちと一緒にこのオーブを集めて魔王を弱らせたから、俺はそれについてよく知っていた。

(クレストオーブは一つ集めるたびに勇者は覚醒して強くなっていくんだよな)

 魔王を倒すには必要不可欠なものだったりする。

 それでこのザナルスピラには四つのクレストオーブが存在するようだ。

 そのうちの一つがシグルード王国にあるっていう予言を耳にして、俺はマモンとビアトリスとルヴィと一緒にこの国までやって来た、というのがここまで経緯だ。

 先に七曜の武器を手に入れる形となってしまったが、シグルード王国へ来た一番の目的はクレストオーブの入手だ。
 今もマモンたちはその在処を探しているに違いない。

「勇者様の資格を持った者が大巫女様の手にするクレストオーブに触れると虹色に輝くって言われているね。それで判断して大巫女様はオーブを渡すのさ」

「つまり大巫女は勇者にオーブを渡すために代々この里で待っているってことなんでしょうか?」

「簡単に言えばそうだね。ただ当代の大巫女様は問題を少し抱えていてね。それができるか分からない状態にあるのさ」

「何か問題でもあるのか?」
 
 俺がそう訊ねると、女将は再び周りを気にする素振りを見せてさらに声を潜めた。
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