22 / 81
1章
第22話
しおりを挟む
翌朝。
俺とナズナは宿屋の受付で宿泊の支払いを済ませていた。
「世話になったな」
「こっちこそマナーのいい客でよかったね。またいつでも来てくれよ」
「夕食も朝食も本当に豪華でおいしかったです」
「そう言ってくれて嬉しいよ。外から客なんて滅多に来ないから張り切っちまったさ」
ふくよかな女将は楽しそうに笑った。
どうやら他人と話すことが好きみたいだ。
「外から客なんて滅多に来ないか。たしか里には結界が張られているんだったよな?」
昨日の女の子の言葉を思い出して、俺はふとそんなことを口にする。
〝この里にはちょっとした使命がある〟っていう言葉が少し気になったからかもしれない。
「よく知ってるね。ここは勇者様を待つ里だからね」
「えっ? 勇者……ですか?」
「あれ? 結界のことは知ってたのにこのことは知らなかったのかい?」
「俺たちもこの里について詳しいわけじゃないからな」
それにしても、勇者を待つ里とはなんとも意味深だ。
里に隠された秘密はまだまだありそうだな。
俺は興味本位で女将に訊ねた。
「詳しく教えてくれないか?」
「そうだねぇ……。まあせっかく泊まってもらったわけだし、今回は特別に教えてもいいかね。2人ともちょっと顔を寄せな」
女将は近くに従業員がいないことを確認すると小声で話し始める。
「里の外れにある高台はもう目にしたかい?」
「そういえば昨日ここへやって来た時入口から見たな」
「あそこにはね。この里の大巫女様が暮らしているのさ。この里が勇者様を待つ里って言われる所以はすべて大巫女様にあるのさ」
「勇者を待つ大巫女…………。あっ」
「どうしたナズナ?」
「思い出しました。私もその話なら聞いたことがあります」
「そうなのか?」
「800年前。シグルード王国があるこの辺り一帯は竜族が暮らしていましたが、その中では人族の方々も一部共存して暮らされていました。〝水明山の麓に勇者を待つ大巫女の里ありけり〟という古伝が当時存在したのですが、その一節に登場する里というのは花鳥の里のことを指していたのかもしれません」
「水明山って言えばたしかにうちの里の守護山のことだね。けど、竜族がどうとかって……お嬢さんは一体何の話をしてるんだい?」
女将は若干混乱した様子だ。
まあ、800年前だの竜族だの、いきなりそんなことを言われたら戸惑って当然だろう。
〝実はこの子は竜姫で竜族の生き残りなんだ〟なんてことを言えば、さらに混乱を与えるだけだからここは黙っておくことにするか。
俺はナズナにアイコンタクトを送ると女将に先を促す。
「気にするなこっちの話だ。それで? その大巫女とやらはどうして勇者を待っているんだ?」
返答によっては直接俺にも関わってくることだ。
俺はこれからマモンのために、最強の無双神器を作ろうとしているわけだからな。
「え? ああ……大巫女様が勇者様を待っている理由かい? それはクレストオーブを渡すためさ」
「クレストオーブ?」
頭にハテナマークを浮かべるナズナとは対照的に俺はそれを聞いてすべてを理解した。
(そうか。こんなところにあったのか)
クレストオーブっていうのは、魔王を弱体化させるために使う大精霊を宿した宝珠のことだ。
前世でも仲間たちと一緒にこのオーブを集めて魔王を弱らせたから、俺はそれについてよく知っていた。
(クレストオーブは一つ集めるたびに勇者は覚醒して強くなっていくんだよな)
魔王を倒すには必要不可欠なものだったりする。
それでこのザナルスピラには四つのクレストオーブが存在するようだ。
そのうちの一つがシグルード王国にあるっていう予言を耳にして、俺はマモンとビアトリスとルヴィと一緒にこの国までやって来た、というのがここまで経緯だ。
先に七曜の武器を手に入れる形となってしまったが、シグルード王国へ来た一番の目的はクレストオーブの入手だ。
今もマモンたちはその在処を探しているに違いない。
「勇者様の資格を持った者が大巫女様の手にするクレストオーブに触れると虹色に輝くって言われているね。それで判断して大巫女様はオーブを渡すのさ」
「つまり大巫女は勇者にオーブを渡すために代々この里で待っているってことなんでしょうか?」
「簡単に言えばそうだね。ただ当代の大巫女様は問題を少し抱えていてね。それができるか分からない状態にあるのさ」
「何か問題でもあるのか?」
俺がそう訊ねると、女将は再び周りを気にする素振りを見せてさらに声を潜めた。
俺とナズナは宿屋の受付で宿泊の支払いを済ませていた。
「世話になったな」
「こっちこそマナーのいい客でよかったね。またいつでも来てくれよ」
「夕食も朝食も本当に豪華でおいしかったです」
「そう言ってくれて嬉しいよ。外から客なんて滅多に来ないから張り切っちまったさ」
ふくよかな女将は楽しそうに笑った。
どうやら他人と話すことが好きみたいだ。
「外から客なんて滅多に来ないか。たしか里には結界が張られているんだったよな?」
昨日の女の子の言葉を思い出して、俺はふとそんなことを口にする。
〝この里にはちょっとした使命がある〟っていう言葉が少し気になったからかもしれない。
「よく知ってるね。ここは勇者様を待つ里だからね」
「えっ? 勇者……ですか?」
「あれ? 結界のことは知ってたのにこのことは知らなかったのかい?」
「俺たちもこの里について詳しいわけじゃないからな」
それにしても、勇者を待つ里とはなんとも意味深だ。
里に隠された秘密はまだまだありそうだな。
俺は興味本位で女将に訊ねた。
「詳しく教えてくれないか?」
「そうだねぇ……。まあせっかく泊まってもらったわけだし、今回は特別に教えてもいいかね。2人ともちょっと顔を寄せな」
女将は近くに従業員がいないことを確認すると小声で話し始める。
「里の外れにある高台はもう目にしたかい?」
「そういえば昨日ここへやって来た時入口から見たな」
「あそこにはね。この里の大巫女様が暮らしているのさ。この里が勇者様を待つ里って言われる所以はすべて大巫女様にあるのさ」
「勇者を待つ大巫女…………。あっ」
「どうしたナズナ?」
「思い出しました。私もその話なら聞いたことがあります」
「そうなのか?」
「800年前。シグルード王国があるこの辺り一帯は竜族が暮らしていましたが、その中では人族の方々も一部共存して暮らされていました。〝水明山の麓に勇者を待つ大巫女の里ありけり〟という古伝が当時存在したのですが、その一節に登場する里というのは花鳥の里のことを指していたのかもしれません」
「水明山って言えばたしかにうちの里の守護山のことだね。けど、竜族がどうとかって……お嬢さんは一体何の話をしてるんだい?」
女将は若干混乱した様子だ。
まあ、800年前だの竜族だの、いきなりそんなことを言われたら戸惑って当然だろう。
〝実はこの子は竜姫で竜族の生き残りなんだ〟なんてことを言えば、さらに混乱を与えるだけだからここは黙っておくことにするか。
俺はナズナにアイコンタクトを送ると女将に先を促す。
「気にするなこっちの話だ。それで? その大巫女とやらはどうして勇者を待っているんだ?」
返答によっては直接俺にも関わってくることだ。
俺はこれからマモンのために、最強の無双神器を作ろうとしているわけだからな。
「え? ああ……大巫女様が勇者様を待っている理由かい? それはクレストオーブを渡すためさ」
「クレストオーブ?」
頭にハテナマークを浮かべるナズナとは対照的に俺はそれを聞いてすべてを理解した。
(そうか。こんなところにあったのか)
クレストオーブっていうのは、魔王を弱体化させるために使う大精霊を宿した宝珠のことだ。
前世でも仲間たちと一緒にこのオーブを集めて魔王を弱らせたから、俺はそれについてよく知っていた。
(クレストオーブは一つ集めるたびに勇者は覚醒して強くなっていくんだよな)
魔王を倒すには必要不可欠なものだったりする。
それでこのザナルスピラには四つのクレストオーブが存在するようだ。
そのうちの一つがシグルード王国にあるっていう予言を耳にして、俺はマモンとビアトリスとルヴィと一緒にこの国までやって来た、というのがここまで経緯だ。
先に七曜の武器を手に入れる形となってしまったが、シグルード王国へ来た一番の目的はクレストオーブの入手だ。
今もマモンたちはその在処を探しているに違いない。
「勇者様の資格を持った者が大巫女様の手にするクレストオーブに触れると虹色に輝くって言われているね。それで判断して大巫女様はオーブを渡すのさ」
「つまり大巫女は勇者にオーブを渡すために代々この里で待っているってことなんでしょうか?」
「簡単に言えばそうだね。ただ当代の大巫女様は問題を少し抱えていてね。それができるか分からない状態にあるのさ」
「何か問題でもあるのか?」
俺がそう訊ねると、女将は再び周りを気にする素振りを見せてさらに声を潜めた。
10
お気に入りに追加
1,540
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる