上 下
83 / 90
6章

第2話

しおりを挟む
(たしか今朝、《ドレスアップ》の魔石が出たよな? これが使えるんじゃないか?)

 ゼノは、魔導袋の中から《ドレスアップ》の魔石を取り出すと、聖剣クレイモアにそれをはめ込む。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「ああ。ひょっとしたら、なんとかなるかもしれない」

 剣身ブレイドに手を当てると、ゼノはすぐさま詠唱した。

「我の仲間たちに煌びやかな衣服を与えよ――《ドレスアップ》」 

 すると。
 眩い光がゼノたちの体を包み込み、4人の衣服は、あっという間に豪華なものへと変化する。

「うぉっ!? すげぇーぜ、ゼノっ! んな魔法も使えたのかよ!?」

「わたしのシスター服も……なんか、ものすごーい高価なものに変わっちゃってます!?」

「こんな高そうな服……ベルも着たことがない……」

 身につける衣服が変わった途端、都を行き交う者たちからもヒソヒソ話をされることもなくなり、今度は打って変わって、いい意味で注目の的となっていた。

「ゼノ様っ! 皆さん、わたしたちのことを羨ましそうに眺めてますよ♪」

「この服で背中にクロノスアクス・改を装着してると違和感あるぜ……。まぁ、嫌な気はしねーけどな」

「……なんか、不思議な気分……」

 3人ともそれなりに、豪華となった衣服を楽しんで着こなしているようだった。





 そんな風にはしゃぎながら、中央の通りをさらに進んで行くと、目の前に巨大な城が見えてくる。

 両端には、天まで届くような見張り台ベルクフリートが2棟建てられており、それを囲むようにして頑丈な城壁が張り巡らされている。

 本館パレスの外壁には豪華絢爛な装飾がなされ、その光景は、ここがまさにアスター王国の中心であるということを皆に強く実感させた。

「すごい大きなお城……。ベル、感動っ……」

「アタシは、この城は何度か絵画で見たことがあるぜ。ホントにまんまなんだな!」

「これがアスター城なんですね♪ ゼノ様、さっそく中へ入りましょう~」

「ああ、そうだな」 

 城へと続く長い階段の前には、アスター王国の旗を掲げて監視に当たる数名の王国騎士団の姿があった。
 ゼノたちの姿に気付くと、そのうちの1人が声をかけてくる。

「失礼ですが、領民の方はここから先立ち入り禁止となります」

「あの……実は俺たち。ギュスターヴ女王陛下に呼ばれて、やって参りまして……」

 そう口にしながらゼノが招待状を見せると、すぐに騎士団員は胸に手を当てて敬礼をした。

「これは大変失礼いたしました。どうぞ、城の中へとご案内させていただきます」

 ゼノたち4人は、騎士団員の後に続いて、ついに城内へと足を踏み入れる。



 ◆



 公賓室へと通されて、しばらくその場で待っていると、やがて侍従の者に声をかけられる。

「謁見の準備が整いました。皆さん、どうぞこちらへ」

 案内され、煌びやかな玉座の間へと4人は通された。

 バタン!

 扉を開けて中へ入ると、すぐにゼノの目にある人物の姿が飛び込んでくる。


(あれが、ギュスターヴ女王……)

 大広間の中央上段には、黄金の椅子に腰を掛ける君主の姿があった。

(随分と若いな。俺たちとそこまで変わらないじゃないか) 

 ギュスターヴがブロンドの前髪を静かに払うと、その美貌が明らかとなる。

「……ふぇっ!? ホントに噂通りの美人さんですっ……!」

「……きれいなお顔……」

 モニカとベルは、その美しさに見惚れてしまっている。
 だが、アーシャだけは1人冷静だった。

「まずは挨拶だぜ」

 全員にそう声をかけると、アーシャは先立って頭を下げる。
 さすが、ゴンザーガ家の令嬢だなと思いながら、ゼノもモニカとベルと一緒に頭を低くした。

「よい、顔を上げよ」 

 ギュスターヴにそう言われると、4人は顔を上げた。

「そなたらが、マスクスの冒険者パーティー【天空の魔導団クランセレスティアル】か。我が名は、アスター王国第54代君主ギュスターヴ。よくぞ、王都まで参られた。歓迎するぞ」

 そう告げながら、女王はまずアーシャに顔を向ける。

「ゴンザーガ卿の令嬢……そなたが、アーシャ・ゴンザーガだな?」

「はい。お目にかかれて光栄です、女王陛下」
 
 ディランやクレルモン卿を前にした時とは異なり、アーシャは胸に手を当てながら、片膝を立てて頭を低くする。

(……すごい。いつものアーシャじゃないみたいだ……)

 アーシャは、普段のぶっきら棒な物言いは伏せ、礼儀正しく受け答えをした。

「そなたの活躍は耳にしておる。貴族出身で、術使いの冒険者というのは相当に珍しいからな。なんでもマスクスでは、赤髪の戦斧使いとして恐れられているらしいではないか」

「い、いえ……恐縮です」 

 珍しくアーシャは、恥ずかしそうに顔を赤くさせる。
 まさか、女王に自分の存在が認知されていたとは思っていなかったのだろう。

 ギュスターヴはアーシャだけでなく、ほかの女子2人についても把握しているようであった。
 亜人族であるベルにも、ギュスターヴが差別するようなことはなく、人格者としての一面を覗かせる。

 そして、彼女は最後にゼノへ目を向けた。

「……それでそなたが、かの大賢者と同じ名を持つゼノだな?」

「はい。陛下、はじめてお目にかかります。ゼノ・ウィンザーと申します」

「ほう……なかなかに色男だ」

 ギュスターヴは脚を組み替えると、ゼノを舐め回すように一瞥した。

「そんな、とんでもないです……」 

 少しだけ居心地が悪くなって、ゼノは視線を逸らしてしまう。

「そなたの噂なら、いろいろと聞いておるぞ。先日も師団長から耳にした。なんでも、そなたは未発見の魔法が扱えるらしいな?」

「……」

 一瞬どう返答するか迷うゼノだったが、ここまで話が大きくなってしまった以上、今さら隠し通すことはできないと判断する。

 素直にこくんと、ゼノは頷いた。
 
「おっしゃる通りです」

「ならば、今日も《テレポート》の魔法を使って来たのだろう? そなたにとって、発見済みの魔法を扱うなどと、造作もないことなのだろうからな」

「え、えぇ……まぁ」

 本当は、魔石を入手しないと発見済みの魔法といえども使うことはできないのだが、ここで聖剣クレイモアや〔魔導ガチャ〕について打ち明けると、話があらぬ方向へと飛びそうだったため、ゼノはその件については黙っていることにした。

 まだ、ギュスターヴをすべて信用しているわけではないからだ。

「さて、そなたが扱う魔法については後ほど詳しく聞くとして……本題に入ろう。ゼノ、そなたを呼んだのは他でもない。そなたの功績を称え、褒美を与えたいと思い呼んだのだ」

「やりましたよ、ゼノ様っ! やっぱり、褒美があるんですよ♪」

「……食べ物……?」

「いや、きっとすっげー武器だぜ!」

 予感が的中したことに、モニカたちは小声で興奮気味に盛り上がる。
  
 だが。
 正直に言って、ゼノはべつに褒美などは欲しくなかった。

(俺が欲しいのは一つだけ……) 

 筆頭冒険者の称号。
 それさえあれば、魔大陸へ足を踏み入れることができる。

「まずは、宮廷近衛師団に代わり、獄獣バハムートを討伐してくれた件について、礼を伝えなければなるまい。余の期待に応えてくれたこと、本当に感謝しておるぞ」

「いえ。こちらこそ、自分たちを指名していただき、大変光栄に思っております」

 ゼノが頭を下げながらそう述べると、ギュスターヴは綺麗な長い脚を再び組み替えた。

「師団長の話によれば、上空から流星を落とす魔法を使ったようだな? そんな魔法を扱えるとは……なかなかに興味深い。そなたは、相当な魔力値を兼ね備えているのであろう。やはり、天才魔導師と噂されるだけのことはある」

「そんな……とんでもないです」

 謙遜するゼノの表情を、ギュスターヴはしたたかな笑みを浮かべて目にしていた。
 その視線に気付き、さすがアスター王国の君主だ、とゼノは思う。

(……つけ入る隙を狙ってるように感じる。うっかり口を滑らせないように、注意しないと……)

 ゼノには、エメラルドを迷宮から救い出すという最重要課題があった。

 王宮に囲われて、戦争の道具にされるなんてことは避けなければならないが、筆頭冒険者の称号は授かりたいという微妙な立場にいる。

 だからこそ、慎重に言葉を選ぶ必要があった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界で勇者をすることとなったが、僕だけ何も与えられなかった

晴樹
ファンタジー
南結城は高校の入学初日に、クラスメイトと共に突然異世界に召喚される。 異世界では自分たちの事を勇者と呼んだ。 勇者としてクラスの仲間たちと共にチームを組んで生活することになるのだが、クラスの連中は元の世界ではあり得なかった、魔法や超能力を使用できる特殊な力を持っていた。 しかし、結城の体は何の変化もなく…一人なにも与えられていなかった。 結城は普通の人間のまま、元の界帰るために奮起し、生きていく。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

処理中です...