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5章
第7話
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(……よしっ……。あとはディランさんが、倒れた方たちの救援要請を出してくれるはずだ)
ゼノは、彼らが退却する光景を目に収めながら、聖剣クレイモアの剣身に手を当てて考える。
宮廷近衛師団による連続攻撃で、バハムートの体力は大幅に削ることができたはずだ、と。
(でも……まだ、今のままじゃ勝てない。《彗星の終止符》を必ず直撃させるためにも、敵をあと少し弱らせる必要があるんだ)
そのように決断したゼノは、重力の歪みによる影響でまだ本調子ではないバハムートに向けて、新たな攻撃魔法を放つことにする。
(次は、☆4の闇魔法を使う……)
魔導袋から魔石を1つ取り出すと、それを聖剣クレイモアの丸い穴に素早くセットする。
そして、光を帯びた剣を振り払いながら詠唱する。
「《絶世の鎮魂歌》」
バザザザザザザァァアァアァァーーーーンッ!!
唱えた瞬間、地面から無数に飛び出した暗黒の触手が、バハムートの翼を毟り取るようにして伸びていく。
が。
「ギュオオオオォォォッ~~~!!」
バハムートは上空へとさらに高く飛び上がり、下方へ火炎をまき散らしながら、闇魔法による追撃を上手く回避していく。
(……ッ、避けられた!?)
もちろん、攻撃魔法は必ず直撃させられるものではないということは、ゼノも分かっていた。
しかし。
こうもあっさりと、☆4の強力な攻撃魔法を回避されてしまうと、さすがにショックを隠せない。
これまで戦ってきた相手の中で間違いなく最強だ、とゼノは改めて認識する。
(だからこそ……すべてをぶつける! Ωカウンターなんて構うものかッ……!)
それくらいの覚悟がなければ、敵に簡単に飲み込まれてしまうということを、ゼノは十分に理解していた。
空へと舞い上がったバハムートは、赤色の眼を大きく開いたまま猛降下を仕掛けてくる。
照準を完全にゼノへと合わせていた。
そして。
すぐさま、火炎を吐き出すモーションへと入る。
(っ!)
それが分かると、ゼノは魔導袋へと手を伸ばし、新たな魔石を取り出していた。
ちょうど炎が吐き出されるタイミングで、ゼノは聖剣を振りかざして魔法名を唱える。
「《キャンディーハウス》」
その瞬間、巨大なお菓子の家が出現し、中にいるゼノは炎の渦による攻撃を免れた。
だが、これで攻撃の手を緩めるほどバハムートは甘くない。
「ギュオオォォッ! ギュオオォォッ!」
すぐさま溶けかけのお菓子の家を尻尾でぶち壊すと、両爪による攻撃を仕掛けてくる。
「《分身》」
後ろへ退きながら、ゼノは聖剣クレイモアに《分身》の魔石をはめて詠唱した。
すると。
ブブォォーーーン!
ゼノの体は複数に分かれ、身代りの残像が全部で10体その場に出現する。
バハムートの鋭利な爪がそのうちの1体を抉るも、本体は無傷だ。
その隙を狙って、ゼノは次の攻撃魔法を撃ち込む。
「《超次元の渦矛》!」
ビリッビリッビギギギギィィィィーーーーーンッ!!
大狂乱する紫電の糸が幾多に絡み合いながら、翼竜に向かって伸びていくも……。
「ギュオオオォォォッーーー!!」
バハムートは大きな翼でそれを振り払い、まるで何事もなかったかのように、再び上空へと舞い上がっていく。
(……く! ダメかっ……)
再度、猛降下しながら、両爪による素早い攻撃を仕掛けてきた。
ザシュッザシュッ!! ザシュッザシュッ!!
学習をしたのだろう、今度の攻撃は二回連続攻撃だ。
分身したゼノの体は、次々と八つ裂きにされ、10体はあっという間に切り刻まれてしまう。
「っ……《透明》!」
すぐに《透明》の魔石を聖剣にはめ込んで一度姿を消失させるも、運悪くバハムートによる一撃が姿を消したゼノの体に当たってしまう。
「ぐはぁ!?」
辛辣な一振りを腹部に受けたゼノは、悶えながらそのまま地面に倒れた。
「ギュオオオオォォォッ~~~!!」
これをチャンスとばかりに、バハムートは赤眼をギラつかせながら、巨大な体躯を駆使して突撃を仕掛けてくる。
(ぅ、ぐ……)
猛突進して来るバハムートに対して、ゼノは崩れかけの体勢のまま、魔導袋から新たな魔石を取り出す。
「《バリア》」
ギリギリのタイミングで、ゼノの前に強固な壁が出現するも、バハムートはそれも簡単にぶち破って突撃してくる。
「……っ、ぐぼぉぉ!?」
装甲のようなバハムートの巨体に押し出される形で、ゼノは激しく吹き飛ばされた。
「ギュオオオォォォッ!!」
翼竜はさらに体を反転させると、続けざまに凶悪な尻尾による攻撃をゼノにクリーンヒットさせる。
「ぶっ、ごぉッ……!?」
抉られた地面とともに、ゼノの体は弄ばれるように宙へと舞うのだった。
「……ァぅ、ぐっ……」
地面へと落下したゼノは、剣を突き立てながら、なんとか体を起き上がらせる。
頭はぐるぐると回り、視界は大きくボヤけてしまっていた。
モニカも傍にいないこの状況では、〈回復術〉による治療も受けることができず、ゼノはまさに絶体絶命の状況へと追い込まれてしまう。
「ギュオオォォッ……」
勝利を確信したように、バハムートは赤い眼をギラつかせながら、地表に強堅な足をつけると、そのままのっさりと歩いてゼノのもとへ向かっていく。
「……《絶天の無穹》……!」
光る剣身(ブレイド)に手を当てて、苦し紛れに攻撃魔法を撃ち込むも、バハムートは大きな翼でそれを振り払って容易く相殺してしまう。
(……っ、ダメだ……。ほかに攻撃魔法の魔石は残ってない……)
残る攻撃手段は、☆5の《彗星の終止符》だけ。
一瞬、その魔石に手を伸ばそうとするゼノだったが、直前で思い留まる。
これまでバハムートに向けて放った攻撃は、不意打ちとして撃ち込んだ《残響の戯曲》以外は、まともに当たっていない。
やはり、攻撃魔法を放つ前に、相手をある程度弱らせる必要があるのだ。
翼竜の巨大な影を目の前にして、ゼノは諦めそうになる。
(……なんで……。俺は、こんなところで1人戦ってるんだ……?)
王国の最強部隊をもってしても敵わなかった相手に、どうして戦いを挑んでいるのか。
自分が一体何のために戦っているのか、ゼノはその理由を見失いそうになる。
だが、その時――。
いつも身につけている黒いローブが目に入った。
(……お師匠様……)
5年前のあの日、エメラルドに救われた時。
自分も彼女のような偉大な魔導師になりたいと、ゼノは心の底からそう思った。
それからは、必死で魔法理論について学んだ。
エメラルドの修行にも、弱音を吐くことなく耐え続けた。
そうして努力を重ねているうちに、ゼノはいつしか聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕の力を使って、自在に魔法が操れるようになっていた。
今、自分があるのは、すべてエメラルドのおかげなのだということにゼノは気付く。
(……そうだ。俺は、お師匠様を助けるために、これまで必死になってきたんだ)
バハムートと戦っていることも、その過程であるとも言える。
そして、何よりも重要なことは、その目的はまだ達成されていないということであった。
(だったら……それを叶えるまでは、俺は絶対に死ねない! ここでやられるわけには、いかないんだ……!)
それが分かると、沈みかけていた活力がゼノの中に戻ってくる。
「ギュオオオオォォォッ!!」
決着をつけようと、最後の突撃を仕掛けてきたバハムートに向けて、ゼノは聖剣を振りかざして素早く詠唱した。
「《威圧》!」
すると、バハムートは金縛りに遭ったように、一瞬だけぴたりと動きを止める。
(☆5の攻撃魔法は、必ず直撃させなくちゃいけないんだ!)
残る手札は限られていた。
それらをすべてつぎ込むつもりで、ゼノは次の魔石を鍔部分にセットする。
《威圧》による効果が解ける前に、ゼノは《幻覚》の魔法を唱えた。
ドゥワワァァーーン!
その瞬間。
翼竜を包み込むようにして、赤色の靄が立ち込める。
「ギュオオオォォッ~~!?」
自身を惑わす幻に、バハムートは困惑したような鋭い雄叫びを上げた。
やがて、《威圧》の効果が解けると、痺れを切らしたように縦横無尽に暴れ回り始める。
(……よし! これは効果ありだ!)
バハムートが混乱しているうちに、ゼノは聖剣クレイモアに《魔法防御ダウン》の魔石をはめ込んで、相手にデバフの魔法をかける。
続けて《コンセントレーション》を唱えて、自身のクリティカル率を上げた。
が。
ズバァァシューーーッ!!
翼竜は、腕を思いっきり振り払って、円状の衝撃波を投げつけてくる。
「んぐっ!?」
辛うじてゼノはそれを回避するも、すでにバハムートを包む赤色の靄は消えてしまっていた。
(……もう切れたのか!)
「ギュオオォォッ! ギュオオォォッ!」
これがトドメだと言わんばかりに、バハムートは巨大な体躯を反らして、改めて炎を吐き出すモーションに入る。
その直前。
ゼノは新たに魔石をセットして、聖剣クレイモアを勢いよく地面へと突き刺した。
「《大地割り》……!」
デュゴゴゴゴゴゴゴゴゴッーーーーー!!
灼熱の業火がゼノに向けて放たれるも、敵は崩れた大地に足元を取られ、それはあらぬ方向へと飛んでいく。
なんとか寸前のところで、ゼノはバハムートの攻撃を回避することに成功した。
――しかし。
ドドドドドドドドドドッ!!
「っ!」
同時にこちらの足元も崩れ落ち、広い範囲で地割れを起こした亀裂の中へと、ゼノは吸い込まれてしまう。
「……っ、《フライ》!」
その最中にあっても、ゼノは冷静さを失わなかった。
落ち着いて《フライ》の魔石を鍔にはめると、奈落へ向けて輝く剣を振り払い、ゼノは自身の体を浮上させる。
「ギュオオオオォォォーーーーッ!!」
バハムートも同じく、黒い翼を広げて大きく飛び上がった。
地面は広範囲に渡って大きく崩れ落ち、巨大クレーターのような深遠な穴がそこには出来上がっていた。
けれど。
この状況こそが、ゼノが望んだものであった。
(これですべてを終わらせる……!)
ゼノは上空へと舞い上がりながら、魔導袋の中から《彗星の終止符》の魔石を取り出す。
対して、バハムートもまだ諦めていなかった。
鋭い赤色の眼を大きく見開き、翼を上手く駆使しながら、ゼノに向けてさらに突撃を仕掛けてくる。
「ギュオオオォォォッ!!」
鋭利な両爪による攻撃が、ゼノの体を切り裂こうとする。
だが。
ゼノが聖剣クレイモアに魔石をセットして、詠唱する方が寸秒早かった。
「我の敵となるものをすべて撃ち墜とせ――《彗星の終止符》!!」
煌めく聖剣を両手で高く掲げながらそう唱えると、晴れ渡った青空から大量の流星が、ものすごい勢いで降り注いでくる。
ボゴッボゴッボゴッボゴッボゴゴゴゴゴゴゴーーーーーンッ!!!
上にも下にも逃げ場を失ったバハムートに、それらの攻撃が見事に直撃した。
「ギュオオオオォォォ~~~ッ!!?」
上空から激しく降り続ける流星に撃ち落とされる形で、翼竜はついに奈落の底へと墜落するのだった。
ゼノは、彼らが退却する光景を目に収めながら、聖剣クレイモアの剣身に手を当てて考える。
宮廷近衛師団による連続攻撃で、バハムートの体力は大幅に削ることができたはずだ、と。
(でも……まだ、今のままじゃ勝てない。《彗星の終止符》を必ず直撃させるためにも、敵をあと少し弱らせる必要があるんだ)
そのように決断したゼノは、重力の歪みによる影響でまだ本調子ではないバハムートに向けて、新たな攻撃魔法を放つことにする。
(次は、☆4の闇魔法を使う……)
魔導袋から魔石を1つ取り出すと、それを聖剣クレイモアの丸い穴に素早くセットする。
そして、光を帯びた剣を振り払いながら詠唱する。
「《絶世の鎮魂歌》」
バザザザザザザァァアァアァァーーーーンッ!!
唱えた瞬間、地面から無数に飛び出した暗黒の触手が、バハムートの翼を毟り取るようにして伸びていく。
が。
「ギュオオオオォォォッ~~~!!」
バハムートは上空へとさらに高く飛び上がり、下方へ火炎をまき散らしながら、闇魔法による追撃を上手く回避していく。
(……ッ、避けられた!?)
もちろん、攻撃魔法は必ず直撃させられるものではないということは、ゼノも分かっていた。
しかし。
こうもあっさりと、☆4の強力な攻撃魔法を回避されてしまうと、さすがにショックを隠せない。
これまで戦ってきた相手の中で間違いなく最強だ、とゼノは改めて認識する。
(だからこそ……すべてをぶつける! Ωカウンターなんて構うものかッ……!)
それくらいの覚悟がなければ、敵に簡単に飲み込まれてしまうということを、ゼノは十分に理解していた。
空へと舞い上がったバハムートは、赤色の眼を大きく開いたまま猛降下を仕掛けてくる。
照準を完全にゼノへと合わせていた。
そして。
すぐさま、火炎を吐き出すモーションへと入る。
(っ!)
それが分かると、ゼノは魔導袋へと手を伸ばし、新たな魔石を取り出していた。
ちょうど炎が吐き出されるタイミングで、ゼノは聖剣を振りかざして魔法名を唱える。
「《キャンディーハウス》」
その瞬間、巨大なお菓子の家が出現し、中にいるゼノは炎の渦による攻撃を免れた。
だが、これで攻撃の手を緩めるほどバハムートは甘くない。
「ギュオオォォッ! ギュオオォォッ!」
すぐさま溶けかけのお菓子の家を尻尾でぶち壊すと、両爪による攻撃を仕掛けてくる。
「《分身》」
後ろへ退きながら、ゼノは聖剣クレイモアに《分身》の魔石をはめて詠唱した。
すると。
ブブォォーーーン!
ゼノの体は複数に分かれ、身代りの残像が全部で10体その場に出現する。
バハムートの鋭利な爪がそのうちの1体を抉るも、本体は無傷だ。
その隙を狙って、ゼノは次の攻撃魔法を撃ち込む。
「《超次元の渦矛》!」
ビリッビリッビギギギギィィィィーーーーーンッ!!
大狂乱する紫電の糸が幾多に絡み合いながら、翼竜に向かって伸びていくも……。
「ギュオオオォォォッーーー!!」
バハムートは大きな翼でそれを振り払い、まるで何事もなかったかのように、再び上空へと舞い上がっていく。
(……く! ダメかっ……)
再度、猛降下しながら、両爪による素早い攻撃を仕掛けてきた。
ザシュッザシュッ!! ザシュッザシュッ!!
学習をしたのだろう、今度の攻撃は二回連続攻撃だ。
分身したゼノの体は、次々と八つ裂きにされ、10体はあっという間に切り刻まれてしまう。
「っ……《透明》!」
すぐに《透明》の魔石を聖剣にはめ込んで一度姿を消失させるも、運悪くバハムートによる一撃が姿を消したゼノの体に当たってしまう。
「ぐはぁ!?」
辛辣な一振りを腹部に受けたゼノは、悶えながらそのまま地面に倒れた。
「ギュオオオオォォォッ~~~!!」
これをチャンスとばかりに、バハムートは赤眼をギラつかせながら、巨大な体躯を駆使して突撃を仕掛けてくる。
(ぅ、ぐ……)
猛突進して来るバハムートに対して、ゼノは崩れかけの体勢のまま、魔導袋から新たな魔石を取り出す。
「《バリア》」
ギリギリのタイミングで、ゼノの前に強固な壁が出現するも、バハムートはそれも簡単にぶち破って突撃してくる。
「……っ、ぐぼぉぉ!?」
装甲のようなバハムートの巨体に押し出される形で、ゼノは激しく吹き飛ばされた。
「ギュオオオォォォッ!!」
翼竜はさらに体を反転させると、続けざまに凶悪な尻尾による攻撃をゼノにクリーンヒットさせる。
「ぶっ、ごぉッ……!?」
抉られた地面とともに、ゼノの体は弄ばれるように宙へと舞うのだった。
「……ァぅ、ぐっ……」
地面へと落下したゼノは、剣を突き立てながら、なんとか体を起き上がらせる。
頭はぐるぐると回り、視界は大きくボヤけてしまっていた。
モニカも傍にいないこの状況では、〈回復術〉による治療も受けることができず、ゼノはまさに絶体絶命の状況へと追い込まれてしまう。
「ギュオオォォッ……」
勝利を確信したように、バハムートは赤い眼をギラつかせながら、地表に強堅な足をつけると、そのままのっさりと歩いてゼノのもとへ向かっていく。
「……《絶天の無穹》……!」
光る剣身(ブレイド)に手を当てて、苦し紛れに攻撃魔法を撃ち込むも、バハムートは大きな翼でそれを振り払って容易く相殺してしまう。
(……っ、ダメだ……。ほかに攻撃魔法の魔石は残ってない……)
残る攻撃手段は、☆5の《彗星の終止符》だけ。
一瞬、その魔石に手を伸ばそうとするゼノだったが、直前で思い留まる。
これまでバハムートに向けて放った攻撃は、不意打ちとして撃ち込んだ《残響の戯曲》以外は、まともに当たっていない。
やはり、攻撃魔法を放つ前に、相手をある程度弱らせる必要があるのだ。
翼竜の巨大な影を目の前にして、ゼノは諦めそうになる。
(……なんで……。俺は、こんなところで1人戦ってるんだ……?)
王国の最強部隊をもってしても敵わなかった相手に、どうして戦いを挑んでいるのか。
自分が一体何のために戦っているのか、ゼノはその理由を見失いそうになる。
だが、その時――。
いつも身につけている黒いローブが目に入った。
(……お師匠様……)
5年前のあの日、エメラルドに救われた時。
自分も彼女のような偉大な魔導師になりたいと、ゼノは心の底からそう思った。
それからは、必死で魔法理論について学んだ。
エメラルドの修行にも、弱音を吐くことなく耐え続けた。
そうして努力を重ねているうちに、ゼノはいつしか聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕の力を使って、自在に魔法が操れるようになっていた。
今、自分があるのは、すべてエメラルドのおかげなのだということにゼノは気付く。
(……そうだ。俺は、お師匠様を助けるために、これまで必死になってきたんだ)
バハムートと戦っていることも、その過程であるとも言える。
そして、何よりも重要なことは、その目的はまだ達成されていないということであった。
(だったら……それを叶えるまでは、俺は絶対に死ねない! ここでやられるわけには、いかないんだ……!)
それが分かると、沈みかけていた活力がゼノの中に戻ってくる。
「ギュオオオオォォォッ!!」
決着をつけようと、最後の突撃を仕掛けてきたバハムートに向けて、ゼノは聖剣を振りかざして素早く詠唱した。
「《威圧》!」
すると、バハムートは金縛りに遭ったように、一瞬だけぴたりと動きを止める。
(☆5の攻撃魔法は、必ず直撃させなくちゃいけないんだ!)
残る手札は限られていた。
それらをすべてつぎ込むつもりで、ゼノは次の魔石を鍔部分にセットする。
《威圧》による効果が解ける前に、ゼノは《幻覚》の魔法を唱えた。
ドゥワワァァーーン!
その瞬間。
翼竜を包み込むようにして、赤色の靄が立ち込める。
「ギュオオオォォッ~~!?」
自身を惑わす幻に、バハムートは困惑したような鋭い雄叫びを上げた。
やがて、《威圧》の効果が解けると、痺れを切らしたように縦横無尽に暴れ回り始める。
(……よし! これは効果ありだ!)
バハムートが混乱しているうちに、ゼノは聖剣クレイモアに《魔法防御ダウン》の魔石をはめ込んで、相手にデバフの魔法をかける。
続けて《コンセントレーション》を唱えて、自身のクリティカル率を上げた。
が。
ズバァァシューーーッ!!
翼竜は、腕を思いっきり振り払って、円状の衝撃波を投げつけてくる。
「んぐっ!?」
辛うじてゼノはそれを回避するも、すでにバハムートを包む赤色の靄は消えてしまっていた。
(……もう切れたのか!)
「ギュオオォォッ! ギュオオォォッ!」
これがトドメだと言わんばかりに、バハムートは巨大な体躯を反らして、改めて炎を吐き出すモーションに入る。
その直前。
ゼノは新たに魔石をセットして、聖剣クレイモアを勢いよく地面へと突き刺した。
「《大地割り》……!」
デュゴゴゴゴゴゴゴゴゴッーーーーー!!
灼熱の業火がゼノに向けて放たれるも、敵は崩れた大地に足元を取られ、それはあらぬ方向へと飛んでいく。
なんとか寸前のところで、ゼノはバハムートの攻撃を回避することに成功した。
――しかし。
ドドドドドドドドドドッ!!
「っ!」
同時にこちらの足元も崩れ落ち、広い範囲で地割れを起こした亀裂の中へと、ゼノは吸い込まれてしまう。
「……っ、《フライ》!」
その最中にあっても、ゼノは冷静さを失わなかった。
落ち着いて《フライ》の魔石を鍔にはめると、奈落へ向けて輝く剣を振り払い、ゼノは自身の体を浮上させる。
「ギュオオオオォォォーーーーッ!!」
バハムートも同じく、黒い翼を広げて大きく飛び上がった。
地面は広範囲に渡って大きく崩れ落ち、巨大クレーターのような深遠な穴がそこには出来上がっていた。
けれど。
この状況こそが、ゼノが望んだものであった。
(これですべてを終わらせる……!)
ゼノは上空へと舞い上がりながら、魔導袋の中から《彗星の終止符》の魔石を取り出す。
対して、バハムートもまだ諦めていなかった。
鋭い赤色の眼を大きく見開き、翼を上手く駆使しながら、ゼノに向けてさらに突撃を仕掛けてくる。
「ギュオオオォォォッ!!」
鋭利な両爪による攻撃が、ゼノの体を切り裂こうとする。
だが。
ゼノが聖剣クレイモアに魔石をセットして、詠唱する方が寸秒早かった。
「我の敵となるものをすべて撃ち墜とせ――《彗星の終止符》!!」
煌めく聖剣を両手で高く掲げながらそう唱えると、晴れ渡った青空から大量の流星が、ものすごい勢いで降り注いでくる。
ボゴッボゴッボゴッボゴッボゴゴゴゴゴゴゴーーーーーンッ!!!
上にも下にも逃げ場を失ったバハムートに、それらの攻撃が見事に直撃した。
「ギュオオオオォォォ~~~ッ!!?」
上空から激しく降り続ける流星に撃ち落とされる形で、翼竜はついに奈落の底へと墜落するのだった。
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ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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