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5章
第4話
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「んだよ! これっ……!」
ようやく、持ち上げられた意味が分かり、アーシャは怒りを露わにする。
「やっぱり、ちゃんと話が伝わっていないのか」
ゼノがそう呟くと、何か思い当たる節があるようにモニカがこんなことを口にする。
「いえ、そういうわけでもなさそうです」
「……モニカ姉、どういうこと……?」
モニカは、周りに誰もいないことを確認すると、ギュスターヴと宮廷近衛師団の関係について小声で口にする。
「今の宮廷近衛師団は、先代の国王の時に結成されたと聞きます。ひょっとすると、それが何か関係しているのかもしれません」
「んぁ? どーゆうことだよ? もっと、分かるように説明してほしいぜ!」
「……わたしも何か確信があるわけではないので。あくまで仮説なんですけど……」
そこでモニカは、さらに声を潜めて続けた。
「今から6年前、ギュスターヴ女王が先王に代わって、15歳の若さで即位したのは皆さんもご存じですよね?」
「そうなの?」
「ああ」
ベルの問いかけにゼノは頷く。
アスター王国では有名な話だ。
失政を続ける父を君主の座から引きずり下ろすために、宰相や諸侯らに根回しして協力を仰ぎ、強引に女王の座に就いたのがギュスターヴだ。
即位以前から賢才王女と呼ばれ、即位後は王国の様々な問題を解決へと導き、今では〝救国の女王〟と称えられている。
魔力値も非常に高く、現在発見されている13種類の魔法はすべて扱えるという話だ。
「……ひょっとすると、宮廷近衛師団の皆さんは、そのことを快く思っていないのかもしれません」
「なるほど。そういうことか」
ゼノはモニカの言葉に頷いた。
ギュスターヴは、熱心な魔法至上主義者というわけではなく、決して術使いの者を見下しているわけではないのだが、その完璧さゆえに、宮廷近衛師団にとっては鼻につくのかもしれなかった。
「先王の魔力値は、ギュスターヴ様に比べると低かったと言われています。そのため、宮廷近衛師団の方たちに頼っていた部分も大きく、その分関係も良好だったんじゃないでしょうか?」
「そういう事情があったのかよ、少しがっかりしたぜ……」
「もちろん、本当のところは分かりません。けど、これだけあからさまな態度を取られちゃうと、勘ぐってしまいますよね」
「……人族にも、いろいろあるんだね」
モニカの言葉に、アーシャもベルも、複雑そうな顔を浮かべる。
(つまり、ディランさんたちは、女王陛下の命でやって来た俺たちのことを快く思ってないと……そういうことなのか?)
だが、ゼノはそれを信じたくはなかった。
だから、3人にこう口にする。
「だけどさ。ひょっとすると、本当にアーシャの身を案じているのかもしれない」
「はぁ? 何言ってんだよ、ゼノ! 明らかに、アタシたちのことを邪魔者扱いしてたんだぜ!? んな失礼な連中は放っておいて帰ろーぜ! まったく早起きして損した……」
「ゼノ様。今回はわたしもアーシャさんの意見に賛成です。このまま一緒に行っても、邪険に扱われるだけだと思います。大丈夫ですよ。バハムートは、あの方たちがきっと倒してくれます。だって、あれだけ自信満々なんですから♪」
と、珍しくモニカも怒っている様子だ。
「でも……宮廷近衛師団の人たちに、何か少しでも協力できることがあるかもしれない」
「おい、マジで言ってのか? 自分たちの手柄を誇示させたいだけの連中に、付き合う必要なんてねぇーって!」
「けど、今回はバハムートが相手なんだ。戦力は少しでも多い方がよくないか?」
「お兄ちゃん、お人好し?」
「ベルの言う通りだ、ゼノ。あんた、お人好しすぎるぜ……」
「俺はただ、女王陛下の依頼を全うしたいだけだよ」
「……はぁ。やっぱり、ゼノ様ですね。ゼノ様の言葉を聞いてると、自分の言った言葉が恥ずかしく思えてきちゃいます……」
「……うん。お兄ちゃん、かっこいい……」
「そんな大したもんじゃないって」
それは、ゼノの本心でもあった。
名指しで招集をかけてきたギュスターヴのためにも、少しでも期待に応えたかったのだ。
(それに、この後魔大陸へ渡るつもりなら、獄獣と宮廷近衛師団の人たちがどう戦うのか、見て学びたい)
そんなゼノの言葉を傍で聞いていたアーシャは、決心したように頷く。
「あぁ~っ! もう分かったぜ! この際、どんな扱いでも構わねぇーー! アタシもゼノについて行く!」
「ですね。最後はやっぱり、ゼノ様の言うことを聞いちゃいますよ~。だって、愛してますから♡」
「……ベルも、お兄ちゃんが大好き。だから、お兄ちゃんのためにがんばる……」
「もちろん、アタシもゼノが世界で一番好きだぜ!」
「ありがとう……みんな」
ゼノが彼女たちに感謝を伝えたところで、宮廷近衛師団の者たちが広場へと戻って来る。
そして、ディランが白馬にまたがり、アスター王国の旗を高く掲げると、それが進軍開始の合図となった。
◆
宮廷近衛師団はルアの町を出発すると、なだらかな平原を進み、サザンギル大湿原を目指して歩いて行く。
煌々と輝く陽の光を浴びながら、ゼノたちは列の最後尾に付いていた。
そのまましばらく進んで行くと、ゼノは一度、先を歩く師団員の男に声をかけて状況を確認する。
「すみません、ちょっとよろしいですか? この後、どういった作戦を実行する予定なんでしょうか?」
「……あん? なんだ貴様?」
「あっ、ご挨拶が遅れました。俺は、マスクスからやって来た【天空の魔導団】のリーダーで……」
「あーあ、陛下がトチ狂ってよこしたガラクタ連中ってのは貴様らか。フハハッ!」
男は、後方を歩くモニカたちに目を向けて一笑する。
「俺らがこれからどんなすごい作戦を実行するのか、知りたいのかぁ?」
すると、並んで歩く別の師団員の男たちがにやけながら口にした。
「ヘヘッ、教えてやれよ。どうせこいつ、俺たち宮廷近衛師団に憧れてるんだろ?」
「はい。お願いします」
ここでゼノは、彼らから討伐の詳細について耳にする。
「……先行偵察隊の話じゃ、バハムートは今、ぐっすり眠ってるらしい。そりゃそうだよな? 大湿原の半分を、たった数時間で焼いちまったんだから。体力も使うってもんさ」
「たった数時間で、半分も……」
これが王都だったらと思うと、ゼノはぞっとしてしまう。
「魔獣は一度眠っちまうと、しばらく起きない習性があるってことはぺーぺーの貴様でも知ってるだろ?」
「どうやって、魔大陸の結界を破って出て来たか知らないが、獄獣と言えどもその習性は同じはずだ」
「その隙に叩くって算段さ。休む間も与えず、全方位から連続で何度もな」
「なるほど……」
作戦内容は意外とシンプルなようだ。
「この作戦が上手くいけば、陛下も俺たちには簡単に口出しできなくなるな」
「その通りだ。有事には、魔導師はまったく使い物にならないってことを認めることになるわけだからな!」
「ま、しっかり見ておけ。特に師団長なんかはすごいぞ? 上位術使いのランサーだからな。そこらの冒険者とは、撃ち手の数が違う」
「そうなんですね。どうも、親切にありがとうございます。状況がよく分かりました」
ゼノは礼を述べてから男たちのもとを離れた。
「ゼノ。何か分かったか?」
「うん。いい情報が聞けたよ」
「お兄ちゃん……なんか馴染んでた?」
「ああ。皆さん、丁寧に教えてくれたから」
ゼノは、3人に師団員の男たちから聞いた情報をそのまま伝えた。
それを聞き終えた瞬間、モニカの表情が曇る。
「……ゼノ様。本当にそんな作戦で上手くバハムートが倒せるんでしょうか?」
「大丈夫。宮廷近衛師団は、一流の術使いの方たちの集まりだから。これだけ人員がいれば、必ず討伐できると思う」
「だな。あれだけえらそーな口を叩いたんだ。がっかりした分の汚名を返上してほしいぜ」
「ベルたちは……このまま後方で待機?」
「そうだな。もしもの時のために、後ろで準備して控えておこう」
「……ですよね。アスター王国を代表する精鋭の皆さんですもんね。態度は、あまり好きじゃないですけど……。でも、皆さんがバハムートを倒してくれるって、信じたいと思います」
そんなことを話しながら平原を進んでいると、やがて前方にサザンギル大湿原が見えてくる。
話にあった通り、大湿原の半分ほどは巨大な炎によって真っ赤に染まっていた。
「……っ」
その光景を目の当たりにして、ゼノは息を呑む。
ゼノだけじゃない。
他の3人も、同様に驚きの表情を浮かべていた。
(これを……バハムートが1体でやったんだ。それも、たった数時間のうちに……)
ディランを先頭にして進む前方の師団員たちの間にも、さすがに動揺が見えた。
歩きながら、ざわざわと声を上げているのが分かる。
それでも、歩みを一切止めないのはなんとも頼もしい、とゼノは思った。
「……さすが、いくつもの戦火を潜り抜けてきた宮廷近衛師団だぜ。このまま一気に討伐に向かうみてーだな!」
「バハムートは、どこにいるんでしょうか?」
「先行偵察隊の方の話だと、入口近くのひらけた平地で眠っているみたいだ。だから、もう少し歩けば、バハムートの姿も見えてくるはず……」
そのゼノの言葉の通り、それからさらにサザンギル大湿原へ向けて歩みを進めていると、前方の平地に黒色の物体が見えてくる。
バハムートだ!と、先の方でそんな声が上がった。
「貴様らはこの辺りで待機していろ」
「我々がどのようにしてバハムートを倒すか、その勇士をしっかりと見ておけよ」
「せいぜい、今後の参考にすることだな」
前を歩いていた師団員の男たちはそう言い残すと、駆け足で平地へと散っていく。
そこからは、さすがアスター王国が誇る最強の術使い集団という素早い連携を見せ、師団員たちはバハムートを取り囲むようにして、あっという間に三方へ陣形をとった。
ゼノたち4人は、近くの草むらに隠れると、そこから戦況を見守ることに。
そして、前方の平地に視線を向けると、ゼノはハッとする。
(!)
装甲のように硬く光る黒い鱗を持つ巨大な翼竜の姿を、はっきりと目にしたからだ。
これまで戦ってきたどの魔獣よりも威圧感があった。
漆黒の大きな翼を持つバハムートは、巨大で長い尻尾を巻いたまま眠っている。
体長は、成人男性の5倍ほどはありそうだ。
「あれが、バハムートなんですね……」
「マジでいたんだな」
間近で見る獄獣の迫力に、モニカもアーシャも言葉少なだ。
ベルは、ゼノの黒いローブをギュッと掴むと、不安そうに声を上げた。
「……お兄ちゃん……怖い」
「大丈夫だよ。ディランさんたちが必ず倒してくれるはずだ」
「……うん……」
ベルの頭を優しく撫でながら、ゼノは前方へと注視する。
(いよいよだな)
これから、宮廷近衛師団による奇襲作戦が始まろうとしていた。
ようやく、持ち上げられた意味が分かり、アーシャは怒りを露わにする。
「やっぱり、ちゃんと話が伝わっていないのか」
ゼノがそう呟くと、何か思い当たる節があるようにモニカがこんなことを口にする。
「いえ、そういうわけでもなさそうです」
「……モニカ姉、どういうこと……?」
モニカは、周りに誰もいないことを確認すると、ギュスターヴと宮廷近衛師団の関係について小声で口にする。
「今の宮廷近衛師団は、先代の国王の時に結成されたと聞きます。ひょっとすると、それが何か関係しているのかもしれません」
「んぁ? どーゆうことだよ? もっと、分かるように説明してほしいぜ!」
「……わたしも何か確信があるわけではないので。あくまで仮説なんですけど……」
そこでモニカは、さらに声を潜めて続けた。
「今から6年前、ギュスターヴ女王が先王に代わって、15歳の若さで即位したのは皆さんもご存じですよね?」
「そうなの?」
「ああ」
ベルの問いかけにゼノは頷く。
アスター王国では有名な話だ。
失政を続ける父を君主の座から引きずり下ろすために、宰相や諸侯らに根回しして協力を仰ぎ、強引に女王の座に就いたのがギュスターヴだ。
即位以前から賢才王女と呼ばれ、即位後は王国の様々な問題を解決へと導き、今では〝救国の女王〟と称えられている。
魔力値も非常に高く、現在発見されている13種類の魔法はすべて扱えるという話だ。
「……ひょっとすると、宮廷近衛師団の皆さんは、そのことを快く思っていないのかもしれません」
「なるほど。そういうことか」
ゼノはモニカの言葉に頷いた。
ギュスターヴは、熱心な魔法至上主義者というわけではなく、決して術使いの者を見下しているわけではないのだが、その完璧さゆえに、宮廷近衛師団にとっては鼻につくのかもしれなかった。
「先王の魔力値は、ギュスターヴ様に比べると低かったと言われています。そのため、宮廷近衛師団の方たちに頼っていた部分も大きく、その分関係も良好だったんじゃないでしょうか?」
「そういう事情があったのかよ、少しがっかりしたぜ……」
「もちろん、本当のところは分かりません。けど、これだけあからさまな態度を取られちゃうと、勘ぐってしまいますよね」
「……人族にも、いろいろあるんだね」
モニカの言葉に、アーシャもベルも、複雑そうな顔を浮かべる。
(つまり、ディランさんたちは、女王陛下の命でやって来た俺たちのことを快く思ってないと……そういうことなのか?)
だが、ゼノはそれを信じたくはなかった。
だから、3人にこう口にする。
「だけどさ。ひょっとすると、本当にアーシャの身を案じているのかもしれない」
「はぁ? 何言ってんだよ、ゼノ! 明らかに、アタシたちのことを邪魔者扱いしてたんだぜ!? んな失礼な連中は放っておいて帰ろーぜ! まったく早起きして損した……」
「ゼノ様。今回はわたしもアーシャさんの意見に賛成です。このまま一緒に行っても、邪険に扱われるだけだと思います。大丈夫ですよ。バハムートは、あの方たちがきっと倒してくれます。だって、あれだけ自信満々なんですから♪」
と、珍しくモニカも怒っている様子だ。
「でも……宮廷近衛師団の人たちに、何か少しでも協力できることがあるかもしれない」
「おい、マジで言ってのか? 自分たちの手柄を誇示させたいだけの連中に、付き合う必要なんてねぇーって!」
「けど、今回はバハムートが相手なんだ。戦力は少しでも多い方がよくないか?」
「お兄ちゃん、お人好し?」
「ベルの言う通りだ、ゼノ。あんた、お人好しすぎるぜ……」
「俺はただ、女王陛下の依頼を全うしたいだけだよ」
「……はぁ。やっぱり、ゼノ様ですね。ゼノ様の言葉を聞いてると、自分の言った言葉が恥ずかしく思えてきちゃいます……」
「……うん。お兄ちゃん、かっこいい……」
「そんな大したもんじゃないって」
それは、ゼノの本心でもあった。
名指しで招集をかけてきたギュスターヴのためにも、少しでも期待に応えたかったのだ。
(それに、この後魔大陸へ渡るつもりなら、獄獣と宮廷近衛師団の人たちがどう戦うのか、見て学びたい)
そんなゼノの言葉を傍で聞いていたアーシャは、決心したように頷く。
「あぁ~っ! もう分かったぜ! この際、どんな扱いでも構わねぇーー! アタシもゼノについて行く!」
「ですね。最後はやっぱり、ゼノ様の言うことを聞いちゃいますよ~。だって、愛してますから♡」
「……ベルも、お兄ちゃんが大好き。だから、お兄ちゃんのためにがんばる……」
「もちろん、アタシもゼノが世界で一番好きだぜ!」
「ありがとう……みんな」
ゼノが彼女たちに感謝を伝えたところで、宮廷近衛師団の者たちが広場へと戻って来る。
そして、ディランが白馬にまたがり、アスター王国の旗を高く掲げると、それが進軍開始の合図となった。
◆
宮廷近衛師団はルアの町を出発すると、なだらかな平原を進み、サザンギル大湿原を目指して歩いて行く。
煌々と輝く陽の光を浴びながら、ゼノたちは列の最後尾に付いていた。
そのまましばらく進んで行くと、ゼノは一度、先を歩く師団員の男に声をかけて状況を確認する。
「すみません、ちょっとよろしいですか? この後、どういった作戦を実行する予定なんでしょうか?」
「……あん? なんだ貴様?」
「あっ、ご挨拶が遅れました。俺は、マスクスからやって来た【天空の魔導団】のリーダーで……」
「あーあ、陛下がトチ狂ってよこしたガラクタ連中ってのは貴様らか。フハハッ!」
男は、後方を歩くモニカたちに目を向けて一笑する。
「俺らがこれからどんなすごい作戦を実行するのか、知りたいのかぁ?」
すると、並んで歩く別の師団員の男たちがにやけながら口にした。
「ヘヘッ、教えてやれよ。どうせこいつ、俺たち宮廷近衛師団に憧れてるんだろ?」
「はい。お願いします」
ここでゼノは、彼らから討伐の詳細について耳にする。
「……先行偵察隊の話じゃ、バハムートは今、ぐっすり眠ってるらしい。そりゃそうだよな? 大湿原の半分を、たった数時間で焼いちまったんだから。体力も使うってもんさ」
「たった数時間で、半分も……」
これが王都だったらと思うと、ゼノはぞっとしてしまう。
「魔獣は一度眠っちまうと、しばらく起きない習性があるってことはぺーぺーの貴様でも知ってるだろ?」
「どうやって、魔大陸の結界を破って出て来たか知らないが、獄獣と言えどもその習性は同じはずだ」
「その隙に叩くって算段さ。休む間も与えず、全方位から連続で何度もな」
「なるほど……」
作戦内容は意外とシンプルなようだ。
「この作戦が上手くいけば、陛下も俺たちには簡単に口出しできなくなるな」
「その通りだ。有事には、魔導師はまったく使い物にならないってことを認めることになるわけだからな!」
「ま、しっかり見ておけ。特に師団長なんかはすごいぞ? 上位術使いのランサーだからな。そこらの冒険者とは、撃ち手の数が違う」
「そうなんですね。どうも、親切にありがとうございます。状況がよく分かりました」
ゼノは礼を述べてから男たちのもとを離れた。
「ゼノ。何か分かったか?」
「うん。いい情報が聞けたよ」
「お兄ちゃん……なんか馴染んでた?」
「ああ。皆さん、丁寧に教えてくれたから」
ゼノは、3人に師団員の男たちから聞いた情報をそのまま伝えた。
それを聞き終えた瞬間、モニカの表情が曇る。
「……ゼノ様。本当にそんな作戦で上手くバハムートが倒せるんでしょうか?」
「大丈夫。宮廷近衛師団は、一流の術使いの方たちの集まりだから。これだけ人員がいれば、必ず討伐できると思う」
「だな。あれだけえらそーな口を叩いたんだ。がっかりした分の汚名を返上してほしいぜ」
「ベルたちは……このまま後方で待機?」
「そうだな。もしもの時のために、後ろで準備して控えておこう」
「……ですよね。アスター王国を代表する精鋭の皆さんですもんね。態度は、あまり好きじゃないですけど……。でも、皆さんがバハムートを倒してくれるって、信じたいと思います」
そんなことを話しながら平原を進んでいると、やがて前方にサザンギル大湿原が見えてくる。
話にあった通り、大湿原の半分ほどは巨大な炎によって真っ赤に染まっていた。
「……っ」
その光景を目の当たりにして、ゼノは息を呑む。
ゼノだけじゃない。
他の3人も、同様に驚きの表情を浮かべていた。
(これを……バハムートが1体でやったんだ。それも、たった数時間のうちに……)
ディランを先頭にして進む前方の師団員たちの間にも、さすがに動揺が見えた。
歩きながら、ざわざわと声を上げているのが分かる。
それでも、歩みを一切止めないのはなんとも頼もしい、とゼノは思った。
「……さすが、いくつもの戦火を潜り抜けてきた宮廷近衛師団だぜ。このまま一気に討伐に向かうみてーだな!」
「バハムートは、どこにいるんでしょうか?」
「先行偵察隊の方の話だと、入口近くのひらけた平地で眠っているみたいだ。だから、もう少し歩けば、バハムートの姿も見えてくるはず……」
そのゼノの言葉の通り、それからさらにサザンギル大湿原へ向けて歩みを進めていると、前方の平地に黒色の物体が見えてくる。
バハムートだ!と、先の方でそんな声が上がった。
「貴様らはこの辺りで待機していろ」
「我々がどのようにしてバハムートを倒すか、その勇士をしっかりと見ておけよ」
「せいぜい、今後の参考にすることだな」
前を歩いていた師団員の男たちはそう言い残すと、駆け足で平地へと散っていく。
そこからは、さすがアスター王国が誇る最強の術使い集団という素早い連携を見せ、師団員たちはバハムートを取り囲むようにして、あっという間に三方へ陣形をとった。
ゼノたち4人は、近くの草むらに隠れると、そこから戦況を見守ることに。
そして、前方の平地に視線を向けると、ゼノはハッとする。
(!)
装甲のように硬く光る黒い鱗を持つ巨大な翼竜の姿を、はっきりと目にしたからだ。
これまで戦ってきたどの魔獣よりも威圧感があった。
漆黒の大きな翼を持つバハムートは、巨大で長い尻尾を巻いたまま眠っている。
体長は、成人男性の5倍ほどはありそうだ。
「あれが、バハムートなんですね……」
「マジでいたんだな」
間近で見る獄獣の迫力に、モニカもアーシャも言葉少なだ。
ベルは、ゼノの黒いローブをギュッと掴むと、不安そうに声を上げた。
「……お兄ちゃん……怖い」
「大丈夫だよ。ディランさんたちが必ず倒してくれるはずだ」
「……うん……」
ベルの頭を優しく撫でながら、ゼノは前方へと注視する。
(いよいよだな)
これから、宮廷近衛師団による奇襲作戦が始まろうとしていた。
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10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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