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3章
第1話
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あの日から一週間の月日が経過した。
その間、ゼノとモニカはいくつかのクエストを達成してきた。
今回、ゼノたちが訪れたのは、ゴンザーガ領にあるダーハラという村だ。
村にはびこる疫病をどうにかしてほしいというのが依頼内容であったが、ゼノは魔法でそれをいとも簡単に解決してしまう。
今はクエストを無事に達成し、これから帰路へ着くというところであった。
「ちょっと先に村の入口へ行っててくれ」
「はーい。分かりました♪」
モニカを先に行かせると、ゼノはその場で光のディスプレイを表示させて、自分のステータスを確認する。
----------
【ゼノ・ウィンザー】
[Lv]48
[魔力値]0 [術値]0
[力]23 [守]13
[魔攻]380 [速]18
[スキル]〔魔導ガチャ〕
[魔石コンプ率]118/666
[所持魔石]
☆2《空間把握》 ☆2《ライト》
☆2《ドレスアップ》 ☆2《盗聴》
☆2《吹き飛ばし》 ☆2《石化》
☆2《スペシャルドッジ》 ☆2《HPドレイン》
☆2《物理ダメージ軽減》 ☆2《風獄の拡散》
☆2《天の幻光爆》 ☆3《テイム》
☆3《幻覚》 ☆3《星座の黙示録》
☆3《獄炎の麓》
[所持クリスタル]
青クリスタル×35
緑クリスタル×3
[Ωカウンター]009.59%
----------
確認を終えると、ゼノは村の入口へと向かって、その場で待たせていたモニカと合流した。
「おまたせ。悪いないつも」
「いえ。ゼノ様にとって大事なチェックなんですよね。もういいんですか?」
「ああ、大丈夫だ」
クエストを終えたタイミングで、ゼノはこうして自身のステータスを確認するようにしていた。
理由は、Ωカウンターの上昇率を確認するためだ。
実は、Ωカウンターについては、まだモニカに伝えていない。
魔法を使用するたびに死へ一歩近付くなんて話をすれば、間違いなく止められると思ったからだ。
(でも、さすがにちょっと気になってきたな……)
現在のΩカウンターは009.59%。
そして、魔石はまだ118種類しか集められていない。
少しだけ焦りを感じる。
こんな調子で、果たして本当にすべての魔法を列挙するなんてことができるのか、と。
(……いや。今は、やれることを1つずつこなしていくしかない)
最近では、緑クリスタルも定期的に入手できるようになった。
何もプラス材料がまったく無いわけではないのだ。
お師匠様のためにも、今は目の前のクエストに集中しよう。
そんなことを思いながら、ゼノはモニカと一緒にダーハラの村を後にした。
◆
村の前で待たせていた馬車に乗り込み、揺られること数時間。
2人は無事にマスクスに到着する。
それからゼノは、夕暮れの町の中をモニカと並んで歩きながら、冒険者ギルドへと向かっていた。
「それにしても、今回もすごかったですね、ゼノ様♪ 村の疫病問題を一瞬で解決しちゃうなんて。わたしも何かお役に立てればって思ってましたけど、わたしが使える〈回復術〉にはそんな術式はありませんでしたし」
「前日に、運良く《浄化》の魔石が出ただけだよ」
「そういう魔石を、このタイミングでさらっと召喚できちゃうのが、さすがゼノ様って感じです♪」
すでにゼノはAランク冒険者に任命されており、以前よりも幅広いクエストを依頼されていた。
そのすべてを未発見魔法によって解決してきたため、モニカにとってゼノは、英雄のように映っているに違いなかった。
「毎回、俺に対する評価が高すぎて、なんかすごい恐縮してしまうんだが……」
「そーゆう謙虚なところがまた、ゼノ様の素晴らしさなんですよ~♡」
「俺はただ、お師匠様から授かった力を使っているだけだよ」
「でもその剣って、ゼノ様しか扱えないじゃないですか」
「そうなのかな? 俺にもよく分からないんだ」
たしかに、エメラルドは自分ではムリだと公言していた。
この前モニカに一度触らせた時も、同じ手順を踏んでも、彼女は魔法を発動させることができなかった。
ゼノと同じ魔力値0であるにもかかわらずだ。
「だから、すごいんですっ! 大賢者様が作った発動具をこんなにも自由に使いこなせるなんて♪」
どこか嬉しそうに口にするモニカを見ながら、ゼノはふと思う。
(魔導師を毛嫌いしてたのが嘘みたいだよなぁ……)
ギルドに提出するパーティー名を決める時もそうだった。
【天空の魔導団】
それがゼノとモニカのパーティー名だ。
これは、モニカがアイデアを出して付けた名前である。
あえて〝魔導〟という名前を入れることで、ゼノの凄さを冒険者ギルド全体に知らしめるというのが、彼女の考えのようであった。
「こんな天才魔導師様と一緒のパーティーを組むことができて、わたしは幸せ者です♪」
「お、おいっ……そんなくっ付くなって……」
「えぇっ~? そう言いながら、ゼノ様鼻の下のびてますよー?」
「のびてない!」
ここ一週間、ずっとこんな調子だ。
あの日からゼノはモニカと一緒に宿舎で共同生活を送っている。
(最初、一緒の部屋で暮らすって言い出した時は、どうなることかと思ったけど……)
結局、強引に押し出す形でなんとか諦めてくれたわけだが、あいかわらずスキンシップは多めだ。
(……でも、モニカの〈回復術〉はすごいんだよなぁ。本当にパーティーの役に立ってくれているし)
これまでは、〈ヒーリング〉しか使えなかったモニカであったが、今では〈ミスティックガード〉や〈キュアプラムス〉などの術式も扱える。
モニカの術値は高く、上位術使いに分類されるため、Lvが上がるにつれて強力な〈回復術〉を習得できるのだ。
〝本来のわたしの力をもってすれば、あのご婦人の傷は治せたんですよ? 聖女の〈回復術〉は偉大ですから♪〟
彼女のあの発言は本当だったのだ。
(これで性格が残念じゃなかったら、もっとよかったんだが……)
そんなことを思いながら、ゼノはモニカに目を向ける。
「なんですかぁ~? そんな見つめちゃって。あっ! ようやく、モニカの愛に気付いちゃいました!?」
「いや……。なんでこう、以前と別人みたいなキャラになってるんだよ」
「それは、まだゼノ様のことがよく分かっていなかったからです。でも、最初にお会いした時から惹かれていたのは本当ですよ? 自分の気持ちに気付くまでに、時間がかかってしまったっていうだけなので。だから、これまでため込んだ想いを全力でぶつけているんです♡ んんぅっ~」
「胸をむにぃむにぃ押し当てるなっ!?」
「えぇ~いいじゃないですかぁ。男の人って、こーゆうボディタッチ大好きですよね?」
「少なくとも俺は好きじゃない」
「がーん!?」
そんなこんなで。
騒ぎながら歩いているうちに、あっという間に冒険者ギルドへと到着する。
◆
「只今、戻りました~♪」
「あっ、お2人とも無事に帰って来られましたね。どうでしたか?」
「もぉ~ばっちりですよ♪ ゼノ様がダーハラ村の疫病を一気に消し去っちゃいました。ひれ伏してください!」
最初の頃は、モニカとティナはいろいろとあったみたいだが、今では2人とも普通に話すようになっている。
女子は、仲良くなるのも早いようだ。
「……ってか、なんで毎回、モニカがそんな偉そうなんだ?」
「さすがですね、ゼノさん。うちの冒険者じゃ、誰も解決できなかった問題だったのに」
「ほぅ、やっぱりゼノくんは達成しちゃったねぇ」
いつものように、カウンターの隣りからリチャードが顔を出す。
今日は珍しく、ダニエルもギルドへ来ているようだ。
「んおぉぅ!! ゼノッ! ちゃんとクエストを達成して帰って来たみてぇだな!」
「え? あ、はいっ」
暑苦しさはあいかわらずだ。
もちろん、威圧感も変わらずである。
「よっし! これがてめぇの今回の報酬だ! 受け取れ!」
「ありがとうございます」
銀色の短髪を漢らしくかき上げると、ダニエルは金貨3枚をゼノに差し出した。
「オイッ、ゼノ! まだ話は終わりじゃねぇ。てめぇには……今日からSランク冒険者を任命する!!」
「Sランクっ!?」
それを聞いた瞬間、モニカが目を輝かせる。
周りの冒険者からも、ひゅーという指笛が鳴った。
「すげぇ……! うちのギルドで最速でSランクになりやがった!」
「こりゃ伝説を目撃してるぞ、俺たち……」
「今日は祝杯だな!」
「あいつはマスクスの誇りだ。これからの活躍も楽しみだぞ~!」
このギルドへやって来た当初は、魔導師ということもあって、いろいろと白い目で見られていたゼノであったが、今ではすっかり英雄扱いされている。
ギルドを牛耳っていたグリーのパーティーが、マスクスから逃げ出して行ってしまったことも、少なからず影響している。
ゼノがグリーを打ち負かしたという噂は瞬く間に広がって、今では【天空の魔導団】が、マスクスの冒険者ギルドのトップに君臨していた。
「もちろん、てめぇも……これが何を意味するか分かってるよなぁ?」
ダニエルが、左目の眼帯を近付けながら訊ねてくる。
「はい、分かってます」
そのギルドでSランク冒険者は1人しか任命できない決まりだ。
Sランク冒険者になると、他領のギルドが抱えるクエストを受注することができるようになる。
他領のクエストを受ける場合は、登録先のギルドにも一定の報酬が入るため、ギルドは最も出来の良い冒険者をSランクに任命しようとする。
つまり、そのギルドで一番信頼された者に送られる最高の称号なのだ。
「俺なんかをSランクに任命してくれて、本当にありがとうございます。素直に嬉しいです」
「てめぇは、これまでの依頼達成率も100%だしな。やっぱり俺様の目に狂いはなかったぞッ! フハハハッ!!」
「ゼノくんのおかげで、うちのギルドの評判もうなぎ上りだからねぇ。Sランクは当然だよねぇ」
「これからもよろしくお願いしますね。ゼノさん」
「はい。リチャードさんもティナさんも、どうもありがとうございます」
「ゼノ様の圧倒的な凄さを前に、今後も皆さん全員でひれ伏してくださいっ♪」
◆
ゼノとモニカが館から出て行くのを確認すると、ティナがダニエルに近寄って訊ねる。
「……あの、よろしいんですか、ギルマス」
「あんっ?」
「ゼノさんたちに、アーシャ様のこと話してなかったですよね? 絶対にすぐ動いてきますよ。嗅ぎつくの、めちゃくちゃ早いじゃないですか」
「ワイアットの野郎が見張ってやがるからな、んなことは百も承知よ!」
「でしたら……」
「俺様は心配してねぇ。ゼノは今後、うちのギルドを背負っていく男だからな! アーシャ様の試験も無事に突破するはずだ」
その間、ゼノとモニカはいくつかのクエストを達成してきた。
今回、ゼノたちが訪れたのは、ゴンザーガ領にあるダーハラという村だ。
村にはびこる疫病をどうにかしてほしいというのが依頼内容であったが、ゼノは魔法でそれをいとも簡単に解決してしまう。
今はクエストを無事に達成し、これから帰路へ着くというところであった。
「ちょっと先に村の入口へ行っててくれ」
「はーい。分かりました♪」
モニカを先に行かせると、ゼノはその場で光のディスプレイを表示させて、自分のステータスを確認する。
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【ゼノ・ウィンザー】
[Lv]48
[魔力値]0 [術値]0
[力]23 [守]13
[魔攻]380 [速]18
[スキル]〔魔導ガチャ〕
[魔石コンプ率]118/666
[所持魔石]
☆2《空間把握》 ☆2《ライト》
☆2《ドレスアップ》 ☆2《盗聴》
☆2《吹き飛ばし》 ☆2《石化》
☆2《スペシャルドッジ》 ☆2《HPドレイン》
☆2《物理ダメージ軽減》 ☆2《風獄の拡散》
☆2《天の幻光爆》 ☆3《テイム》
☆3《幻覚》 ☆3《星座の黙示録》
☆3《獄炎の麓》
[所持クリスタル]
青クリスタル×35
緑クリスタル×3
[Ωカウンター]009.59%
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確認を終えると、ゼノは村の入口へと向かって、その場で待たせていたモニカと合流した。
「おまたせ。悪いないつも」
「いえ。ゼノ様にとって大事なチェックなんですよね。もういいんですか?」
「ああ、大丈夫だ」
クエストを終えたタイミングで、ゼノはこうして自身のステータスを確認するようにしていた。
理由は、Ωカウンターの上昇率を確認するためだ。
実は、Ωカウンターについては、まだモニカに伝えていない。
魔法を使用するたびに死へ一歩近付くなんて話をすれば、間違いなく止められると思ったからだ。
(でも、さすがにちょっと気になってきたな……)
現在のΩカウンターは009.59%。
そして、魔石はまだ118種類しか集められていない。
少しだけ焦りを感じる。
こんな調子で、果たして本当にすべての魔法を列挙するなんてことができるのか、と。
(……いや。今は、やれることを1つずつこなしていくしかない)
最近では、緑クリスタルも定期的に入手できるようになった。
何もプラス材料がまったく無いわけではないのだ。
お師匠様のためにも、今は目の前のクエストに集中しよう。
そんなことを思いながら、ゼノはモニカと一緒にダーハラの村を後にした。
◆
村の前で待たせていた馬車に乗り込み、揺られること数時間。
2人は無事にマスクスに到着する。
それからゼノは、夕暮れの町の中をモニカと並んで歩きながら、冒険者ギルドへと向かっていた。
「それにしても、今回もすごかったですね、ゼノ様♪ 村の疫病問題を一瞬で解決しちゃうなんて。わたしも何かお役に立てればって思ってましたけど、わたしが使える〈回復術〉にはそんな術式はありませんでしたし」
「前日に、運良く《浄化》の魔石が出ただけだよ」
「そういう魔石を、このタイミングでさらっと召喚できちゃうのが、さすがゼノ様って感じです♪」
すでにゼノはAランク冒険者に任命されており、以前よりも幅広いクエストを依頼されていた。
そのすべてを未発見魔法によって解決してきたため、モニカにとってゼノは、英雄のように映っているに違いなかった。
「毎回、俺に対する評価が高すぎて、なんかすごい恐縮してしまうんだが……」
「そーゆう謙虚なところがまた、ゼノ様の素晴らしさなんですよ~♡」
「俺はただ、お師匠様から授かった力を使っているだけだよ」
「でもその剣って、ゼノ様しか扱えないじゃないですか」
「そうなのかな? 俺にもよく分からないんだ」
たしかに、エメラルドは自分ではムリだと公言していた。
この前モニカに一度触らせた時も、同じ手順を踏んでも、彼女は魔法を発動させることができなかった。
ゼノと同じ魔力値0であるにもかかわらずだ。
「だから、すごいんですっ! 大賢者様が作った発動具をこんなにも自由に使いこなせるなんて♪」
どこか嬉しそうに口にするモニカを見ながら、ゼノはふと思う。
(魔導師を毛嫌いしてたのが嘘みたいだよなぁ……)
ギルドに提出するパーティー名を決める時もそうだった。
【天空の魔導団】
それがゼノとモニカのパーティー名だ。
これは、モニカがアイデアを出して付けた名前である。
あえて〝魔導〟という名前を入れることで、ゼノの凄さを冒険者ギルド全体に知らしめるというのが、彼女の考えのようであった。
「こんな天才魔導師様と一緒のパーティーを組むことができて、わたしは幸せ者です♪」
「お、おいっ……そんなくっ付くなって……」
「えぇっ~? そう言いながら、ゼノ様鼻の下のびてますよー?」
「のびてない!」
ここ一週間、ずっとこんな調子だ。
あの日からゼノはモニカと一緒に宿舎で共同生活を送っている。
(最初、一緒の部屋で暮らすって言い出した時は、どうなることかと思ったけど……)
結局、強引に押し出す形でなんとか諦めてくれたわけだが、あいかわらずスキンシップは多めだ。
(……でも、モニカの〈回復術〉はすごいんだよなぁ。本当にパーティーの役に立ってくれているし)
これまでは、〈ヒーリング〉しか使えなかったモニカであったが、今では〈ミスティックガード〉や〈キュアプラムス〉などの術式も扱える。
モニカの術値は高く、上位術使いに分類されるため、Lvが上がるにつれて強力な〈回復術〉を習得できるのだ。
〝本来のわたしの力をもってすれば、あのご婦人の傷は治せたんですよ? 聖女の〈回復術〉は偉大ですから♪〟
彼女のあの発言は本当だったのだ。
(これで性格が残念じゃなかったら、もっとよかったんだが……)
そんなことを思いながら、ゼノはモニカに目を向ける。
「なんですかぁ~? そんな見つめちゃって。あっ! ようやく、モニカの愛に気付いちゃいました!?」
「いや……。なんでこう、以前と別人みたいなキャラになってるんだよ」
「それは、まだゼノ様のことがよく分かっていなかったからです。でも、最初にお会いした時から惹かれていたのは本当ですよ? 自分の気持ちに気付くまでに、時間がかかってしまったっていうだけなので。だから、これまでため込んだ想いを全力でぶつけているんです♡ んんぅっ~」
「胸をむにぃむにぃ押し当てるなっ!?」
「えぇ~いいじゃないですかぁ。男の人って、こーゆうボディタッチ大好きですよね?」
「少なくとも俺は好きじゃない」
「がーん!?」
そんなこんなで。
騒ぎながら歩いているうちに、あっという間に冒険者ギルドへと到着する。
◆
「只今、戻りました~♪」
「あっ、お2人とも無事に帰って来られましたね。どうでしたか?」
「もぉ~ばっちりですよ♪ ゼノ様がダーハラ村の疫病を一気に消し去っちゃいました。ひれ伏してください!」
最初の頃は、モニカとティナはいろいろとあったみたいだが、今では2人とも普通に話すようになっている。
女子は、仲良くなるのも早いようだ。
「……ってか、なんで毎回、モニカがそんな偉そうなんだ?」
「さすがですね、ゼノさん。うちの冒険者じゃ、誰も解決できなかった問題だったのに」
「ほぅ、やっぱりゼノくんは達成しちゃったねぇ」
いつものように、カウンターの隣りからリチャードが顔を出す。
今日は珍しく、ダニエルもギルドへ来ているようだ。
「んおぉぅ!! ゼノッ! ちゃんとクエストを達成して帰って来たみてぇだな!」
「え? あ、はいっ」
暑苦しさはあいかわらずだ。
もちろん、威圧感も変わらずである。
「よっし! これがてめぇの今回の報酬だ! 受け取れ!」
「ありがとうございます」
銀色の短髪を漢らしくかき上げると、ダニエルは金貨3枚をゼノに差し出した。
「オイッ、ゼノ! まだ話は終わりじゃねぇ。てめぇには……今日からSランク冒険者を任命する!!」
「Sランクっ!?」
それを聞いた瞬間、モニカが目を輝かせる。
周りの冒険者からも、ひゅーという指笛が鳴った。
「すげぇ……! うちのギルドで最速でSランクになりやがった!」
「こりゃ伝説を目撃してるぞ、俺たち……」
「今日は祝杯だな!」
「あいつはマスクスの誇りだ。これからの活躍も楽しみだぞ~!」
このギルドへやって来た当初は、魔導師ということもあって、いろいろと白い目で見られていたゼノであったが、今ではすっかり英雄扱いされている。
ギルドを牛耳っていたグリーのパーティーが、マスクスから逃げ出して行ってしまったことも、少なからず影響している。
ゼノがグリーを打ち負かしたという噂は瞬く間に広がって、今では【天空の魔導団】が、マスクスの冒険者ギルドのトップに君臨していた。
「もちろん、てめぇも……これが何を意味するか分かってるよなぁ?」
ダニエルが、左目の眼帯を近付けながら訊ねてくる。
「はい、分かってます」
そのギルドでSランク冒険者は1人しか任命できない決まりだ。
Sランク冒険者になると、他領のギルドが抱えるクエストを受注することができるようになる。
他領のクエストを受ける場合は、登録先のギルドにも一定の報酬が入るため、ギルドは最も出来の良い冒険者をSランクに任命しようとする。
つまり、そのギルドで一番信頼された者に送られる最高の称号なのだ。
「俺なんかをSランクに任命してくれて、本当にありがとうございます。素直に嬉しいです」
「てめぇは、これまでの依頼達成率も100%だしな。やっぱり俺様の目に狂いはなかったぞッ! フハハハッ!!」
「ゼノくんのおかげで、うちのギルドの評判もうなぎ上りだからねぇ。Sランクは当然だよねぇ」
「これからもよろしくお願いしますね。ゼノさん」
「はい。リチャードさんもティナさんも、どうもありがとうございます」
「ゼノ様の圧倒的な凄さを前に、今後も皆さん全員でひれ伏してくださいっ♪」
◆
ゼノとモニカが館から出て行くのを確認すると、ティナがダニエルに近寄って訊ねる。
「……あの、よろしいんですか、ギルマス」
「あんっ?」
「ゼノさんたちに、アーシャ様のこと話してなかったですよね? 絶対にすぐ動いてきますよ。嗅ぎつくの、めちゃくちゃ早いじゃないですか」
「ワイアットの野郎が見張ってやがるからな、んなことは百も承知よ!」
「でしたら……」
「俺様は心配してねぇ。ゼノは今後、うちのギルドを背負っていく男だからな! アーシャ様の試験も無事に突破するはずだ」
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