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2章
第11話
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「分かりました。では、実際にその場面を一緒に見てもらってもよろしいですか?」
「なに……?」
魔導袋の中からゼノは1つの魔石を取り出す。
「これを使ってね」
ゼノが手にしたのは、昨日の〔魔導ガチャ〕で入手した《時渡り》の魔石だった。
「なんですか……それは……?」
ワルキューレの聖弓を握るポーラの手元が一瞬、カチカチと震える。
「これは魔石って言います。使い方は簡単で……」
ゼノはホルスターから聖剣クレイモアを抜き取ると、魔石を素早く鍔のくぼみにはめ込む。
すると、剣は輝きをもって光り出す。
「ちょ……ちょっと、あなたっ! 一体、何をッ……」
「え? 言ってませんでしたっけ? 俺、未発見魔法が使えるんですよ」
「未発見魔法……ですって……!?」
「魔法を毛嫌いされているようなので、ご存じないかもしれないですが、現代だと魔法って13種類しか発見されていないんです。それで……。俺は、まだ見つかっていない未発見の魔法を扱うことができるんですよ」
「!!」
ポーラの顔つきがみるみるうちに変わる。
なぜ、未だに修道院護衛隊が戻って来ないのか。
その理由がようやく分かったというような表情を彼女は浮かべていた。
「だから……たとえば、過去へ戻るなんて魔法も使えたりするんです」
「なっ!?」
「あなたは嘘をつく名人みたいですから。過去に戻ってその場面をちゃんと見ないと、俺は納得できません。幸いにも、この場にはたくさんの証人の方がいますし」
もちろん、ゼノとしても躊躇いはあった。
エメラルドが封印の魔法をかけられる前に戻って、それを確認したい。
《時渡り》の魔石は、そのために使うつもりでいた。
だが、今はそれよりも、モニカの無実を証明するために使いたかった。
(《時渡り》は☆4の魔石だ。次に、これがいつ手に入るか分からない。けど……)
ゼノは、一度振り返ってモニカの顔を見ると、これを使用する決心をする。
聖剣クレイモアのグリップを両手でギュッと握り締め、剣身を突き立てると、詠唱を開始した。
「この場にいる者たちを全員、1年前と同じ時刻へと戻せ――《時渡り》!」
シュピーーーン!
ゼノがそう叫ぶと、礼拝堂全体は一瞬のうちにして眩い光に包まれてしまう。
それは、ささやかな時空を越える旅の幕開けとなった。
◆
『うっ……』
ゼノが目を開けると、そこにはまったく同じ景色が広がっていた。
近くには、居合わせた全員の姿もある。
だが、一つだけ違う点があった。
『ゼ、ゼノさん……! わたしたちの体っ……』
『ああ……』
『一体何をしたのですか、あなたは!?』
混乱するポーラ同様に、シスターたちもざわざわと悲鳴にも似た声を上げている。
そう。
ゼノたちの体は今、宙に浮いてしまっていた。
宙に浮かびながら見下ろすような形で、礼拝堂の中を漂っている。
(本当に過去に戻れたのか……?)
そんなことをゼノが思っていると、モニカが慌てたように声を上げて指さす。
『あっ! あれ……わたしです……!』
モニカが指さす方向へ目を向けると、礼拝堂の入口から入ってくる何者かの姿が見える。
(本当だ……。モニカだ)
今よりもピンク色のミディアムヘアは少し短かったが、その立ち姿は間違いなくモニカであった。
『ッ……そんなぁ……』
ポーラも礼拝堂に入ってきた者が、1年前のモニカであることに気付いたようだ。
ワルキューレの聖弓を下ろし、ただ唖然としてその光景を見下ろしている。
過去のモニカは、何か急いでいるようだ。
速足で礼拝堂の中を横切っている。
『午前の日課が遅れてしまったので、食堂へ急いでいたんですけど……』
まだ、過去の自分と同じ空間を共有しているという事実が上手く飲み込めないのか。
モニカは口元に手を当てたまま、驚きの眼差しで見下ろしていた。
『え……院長……?』
その時。
シスターのうちの1人が、ある一点を見下ろしながらそんな言葉を口にする。
すぐに、ゼノはその視線を追った。
すると――。
(!)
祭壇の裏に隠れるようにして、身を縮めているポーラの姿がはっきりと目に飛び込んでくる。
『うそっ……』
先に声を上げたのはモニカだった。
彼女は、信じられないものでも見るような目で、祭壇の裏にひっそりと隠れる過去のポーラに視線を向けていた。
『院長さん。なぜ、あなたがここにいるんですか?』
ゼノがそう訊ねても、ポーラは力なく俯いたまま何も口にしない。
やがて、過去のモニカが礼拝堂から出ようかというタイミングで――。
ガシャン!
祭壇に固定されている大聖女マリアの像が落下し、粉々に壊れてしまう。
その決定的瞬間を、ゼノははっきりと目にした。
いや、ゼノだけではない。
この場にいる全員が、1年前のポーラが祭壇の裏から大聖女マリアの像を落下させる瞬間を目撃していた。
それから、壊れた像を発見して気が動転した過去のモニカが急いで礼拝堂から出て行くのを確認すると、過去のポーラもその後に続いて礼拝堂を後にする。
そこで《時渡り》の効果は切れた。
◆
「……ち、違うっ……! こんなのはでたらめだわッ……!」
現実の世界へ皆の意識が戻ると、ポーラは真っ先に声を張り上げた。
だが、それに同調する者はいない。
シスターたちは何も言えずに、その場で固まってしまっていた。
ゼノは聖剣をホルスターへしまいつつ、ポーラに声をかける。
「院長さん。あなたはこうやって濡れ衣をかけて、モニカを無理矢理修道院から追い出したんです。なぜ、院長さんがこんなことをしたのか、俺には分かりません。でも、これは紛れもない事実です」
「くっ……」
「モニカの術式にかけた制限を解いてください。彼女はそれで、これまでずっと辛い思いをしてきたんです」
「……ゼノさん……」
自分の代わりにすべてを言ってくれているゼノの姿を、モニカは指を組んで見守っていた。
「こんな風に、罪のない少女を追いつめるのが聖マリアの教えなんですか? 違いますよね? 無償の愛で多くの人たちに癒しを与えるというのが、聖マリアの尊い教えだったはずです。今でも、皆さんの力に救われている人たちは大勢いるんですよ? それは、ヒーラーの方たちの誇りでもあったはずです。院長さんの中にも、そうした思いがきっとあるって……俺はそう信じています」
「あぁぁ……」
ゼノの言葉に、ポーラはその場で崩れ落ちる。
その後、礼拝堂には彼女の泣き声が大きく響き渡るのだった。
「なに……?」
魔導袋の中からゼノは1つの魔石を取り出す。
「これを使ってね」
ゼノが手にしたのは、昨日の〔魔導ガチャ〕で入手した《時渡り》の魔石だった。
「なんですか……それは……?」
ワルキューレの聖弓を握るポーラの手元が一瞬、カチカチと震える。
「これは魔石って言います。使い方は簡単で……」
ゼノはホルスターから聖剣クレイモアを抜き取ると、魔石を素早く鍔のくぼみにはめ込む。
すると、剣は輝きをもって光り出す。
「ちょ……ちょっと、あなたっ! 一体、何をッ……」
「え? 言ってませんでしたっけ? 俺、未発見魔法が使えるんですよ」
「未発見魔法……ですって……!?」
「魔法を毛嫌いされているようなので、ご存じないかもしれないですが、現代だと魔法って13種類しか発見されていないんです。それで……。俺は、まだ見つかっていない未発見の魔法を扱うことができるんですよ」
「!!」
ポーラの顔つきがみるみるうちに変わる。
なぜ、未だに修道院護衛隊が戻って来ないのか。
その理由がようやく分かったというような表情を彼女は浮かべていた。
「だから……たとえば、過去へ戻るなんて魔法も使えたりするんです」
「なっ!?」
「あなたは嘘をつく名人みたいですから。過去に戻ってその場面をちゃんと見ないと、俺は納得できません。幸いにも、この場にはたくさんの証人の方がいますし」
もちろん、ゼノとしても躊躇いはあった。
エメラルドが封印の魔法をかけられる前に戻って、それを確認したい。
《時渡り》の魔石は、そのために使うつもりでいた。
だが、今はそれよりも、モニカの無実を証明するために使いたかった。
(《時渡り》は☆4の魔石だ。次に、これがいつ手に入るか分からない。けど……)
ゼノは、一度振り返ってモニカの顔を見ると、これを使用する決心をする。
聖剣クレイモアのグリップを両手でギュッと握り締め、剣身を突き立てると、詠唱を開始した。
「この場にいる者たちを全員、1年前と同じ時刻へと戻せ――《時渡り》!」
シュピーーーン!
ゼノがそう叫ぶと、礼拝堂全体は一瞬のうちにして眩い光に包まれてしまう。
それは、ささやかな時空を越える旅の幕開けとなった。
◆
『うっ……』
ゼノが目を開けると、そこにはまったく同じ景色が広がっていた。
近くには、居合わせた全員の姿もある。
だが、一つだけ違う点があった。
『ゼ、ゼノさん……! わたしたちの体っ……』
『ああ……』
『一体何をしたのですか、あなたは!?』
混乱するポーラ同様に、シスターたちもざわざわと悲鳴にも似た声を上げている。
そう。
ゼノたちの体は今、宙に浮いてしまっていた。
宙に浮かびながら見下ろすような形で、礼拝堂の中を漂っている。
(本当に過去に戻れたのか……?)
そんなことをゼノが思っていると、モニカが慌てたように声を上げて指さす。
『あっ! あれ……わたしです……!』
モニカが指さす方向へ目を向けると、礼拝堂の入口から入ってくる何者かの姿が見える。
(本当だ……。モニカだ)
今よりもピンク色のミディアムヘアは少し短かったが、その立ち姿は間違いなくモニカであった。
『ッ……そんなぁ……』
ポーラも礼拝堂に入ってきた者が、1年前のモニカであることに気付いたようだ。
ワルキューレの聖弓を下ろし、ただ唖然としてその光景を見下ろしている。
過去のモニカは、何か急いでいるようだ。
速足で礼拝堂の中を横切っている。
『午前の日課が遅れてしまったので、食堂へ急いでいたんですけど……』
まだ、過去の自分と同じ空間を共有しているという事実が上手く飲み込めないのか。
モニカは口元に手を当てたまま、驚きの眼差しで見下ろしていた。
『え……院長……?』
その時。
シスターのうちの1人が、ある一点を見下ろしながらそんな言葉を口にする。
すぐに、ゼノはその視線を追った。
すると――。
(!)
祭壇の裏に隠れるようにして、身を縮めているポーラの姿がはっきりと目に飛び込んでくる。
『うそっ……』
先に声を上げたのはモニカだった。
彼女は、信じられないものでも見るような目で、祭壇の裏にひっそりと隠れる過去のポーラに視線を向けていた。
『院長さん。なぜ、あなたがここにいるんですか?』
ゼノがそう訊ねても、ポーラは力なく俯いたまま何も口にしない。
やがて、過去のモニカが礼拝堂から出ようかというタイミングで――。
ガシャン!
祭壇に固定されている大聖女マリアの像が落下し、粉々に壊れてしまう。
その決定的瞬間を、ゼノははっきりと目にした。
いや、ゼノだけではない。
この場にいる全員が、1年前のポーラが祭壇の裏から大聖女マリアの像を落下させる瞬間を目撃していた。
それから、壊れた像を発見して気が動転した過去のモニカが急いで礼拝堂から出て行くのを確認すると、過去のポーラもその後に続いて礼拝堂を後にする。
そこで《時渡り》の効果は切れた。
◆
「……ち、違うっ……! こんなのはでたらめだわッ……!」
現実の世界へ皆の意識が戻ると、ポーラは真っ先に声を張り上げた。
だが、それに同調する者はいない。
シスターたちは何も言えずに、その場で固まってしまっていた。
ゼノは聖剣をホルスターへしまいつつ、ポーラに声をかける。
「院長さん。あなたはこうやって濡れ衣をかけて、モニカを無理矢理修道院から追い出したんです。なぜ、院長さんがこんなことをしたのか、俺には分かりません。でも、これは紛れもない事実です」
「くっ……」
「モニカの術式にかけた制限を解いてください。彼女はそれで、これまでずっと辛い思いをしてきたんです」
「……ゼノさん……」
自分の代わりにすべてを言ってくれているゼノの姿を、モニカは指を組んで見守っていた。
「こんな風に、罪のない少女を追いつめるのが聖マリアの教えなんですか? 違いますよね? 無償の愛で多くの人たちに癒しを与えるというのが、聖マリアの尊い教えだったはずです。今でも、皆さんの力に救われている人たちは大勢いるんですよ? それは、ヒーラーの方たちの誇りでもあったはずです。院長さんの中にも、そうした思いがきっとあるって……俺はそう信じています」
「あぁぁ……」
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