25 / 90
1章
第16話
しおりを挟む
「俺様の名はダニエル・オースターだ! このギルドを仕切ってる」
「仕切ってるってことは……ギルドマスターなんですか?」
どおりで他のギルド職員と雰囲気が違うわけだ、とゼノは思った。
「そうそう。昔は【震威の黒龍】っていう凄腕の冒険者が集まるパーティーのリーダーだったみたいだねぇ」
「おおぅ! なんとでも好きに呼んでくれ!」
「あの……それで、俺に何か用なんでしょうか? なんか探しているみたいでしたけど……」
「その件なんだがな。今ちょうど、ラヴニカの冒険者ギルドから伝書鳥が届いたのよ! てめぇ、ワイド山のボス魔獣を1人で倒したみたいじゃねーか!」
ダニエルがそう口にした瞬間、これまでこちらのやり取りに注目していた冒険者たちがザワザワと騒ぎ始める。
その中には、ギルドの常連であるグリーたちパーティーの姿もあった。
「おい、聞いたか? ワイド山のボス魔獣だってよ」
「リーディングホークを1人で倒した? さすがに嘘じゃね?」
「だよな……。グリーはどう思うよ?」
「……あのクソ魔導師野郎に、んな芸当ができるわけねーだろ」
グリーがそう言い放つと、仲間もそれぞれに頷き合う。
だが、彼らとは違って、他の冒険者たちはダニエルの言葉を信じたようだ。
Fランク冒険者がワイド山のボス魔獣を1人で倒したという話は、相当にインパクトがあったようで、すぐにあちこちに話が広がっていく。
そんな光景を目にして、ティナはぼそっと小さく呟いた。
「……あの子の、言った通りだ……」
(あの子?)
ティナの言葉に気を取られていると、ゼノはダニエルにドン!と肩を叩かれる。
「いって!?」
「てめぇ、何者なんだっ? 調べたら、今回のクエストが初回みたいじゃねーか!」
「ちょ、ちょっと待ってください……。話が全然見えないんですけど……」
その時、一度カウンターの奥へと消えていたリチャードが、何やら紙を持って戻ってくる。
「えーと、なになに……。『本日、当ギルド所属の【狂悪の凱旋】受注のクエストが、御ギルド所属のゼノ・ウィンザー氏により達成されたとの申し出があったことをここに報告する。該当クエストの詳細は以下の通りである。ワイド山のリーディングホーク討伐として――』って、これ。さっきゼノくんが言っていたパーティーの名前じゃないかい?」
「んおぉう! なら、やっぱりこの内容は本当なんだな!」
「たしかに、リーディングホークは倒しましたけど……。でも、あれは本当にまぐれみたいなもので……」
「オイッ! んな謙遜すんなよ、ゼノ! 相手もてめぇを認めたから、こんな風に報告してきたわけだろっ? 以前、うちの冒険者がやらかして、ラヴニカのギルドには借りがあったからな! ここで返すことができて正直助かったぞ!」
「いや……。俺は、なんかすごく申し訳ないです」
それはゼノの本心だった。
まさか、帰ってから3人がそのような申し出をするとは思っていなかったのだ。
(ジェシカさんたち、なんでこんな報告を……)
何か自分だけがいい思いをしているようで、ゼノはダニエルに訴えた。
「あの……。それを言ったら、俺も【狂悪の凱旋】の皆さんには、いろいろと助けてもらったんです。このベリー草を問題なく採取できたのも、ジェシカさんたちのおかげで……」
「……んんッ? その前にちょっと待て!」
そこで何かに気付いたように、ダニエルがしゃがれ声を上げる。
「リチャード! ゼノにクエストを紹介したのはどこのどいつだ!?」
「えっ? あーいや、それは……」
「てめぇッ! こういうのは、包み隠さず報告するのがチーフの役割だろぉが!!」
「ハ、ハイッ! すみません……っ!」
さすがにトボけるのはマズいと思ったのか、リチャードはティナに気遣う素振りを見せながらも、本当のことを口にする。
「えっとですねぇ。実はその……ティナちゃんが、紹介しましてぇ……」
「うがああァァ~~!! ティナァッ! またてめぇかッ!!」
「ひっ……す、すみません……!」
まるで親に叱られた子供のように、ティナはしゅんとしながら頭を下げた。
そのままダニエルは、カウンターに置かれたベリー草の束に目を落とすと、状況を理解したようだ。
「ワイド山のベリー草採取クエストをゼノに任せたんだな……? Fランクのペーペーにやらせるクエストじゃねーってことくらいは、てめぇも分かるだろぉが!! ましてや、こいつは初回だったんじゃねーのか!?」
「ごめんなさいぃ~~!!」
ティナは怯える小動物のように縮こまる。
これまでに何度も、こうしてダニエルに叱られてきたのだろう。
「なんでこういつも、新人を潰そうとすんだよ、てめぇは!」
「で、ですけど……今回のは違うんですっ! 彼が……魔導師だって言うから……」
「魔導師ぃ……?」
その時、ダニエルのしかめっ面がゼノの方を向く。
左目の眼帯が威圧感を放っていた。
「てめぇ……ゼノ! そりゃ本当なのか!?」
「へっ? そ、そうですけど……」
背丈の高いダニエルに凄まれると、さすがに萎縮してしまう。
恐る恐るゼノがそう答えると、暫しの間を置いてから、ダニエルはニカッと笑みをこぼした。
「……ほぅ、こりゃ面白いッ!! 魔導師が1人でワイド山のボス魔獣を倒しちまったのか! なんて野郎だ!」
「でも、ギルマス……。いいんですか? 魔導師なんかに、冒険者をやらせてしまって……」
ティナが食い下がってそう訴えるも、ダニエルはそれをすぐに突っぱねた。
「うちのギルドは術使いだろーが、魔導師だろーが関係ねーんだよッ! ティナ。てめぇ、次に仕事に私情を挟んだら、本当にクビだぞ!!」
「ぅっ……。わ、分かりましたっ……!」
そこでようやく、ティナは納得したようだ。
さすがにクビと言われてまで、抗議をするつもりはなかったらしい。
そんな様子を傍で見ていたゼノは、ティナに対しても罪悪感を抱いてしまう。
「職員が迷惑をかけたな。嫌な思いをさせてすまなかった」
「いえ、俺は全然……」
「うちは魔導師ももちろん歓迎だからよ! 次に何か言われたら俺様に言いつけろ!」
「は、はぁ」
「ほら、てめぇもちゃんと謝れ!」
「も、申し訳ありませんでした……ゼノさん。危険なクエストを押し付けるような真似をしてしまって……」
「いや、もとはと言えば、俺が勝手に頼んだことなので。ティナさんがそんな風に責任を感じないでください。俺……嬉しかったんです。ティナさんにクエストを紹介してもらって」
「えっ?」
「俺の勝手な思い込みですけど、ちょっと信頼してもらえたって思ったんです。だから、それに応えたいって」
「……ゼノさん……」
その言葉の何かが、彼女の心に響いたのか。
ティナは少しの間だけ黙り込む。
――そして。
背筋をピンと正すと、これまでの態度が嘘のように、ティナは深々と頭を下げた。
「……また、ギルド職員として、あるまじき態度を取ってしまいました。ゼノさん……本当に本当に、ごめんなさいっ!」
魔導師を毛嫌いしている術使いは多い。
特に、ここは冒険者ギルドだ。
きっと、些細なプライドから、これまでのような態度を取ってしまっていたのだろう。
だが、頭を下げる今の彼女には、確かに誠意が存在した。
「ティナさん、やめてください。俺に謝るような義理はないですよ」
「ですけど……」
「だったら、俺は代わりにティナさんに感謝します。俺にクエストを紹介してくれて、本当にありがとうございます。そのおかげで、俺は素晴らしい経験ができましたから」
「んおぉぉーーぅ!! なんていいヤツなんだぁ~~ゼノはよぉぉ!!」
「へ? ちょっ……!?」
ダニエルはゼノの両手を取ると、ぐるんぐるんと回して喜びを表現する。
「てめぇみたいな規格外の冒険者がうちに来てくれて、ホントに嬉しいぞぉぉーーーッ!!」
「ゼノくんはいいヤツってだけじゃないですよん。ほら、超レアのクラウンベリー草まで集めて帰って来るくらいですから」
「んんぉッ!? マ……マジじゃねーかッ! 凄すぎんだろぉが……。日没までにワイド山から行って帰ってきて、べリー草とクラウンベリー草をこんな大量に集めて、リーディングホークまで1人で倒しちまうなんて……。待てよ……魔導師? 一体、どうやってこれを全部達成したんだ?」
そこでダニエルはゼノから手を離すと、スッと真剣な顔になる。
伊達にギルドマスターを任されていないのだろう。
責任者としての責務を果たそうという思いが、その表情の裏に隠れていることにゼノは気付いた。
(……)
さすがにここまで大々的に注目されたら、もう言い逃れはできない。
現代だと、魔導師は攻撃魔法は使えないのだ。
これだと、ワイド山のボス魔獣を1人で倒したという話の辻褄が合わないことになる。
(このギルドでやっていくって決めたのなら、皆さんにちゃんと話しておかないと)
ゼノはそう決意すると、ダニエルに告げる。
「少々お時間をいただいてもよろしいですか?」
「ん? お、おう……」
「できれば、ティナさんとリチャードさんもお願いします」
◆
受付カウンターの奥は、ギルド職員の控室となっている。
ゼノは、ダニエルに案内され、その場所へと通された。
今、控室に職員の姿はなく、ティナとリチャードだけが同席している。
全員でテーブルに腰を下ろすと、ダニエルがまず口を開いた。
「それで、どうした?」
「はい。皆さんには話しておきたいと思いまして。実は俺……ただの魔導師じゃないんです」
「? どういうことですか?」
ティナが制服の襟元を触りながら、少しだけ不安そうに訊ねてくる。
「正確には、魔導師ですらないんですけど……。俺は、ある方からこの聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕っていうスキルを授かっただけで」
「な、なにぃ……? 聖剣に……スキル? おいおい……コイツ、何言ってんだ……!?」
「まぁ、ダニエルさんも落ちつきましょうよ。一旦、ここはゼノくんの話を聞いてみましょうねぇ」
リチャードにそう促され、ゼノはこれまでの経緯を3人に順を追って話した。
「仕切ってるってことは……ギルドマスターなんですか?」
どおりで他のギルド職員と雰囲気が違うわけだ、とゼノは思った。
「そうそう。昔は【震威の黒龍】っていう凄腕の冒険者が集まるパーティーのリーダーだったみたいだねぇ」
「おおぅ! なんとでも好きに呼んでくれ!」
「あの……それで、俺に何か用なんでしょうか? なんか探しているみたいでしたけど……」
「その件なんだがな。今ちょうど、ラヴニカの冒険者ギルドから伝書鳥が届いたのよ! てめぇ、ワイド山のボス魔獣を1人で倒したみたいじゃねーか!」
ダニエルがそう口にした瞬間、これまでこちらのやり取りに注目していた冒険者たちがザワザワと騒ぎ始める。
その中には、ギルドの常連であるグリーたちパーティーの姿もあった。
「おい、聞いたか? ワイド山のボス魔獣だってよ」
「リーディングホークを1人で倒した? さすがに嘘じゃね?」
「だよな……。グリーはどう思うよ?」
「……あのクソ魔導師野郎に、んな芸当ができるわけねーだろ」
グリーがそう言い放つと、仲間もそれぞれに頷き合う。
だが、彼らとは違って、他の冒険者たちはダニエルの言葉を信じたようだ。
Fランク冒険者がワイド山のボス魔獣を1人で倒したという話は、相当にインパクトがあったようで、すぐにあちこちに話が広がっていく。
そんな光景を目にして、ティナはぼそっと小さく呟いた。
「……あの子の、言った通りだ……」
(あの子?)
ティナの言葉に気を取られていると、ゼノはダニエルにドン!と肩を叩かれる。
「いって!?」
「てめぇ、何者なんだっ? 調べたら、今回のクエストが初回みたいじゃねーか!」
「ちょ、ちょっと待ってください……。話が全然見えないんですけど……」
その時、一度カウンターの奥へと消えていたリチャードが、何やら紙を持って戻ってくる。
「えーと、なになに……。『本日、当ギルド所属の【狂悪の凱旋】受注のクエストが、御ギルド所属のゼノ・ウィンザー氏により達成されたとの申し出があったことをここに報告する。該当クエストの詳細は以下の通りである。ワイド山のリーディングホーク討伐として――』って、これ。さっきゼノくんが言っていたパーティーの名前じゃないかい?」
「んおぉう! なら、やっぱりこの内容は本当なんだな!」
「たしかに、リーディングホークは倒しましたけど……。でも、あれは本当にまぐれみたいなもので……」
「オイッ! んな謙遜すんなよ、ゼノ! 相手もてめぇを認めたから、こんな風に報告してきたわけだろっ? 以前、うちの冒険者がやらかして、ラヴニカのギルドには借りがあったからな! ここで返すことができて正直助かったぞ!」
「いや……。俺は、なんかすごく申し訳ないです」
それはゼノの本心だった。
まさか、帰ってから3人がそのような申し出をするとは思っていなかったのだ。
(ジェシカさんたち、なんでこんな報告を……)
何か自分だけがいい思いをしているようで、ゼノはダニエルに訴えた。
「あの……。それを言ったら、俺も【狂悪の凱旋】の皆さんには、いろいろと助けてもらったんです。このベリー草を問題なく採取できたのも、ジェシカさんたちのおかげで……」
「……んんッ? その前にちょっと待て!」
そこで何かに気付いたように、ダニエルがしゃがれ声を上げる。
「リチャード! ゼノにクエストを紹介したのはどこのどいつだ!?」
「えっ? あーいや、それは……」
「てめぇッ! こういうのは、包み隠さず報告するのがチーフの役割だろぉが!!」
「ハ、ハイッ! すみません……っ!」
さすがにトボけるのはマズいと思ったのか、リチャードはティナに気遣う素振りを見せながらも、本当のことを口にする。
「えっとですねぇ。実はその……ティナちゃんが、紹介しましてぇ……」
「うがああァァ~~!! ティナァッ! またてめぇかッ!!」
「ひっ……す、すみません……!」
まるで親に叱られた子供のように、ティナはしゅんとしながら頭を下げた。
そのままダニエルは、カウンターに置かれたベリー草の束に目を落とすと、状況を理解したようだ。
「ワイド山のベリー草採取クエストをゼノに任せたんだな……? Fランクのペーペーにやらせるクエストじゃねーってことくらいは、てめぇも分かるだろぉが!! ましてや、こいつは初回だったんじゃねーのか!?」
「ごめんなさいぃ~~!!」
ティナは怯える小動物のように縮こまる。
これまでに何度も、こうしてダニエルに叱られてきたのだろう。
「なんでこういつも、新人を潰そうとすんだよ、てめぇは!」
「で、ですけど……今回のは違うんですっ! 彼が……魔導師だって言うから……」
「魔導師ぃ……?」
その時、ダニエルのしかめっ面がゼノの方を向く。
左目の眼帯が威圧感を放っていた。
「てめぇ……ゼノ! そりゃ本当なのか!?」
「へっ? そ、そうですけど……」
背丈の高いダニエルに凄まれると、さすがに萎縮してしまう。
恐る恐るゼノがそう答えると、暫しの間を置いてから、ダニエルはニカッと笑みをこぼした。
「……ほぅ、こりゃ面白いッ!! 魔導師が1人でワイド山のボス魔獣を倒しちまったのか! なんて野郎だ!」
「でも、ギルマス……。いいんですか? 魔導師なんかに、冒険者をやらせてしまって……」
ティナが食い下がってそう訴えるも、ダニエルはそれをすぐに突っぱねた。
「うちのギルドは術使いだろーが、魔導師だろーが関係ねーんだよッ! ティナ。てめぇ、次に仕事に私情を挟んだら、本当にクビだぞ!!」
「ぅっ……。わ、分かりましたっ……!」
そこでようやく、ティナは納得したようだ。
さすがにクビと言われてまで、抗議をするつもりはなかったらしい。
そんな様子を傍で見ていたゼノは、ティナに対しても罪悪感を抱いてしまう。
「職員が迷惑をかけたな。嫌な思いをさせてすまなかった」
「いえ、俺は全然……」
「うちは魔導師ももちろん歓迎だからよ! 次に何か言われたら俺様に言いつけろ!」
「は、はぁ」
「ほら、てめぇもちゃんと謝れ!」
「も、申し訳ありませんでした……ゼノさん。危険なクエストを押し付けるような真似をしてしまって……」
「いや、もとはと言えば、俺が勝手に頼んだことなので。ティナさんがそんな風に責任を感じないでください。俺……嬉しかったんです。ティナさんにクエストを紹介してもらって」
「えっ?」
「俺の勝手な思い込みですけど、ちょっと信頼してもらえたって思ったんです。だから、それに応えたいって」
「……ゼノさん……」
その言葉の何かが、彼女の心に響いたのか。
ティナは少しの間だけ黙り込む。
――そして。
背筋をピンと正すと、これまでの態度が嘘のように、ティナは深々と頭を下げた。
「……また、ギルド職員として、あるまじき態度を取ってしまいました。ゼノさん……本当に本当に、ごめんなさいっ!」
魔導師を毛嫌いしている術使いは多い。
特に、ここは冒険者ギルドだ。
きっと、些細なプライドから、これまでのような態度を取ってしまっていたのだろう。
だが、頭を下げる今の彼女には、確かに誠意が存在した。
「ティナさん、やめてください。俺に謝るような義理はないですよ」
「ですけど……」
「だったら、俺は代わりにティナさんに感謝します。俺にクエストを紹介してくれて、本当にありがとうございます。そのおかげで、俺は素晴らしい経験ができましたから」
「んおぉぉーーぅ!! なんていいヤツなんだぁ~~ゼノはよぉぉ!!」
「へ? ちょっ……!?」
ダニエルはゼノの両手を取ると、ぐるんぐるんと回して喜びを表現する。
「てめぇみたいな規格外の冒険者がうちに来てくれて、ホントに嬉しいぞぉぉーーーッ!!」
「ゼノくんはいいヤツってだけじゃないですよん。ほら、超レアのクラウンベリー草まで集めて帰って来るくらいですから」
「んんぉッ!? マ……マジじゃねーかッ! 凄すぎんだろぉが……。日没までにワイド山から行って帰ってきて、べリー草とクラウンベリー草をこんな大量に集めて、リーディングホークまで1人で倒しちまうなんて……。待てよ……魔導師? 一体、どうやってこれを全部達成したんだ?」
そこでダニエルはゼノから手を離すと、スッと真剣な顔になる。
伊達にギルドマスターを任されていないのだろう。
責任者としての責務を果たそうという思いが、その表情の裏に隠れていることにゼノは気付いた。
(……)
さすがにここまで大々的に注目されたら、もう言い逃れはできない。
現代だと、魔導師は攻撃魔法は使えないのだ。
これだと、ワイド山のボス魔獣を1人で倒したという話の辻褄が合わないことになる。
(このギルドでやっていくって決めたのなら、皆さんにちゃんと話しておかないと)
ゼノはそう決意すると、ダニエルに告げる。
「少々お時間をいただいてもよろしいですか?」
「ん? お、おう……」
「できれば、ティナさんとリチャードさんもお願いします」
◆
受付カウンターの奥は、ギルド職員の控室となっている。
ゼノは、ダニエルに案内され、その場所へと通された。
今、控室に職員の姿はなく、ティナとリチャードだけが同席している。
全員でテーブルに腰を下ろすと、ダニエルがまず口を開いた。
「それで、どうした?」
「はい。皆さんには話しておきたいと思いまして。実は俺……ただの魔導師じゃないんです」
「? どういうことですか?」
ティナが制服の襟元を触りながら、少しだけ不安そうに訊ねてくる。
「正確には、魔導師ですらないんですけど……。俺は、ある方からこの聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕っていうスキルを授かっただけで」
「な、なにぃ……? 聖剣に……スキル? おいおい……コイツ、何言ってんだ……!?」
「まぁ、ダニエルさんも落ちつきましょうよ。一旦、ここはゼノくんの話を聞いてみましょうねぇ」
リチャードにそう促され、ゼノはこれまでの経緯を3人に順を追って話した。
0
お気に入りに追加
977
あなたにおすすめの小説
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~
アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。
金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。
俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。
そして毎日催促をしに来る取り立て屋。
支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。
そして両親から手紙が来たので内容を確認すると?
「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」
ここまでやるか…あのクソ両親共‼
…という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼
俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。
隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。
なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。
この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼
俺はアパートから逃げ出した!
だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。
捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼
俺は橋の上に来た。
橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした!
両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される!
そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。
ざまぁみやがれ‼
…そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。
そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。
異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。
元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼
俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。
そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。
それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。
このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…?
12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。
皆様、ありがとうございました。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる