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第32話 セシリアSIDE

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「ナードがC級ダンジョンをソロでクリアしたですって?」

 その夜。
 宿屋のベッドで裸で過ごしながら、セシリアはダコタの言葉に耳を疑った。

「ああ、そういう噂だ」

「あり得ないわ。あなたも知ってるでしょ? あの男、ゴミみたいなステータスしか持ってないのよ?」

「んなことは俺も分かってる。だから驚いてんだ」

「その情報、確かなの? からかって誰かが言ってるんじゃなくて?」

「情報屋から聞いた話だから間違いねぇ。ヴァルキリーの聖弓も受け取ったってな。大司祭様に大金貢いでパラメーター上げてもらったとか、んな噂もあるが、アイツがそんな大金持ってるとも思えねーし」

 大司祭は、<贈与>という自身のパラメーターを相手に分け与えることができるユニークスキルを所持している。

 そのため、大金を積めばパラメーターを上げることができるのだが、+1を分けてもらうには1,000万アローの資金が必要なのだ。
 パラメーターを上げるなら、まだ高価な武器や防具を揃えた方が現実的であると言えた。

「それに、ちょいとパラメーターを上げてもらったくらいで、ソロでC級をクリアできるはずがねぇ」

「そうよ、だからあり得ないのよ。絶対にその情報屋が間違った情報をあなたに渡したんだわ。もう、こんな時に変な話しないでよ。興醒めしちゃうでしょ」

「悪かったよ。んじゃ、続きを楽しもうぜ」

 結局、その話はうやむやのまま終わるのだった。



 ◇



 翌朝。
 自分のアパートへ戻ったセシリアは、水晶ディスプレイに映し出されたステータスを見て、ため息をついていた。

「とうとうLP200になっちゃったわね」

 つい数日前、セシリアのLPは1減って、タイクーンとしてA級ダンジョンに入れるギリギリの数値に変わってしまっていた。
 前回のクエストでA級ダンジョンはクリアできるものと思っていたセシリアにとって、これは大きな誤算だった。

(もう後がないわ……)

 他のタイクーンに頭を下げてパーティーに参加するという選択肢は、セシリアのプライド的に許されない。
 なにがなんでも、自分がLP200のうちに【エクスハラティオ炎洞殿】をクリアする必要があった。

-----------------

[セシリア]
LP200
HP300/300
MP200/200
攻120(+50)
防120(+70)
魔攻120
魔防120(+20)
素早さ120(+10)
幸運120
ユニークスキル:<豪傑>
属性魔法:《フリーズウォーター》
無属性魔法:
超集中コンセントレーション》《瞬間移動テレポート》《環境適応コンバート
攻撃系スキル:<槍術>-《撃月陣げきがつじん》-《不知火槍しらぬいやり
補助系スキル:
分析アナライズ》《投紋キャスティング》《調薬ディスペンス》《陽動デモンストレーション
武器:スーパーヴァレリーランス
防具:
マジックメイル、金剛石の盾
ミスリルヘルム、女帝の腕輪
アイテム:
ポーション×218、ダブルポーション×88
マジックポーション×214、マジックポッド×53
エリクサー×12、水晶ジェム×322
貴重品:ビーナスのしずく×1、生命の護印×1
所持金:110,002,855アロー
所属パーティー:鉄血の戦姫アイアンヴァナディス
討伐数:
E級魔獣382体、E級大魔獣5体
D級魔獣201体、D級大魔獣3体
C級魔獣76体、C級大魔獣2体
B級魔獣27体、B級大魔獣1体
A級魔獣12体
状態:

-----------------

 真っ赤なストレートヘアの髪先を指でくるくるとさせながら、セシリアは改めて深いため息をつく。

(このステータスなら、冒険者シーカーとしても申し分ないはずなのに……どうして?)

 けれどセシリアは、ダコタ・デュカ・ケルヴィンの力を借りても、A級ダンジョンをクリアするには至らなかった。
 それどころか、ボス魔獣のいるフロアにも到達すらできなかったのだ。

(これも、最近<豪傑>の調子がおかしいことが原因よ)

 以前はダンジョンに入れば、どのパラメーターも+100は上がったというのに、今は+10に留まっている。
 ナードを追放したあの日からいろいろと<豪傑>の調子がおかしくなり始めたことに、セシリアは薄々気付いていた。

(やっぱり、一度大司祭様に確認してみないと……)

 このままダンジョンに入っても、状況が良くなるわけではない。
 ならば、早いところこの疑問は解決しておきたいというのが本音であった。

 決心したセシリアは、その足で大聖堂へと赴いた。



 ◇



「お待たせしました。謁見の準備が整いましたので、どうぞこちらへ」

「はい」

 助祭にそう呼ばれ、セシリアは控室から一度外に出る。

 朝一で大聖堂を訪れたセシリアであったが、すでに辺りは暮れ始めていた。
 しかし、多忙な大司祭とこうして話す機会をもらえただけでも運がいいと言えた。

「中で大司祭様がお待ちです」

 豪華な装飾がなされた仰々しい一室の前まで連れて来られると、中へ入るようにと言われる。

 ドアを開けると、背の高い真っ白な椅子に腰をかけている大司祭の姿が見えた。
 セシリアはすぐに頭を下げて礼を述べる。

「大司祭様。この度はお忙しい中、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます」

「いえ。本日の礼拝まわりもすべて終わって一段落したところです。セシリア・カーターさんですね? その後の活躍は聞いております。冒険者として、順調に日々過ごしているようですね」

「えっ? あ、はい……」

「国の結界を守るために働くというのはとても素晴らしいことです。エデンの父もきっと喜ばれていることでしょう。それで、本日はどうされましたか?」

 本当にこんなことを大司祭に訊ねてもいいのだろうかと一瞬迷いつつも、セシリアは意を決して胸のうちを吐露した。

「……実は、私が受け取ったユニークスキルについて、お伺いしたいことがありまして」

「ユニークスキル、ですか?」

「はい。私は成人の儀式で<豪傑>っていうスキルを授与されたんですが、どうも最近この調子がおかしい気がするんです」

「ほう……。では、詳しくお聞かせください」

 セシリアは、順を追って事の成り行きを説明した。
 ナードがパーティーを去ってから<豪傑>の調子がおかしくなり始めたということも正直に話した。

 というのも、すぐに否定してほしかったのだ。
 そんなことは、あなたのユニークスキルの調子がおかしくなったこととなんの関係もない、と。

 が。

「ナード・ヴィスコンティ……」

 大司祭は、その名前を聞いた瞬間、考え込むようにして黙る。
 何か思う節があるという反応であった。
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