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第3章〜カイン学園編〜
第46話。得られた情報
しおりを挟む「エミルおかえり! ……と、誰? ルーシィはどこ行っちゃったの?」
「幻覚魔法で見た目を変えてるけど、この子がルーシィだよ」
「「「ええっ!?」」」
俺達が戻ると真っ先にミシェルが声をかけてくれたんだけど、ルーシィが分からなかったようだ。まぁ、これだけ見た目が変化してたらわからないのは仕方ないけれど。みんな驚いていたからね。
「よし、お出かけしてた坊や達が戻ってきたようだし、次の場所へ行こうか」
急いで戻ってきたけど、待たせてしまっていたか。ちょっと反省だな。
「おう。次は教会、屋台通り、ギルド。まだまだ色々あるが頼んだぜ、ヤビット」
「まっかせといて!」
その後、張り切ったヤビットさんにベスティエを案内され、日が暮れてきたので宿屋にやってきた。
「うっし、全員いるな。女子も男子も寮室が同じ子とペアになって、二人一部屋使え。女子は1階、男子は2階だ。飯食いたきゃ、18時から20時の間に女将さんに言えよ。解散」
解散した途端、疲れた~、と言う声がロビーに溢れ、疲れた足を揉み始める子も多かった。少し騒がしいけど、この宿は貸切なので大丈夫だ。
「エミル~おぶって~。もう歩けない……」
「ミシェル……。はぁ、いいよ」
俺も疲れてるけど元々頑丈な体で体力があるし、その分疲労度はミシェルよりずっと軽い。体重的にもミシェルは重くないから、部屋まで運ぶ程度難しくはないだろう。
しゃがんだ状態でミシェルに背を向け、彼が乗ってきたのを感じると立ち上がり、階段を上る。手前の適当な部屋に入ってベッドに彼を下ろした。
ちなみに鍵はかかっていない。貸切だから宿内での安全は確保されてるし、夜中に見回りの先生が来るからな。
「僕眠いや……」
「待ってミシェル、ウォッシャー。これで大丈夫。着替えて寝ていいよ」
「ん……」
ミシェルがウォッシャーを見たのは初めてのはずだけど、全然驚かなかった。たぶんそれだけ眠いのだろう。
ゆっくりと緩慢な動作で着替え、目を閉じたと思ったらすぐに寝息が聞こえてきた。それを確認した俺は、窓の下に誰もいないか確認してから飛び降りる。窓際から離れ木の裏側に移動し、彼を呼ぶ。
「よし。……ツヴァイ」
「はっ!」
「何かわかったか」
「はい。魔道具を発動している魔法士は、城の地下に捕らえられた約100名のハーフエルフ。貴族院の動向に関してですが……現在、貴族院は機能していないしないようです」
ハーフエルフだと? しかも捕らえられたって……。
「そのハーフエルフの素性は?」
「カインと同じように、各国でハーフエルフが行方不明になっていました。報告されていた数も約100名で一致しています。恐らく攫われたのでしょう」
俺がギルドで受けた初依頼で捕らえられていたハーフエルフ達は、そのままだと獣人国に連れてこられていたのか。ルーシィも助けられて本当によかった。
ん……まてよ? 確かあの時、絶滅したはずのクロノシスがあの場に居た。そして、まだ殺されては困ると、俺が戦っていた相手を連れていった。もしかしたら、あの2人がこの国にいるかもしれない。獣王と同じクラスで注意しておいた方がいいな。
「そうか……。貴族院は解散したのか?」
「いいえ。新王ゲパルドに反抗した貴族院の主なメンバーが、城に軟禁されているようです。それぞれの貴族当主を人質に取られたようなもので、各領地の貴族も身動きが取れず、新王が重税を課しました」
この国、想像してたよりずっと酷い状況だな。取り敢えずルーシィに報告してあとはどうするか。そのまま父様に報告してもいいが、伝えたからと言って積極的な干渉は出来ないだろう。となると……。
「殿下」
「なんだ」
「潜入した部隊員のほぼ全ての連絡が途絶しています。恐らくですが、消されました。殿下がもし潜入を考えておられるのでしたら、お気をつけください」
獣人に魔族がそう易々と殺されるとは考えにくい。1人2人なら分からなくもないが、ほぼ全員なんて確実に何か潜んでいるな。
「分かった。肝に銘じておく。もういいぞ」
「はっ」
スッと消えたツヴァイを見届け、俺は2階の自室に向かってジャンプした。地面を破壊しないよう、土魔法で強化しておいたから大丈夫だ。
無事に部屋に戻ってこれたのでドアを開け、ルーシィを探しに行く。といっても、気配察知を一瞬だけ広げて既に見つけているので探しに行くも何もないが。
1階のとある部屋で立ち止まり、ノックする。
――コンコン――
「エミルだけど。入っていい?」
「エミル!? ちょ、ちょっと待ってほしいわ!」
やけに慌てた様子なルーシィの声が聞こえたので、大人しく待っていると、数分でドアが開かれた。
「お待たせ。入って大丈夫よ。今ラウラはご飯食べに行ったばかりだから、暫く戻らないわ」
部屋に入ってルーシィがベッドに座り、俺が立ったまま話そうとしたのだが、ルーシィに遮られた。
「座らないの? ほら、ここ空いてるわよ」
「いや、流石に女の子のベッドに座るのはちょっと……」
「今更何言ってるのよ。星の海亭ではいつも一緒のベッドで寝てたじゃないの。あたしは気にしないし……それとも、エミルは嫌なの?」
その聞き方はずるいな。全然嫌なんかじゃない。少し、いや結構恥ずかしいだけで。
「はぁ、まいりました。座らせてもらいます」
「それでいいわ! で、何か話があったんでしょ?」
「そうなんだ。実は……」
俺はツヴァイに聞いたことを、そのままルーシィに伝えた。それを聞いたルーシィが真っ青になる。元王女だし、貴族の知り合いも居ただろう。
「そんな、じゃあ皆……嘘」
「ルーシィ、落ち着いて。軟禁されてるだけで危害を加えられてるわけじゃない」
「そう、そうよね。でも助けないと。アイツの好きにさせてたら、皆の笑顔が見れないままだわ」
「俺も助けたいけど、どうするの? 俺達はまだ子供で、しかも2人だ。それに、手練の諜報員が何人も死んでる。父様や大人達の手を借りた方が―――――」
ルーシィが強い意志を宿した瞳でこっちをじっと見つめてきたので、俺は言葉を続けられなかった。
「エミル。貴族院の人達は、今まで殺されなかったってだけでこれからも殺されないって保証はどこにもないの。他国の王や大人を納得させてる時間なんてないわ。貴族院さえ一度助けられれば、貴族の人達の助けも借りられる。そうすればハーフエルフ達だって助けられるわ」
「時間が無いのはわかるけど……。たった2人で何人もいる貴族院の人達を助けるのは無謀だよ。幻覚魔法で姿を消せても、音は消せないから絶対に気づかれる獣王を倒すにしても、彼がどれだけ強いのかわからないから下手な真似は出来ない」
「それはそう、だけど。でも、でも……!」
――――ガチャ――
「私がお手伝い致しますわ」
突如小さく響いたドアの開く音と共に、この部屋に滑り込んできた彼女は、なんと助力を申し出た。
「サラシャさん? いつから聞いていたのですか?」
「申し訳ありません! その……最初からですわ」
なんてこった。聞き耳立てるなんて良い趣味だとは言えないけれど、本人が物凄くシュンとしてるから怒れない。取り敢えず、話を聞くことにした。
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