41 / 50
第3章〜カイン学園編〜
第40話。神との対話
しおりを挟む都民街、大通りから1本外れた道にある教会。白い石造りでなんとも神々しい雰囲気を放つ大きな建物。
神魔国城の中庭にあった教会とは大違いだ。
中は正面奥に女神シューメクリアの神像があって、左右それぞれに長椅子が置かれている。これは神魔国城の教会とほぼ同じ造りだな。
神父1人の前に赤子を抱いた数人の列が出来ており、複数のシスターが聖水を配っていた。多分神父は子供のステータスを開いてあげてるんだと思う。
椅子に座って勝手に祈ってもいいのだろうか? わからないけど、忙しそうなシスター達に聞くのも申し訳ない。俺はなるべく神像に近い椅子に座り、祈りの手を組んで目を閉じた。
「チーッス、起きてるっすか?」
物凄く軽い声に目を開けてみると、教会の正面奥にあった女神像が動き回っていた。その女神像がまるで生身であるかのように、滑らかに口を動かして俺に話しかけている。予想外の状況にポカンと口を開けてしまった。
「な~に固まってるんすか。別に声出しても大丈夫っすよ。この教会だけ時を止めたっすから」
「時を……止めた!?」
辺りを見渡してみると、みんな微動だにしていなかった。どうやら本当のようだ。
「そうっすよ。仮にも神なんだからそれぐらい朝飯前っす。あ、褒めても良いっすよ?」
これが、神? 女神シューメクリア? 神像通りなら清廉な美女なのだが……[っす]という語尾はなんだ? 全っ然似合わない。
「君、思ってたより失礼っすね。ウチ自身この像とは似ても似つかないからまぁ、良しとするっす。ところで、なんの用があって呼んだんっすか?」
そういえば神はこっちの心を読めるんだった。気をつけないと。
「地球の母の様子が気になって。今どうしているのかとか見せてもらったり出来ますか」
「それは難しいっすね。ウチはシュメフィールの神だからアースガルドに直接干渉できないんっすよ。それが見たいならアーシュリムに頼むっす」
この世界の神は、他の世界である地球に干渉できないのか。だが、地球の世界アースガルドの神であるアーシュリムなら可能らしい。
けれど彼がここに居ないということは、今忙しかったりするんだろう。
「忙しいっていうか、アーシュリムはウチより神気が強いから土地の力が足りないんっすよ。神が降りるにはその神気に耐えうる大地が必要なんっす。無理に降りれば世界崩壊だってありうるから、もっと土地が強い場所……教会の総本山にでも行くといいっすね」
「総本山ということは……神魔国ですか」
神魔国が神魔国と呼ばれる所以。魔族が住む土地に世界中の教会の総本山、シューメクリア大聖堂があるからだ。そして教皇は代々天族。まさに神と魔の国である。
今まで行ったことのない場所だが、夏の長期休暇で神魔国に一度帰る予定だし行ってみよう。
「あと、神の呪縛について聞きたいんですけど」
「それは言えないっす。先代がやったことだから神の規則で喋れないんっすよ。それに、ウチの方が弱いから簡単に解くことも出来ないっす」
「先代? 神も代替わりするんですね」
「まぁ、そんなところっす。先代達はちょっとやりすぎたんで最高神に消されたんっすよ」
やりすぎて最高神に消された。一体何をしたんだ。というか最高神なんて居たのか……。
「ゲームっすよ、ゲーム。アイツに誑かされてあいつら……」
そう呟いた石の神像は、美しい顔を盛大に歪めて憎しみの浮かんだ表情をしている。神気……なのだろうか? 凄まじい波動が伝わってきて背筋が冷えた。
身震いした俺に気づいたシューメクリアが慌ててそれを引っ込めるまで、生きた心地がしなかった。
「す、すまなかったっす……。あの頃を思い出してつい。あぁ、最高神っていうのは、それぞれの世界の管理神を統括する神。全世界に存在する神で最も強い力を持ってるっす」
「大丈夫、です……。最高神って凄い方なんですね。最後にひとつ聞きたいんですが……」
「なんだね? 言ってみるがいいっすよ!」
何故か腕を組んでドヤ顔をしたシューメクリアに、最後の質問をぶつける。
「古の勇者アドル。あどう るいについてです」
「亜藤 瑠威……懐かしい名前っすね。何故それを君が知ってるっすか?」
「彼の日記をとある人に見せてもらったので」
「そうっすか。でも答えはNOっす。彼のことは彼から聞くといいっすね。ウチは彼のことについて語る資格がないっすから」
話せないとかじゃなく、資格がない? そう言った女神シューメクリアは下唇を噛み締め、今にも泣きそうな顔で俯いている。
「ウチは、彼に酷い選択をさせてしまったっす。せめて君がそうならないことを願うしかないっすね」
詳しくはわからないけど、シューメクリアとアドルの間には何か深い事情があるんだろう。
「なんの選択かわかりませんが、俺は誰かが悲しむような選択はしたくないっす」
「ぷっ……ウチの口調が移ったっすね」
ずっと[っす]を聞いていて語尾が変になった俺を見て吹き出した彼女は、噛んでいた唇を緩めて微笑んだ。なんだか俺もちょっと面白くなって2人で笑ってしまった。
「そろそろ時間っすね。時を動かすけど、慣れてないと目が回るから座ったままの方がいいっすよ」
「わかりました。色々教えてくれてありがとうございます」
「こっちこそ、息抜きが出来たからありがとうっす。また呼んで欲しいっすね。さぁ、目を閉じるっすよ!」
目が回るのに備えて椅子に深く座り、目を閉じる。
次の瞬間には耳に複数人の声が届いた。同時に異様な気持ち悪さと眼球がグルグルしているような感覚が襲ってきたため、目を開けずにじっと耐える。
数分で治まったので教会を後にし、学園のある学商街へ向かって歩を進めた。
0
お気に入りに追加
4,368
あなたにおすすめの小説
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる