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act.3 Main Story
本編5
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「兄様、頭を上げてください」
兄様の話を聞く限り、兄様が私に頭を下げてまで謝る必要なんて何一つない。むしろ私は感謝しなければいけない筈だ。だって兄様は私の視た未来を実現させないために裏で一生懸命動いてくれたのだから。
顔を上げた兄様は少し涙ぐんでいた気がする。今まで私を守ってくれて”強い”と思い込んでいた兄の初めて見た”弱さ ”だった。
「……なんか、ごめんね。続きを話すよ。アルレイシャがそんな状態だった故に隣国の姫も国民の事を考えるあまりに、アシュレイと既成事実を作ろうとしていたことが今朝方発覚したんだ。彼女がそう告白してきた……作ろうとしたが、君に対しての良心が邪魔して出来なかった、と。だからねアシュレイとキャスティリオーネ姫の間には何もなかったんだ」
あまりの事実に言葉を閉ざしていた私に兄様が続ける。
「とにかく、姫から言質を取れたお陰で私たちが掴みきれなかったあの国の尻尾をやっと掴むことができたんだ。……彼女からの情報だが、彼らは近々こちらに侵攻しようとしてきている。アルレイシャに送っていた間諜からも情報の照合は取れた確定事項だ。だから、私達もやっと動くことができる。もう、君が視たような未来は起こらないんだよ。……アシュレイは今でも君を――――ヴィーだけを待っているよ」
キャスティリオーネ姫は、結局何もしていなかった……。むしろやろうとしていたことに対して罪の意識を抱いて、自国を敵にするようなことまで……全てを告白したところで私が入って行ってしまったようだ。泣いていたのも、きっと色んなことに対する申し訳なさ故だったのかもしれない……私は、なんて酷いことをしてしまったのだろう。
「……ここまで聞いてヴィーはどう思った?まだ未来が怖い?アシュレイが信じられない?彼から逃げたい?」
兄様が優しい声音で聞いてくる。今はむしろその優しさが痛かった。兄様の瞳が見れない……。だって私は勘違いして暴走した挙句に、彼の気持ちを散々に裏切ったのだ。私には―――――。
「でも……だとしたら、私は彼を避け続けて……酷いことをし続けた。だからもう――――」
彼にふさわしくなんてないのでは―――その言葉は口に出す前に兄様によって否定された。
「そう言って逃げるな、ヴィオレッタ!」
「ッ――――」
今迄に聞いたことのないくらいに強く、大きな声。いつもの優しい彼の気性からは想像できないような声だった。それに顔を上げられずにびくりと反応してしまう。
「確かに自分自身が人を殺したり、周りの人や自分が死ぬという未来を視るというのはかなり苦しい事だろう。だから今までは君の未来視の事も解決できてないし、なによりも気持ちの整理が必要だろうということで君を見逃していた。けれど、そろそろ君は向き合うべきだ。君が視る未来は確定ではない。不確定だ。君がかつてリーシャの命を救ったように、未来は自分の意志で変えることができるんだ……!だから向き合え、ヴィオレッタ!アシュレイと……自分自身の未来と――――!」
それに……その言葉に私は頭をひっぱたかれたかのような衝撃を受けた。私は兄様や父様、キャスティリオーネ姫が決意を重ねて、崩さないようにとしてきた事から逃げようとしていた……申し訳ないと思う故に。だから私が今するべきことは……しなければいけないのは――――。
「明日の朝、決意が固まっていたら公爵邸の馬車に乗りなさい……玄関前にとめておく。私は君が君にとって最良の判断を下せることを祈っているよ」
最後には優しい声音に戻っていた兄様の声を背に私は部屋を出ていく。
既に決意は固まっていた。
私はもう、逃げない!今まで逃げていた全てと向き合うのだ。
****************************************************
あとがき:
書いていたら、予想以上に主人公がウジウジしてしまった……。申し訳ない。
いれたかったけど、いれれなかった補足設定(読まなくてもなんら問題ない):
未来視……ウィステリアの古くから伝わる女神の能力の一つ。今までも王族の中で何人かヴィオレッタの様な未来を視る体質の者はいた。(ただし王族の中でも極秘事項)
ヴィオレッタは王族の血が色濃く出た故に、能力も出てしまった。
兄様の話を聞く限り、兄様が私に頭を下げてまで謝る必要なんて何一つない。むしろ私は感謝しなければいけない筈だ。だって兄様は私の視た未来を実現させないために裏で一生懸命動いてくれたのだから。
顔を上げた兄様は少し涙ぐんでいた気がする。今まで私を守ってくれて”強い”と思い込んでいた兄の初めて見た”弱さ ”だった。
「……なんか、ごめんね。続きを話すよ。アルレイシャがそんな状態だった故に隣国の姫も国民の事を考えるあまりに、アシュレイと既成事実を作ろうとしていたことが今朝方発覚したんだ。彼女がそう告白してきた……作ろうとしたが、君に対しての良心が邪魔して出来なかった、と。だからねアシュレイとキャスティリオーネ姫の間には何もなかったんだ」
あまりの事実に言葉を閉ざしていた私に兄様が続ける。
「とにかく、姫から言質を取れたお陰で私たちが掴みきれなかったあの国の尻尾をやっと掴むことができたんだ。……彼女からの情報だが、彼らは近々こちらに侵攻しようとしてきている。アルレイシャに送っていた間諜からも情報の照合は取れた確定事項だ。だから、私達もやっと動くことができる。もう、君が視たような未来は起こらないんだよ。……アシュレイは今でも君を――――ヴィーだけを待っているよ」
キャスティリオーネ姫は、結局何もしていなかった……。むしろやろうとしていたことに対して罪の意識を抱いて、自国を敵にするようなことまで……全てを告白したところで私が入って行ってしまったようだ。泣いていたのも、きっと色んなことに対する申し訳なさ故だったのかもしれない……私は、なんて酷いことをしてしまったのだろう。
「……ここまで聞いてヴィーはどう思った?まだ未来が怖い?アシュレイが信じられない?彼から逃げたい?」
兄様が優しい声音で聞いてくる。今はむしろその優しさが痛かった。兄様の瞳が見れない……。だって私は勘違いして暴走した挙句に、彼の気持ちを散々に裏切ったのだ。私には―――――。
「でも……だとしたら、私は彼を避け続けて……酷いことをし続けた。だからもう――――」
彼にふさわしくなんてないのでは―――その言葉は口に出す前に兄様によって否定された。
「そう言って逃げるな、ヴィオレッタ!」
「ッ――――」
今迄に聞いたことのないくらいに強く、大きな声。いつもの優しい彼の気性からは想像できないような声だった。それに顔を上げられずにびくりと反応してしまう。
「確かに自分自身が人を殺したり、周りの人や自分が死ぬという未来を視るというのはかなり苦しい事だろう。だから今までは君の未来視の事も解決できてないし、なによりも気持ちの整理が必要だろうということで君を見逃していた。けれど、そろそろ君は向き合うべきだ。君が視る未来は確定ではない。不確定だ。君がかつてリーシャの命を救ったように、未来は自分の意志で変えることができるんだ……!だから向き合え、ヴィオレッタ!アシュレイと……自分自身の未来と――――!」
それに……その言葉に私は頭をひっぱたかれたかのような衝撃を受けた。私は兄様や父様、キャスティリオーネ姫が決意を重ねて、崩さないようにとしてきた事から逃げようとしていた……申し訳ないと思う故に。だから私が今するべきことは……しなければいけないのは――――。
「明日の朝、決意が固まっていたら公爵邸の馬車に乗りなさい……玄関前にとめておく。私は君が君にとって最良の判断を下せることを祈っているよ」
最後には優しい声音に戻っていた兄様の声を背に私は部屋を出ていく。
既に決意は固まっていた。
私はもう、逃げない!今まで逃げていた全てと向き合うのだ。
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あとがき:
書いていたら、予想以上に主人公がウジウジしてしまった……。申し訳ない。
いれたかったけど、いれれなかった補足設定(読まなくてもなんら問題ない):
未来視……ウィステリアの古くから伝わる女神の能力の一つ。今までも王族の中で何人かヴィオレッタの様な未来を視る体質の者はいた。(ただし王族の中でも極秘事項)
ヴィオレッタは王族の血が色濃く出た故に、能力も出てしまった。
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