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「ルシエラ=クランガルド。彼女は複数の令嬢に対する脅迫、殺人未遂、そして懇意にしていた男への殺人教唆を行い――」

断頭台に立たされた私の罪が読み上げられていく。
何一つ否定のしようのない、心当たりのあるものばかりだった。

「アスラテ=ショートランドに対する脅迫及び毒殺未遂、ウカルダ=ヒップホーンに対する脅迫及び毒による殺害、フレデリック=コールランドの精神を支配し、バルデア=ブラグーンを殺害させた間接正犯の疑い、クラナリー=ポルダーントを――」

不自然な体勢で固定された首が痛くなり始めても、まだまだ終わらない罪状の多さに思わず笑いが漏れてしまった。既にこの時には心も倫理観も壊れ切ってしまっていたのもあるかもしれない。殺害したという事実に対しても、『あの子たちは親兄弟からも愛されて、一時でも彼に関心を向けてもらえていたのだから、これくらい許されるだろう』なんて思っていたほどだ。
犯した罪の重さに対する後悔よりも、早くこの退屈で無意味な時間を終わらせてほしいという気持ちが強くなっていた。さっさと首を落として、この私の無意味な人生を終わらせてほしい。私が何人もの人間の命をそうしてきたように。

どれだけ時間が経っただろう。
いい加減、首を落とされる前に疲れで首がもげ落ちそうだと思った辺りで、断頭台の外で声が上がった。

「早くその女を殺せ!!読み上げても、そいつは反省なんてしない!!!」
「そ、そうよ!私の娘を奪っておいて、まだ息をし続けているなんて許せない!さっさとその女の息の根を止めなさい!!」
「こんな女、もっと早く殺しておけば良かったんだ!!地獄に落ちろ!!!!」
「さっさと殺さないなら、俺が殺してやる!」

これだけ死を望まれている女、歴史を遡っても私くらいだろう。この人たちなんかに言われなくても私は地獄に落ちる。それは私自身が一番良く分かっている。余計なお世話だ。

私は誰にも愛されなかった。否、病気で死んだ母様は愛してくれていた。正確には、生きている人は誰も私に愛は愚か、関心すら抱いてくれなかった。
いつでも私に対して冷たい眼差しを向けていた父様、私を役立たず扱いして厭味しか言ってこなかった兄様、頑張ったけど、結局私を好きになってくれなかった婚約者のグレイ=フロストリング。
他人に迷惑をかけ続けた自己中心的で虚しい人生だった。そう結論付けて、人々の怒声の方向へと目を向ける。
『殺せ』というこれ以上ない程の憎悪と悪意の感情たち。吐きそうになるほどに酷い空間だった。

死ぬ前の最後の光景がコレだなんて嫌かもしれないと思った時、処刑場の端の方がざわつくのを感じた。

「ルシエラ!!!」

そこに居たのは唯一残った私の肉親。
兄のラファエル=クランガルドだった。

いつもの完璧な格好とは程遠い汚いヨレヨレの罪人のような服に、余裕さなんて欠片も見えない表情。そういえば彼は私のせいで、公爵家の人間だからという理由で牢獄に入れられていたななんてぼんやりと思い出した。
きっと最後の恨み辛みを言いに来た……いや、それどころか自分の手で殺しに来たのかもしれないなんて勝手に予測したが、それは大きく裏切られることになる。
魔法で周囲で彼を止めようとした人間達を吹き飛ばし、一瞬で私のところまで来ると、兄様は私に付けられていた拘束具と断頭台を

「逃げるぞ!!」
「え――」

そう私に言葉を掛けると同時に、ふわりと宙に浮く身体。
地面で叫び続ける貴族や民衆の声はすぐに聞こえないくらいに遠ざかった。兄様の魔法だ。

******

処刑場から街一つ分程離れた森の中。兄様と私は改めて向き合っていた。

「迎えに来るのが遅れてごめんな」
「な、んで……なんで私を助けたのですか!?」
「そりゃ、可愛い妹だからに決まっているだろう。お前がどんなに罪を犯そうとも、僕も父様もお前の家族であることは変わらない。むしろこんなに追い詰められるまで気付かなくて、ごめん。最後まで止められなくて、ごめんな」
「っ――」

初めて掛けられた優しい言葉に涙が溢れる。
私はずっと勘違いしていたという取り返しのつかない事実に、今更ながら後悔が押し寄せてきた。
人間、何も持っていない時は全てが羨ましく感じるが、自分がソレを持っていたと知って初めて自分の行動に対して冷静に見つめ直すことが出来て、反省が生まれるものだ。今の状態がソレだった。

私はなんてことをしてしまったのだろう。くだらない嫉妬でたくさんの人達を傷付け、果てには殺し続けた。自分よりも恵まれているということを免罪符に、自身に言い聞かせ続けながら。
私がただ一番近くで私を愛してくれていた人たちの存在に気が付かなかっただけなのに。

私はずっと誰かからの『愛情』が欲しかったのだ。けれどその結果は、父は私のような悪魔を育てた存在として先に処刑され、兄は今にも死にそうな身体をしていてボロボロだ。きっと酷い拷問を受けたのだろう、腹から血が出て、両手の爪は当然のように全てない。左手の指は何本かなかった。
ああ、私はなんて事をしてしまったのだろう。全ては私の愚かさが招いた結果だった。どれだけ後悔しても、もうそれは後の祭りでしかない。

「さて、休憩は終わりだ。さっさとここから離れよう」
「は――」

そう言って差し出された手を返事と共に取ろうとした瞬間。後ろから心臓を刺し貫かれた。

「ルシエラ!!?」
「罪人が逃げられると思うな」

あまりにも冷たい、婚約者だった男の声。
唐突な自分の死に驚くが、でもこれで良かったのかもしれないという気持ちも出てくる。
私は兄様と父様に愛されていたという事実を知れただけで満足だ。それに愛されていると知って、初めて自分の大きすぎる罪を自覚することが出来た。私は死んで当然の人間なのだ。
せめて兄だけは、まだ生きている彼だけは、全ての罪は私のものだから……。
そうして意識は深い闇の中に落ちていった――。
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