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旅を始めて2週間。
3人は順調に南下し続け、クモステラ同盟の治める地域までたどり着いていた。
あの後。3人共行く宛てがなかったので、とりあえず豊かな地を求めて南下することに決めた。
かなり前に本で読んだ知識ではあるが、南の地域は北側よりも土地が豊かで食物も多種多様。作られる食べ物も美味しいらしい。それに観光業で稼いでいる地域には遊園地やサーカスと言ったものもあるらしい。ノルネンツ王国を出たからには楽しそうなものを片っ端から試してみるというスタンスで私達3人は同意して動いていた。
お金は殆ど持っていないが、あの国に居た時よりは全然マシだろう。どうせあそこにいても、食事はまともなものは出ずに、魔物は四六時中出てそれを倒すために働き続けるという過酷な労働環境に置かれていた。正当な報酬がもらえないというのは心体共に響くものだ。
実際、国を出てからは規則やルール、時間と言ったものに縛られることなく3人共自由だということもあり、旅をしているだけで楽しかった。
更に南下するために、乗り合いの魔導車――魔法を動力源として動く4輪の車――に乗って移動を始めた……のだが。
「なあお前ら……そこの3人組だよ。どこから来たんだ?」
「北の国です」
なんだか大層な鎧に身を包んだ赤髪の男に話しかけられる。私達が身につけている俊敏さに特化している鎧とは違い、防御力は高いが非常に動きづらそうなものだ。ガタイも大きい。それに喋り方もなんだか柄が悪そうと思ってしまった。
「きたぁ?その安っぽい服装からして、あのノルネンツの人間ってことはないな。その辺の田舎出身ってとこか」
「そんなところです」
「田舎者のお前らに仕事をやるよ。魔導車の終点までの俺の世話、だ。俺はこれでもそれなりの名家出身でな。エンシェント帝国の騎士になる男だ。今から媚を売っておいた方がいいぞ?」
「遠慮しておきます」
後ろでダニエルとカノンがピリピリとした殺気を放っているのを感じて、男の明らかにこちらを馬鹿にしたようなイラっと来る言動にも特に反応することなくやんわりと断る。
一見か弱い女性が絡まれているというのに誰も助けようとしない。むしろ全員が全員が迷惑そうな顔をしているこの場所に不快感を感じる。そもそもそんな不快感を感じるのは、今まで私がどれだけ報われなかろうと国民を助けてきたからであり、これは普通の感覚ではなかった。
「お前ら、この俺の世話をしないだなんて。絶対後悔するんだからな。後から世話させてください~なんて言ってもさせてやらないんだからな!!」
ずっと遠慮しておくという言葉で男をかわし続けていたら、なんだか機嫌を損ねたらしい。車内の雰囲気が最悪なものになるが、それを無視して私は目を閉じた。
座りながらにして、かつ周囲を警戒しての就寝だが、ノルネンツにいた頃よりも安心して眠ることができた。
***
魔導車に乗って、5時間ほど。今まで歩いて旅をしてきたこともあり、疲労感がひどかったが、車内とはいえ雨風を凌げる場所で眠れたことでほぼ完全に疲れを取ることができて、私は非常に機嫌が良くなっていた。
次に着く場所はどんな場所なんだろうかと思いながらも到着を待っていると、周囲に嫌な気配を感じる。そして抱き枕がわりに腕で抱いていた大剣を鞘から抜いて、手に構えた瞬間、魔導車が大きく揺れて真っ二つに割れた。
「あっぶな」
目の前にいた女性の乗客を抱き寄せ、彼女が真っ二つに割れるのを寸前のところで救ったが、周囲は混乱に包まれていた。
外を見ると、そこは街の中だった……のだが、周囲は数えきれないほどの大小様々な魔物に囲まれている。
乗客たちは立ち尽くしている者、少しでも逃げようと二つに割れた魔導車の奥へ奥へと行こうとする者などなど様々であったが、誰も戦おうとはしていなかった。
「うっわー、この数かなりやばくないですか?臆病者共は戦おうとすらしないですし、置いて逃げちゃいましょうよー師匠」
「そうですね。車内で絡んで来たあの騎士になるという男とやらもいるわけですし。きっと彼が全て倒してくれるでしょう」
「待って!!あ、貴女達、強いんでしょう!!?私を助けて!!さっきも助けてくれたじゃない、見捨てないで!!!」
カノンとダニエルが見捨ててさっさと逃げ出そうという計画を話していると、先程私が、目の前にいたからという理由でなんとなく助けた女性が抱き付いてくる。
彼女が流した涙と鼻水でスリット付きのスカートがビッシャリと濡れるのが少し不快だったが、人一人を引き摺って逃げるのはそれはそれで面倒だと思ってしまった。それに元々私は人助けというものがそこまで嫌いではないし、目の前で人間が死んで嬉しいというような性格でもなかった。
3人の実力であれば、逃げると決めればいつでも逃げられる。逃げる方向に少し傾いていた思考をそう傾け直す。
「はあ。仕方がないので戦いましょう。カノン、ダニエルは怪我をしそうであれば、彼らの事を見捨てて逃げなさい。私は向こうにいる大型のを、貴方達はここの乗客に群がろうとしている魔物達をお願い」
そうして各自、散らばって魔物退治を始めたのだった。
3人は順調に南下し続け、クモステラ同盟の治める地域までたどり着いていた。
あの後。3人共行く宛てがなかったので、とりあえず豊かな地を求めて南下することに決めた。
かなり前に本で読んだ知識ではあるが、南の地域は北側よりも土地が豊かで食物も多種多様。作られる食べ物も美味しいらしい。それに観光業で稼いでいる地域には遊園地やサーカスと言ったものもあるらしい。ノルネンツ王国を出たからには楽しそうなものを片っ端から試してみるというスタンスで私達3人は同意して動いていた。
お金は殆ど持っていないが、あの国に居た時よりは全然マシだろう。どうせあそこにいても、食事はまともなものは出ずに、魔物は四六時中出てそれを倒すために働き続けるという過酷な労働環境に置かれていた。正当な報酬がもらえないというのは心体共に響くものだ。
実際、国を出てからは規則やルール、時間と言ったものに縛られることなく3人共自由だということもあり、旅をしているだけで楽しかった。
更に南下するために、乗り合いの魔導車――魔法を動力源として動く4輪の車――に乗って移動を始めた……のだが。
「なあお前ら……そこの3人組だよ。どこから来たんだ?」
「北の国です」
なんだか大層な鎧に身を包んだ赤髪の男に話しかけられる。私達が身につけている俊敏さに特化している鎧とは違い、防御力は高いが非常に動きづらそうなものだ。ガタイも大きい。それに喋り方もなんだか柄が悪そうと思ってしまった。
「きたぁ?その安っぽい服装からして、あのノルネンツの人間ってことはないな。その辺の田舎出身ってとこか」
「そんなところです」
「田舎者のお前らに仕事をやるよ。魔導車の終点までの俺の世話、だ。俺はこれでもそれなりの名家出身でな。エンシェント帝国の騎士になる男だ。今から媚を売っておいた方がいいぞ?」
「遠慮しておきます」
後ろでダニエルとカノンがピリピリとした殺気を放っているのを感じて、男の明らかにこちらを馬鹿にしたようなイラっと来る言動にも特に反応することなくやんわりと断る。
一見か弱い女性が絡まれているというのに誰も助けようとしない。むしろ全員が全員が迷惑そうな顔をしているこの場所に不快感を感じる。そもそもそんな不快感を感じるのは、今まで私がどれだけ報われなかろうと国民を助けてきたからであり、これは普通の感覚ではなかった。
「お前ら、この俺の世話をしないだなんて。絶対後悔するんだからな。後から世話させてください~なんて言ってもさせてやらないんだからな!!」
ずっと遠慮しておくという言葉で男をかわし続けていたら、なんだか機嫌を損ねたらしい。車内の雰囲気が最悪なものになるが、それを無視して私は目を閉じた。
座りながらにして、かつ周囲を警戒しての就寝だが、ノルネンツにいた頃よりも安心して眠ることができた。
***
魔導車に乗って、5時間ほど。今まで歩いて旅をしてきたこともあり、疲労感がひどかったが、車内とはいえ雨風を凌げる場所で眠れたことでほぼ完全に疲れを取ることができて、私は非常に機嫌が良くなっていた。
次に着く場所はどんな場所なんだろうかと思いながらも到着を待っていると、周囲に嫌な気配を感じる。そして抱き枕がわりに腕で抱いていた大剣を鞘から抜いて、手に構えた瞬間、魔導車が大きく揺れて真っ二つに割れた。
「あっぶな」
目の前にいた女性の乗客を抱き寄せ、彼女が真っ二つに割れるのを寸前のところで救ったが、周囲は混乱に包まれていた。
外を見ると、そこは街の中だった……のだが、周囲は数えきれないほどの大小様々な魔物に囲まれている。
乗客たちは立ち尽くしている者、少しでも逃げようと二つに割れた魔導車の奥へ奥へと行こうとする者などなど様々であったが、誰も戦おうとはしていなかった。
「うっわー、この数かなりやばくないですか?臆病者共は戦おうとすらしないですし、置いて逃げちゃいましょうよー師匠」
「そうですね。車内で絡んで来たあの騎士になるという男とやらもいるわけですし。きっと彼が全て倒してくれるでしょう」
「待って!!あ、貴女達、強いんでしょう!!?私を助けて!!さっきも助けてくれたじゃない、見捨てないで!!!」
カノンとダニエルが見捨ててさっさと逃げ出そうという計画を話していると、先程私が、目の前にいたからという理由でなんとなく助けた女性が抱き付いてくる。
彼女が流した涙と鼻水でスリット付きのスカートがビッシャリと濡れるのが少し不快だったが、人一人を引き摺って逃げるのはそれはそれで面倒だと思ってしまった。それに元々私は人助けというものがそこまで嫌いではないし、目の前で人間が死んで嬉しいというような性格でもなかった。
3人の実力であれば、逃げると決めればいつでも逃げられる。逃げる方向に少し傾いていた思考をそう傾け直す。
「はあ。仕方がないので戦いましょう。カノン、ダニエルは怪我をしそうであれば、彼らの事を見捨てて逃げなさい。私は向こうにいる大型のを、貴方達はここの乗客に群がろうとしている魔物達をお願い」
そうして各自、散らばって魔物退治を始めたのだった。
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