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あれから。あれよあれよという内に私をグレシュタットまで護衛し、一旦送り届けるという計画が組まれていった。
そうして私は魔導車――魔力を動力とする乗り物――に乗りながら、今は町娘っぽい格好で怪しまれない程度の軽い武器を装備した状態でレイヴンと車内に二人きりでグレシュタットへ向かっている。
何故二人きりなのかというと、そう決まったからとしか言いようがない。決してレイヴンがこねた駄々に団長が折れた――だなんて信じたくない。
役割分担としては今のところ、サリエラとボビーが魔導車の運転手としての護衛、団長と残りのメンバーであるバッカスとヒストラはどちらかというと能力が後方支援向きであり、遠くからでも支援できるので、魔導車から少し距離を保ちながらついてきているという状態だ。
「それにしてもなー、あんなに仲良しだったのに俺に隠してたんだ。聖女だなんて、割と重大な素性を。それに名前も一度も本名を教えてくれなかった。傷つくな」
今更ながら、秘密があったことが気に食わないと感じたのだろう。わざとらしくレイヴンが絡んで来た。
「仲良しって……仕方がないでしょう。命の危機だったんだから。まあ回避したと言っても、現在進行形で私の命は狙われ続けているかもしれないけど。それに何回も言ってるけど、アンタだって素性が分からないでしょうが!」
「ん?俺の全てを一緒に背負う覚悟が出来たのか?」
「いや、それはいらない」
「でも確かに、所々の所作が綺麗だとは思ってたんだよな。お前、平凡顔なのに王子っぽいとかって傭兵団内でも言われてたんだぜ?それがまさか本物の王族、それも王女様だったとは」
そんな噂がされていたのか。王子っぽいだなんて少し恥ずかしいと感じた。
これでも結構、傭兵団の面々に影響されて、普段の所作や喋り方、習慣を変えたつもりだったのだが、やはり無意識のものはどうにもならないと反省した。
「へー、でもそれ言ったら団長だって、所作は綺麗じゃない?」
「いや、おっさんが所作綺麗でも容姿でプラマイゼロだろ」
確かにそうだ、と団長に対して失礼なことを言い合いながらレイヴンと笑い合う。彼は冗談めかして、隠していたことを拗ねたふりをしていたが、聖女であることを知ってもいつも通りであることが何よりも嬉しかった。
「そういえば、これから名前はなんて呼べばいい?ロザリア、様?それともロザリア姫とかかー?」
「アンタに冗談でも様とか付けられるのはキモい。姫なんかは論外」
「えー、可愛いのに。ひーめ」
「次それで呼んだらその口、利けなくしてやるから」
「おー、怖い怖い」
「そうね……どちらの姿でも、今まで通り、リアでいいわ。どうせ、本名にも『リア』は入っているし」
なんの偶然か、何でも良いと占いで決めた名前は一部本名と同じだったのだ。ウィリアムのその部分をピンポイントで呼んでいたレイヴンは意外と勘が鋭いのではないかと少し感心していた。
そうして割と楽しい道中を送っていたら、いつの間にか『墓場』とまで称した故郷――グレシュタットに帰ってきていた。
***
「ほー、ここがロザリアの産まれた国か」
澄んだ空が美しい。遠くに見えるのはマイホームである無駄に大きい城。あの城が風景の邪魔だと思ってしまうのは、きっと父様のせいだろう。
けれど今居る城下町は昔と変わらず人でごった返して賑わっており、懐かしいと感じた。平和な風景そのものである。ちなみに残りの護衛メンバーは、現在遠くから護衛を続けている。基本的に私は既に死んだことになっている。だから気付く人間や知り合いなど早々いないだろう。なによりも私も普通に護身術以上の事を出来るし、戦力的には一騎当千と言われているレイヴンが真横にいるので、他のメンバーには軽い感じで護衛をしてもらっているのだ。
「グレシュタットは初めて?」
「そうそう。この国は他国よりも魔物の出現率も低くて平和だからな。特に王都周辺はあんまり任務回ってこねーの。お前もここの任務は今までなかっただろ」
「……そうだったのね。知らなかったわ」
「世間知らずの聖女サマだもんなー。でもよくよく考えれば、昔はもっと世間知らずで可愛かったな」
「え?」
「傭兵団に来た当初、初任給でケーキ買いに行っただろ。それでスキップで帰って来たから、休憩室で開けた時にはケーキぐっちゃぐちゃで。『ケーキが滅茶苦茶になっちゃった!!なんで!?』って泣いてたな。あれは可愛かった」
「……忘れて」
いくら傭兵団に馴染んだと言っても、昔の失敗を見られてしまっているのは変える事の出来ない過去だ。
頬が火照るのを感じながらも、思い出話をされたことで既に傭兵団があったコルレアに帰りたくなってしまっていることを感じた。けれど私の使命はこの国で果たさなければならないものだ。それを誤魔化して、レイヴンに笑顔を向ける。
「それにしてもお腹が空いたわね。ちょっと腹ごなしをしてからお父様に会いに行きましょうか」
「おー。お前のお勧めの店?」
「ええ。期待していいわ」
こんな穏やかな日々が続いて欲しいと心の奥底で願いながら、お勧めの店がある場所へレイヴンを連れ出した。
「って、屋台かよ!」
「まだあってよかった。屋台って言っても、ここいらでは有名な店よ。羊肉の串焼きが美味しいの」
「なんつーかお前ってこういうところが王族らしくないよな」
「失礼ね。庶民の味を知っておくのも王族の役目よ」
「嘘くせー。まあ買ってくるからあそこで座って待ってろ」
指定された場所である、中央広場の噴水前の椅子。そこに歩きながらパタパタと手を振り、レイヴンを見送った。
そうして私は魔導車――魔力を動力とする乗り物――に乗りながら、今は町娘っぽい格好で怪しまれない程度の軽い武器を装備した状態でレイヴンと車内に二人きりでグレシュタットへ向かっている。
何故二人きりなのかというと、そう決まったからとしか言いようがない。決してレイヴンがこねた駄々に団長が折れた――だなんて信じたくない。
役割分担としては今のところ、サリエラとボビーが魔導車の運転手としての護衛、団長と残りのメンバーであるバッカスとヒストラはどちらかというと能力が後方支援向きであり、遠くからでも支援できるので、魔導車から少し距離を保ちながらついてきているという状態だ。
「それにしてもなー、あんなに仲良しだったのに俺に隠してたんだ。聖女だなんて、割と重大な素性を。それに名前も一度も本名を教えてくれなかった。傷つくな」
今更ながら、秘密があったことが気に食わないと感じたのだろう。わざとらしくレイヴンが絡んで来た。
「仲良しって……仕方がないでしょう。命の危機だったんだから。まあ回避したと言っても、現在進行形で私の命は狙われ続けているかもしれないけど。それに何回も言ってるけど、アンタだって素性が分からないでしょうが!」
「ん?俺の全てを一緒に背負う覚悟が出来たのか?」
「いや、それはいらない」
「でも確かに、所々の所作が綺麗だとは思ってたんだよな。お前、平凡顔なのに王子っぽいとかって傭兵団内でも言われてたんだぜ?それがまさか本物の王族、それも王女様だったとは」
そんな噂がされていたのか。王子っぽいだなんて少し恥ずかしいと感じた。
これでも結構、傭兵団の面々に影響されて、普段の所作や喋り方、習慣を変えたつもりだったのだが、やはり無意識のものはどうにもならないと反省した。
「へー、でもそれ言ったら団長だって、所作は綺麗じゃない?」
「いや、おっさんが所作綺麗でも容姿でプラマイゼロだろ」
確かにそうだ、と団長に対して失礼なことを言い合いながらレイヴンと笑い合う。彼は冗談めかして、隠していたことを拗ねたふりをしていたが、聖女であることを知ってもいつも通りであることが何よりも嬉しかった。
「そういえば、これから名前はなんて呼べばいい?ロザリア、様?それともロザリア姫とかかー?」
「アンタに冗談でも様とか付けられるのはキモい。姫なんかは論外」
「えー、可愛いのに。ひーめ」
「次それで呼んだらその口、利けなくしてやるから」
「おー、怖い怖い」
「そうね……どちらの姿でも、今まで通り、リアでいいわ。どうせ、本名にも『リア』は入っているし」
なんの偶然か、何でも良いと占いで決めた名前は一部本名と同じだったのだ。ウィリアムのその部分をピンポイントで呼んでいたレイヴンは意外と勘が鋭いのではないかと少し感心していた。
そうして割と楽しい道中を送っていたら、いつの間にか『墓場』とまで称した故郷――グレシュタットに帰ってきていた。
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「ほー、ここがロザリアの産まれた国か」
澄んだ空が美しい。遠くに見えるのはマイホームである無駄に大きい城。あの城が風景の邪魔だと思ってしまうのは、きっと父様のせいだろう。
けれど今居る城下町は昔と変わらず人でごった返して賑わっており、懐かしいと感じた。平和な風景そのものである。ちなみに残りの護衛メンバーは、現在遠くから護衛を続けている。基本的に私は既に死んだことになっている。だから気付く人間や知り合いなど早々いないだろう。なによりも私も普通に護身術以上の事を出来るし、戦力的には一騎当千と言われているレイヴンが真横にいるので、他のメンバーには軽い感じで護衛をしてもらっているのだ。
「グレシュタットは初めて?」
「そうそう。この国は他国よりも魔物の出現率も低くて平和だからな。特に王都周辺はあんまり任務回ってこねーの。お前もここの任務は今までなかっただろ」
「……そうだったのね。知らなかったわ」
「世間知らずの聖女サマだもんなー。でもよくよく考えれば、昔はもっと世間知らずで可愛かったな」
「え?」
「傭兵団に来た当初、初任給でケーキ買いに行っただろ。それでスキップで帰って来たから、休憩室で開けた時にはケーキぐっちゃぐちゃで。『ケーキが滅茶苦茶になっちゃった!!なんで!?』って泣いてたな。あれは可愛かった」
「……忘れて」
いくら傭兵団に馴染んだと言っても、昔の失敗を見られてしまっているのは変える事の出来ない過去だ。
頬が火照るのを感じながらも、思い出話をされたことで既に傭兵団があったコルレアに帰りたくなってしまっていることを感じた。けれど私の使命はこの国で果たさなければならないものだ。それを誤魔化して、レイヴンに笑顔を向ける。
「それにしてもお腹が空いたわね。ちょっと腹ごなしをしてからお父様に会いに行きましょうか」
「おー。お前のお勧めの店?」
「ええ。期待していいわ」
こんな穏やかな日々が続いて欲しいと心の奥底で願いながら、お勧めの店がある場所へレイヴンを連れ出した。
「って、屋台かよ!」
「まだあってよかった。屋台って言っても、ここいらでは有名な店よ。羊肉の串焼きが美味しいの」
「なんつーかお前ってこういうところが王族らしくないよな」
「失礼ね。庶民の味を知っておくのも王族の役目よ」
「嘘くせー。まあ買ってくるからあそこで座って待ってろ」
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