3 / 9
2.
しおりを挟む
「おい!ウィリアム。お前、傭兵やめるってどういうことだ!!?」
「申し訳ありませんが、言葉のままの意味です、団長。どうしても母国に戻ってやらなければならないことが出来たので、出来れば今週中にこの傭兵団を出て行きたいと考えています」
誕生日を迎えた次の日。
最後――にするつもりの男の装いを整えて、自身が所属する傭兵団の団長がいる執務室をノックした。私は母国であるグレシュタットに帰国するために、6年間過ごした傭兵団を辞めるために団長にその旨を伝えに来た……のだが、それを納得できなかった団長問い詰められていた。
「お、お前がいなくなったらどうすればいいんだ!?そもそもお前程強いやつなんて早々入ってこないんだから、人手不足で困るんだよ」
「それは、頑張ってくださいとしか言えないですね。でもレイヴン始め、何人も優秀な人間は所属しているじゃないですか」
「……言い方を変えよう。人格的にまともで、此方が指示することをきちんとこなす、まともかつ優秀なやつがいない。レイヴン、サリエラ、ボビー、ヒストラ、バッカス――」
「それは…………」
思わず否定できずに沈黙してしまう。
昨日……正確には昨日以外もだが、ベッドに勝手に潜り込んでくるような男・レイヴンを始め、この傭兵団には問題児が多い。同期・部下・先輩、どれを思い出してみても、爆弾魔、完全週休5日制を求めるサボり魔、団内で恋人をとっかえひっかえするクズ、放っておくとすぐに酒で金を使い果たした上で泥酔して、仕事に来ずに借金まみれにする酒カス。
うん、なんて酷いラインナップなんだ。
「黙るなよ~。てかお前がいなくなったら、そいつらが野に放たれるんだぞ!?」
「貴方、団長ですよね?」
「俺だけでアイツらが止められるかよ!!そんなんだったら、お前がアイツらどうにかしろよ!!引き取れ!!!いない方がマシだ!」
「え……絶対嫌です。とりあえず、その団長曰く問題児たちの扱い方も伝授するのでそれで我慢してください。そもそも入団させたのは団長なんですから」
「いーやーだー!!俺にはアイツらの管理なんて無理だから、お前に思い留まらせようとしてるんだろ!」
最悪の平行線だ……。どうしても団員の相手をしたくない、というか世話を押し付けたい職務怠慢団長と、国に帰りたい私。思わず頭を抱えてしまう。
確かに団長の言う問題児たちとはそれなりに良い関係性を築けている自覚はあるが、彼がそんなに言う程に邪魔だと思う程に手のかかる問題児だとは思えない。
例えば『色情魔』という渾名が付いているサリエラが団内で色んな人間を片っ端から恋人という特別な関係にしようとするのは、純粋に寂しがり屋なだけだったから。彼女の話を良く聞いて一緒に過ごす時間を増やせばそれは落ち着いた。
通称『爆弾魔』のボビーは考えがちょっと幼稚で、楽しい事が大好き。中でも特に爆破するのが楽しいという、とんでもないやつだったが、任務自体をゲーム形式にしてオペレートしてあげれば、そちらに興味が向いてその悪癖もある程度治った。
他のメンバーもそうだが、要は寄り添い方なのだ。
「だから!僕がやめたとしても大丈夫です!……多分」
説明して、そう言葉に出した瞬間、団長の執務室の扉が爆発した――。
雪崩れるように入ってきた面々。そこにいたのは、レイヴン始め、問題児として話題に上がっていたメンバー全員だった。
「ウィリアム!やめるなんて、アンタ、私との結婚はどうなるのよ!!私達の子供の養育費稼ぐんじゃないの!!?」
「はあ!?こいつと結婚するのは俺だ!!何いってんだ、この淫乱女!それに子供なんていねーだろ!!!」
「彼は、僕の司令にして同士です。既に永遠を誓い合っています」
「アタシの世話係がやめるなら……アタシもこんな団やめる」
「ウィル。お、お前、俺と一緒に俺の借金返すって約束はどうしたんだよ!!こうなれば、地獄の果てまでついていくからな……」
上から。サリエラ、レイヴン、ボビー、ヒストラ、バッカスである。
5分の4がした覚えのない約束を持ち出してきているのはなんなのだろう。前言撤回。やっぱこいつらやべえわ。特に虚言癖の部分。
そして全員が全員、それぞれの妄想の内容を知らなかったようだ。喧嘩に発展している。まあ、それはそうだろう、なにせ私もそんな約束をした覚えなどないから、各々の頭の中での出来事だろうことが簡単に予測できる。
彼らは団長の執務室内で魔法まで使って争いを始めてしまったが、もう知らない。関わりたくない。
確かに全員、話を聞かなさ過ぎる。さっきのことを一応団長に謝っておこうと思い、団長に目を向けると、彼はまるで見たことのないヤバい生き物を見つけたような瞳で私を見ていた。
「お前……5又は流石にやばいぞ」
「なんで彼らの言い分を信じちゃってるんですか……」
妙なところでピュアな団長に呆れてしまった。
「申し訳ありませんが、言葉のままの意味です、団長。どうしても母国に戻ってやらなければならないことが出来たので、出来れば今週中にこの傭兵団を出て行きたいと考えています」
誕生日を迎えた次の日。
最後――にするつもりの男の装いを整えて、自身が所属する傭兵団の団長がいる執務室をノックした。私は母国であるグレシュタットに帰国するために、6年間過ごした傭兵団を辞めるために団長にその旨を伝えに来た……のだが、それを納得できなかった団長問い詰められていた。
「お、お前がいなくなったらどうすればいいんだ!?そもそもお前程強いやつなんて早々入ってこないんだから、人手不足で困るんだよ」
「それは、頑張ってくださいとしか言えないですね。でもレイヴン始め、何人も優秀な人間は所属しているじゃないですか」
「……言い方を変えよう。人格的にまともで、此方が指示することをきちんとこなす、まともかつ優秀なやつがいない。レイヴン、サリエラ、ボビー、ヒストラ、バッカス――」
「それは…………」
思わず否定できずに沈黙してしまう。
昨日……正確には昨日以外もだが、ベッドに勝手に潜り込んでくるような男・レイヴンを始め、この傭兵団には問題児が多い。同期・部下・先輩、どれを思い出してみても、爆弾魔、完全週休5日制を求めるサボり魔、団内で恋人をとっかえひっかえするクズ、放っておくとすぐに酒で金を使い果たした上で泥酔して、仕事に来ずに借金まみれにする酒カス。
うん、なんて酷いラインナップなんだ。
「黙るなよ~。てかお前がいなくなったら、そいつらが野に放たれるんだぞ!?」
「貴方、団長ですよね?」
「俺だけでアイツらが止められるかよ!!そんなんだったら、お前がアイツらどうにかしろよ!!引き取れ!!!いない方がマシだ!」
「え……絶対嫌です。とりあえず、その団長曰く問題児たちの扱い方も伝授するのでそれで我慢してください。そもそも入団させたのは団長なんですから」
「いーやーだー!!俺にはアイツらの管理なんて無理だから、お前に思い留まらせようとしてるんだろ!」
最悪の平行線だ……。どうしても団員の相手をしたくない、というか世話を押し付けたい職務怠慢団長と、国に帰りたい私。思わず頭を抱えてしまう。
確かに団長の言う問題児たちとはそれなりに良い関係性を築けている自覚はあるが、彼がそんなに言う程に邪魔だと思う程に手のかかる問題児だとは思えない。
例えば『色情魔』という渾名が付いているサリエラが団内で色んな人間を片っ端から恋人という特別な関係にしようとするのは、純粋に寂しがり屋なだけだったから。彼女の話を良く聞いて一緒に過ごす時間を増やせばそれは落ち着いた。
通称『爆弾魔』のボビーは考えがちょっと幼稚で、楽しい事が大好き。中でも特に爆破するのが楽しいという、とんでもないやつだったが、任務自体をゲーム形式にしてオペレートしてあげれば、そちらに興味が向いてその悪癖もある程度治った。
他のメンバーもそうだが、要は寄り添い方なのだ。
「だから!僕がやめたとしても大丈夫です!……多分」
説明して、そう言葉に出した瞬間、団長の執務室の扉が爆発した――。
雪崩れるように入ってきた面々。そこにいたのは、レイヴン始め、問題児として話題に上がっていたメンバー全員だった。
「ウィリアム!やめるなんて、アンタ、私との結婚はどうなるのよ!!私達の子供の養育費稼ぐんじゃないの!!?」
「はあ!?こいつと結婚するのは俺だ!!何いってんだ、この淫乱女!それに子供なんていねーだろ!!!」
「彼は、僕の司令にして同士です。既に永遠を誓い合っています」
「アタシの世話係がやめるなら……アタシもこんな団やめる」
「ウィル。お、お前、俺と一緒に俺の借金返すって約束はどうしたんだよ!!こうなれば、地獄の果てまでついていくからな……」
上から。サリエラ、レイヴン、ボビー、ヒストラ、バッカスである。
5分の4がした覚えのない約束を持ち出してきているのはなんなのだろう。前言撤回。やっぱこいつらやべえわ。特に虚言癖の部分。
そして全員が全員、それぞれの妄想の内容を知らなかったようだ。喧嘩に発展している。まあ、それはそうだろう、なにせ私もそんな約束をした覚えなどないから、各々の頭の中での出来事だろうことが簡単に予測できる。
彼らは団長の執務室内で魔法まで使って争いを始めてしまったが、もう知らない。関わりたくない。
確かに全員、話を聞かなさ過ぎる。さっきのことを一応団長に謝っておこうと思い、団長に目を向けると、彼はまるで見たことのないヤバい生き物を見つけたような瞳で私を見ていた。
「お前……5又は流石にやばいぞ」
「なんで彼らの言い分を信じちゃってるんですか……」
妙なところでピュアな団長に呆れてしまった。
24
お気に入りに追加
668
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。
作者のめーめーです!
この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです!
投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!
転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。
白霧雪。
恋愛
王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。
女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件
りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる