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22.対立と決断
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あの後。セーレが静止しても、クレアのいるであろう部屋に向かおうと部屋の外に出ようとし続けるエストは結局、交代時間になって部屋にやって来たマルタの助勢によってやっと落ち着かせることが出来た。
部屋の外から感じたエストとセーレの異常な魔力反応からすぐに状況を察して、マルタが部屋に入った際のエストの一瞬の隙を突くことで、拘束魔法をかけたのだ。
ボロボロになった部屋でマルタ・セーレとエストで真正面から向き合う。
「……俺を拘束したのはクレアを助ける方法がないからなのか?」
「…………はい」
拘束されていることが不満なのか、エストはマルタを恨みがましそうな目で見つめて、問を放つ。感情を押し殺したような返事だった。マルタはエストを拘束する魔法を継続しながらも、気まずさからずっと目を合わせることはない。
「申し訳ありません。私達では呪いの進行を抑えるだけで精一杯で……」
「では何故、俺は彼女に会いに行かせてもらえないんだ?」
止められる理由など分かっているくせに、エストは白々しくも聞く。
マルタは今度はエストと目を合わせ、睨みつけて来た。彼女からこんな強い非難の視線を受けたのは初めてだった。
「……エスト様、貴方、クレア様の呪いを吸い取ろうとしているでしょう?元々の呪いの対象であった貴方なら、唯一それが出来る。クレア様にかけられた呪いを解除して自身の中に――と」
「なるほど。セーレにもお前が入れ知恵したのか」
「やはり、やろうとしていたのですね。きっと貴方ならそれが出来てしまうのでしょうが、駄目です!!そんなことをしたら、貴方は――死んでしまう」
「それがどうした?」
「……エスト様、貴方は、この国の未来の王なのですよ!?それに言いたくはありませんが、クレア様は貴方を助けるためにあんな状態に陥った。彼女のその気持ちを、行動を無駄にするおつもりですか!!?」
邪魔をするなとでも言いたげな、ふてぶてしい態度のエストにマルタは激昂して叫ぶようにして詰め寄る。今度はエストが目を逸らす番だった。
「貴方は既に一度、クレア様のために命を捨てかけているのですよ!?あの魔道具を使った時だって――」
「うるさい!!――じゃあ、どうしろっていうんだよ、俺にアイツを見捨てろというのか?」
「っそんな、ことは……」
「……そう言っているようなものじゃないか」
心の芯からの嘆きだった。
そう。エストがクレアのために己の身を犠牲にしようとしているのは2度目である。
1度目はクレアを失った直後の事だ。エストは以前王族として、クロシュテインの禁書指定されている本を読んでいた。その時に見つけたあの本『クロシュテイン魔道具全集』に書かれていた死人を蘇らせるあの魔道具を実際に一度使用していたのだ。
効果自体は知らなかったが、貴重且つ特殊な魔道具が王宮の宝物庫に置かれていることは元々、知っていた。だから、クレアを亡くし、心のよりどころがなくなった時にこの魔道具の事を思い出し、実際に宝物庫に保管されていることを知った時には神からの贈り物のようにすら感じすらした。
そうして警備の手をかいくぐって魔道具を、そしてありとあらゆるコネを使ってクレアの遺灰も入手し、魔道具を使用してしまったのだった。死者に対する冒涜だなんだという考えは既に抜け落ちていた。
当時は魔道具を使用したは良いが、エスト自身の魔力が足らなく、身体に負荷がかかり過ぎた故に失敗したのだと思っていた。その証拠に結局魔道具は発動することなく、マルタに強制的に取り上げられた。
そして、エストは寝たきりになり、ケントとルーネストらを呼び出す事態に発展したのだった。
しかし今となっては分かる。クレアはあの時、未だ死んでいなかった。それ故にあの魔道具での魔術は失敗したのかもしれない。今そんなことが分かっても後の祭りではあるが。
気まずい雰囲気の中、双方暫く口を閉ざしていたが、エストはふと気になったことを訊ねる。
「今回の襲撃犯、犯人は分かったのか?」
「……襲撃犯は皆、牢獄で口内に隠し持っていた毒によって自害しました」
案の定、と言った様子に溜息を吐く。それにもし自害を阻止出来たとしても、ああいった連中が雇い主を吐くことはないだろう。暗殺者にとって依頼人を喋って、信用を失うことは死と直結している。
「雇い主はどうせまたあの女だろう」
「っそれ、は……今現在、別の角度から調査中です」
「どうせ今回も尻尾を掴めないさ……大切なものを何もかも失うくらいだったら、こんな立場、喜んで捨てたというのに」
悲痛な声だった。涙こそ流してはいないが、表情も声音も絶望で染められている。
「俺は、彼女を――クレアを失わなければならないくらいなら、王になんてなりたくない。立場もあの女の子供に譲ってやる……それでもお前たちは俺を止めるのか?」
誰も言い返せなかった。エストは既に兄を失っている。そして今は婚約者にして、最愛の女性を――。
止めたいのに、止めることが出来ない。全員が口を閉ざしている。しかし、そんな雰囲気をぶち壊すように、部屋の扉が大きく開かれた。
「お邪魔します――ってなんだか、暗い雰囲気だね?」
「ケント、さん!?」
「エスト様、マルタさん、セーレ君、お久しぶりです」
現れたのはケント、そしてクレアの兄であるクリストファーだった。
***
「それで?まさかお前達二人も俺を止めに来たのか?」
「エスト様の味方をするというのでしたら、お二人でも容赦しませんよ?」
エストもマルタも新たに現れた二人を警戒しきっている。どちらも止められるか突破できるかはこの2人が味方になるか敵になるかで大きく変わってくるのだ。
しかし答えは予想とは全く違うものだった。
「いいえ。僕達は誰も犠牲になることなく、クレアを救う方法について提案しに来ました」
「そ、んな方法があるのですか!?」
先程までの態度と打って変わって、マルタが話に飛びつく。マルタもセーレも別にクレアを助けたくないというわけではないのだ。自分たちの主が今までしてきた王になるための努力や経験してきたこと、そしてクレアの人となり、それらを全て知っているからこそ、2人は敢えてストッパー役に回っていた。
だから彼女を救える手立てがあるのであれば、飛びつかないわけがなかった。
******
あとがき:
今日中にこの作品を完結させようと、ずっと執筆しているのですが……既に眠い(´Д⊂ヽ
そして炭酸飲みたいorz
まあ、今日で完結してなかったら笑ってやってください( ´艸`)
部屋の外から感じたエストとセーレの異常な魔力反応からすぐに状況を察して、マルタが部屋に入った際のエストの一瞬の隙を突くことで、拘束魔法をかけたのだ。
ボロボロになった部屋でマルタ・セーレとエストで真正面から向き合う。
「……俺を拘束したのはクレアを助ける方法がないからなのか?」
「…………はい」
拘束されていることが不満なのか、エストはマルタを恨みがましそうな目で見つめて、問を放つ。感情を押し殺したような返事だった。マルタはエストを拘束する魔法を継続しながらも、気まずさからずっと目を合わせることはない。
「申し訳ありません。私達では呪いの進行を抑えるだけで精一杯で……」
「では何故、俺は彼女に会いに行かせてもらえないんだ?」
止められる理由など分かっているくせに、エストは白々しくも聞く。
マルタは今度はエストと目を合わせ、睨みつけて来た。彼女からこんな強い非難の視線を受けたのは初めてだった。
「……エスト様、貴方、クレア様の呪いを吸い取ろうとしているでしょう?元々の呪いの対象であった貴方なら、唯一それが出来る。クレア様にかけられた呪いを解除して自身の中に――と」
「なるほど。セーレにもお前が入れ知恵したのか」
「やはり、やろうとしていたのですね。きっと貴方ならそれが出来てしまうのでしょうが、駄目です!!そんなことをしたら、貴方は――死んでしまう」
「それがどうした?」
「……エスト様、貴方は、この国の未来の王なのですよ!?それに言いたくはありませんが、クレア様は貴方を助けるためにあんな状態に陥った。彼女のその気持ちを、行動を無駄にするおつもりですか!!?」
邪魔をするなとでも言いたげな、ふてぶてしい態度のエストにマルタは激昂して叫ぶようにして詰め寄る。今度はエストが目を逸らす番だった。
「貴方は既に一度、クレア様のために命を捨てかけているのですよ!?あの魔道具を使った時だって――」
「うるさい!!――じゃあ、どうしろっていうんだよ、俺にアイツを見捨てろというのか?」
「っそんな、ことは……」
「……そう言っているようなものじゃないか」
心の芯からの嘆きだった。
そう。エストがクレアのために己の身を犠牲にしようとしているのは2度目である。
1度目はクレアを失った直後の事だ。エストは以前王族として、クロシュテインの禁書指定されている本を読んでいた。その時に見つけたあの本『クロシュテイン魔道具全集』に書かれていた死人を蘇らせるあの魔道具を実際に一度使用していたのだ。
効果自体は知らなかったが、貴重且つ特殊な魔道具が王宮の宝物庫に置かれていることは元々、知っていた。だから、クレアを亡くし、心のよりどころがなくなった時にこの魔道具の事を思い出し、実際に宝物庫に保管されていることを知った時には神からの贈り物のようにすら感じすらした。
そうして警備の手をかいくぐって魔道具を、そしてありとあらゆるコネを使ってクレアの遺灰も入手し、魔道具を使用してしまったのだった。死者に対する冒涜だなんだという考えは既に抜け落ちていた。
当時は魔道具を使用したは良いが、エスト自身の魔力が足らなく、身体に負荷がかかり過ぎた故に失敗したのだと思っていた。その証拠に結局魔道具は発動することなく、マルタに強制的に取り上げられた。
そして、エストは寝たきりになり、ケントとルーネストらを呼び出す事態に発展したのだった。
しかし今となっては分かる。クレアはあの時、未だ死んでいなかった。それ故にあの魔道具での魔術は失敗したのかもしれない。今そんなことが分かっても後の祭りではあるが。
気まずい雰囲気の中、双方暫く口を閉ざしていたが、エストはふと気になったことを訊ねる。
「今回の襲撃犯、犯人は分かったのか?」
「……襲撃犯は皆、牢獄で口内に隠し持っていた毒によって自害しました」
案の定、と言った様子に溜息を吐く。それにもし自害を阻止出来たとしても、ああいった連中が雇い主を吐くことはないだろう。暗殺者にとって依頼人を喋って、信用を失うことは死と直結している。
「雇い主はどうせまたあの女だろう」
「っそれ、は……今現在、別の角度から調査中です」
「どうせ今回も尻尾を掴めないさ……大切なものを何もかも失うくらいだったら、こんな立場、喜んで捨てたというのに」
悲痛な声だった。涙こそ流してはいないが、表情も声音も絶望で染められている。
「俺は、彼女を――クレアを失わなければならないくらいなら、王になんてなりたくない。立場もあの女の子供に譲ってやる……それでもお前たちは俺を止めるのか?」
誰も言い返せなかった。エストは既に兄を失っている。そして今は婚約者にして、最愛の女性を――。
止めたいのに、止めることが出来ない。全員が口を閉ざしている。しかし、そんな雰囲気をぶち壊すように、部屋の扉が大きく開かれた。
「お邪魔します――ってなんだか、暗い雰囲気だね?」
「ケント、さん!?」
「エスト様、マルタさん、セーレ君、お久しぶりです」
現れたのはケント、そしてクレアの兄であるクリストファーだった。
***
「それで?まさかお前達二人も俺を止めに来たのか?」
「エスト様の味方をするというのでしたら、お二人でも容赦しませんよ?」
エストもマルタも新たに現れた二人を警戒しきっている。どちらも止められるか突破できるかはこの2人が味方になるか敵になるかで大きく変わってくるのだ。
しかし答えは予想とは全く違うものだった。
「いいえ。僕達は誰も犠牲になることなく、クレアを救う方法について提案しに来ました」
「そ、んな方法があるのですか!?」
先程までの態度と打って変わって、マルタが話に飛びつく。マルタもセーレも別にクレアを助けたくないというわけではないのだ。自分たちの主が今までしてきた王になるための努力や経験してきたこと、そしてクレアの人となり、それらを全て知っているからこそ、2人は敢えてストッパー役に回っていた。
だから彼女を救える手立てがあるのであれば、飛びつかないわけがなかった。
******
あとがき:
今日中にこの作品を完結させようと、ずっと執筆しているのですが……既に眠い(´Д⊂ヽ
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